ゴーレム生産環境整備計画2nd III
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月20日〜05月27日
リプレイ公開日:2007年05月30日
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●オープニング
●ゴーレム工房更新計画
ゴーレム工房に『生産ライン』という考え方が導入された。つまり流れ作業的に物品を製作し効率化を図るというものである。
現代的には『覚えることが少なく単純作業で多くの物を作ることができる』と非常に良い考え方なのだが、これが工房の職人たちからはすこぶる不評であった。職人は、自分の制作物に対して責任を持ちたがる。つまりこだわりを持っている『職人』と呼ばれる人種を完全否定するこの考え方に、反発を覚える者はかなり多い。
そもそも工房の更新に関わった冒険者諸賢がそうであるように、職人だって『自分の仕事』がしたいのである。現状、生産効率のことばかり考え職人達の『心の部分』をすっかり忘れた対応によって、職人達は憤懣をため込んでいる状態だ。
こんなときはガンゴントウス工房管理官が何かと取りなし、ガス抜きに職人の『趣味』の部分に対して対応していたが、現在彼はオルボートの工房へ出向し不在である。また新任の管理官であるリーチャード・ウインストン男爵は工房運営力はあるが、鍛冶師ではなく『経営者』だ。身分違いのこともあり、平民の気持ちをしっかり汲んでいるとは考えにくい。無論鍛冶のスキルがあるわけではないので、彼には数字の管理しかできない。
憤懣は膨れあがる一方である。爆発すれば、工房の運営は破綻する。
つまるところ集まった鍛冶師も自分のスキルアップに来た者が多く、そして野心もあるのだ。自らの腕で成り上がり、家族に楽な生活をさせてやるため、そして自分の名を挙げるために工房に来た者も多いことを、工房を更新してきた者達は認識していなかったと言える。
今回は、『この辺り』を改善してもらいたい。結局使いっ走りで終わってしまいそうな雰囲気に下落しつつある工房の士気を高め、意欲を取り戻すのである。
ただし、新工房長は貴族で平民の気持ちが分かる人物と限らないことを忘れずにおいたほうがいい。
●リプレイ本文
ゴーレム生産環境整備計画2nd III
●憤懣やるかたなし
リーチャード・ウインストン男爵という人物を一言で表すと、『商売人』である。
数代前に爵位を買った新興貴族で、古い貴族たちからは『平民出の成り上がり』とののしられることもしばしば。もっとも家訓なのかどうかはわからないが、『細かいことは気にするな』という精神を持っているらしく、風評など文字通りどこ吹く風と、さらりと受け流している。
リチャードは年齢30歳。既婚。創祖ウルブリム・ウインストンの影響を色濃く受けた人物であり、ゆえに当主たりえるのだとも言える。
人物評は――あまり良くない。経営者としての手腕は一流だがそれは『商業部門』の話であり、経理は出来るが職能組合の首長としては落第点である。
そして何より問題なのは、『目に見える成果』を出していることなのだ。彼の就任と同時に資材価格は下降し、生産性は2割ほど上昇した。無駄を省き、地域の商家との太いパイプを持って資材費用を削り、そしてクオリティは維持しているのである。
王宮としては、おそらくこの上ない人選だっただろう。そして満足のゆく結果も出した。王都の工房管理に関しては、ウインストン家の専任管理としてもまったく問題ないはずである。
むろん、後ろ暗い部分が無いわけではない。商家とパイプを持つということは談合などの温床となるのは必至だし、贈収賄もあるだろう。ただ彼だけがそういうことをしているわけではないし、清濁併せ呑まなければ社会のほとんどは維持できない。
彼はそういう意味では理想の管理者であったが、職人の心が分からないこと『だけ』が欠点であった。そして王都に集まった工員たちの多くは『職人』であり、この世界には根強く『徒弟制度』などの職人システムが依然として存在するのである。
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精霊歴1040年5月末現在の、フロートシップを除くゴーレム器機の総数は以下のようになっている。
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●ゴーレム兵器配備状況(精霊歴1040年5月末現在)
・ストーンゴーレム
バガン級――6騎
モナルコス級――54騎
バグナ級――3騎(鹵獲)
・アイアンゴーレム
グラシュテ級――6騎
アルメイラ級――3騎
・カッパーゴーレム
カークラン級――3騎
オルトロス級――7騎
・シルバーゴーレム
リザレクト級――1騎
ヴァルキュリア級――2騎
・ゴーレムグライダー
ヒエン――12騎(通常型グライダー)
センエン――1騎(静音グライダー)
・フロートチャリオット
パンター――10騎(通常チャリオット)
パンター改――2騎(装甲付与型)
パンターII――1騎(ウィルの国から輸入した装甲チャリオット)
ナスホルン――1騎(精霊砲搭載型)
ブラッドレー――1騎(兵員輸送チャリオット・試作)
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グライダーとチャリオットが少ないのは、損失が多いのと輸入数が少ないためである。航空兵団やチャリオット隊の編成を希望する冒険者もいるが、メイの国で自国生産出来ない以上、厳しいのが実情だ。
