新式ゴーレム開発計画2nd IV
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月09日〜07月16日
リプレイ公開日:2007年07月17日
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●オープニング
●使えない『超兵器』
戦術思想上、兵器は基本的に『誰でも使えて高性能』であることが望ましい。しかし『高性能』と『誰でも使えること』を選択した場合、現代戦術論では『誰でも使えること』が優先される。
別に超兵器を否定しているわけではない。例えば狙撃銃を例に上げよう。この武器は一般兵士の手の及ばない場所から、反撃不能な攻撃を仕掛けることができる。不意打ちの場合は間違いなく先手がとれて、しかも望み通りの場所に命中するなら文字通り必殺の一撃になる。文字通り、携帯小銃では最強であろう。
が、今書いたとおり『必殺』にはそれを使いこなせる技術と適正が必要であり、そのハードルは高い。狙撃銃が超兵器に準ずるとしても、それを使いこなせる兵士が居なければ『並大抵の武器以下』になる。
「現状、新式シルバーゴーレム《ヴァルキュリア》は価格に見合う十全な活用をされているとは言えません」
と、ずんばらりんとゴーレム工房長カルロ・プレビシオンは言い切った。
「いわゆる『抑止力』として機能しているのは存じています。しかしそれは『かかしではない』というだけで、将来同じように各砦にヴァルキュリア級が配備された場合、それはかかし同然の置物と化します。またその能力を十全に発揮できる鎧騎士は少なく、配備先も損耗を恐れて使用できないというのが正解でしょう。メイの国は、おそらく近い将来バの国とも一戦交えることになるでしょうが、『高性能な騎体で競い合う一騎打ち』が実現するのはまだ先で、その時にはヴァルキュリア級も旧騎体になっているはずです。前回色々とご意見をいただき私が達した結論は、『モナルコス直系のシルバーゴーレムを開発する』ということです」
一部から「えー」という声も上がったが、カルロは無視した。鎧騎士――特にウィルの国から来た者には、ウィルで開発された『ドラグーン』を強硬に「開発すべし!」という者も居たが、カルロははっきりとそれに『否!』と返答したのである。
「国情を見る限り、メイの国でドラグーンの出番は無いです。ならばモナルコスの鎧騎士をオルトロスに、オルトロス鎧騎士を今回の新式シルバーゴーレムに搭乗させるようレベルを上げていったほうがいいでしょう。ヴァルキュリアは当座のつなぎ。新式シルバーゴーレムを今後の主力騎として開発します」
カルロが言い切った。
●リプレイ本文
新式ゴーレム開発計画2nd IV
●あまり面白くない『現実』
リアル(現実)というのは、あまり面白くないものである。なぜならそれは日常と同義であり、つまるところ『定番』『マンネリ』の域を出ない。超兵器が1機で敵の大部隊を撃破するのはアニメやゲームの話であり、基本的には『数=力』である。
そして精霊歴1040年現在、アトランティスでその『超兵器』に属するゴーレムは、東方と西方でまったく運用方法が違っている。共に決戦兵器の位置は変わらないが、西方では強力な単独兵器としての運用が主軸で、東方では群体で使用することのほうが多い。『選ばれた優れたる者の武器』には違いないが、想定している敵の違いだ。西方はゴーレムvsゴーレムが主に想定され、東方ではゴーレムvsモンスターがメインである。
そして残念ながら、『軍隊のように扱うほど』現実的で面白みが少なくなる。ことゴーレムに関しては、浪漫は西方のほうがあると言っていい。西方では本当に『選ばれた者』しか乗れないからだ。
もっとも、東方は西方に比べ抜群に『機会』がある。冒険者ギルド初任務のゴーレム使用可能者が、ストーンゴーレムとはいえ人型に乗れるというのは、西方ではまずありえない。それは、状況の逼迫度合いの違いもあるだろう。目前に『カオス』という不倶戴天の敵が存在し、今も現実に戦争を仕掛けてきている都合上、四の五の言わずに使える戦力は投入しなければならないのである。
「ゆえに――」
と、カルロ・プレビシオンゴーレム工房長は口を開いた。
「一定の評価を得ている『モナルコス級の直系シルバーゴーレム』を試作しようとしたのですがぁ」
今、冒険者の目の前には、5騎のゴーレムが並んでいる。そのうち1騎を指し、カルロは「すいません、これは失敗です」と申し訳なさそうに言った。ちなみにその台詞を聞いた後、背後に「がーん!!」と擬音を背負ったのはフラガ・ラック(eb4532)である。