が、それ以外については、約半年でこの5年間に匹敵する生産数を確保している。その最後の後押しをしたのが先月の『生産ライン』の構築と、男爵の手腕によるところが大きい。
まあ具体的には、使用者の限られるシルバーゴーレムの生産を文字通りオミットして、下級ゴーレムの生産に全力を回したのである。生産管理はカルロ工房長の管轄外なので、彼は関知していない。
「品質を維持し、生産性を上げ、国家に貢献する。見事な忠勇ぶりだ」
ローシュ・フラーム(ea3446)は、リチャードの手腕を正しく評価した。
現在のゴーレム器機の配備状況を、総覧しただけで分かる。ガンゴントウスが出来なかったことを、リチャードは実行しているのである。
「しかし気に入りません。確かに数字は挙げていますが、職工達の疲労は増しています」
ルーク・マクレイ(eb3527)が言った。労務体勢によっては能率が落ちると考えていた彼だったが、その前振りで蓄積してきた『工業化』のノウハウによって、生産性の向上は目を見張るばかりである。だが産業革命初期にもあった話だが、労働基準法など無いこの世界に天界式の工業体勢を持ち込んだだけでは、過去の失敗を繰り返すだけなのだ。
何が起こっているのかというと、過剰労働による過労である。『過労死』という言葉は最近のものに思えるかもしれないが、実はアメリカの某自動車工場で工員が倒れ、突然死したのが始まりなのだ。きちんとしたケアの無い現状で急速な工業化を進めた結果、士気は落ち職工の疲労は溜まり、限界ギリギリのところまできているのである。
その片棒を担いだ経歴のあるレネウス・ロートリンゲン(eb4099)がいざその体勢を変更しようとしても、聞き入れられにくいのはやむを得まい。なぜなら彼らは天界人であり、そしてその薦めで行った工業化によってゴーレム産業はバカみたいに発展しているのだ。今更否を唱えても、動き出した歯車は止まらない。何より『必要だから』ゴーレムを増産しているのだし、そのための努力を惜しまなかったのである。
「なんということでしょう‥‥」
自分がいつの間にか、職人たちをないがしろにする体勢を構築しきってしまったことを自覚し、レネウスは途方にくれた。
殺陣静(eb4434)も、周囲の状況が想定外になっている事態に困惑を隠せない。リチャードの素行を探るまでもなく状況は彼の望む方向に動いており、そして彼もそのための努力は惜しまなかった。だが何より彼女にとって誤算だったのは、リチャードにとって工員たちは国家の財産で、消費しても良いという立場をとられたことだった。
「工員が足りなくなれば、補充すれば良いでしょう。そのための調査機関や警備体制も整っていましたし、作業も細分化されて専門職である必要性はそれほど無いように感じます。これからは鍛冶師に限らず、天界で言う『ロウドウシャ』という者たちを数多く雇い入れるべきなのかもしれません」
「いや‥‥それは‥‥」
職人否定を真正面からされて、静は言葉が返せなかった。
同様の困惑を抱えたのは、御多々良岩鉄斎(eb4598)である。彼はチーム制の作業割制度を提案し容れられたが、それが逆に労務を加速させたのだ。つまりチーム割して共同体意識を持たせたところで、男爵が作業能率の高い部所に報奨金を与えることを明示したのである。
かつて後の豊臣秀吉である木下藤吉郎が築城奉行に取り立てられたときにした方法と、同じ方法を男爵は行使したのだ。無論、効果はすぐに現れた。
そうして、状況は暴走とも言える速度で加速してゆくのである。
●冒険者たちの談話
「予想外じゃな」
酒杯を傾けながら、岩鉄斎は肩をすくめた。
「ガンゴントウスさんが、歯止めになっていたんですね‥‥」
静もやや声が昏い。
「確かに、俺たちが進め望んでいたゴーレム生産は、『こういうの』だったはずです。しかし、理想と現実が違いすぎます。いえ、もはや俺たちの手を離れつつあるとも思えます」
レネウスも、言葉に覇気が無い。
「人となりも何も、職務に忠実でお金に正直なだけ。それなのに、なぜここまで状況が逼迫するのでしょうか‥‥」
ルークが、参ったような表情で言った。
「理由ははっきりしておる。ガンゴントウスどのが歯止めになっておったからだ。工房の良心と言い換えてもいい。心のある運営をしていたから維持できていたのであって、今までの担当者がすべて望むように物事を進めていたら、このような事態では収まらなかっただろう」
ローシュが言った。
過去、多くの冒険者が工房運営について意見してきた。が、ガンゴントウスが急進的なその流れをある程度制御していたので、それほど爆発的な生産能力の向上はされなかった。
しかし担当者が変わった途端に、この状態である。確かに提案するならタダだし自分の意見が取り入れられれば満足もするだろう。
だが、その結果を想像した提案が果たしていくつあっただろうか?
そして歯止めなくなった今、溜まりに溜まった回転力が一気に放出されたのである。それは、一つ二つの誤差修正のような意見では止められない。決壊したダムの水流を留めることなど、不可能なのだ。
――もしかしたら、我々は取り返しのつかないことをしたのかもしれない。
うそ寒いものが、背中を這い上る。このままだと工房は、過労死で何人も人が倒れても動き続ける、一個の労働機械と化す可能性がある。
「対策を考えたほうがいいじゃろう」
岩鉄斎が言う。他の者も、それに同意した。
過去に参加した者から情報をあつめ、あるいは工房依頼への参加を誘い、この恐ろしい状況をなんとかしなければならない。さもなくば、工房は自滅への道を歩むことになる。
解決できるのは、工房を更新し続けた冒険者だけなのである。
次回、(たぶん)最終回!
【おわり】