ちなみに動かす前からだめ出しを食らったのは、フラガが提案した『多腕ゴーレム』であった。以前カッパーで駄目出しを受けた案のヤツだ。
「う‥‥動かしてみるまで分からないだろう!」
最後の抵抗とばかりに、フラガが言う。しかし、スレイン・イルーザ(eb7880)の乗るオルトロス級カッパーゴーレムと試戦してみたら、艤装前ながら格上のシルバーゴーレムなのに、まったく歯が立たなかったのだ。
理由は、重量と操作性の悪さである。
フラガとスレインの戦技レベルは、それほど変わらない。が、基本性能はおそらくフラガ提案のシルバーゴーレムのほうが高いはずなのに、それを活かせる『状況作り』が出来なかったのだ。具体的には、守備偏重で攻撃に手が回らないのである。これは、多腕ゴーレムの操縦難度の異常な高さにも起因している。
「《ジ・オン》のヤツは、どうやってサイサリスを動かして居たんだ‥‥」
フラガが、げんなりした顔をして言った。彼はサイサリスの戦闘状況を見た数少ない人物の一人だが、その時の動きを再現することすら出来なかったのだ。
そういえば、その時サイサリスが相手をしたのは1〜2段格下の、モナルコス級ストーンゴーレムだったはずである。同時に投入されたゼフィランサス級カッパーゴーレムは、抜群の機動性と運動性を見せたが、サイサリスとは打ち合っていない。
「まあ、サイサリスの時にも問題にはなっていたんですよ。腕を増やすと言うことは、その分重量が増すということです。サイサリスは元々『精霊殻の爆発を防御する』という目的があって製造されたので、ゴーレムとしての戦闘力は、装甲や下半身への重量配分などによって並大抵を維持したのみ。それでも報告にあった『4腕同時駆動』に関しては、私のほうでも実用レベルで使用できた試しがありません」
ちなみにフラガが提案したゴーレムは、素材だけでヴァルキュリア級の1.5倍近く使っている。そしてその多くを追加腕と下半身に取られているため、そもそもがオルトロス級などとはかけ離れた外見になっていた。肝心の耐久力も装甲も、並大抵レベルである。
「まあ、特殊なコンセプトが成功するには、かなり蓄積が必要なわけです。気を落とさずに」
完全にへこたれたフラガを、カルロが慰めた。
●システム戦闘
サッカーを例に挙げると分かりやすいが、平原での戦力衝突は、フリーの遊兵を作ったほうが有利である。文字面だけを取ると『全戦力が稼働していないほうが弱いじゃん!』と思われがちだが、選手の特性や能力を把握しシフトと呼ばれる布陣を組むことによって、寡兵で敵を支え遊兵で拠点を攻めるのだ。無論地力が高ければ敵兵をより支えやすくなるし、遊兵――この場合は遊撃兵も攻めやすくなる。サッカーで、ロナウドとかロナウジーニョをフリーにしてはいけないのと同じである。
この論調で行くと、本来遊撃兵であるシルバーゴーレムは、ロナウジーニョのような超高性能攻性ユニットであることが望ましいのだが、個人でそれを体現できる者は居ないではないが、ゴーレム操縦者に絞るとほとんどメイに居ないのが現状である。
まあ、ローラン・グリム(ea0602)などは非常に割り切った思考で「ヴァルキュリアはこの際個人専用騎に割り当てたほうがいい」と言い切ったが、改めて言わなくても現実では、使える鎧騎士が1人か2人しか居ないので実質専用騎と変わらない。そしてその鎧騎士が、都合良く乗ってくれるとは限らない現実がある。
ちなみにローランは長槍装備によるファランクスを提案し、それはオルトロス級カッパーゴーレムおよびモナルコス級ストーンゴーレムの装備として導入された。元々メイのゴーレムは装備が少ないのが泣き所だったが、システム戦闘が視野に入り方向性の一つとして組み込まれたのだ。
さて、5騎のうち一つが没って残りの4騎だが、そのうち3騎がシルバーゴーレムである。共にモナルコス級のコンセプトを踏襲したものであり、オリバー・マクラーン(ea0130)、龍堂光太(eb4257)、グレナム・ファルゲン(eb4322)の意向を取り入られたものだ。ちなみに艤装が済んでいないのは同じで、仕上げはこれからである。
「状況、変わりましたね‥‥」
光太のつぶやきは、心底本音だろう。半年前までは、補充のストーンゴーレムの生産すらカツカツだった。しかし今は、急務とあれば短期間でシルバーゴーレムを3騎も作れる。工房の試作スタッフも拡充して、新兵器開発をかなりのレベルで行えるようになっているのだ。
地球人の光太はメタ情報として『戦争が加速させた科学技術』を知っているが、その結末は原爆投下による戦争終結である。同じことが、メイの国で起きない保証は無い。
もっとも、オリバーにしてもグレナムにしてもまだ『そういうの』を知らないから、純粋に『自分の望むゴーレム』を試作してもらって結構ご満悦である。
「ドラグーンへの移行が可能な素地は、完備しておるのか」
かなり態度Lな口調で、グレナムが言った。
「その辺は、前にも言いましたが、まだ考えていません。そもそも、ドラグーンの作り方も分からないんです。分からないものには、備えようが無いでしょう」
もっともなことを、カルロが言った。
「スペックはどの程度になりましたか?」
オリバーが問うた。
「オリバーさん発案のものは、総合性能でリザレクト級より劣ります。耐久力とパワー重視で、防御と受けに特化しました。装甲を施せば、ティラノサウルスでも2発は耐えられると思います。仮称で『防御型』と呼んでいますが、中央で敵を支えて、組んだオルトロス級とアルメイラ級の支援による攻撃が主軸になっています」
「十分だ」
「僕のほうは?」
光太が問いかけた。
「防御力重視は変わりませんが、単独性能を追求しました。パワーはそれほど上げませんでしたが、移動力を極力維持。空荷での移動速度は、リザレクト級の8〜9割をキープしています。物理サイズでティラノサウルスに食われることはやむなしですが、それ以外は達成できそうです。ただしパワー増加をしていないので、装甲の度合いによっては性能が激減します」
「それってほとんどノーマルのシルバーゴーレムと変わらないんじゃ‥‥」
光太が、突っ込んだ。
「『個体性能優先』だったので、思い切った性能の割り振りに至りませんでした。これは『うまく使わなければいけない騎体』です」
光太が腕を組む。まあ、簡単に全性能が上げられるなら、こんな苦労はしないのである。
「私のはどうなっているのであるか?」
グレナムが再度問う。
「ご要望の通り、『比較的安価』には済みましたよ。かなり大味な作りで、精度もあまり良いとは言えません。素体も、雑鋼比が増えて性能が低下。大型化による耐久度の上昇と最低限の性能以外は、どちらかというと装備する鎧や武器頼みです。ちなみに試作の『杭打ち機』をご所望でしたが、現在1器しか無く量産のめども立っていないので、本当に試作騎にしか装備できません」
「作れたのになぜなのだ?」
「あの杭打ち機に使用されているバネが、天界から来落したジドウシャのスプリングを使用しているからです。天界から冶金の専門家が来て作った設備ごと再現してくれない限り、メイでの量産は無理ですね」
「むー」とグレナムがうなったが、うなっていても状況は好転しない。
あとは既存の兵力と組み合わせるために、装備をきっちり整えるしかあるまい。
●その他でごめん
さて、今回の主幹に乗らなかったゴーレムについて。
天ヶ崎希望(eb4243)は魔法を使用できるゴーレムの試作を申請し、その結果5騎目のゴーレムとして今回、複座型のストーンゴーレムが仕上がってきた。座席を攻撃ヘリのように前後に配置したもので、魔法を使用するときは腹部のハッチを開けてウィザードが魔法を使用する。だが、致命的欠点があってこのゴーレムは没になった。なぜなら、胸の前で手を組み剣を構えられないのである。制御胞が大きすぎて。
「これは、ゴールドやプラチナサイズのゴーレムじゃないと、複座は無理みたいだねー」
と、実質開発すらされていないサイズのゴーレムを指して、希望が言った。これは現状における、完全な開発不能判断であった。
浦幸作(eb8285)は、相変わらず、と言っては悪いが、ほとんどいじる部分の無いフロートチャリオット『ブラッドレー』をいじっていた。人型ゴーレム開発について意見は出したが、行動は終始チャリオットに向いていたので完全に単独行動である。
彼が試みたのは、兵員輸送用のブラッドレーに装甲を施せないか、ということだった。が、元々装甲を外して兵員輸送部分を強化したチャリオットである。装甲を施せば、元に戻るだけだ。
結果、堂々巡りだけして成果無しという状態である。一番現実的なのは、どうやら搭載兵員の盾などをきっちり構えるということになりそうだった。
●実際の運用について
次期は、完成したゴーレムの運用テストになる予定である。うまく行けば本採用になるだろうが、ヴァルキュリアもかなりの難産だ。一発でうまくいけば儲けものぐらいに考えていたほうがいい。
ともあれ、完成させるしかあるまい。
【終わり】