小鬼の洞窟――ジャパン・江戸
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月14日〜06月21日
リプレイ公開日:2004年06月22日
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●オープニング
ジャパンの東国『江戸』。
源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。
江戸からさらに東に3日ほど歩いた山間の村。その村は20戸ほどの小さな村で、畑作と狩猟で生計を立てている。そこに、鬼が現れたというのである。この時代、魑魅魍魎は夜の闇にはびこっており、このような事件はわりと少なくない。
「被害は、牛一頭と鶏が六羽よ」
冒険者ギルドの女番頭が、キセル片手に流し目で、集まった冒険者一同に向かって言った。
「まだ誰も襲われていないってこと?」
冒険者の一人が問う。
「そ。相手は小鬼(ゴブリン)が両手ぐらいと茶鬼(ホブゴブリン)が片手くらい。狩人が見つけたらしいわ」
小鬼は、山に住む鬼の中では比較的弱い部類に入る鬼で、人間の子供のように背が低く洞窟や鉱山跡を住処にしている。茶鬼は小鬼より体格の良い鬼で、力だけはずば抜けている。
どちらも総じて頭は悪く、小鬼は臆病で茶鬼は愚鈍だ。自分より体の大きな生物にかかって行くとは思えないから、小鬼が鶏、牛は茶鬼の仕業だろう。
「それも三日前の話だから、今はどうか分からないわ。どっちにしろ、急いでいかないと村人に被害が出るわね」
コン。
女番頭が、キセルを火箱に叩いた。燃え草が、ころりと灰の中に落ちる。
「その村には、昔に小鬼が住み着いた洞窟があるんだって。目撃者の猟師の話だと、そこに小鬼の家族が住み着いたんじゃないかっていう話よ。村からは、狩人を一人案内に出すと言ってるわ。それと――」
番頭が、紙に墨で書かれた地図を出す。
「前にも冒険者が、洞窟に住み着いた小鬼を退治したことがあるんだとさ。この地図はその時の物。鬼たちが手を加えていなければ、今もこのままのはずだわ」
簡素な地図を、女番頭は冒険者に手渡した。
「報酬は並。依頼は犠牲者が出る前に終わらせて。小鬼と茶鬼は殲滅すること。よろしい?」
【地図について】
地図には7箇所のポイントがあります。
A:入り口。森の斜面にぽっかり開いた穴。3m×3m。見張りが居ると思われる。
B:Aからまっすぐ20mほど行った場所に地底川がある。流れはそこそこ。腰ぐらいの高さに紐が張ってある。
C:Bからまっすぐ30mほど行った分岐路。右へ行くとD。左へ行くとE。
D:20mほどで行き止まりのはず。
E:Cから30メートルほど行くと直径10mほどのホールになっている。石筍とかがあるので遮蔽物には困らない。奥に通路(F)が続いている。
F:Eから20mほどで直径10mほどのホールになっちている。さらに奥に通路がある(G)。
G:20mほどで行き止まり。
●リプレイ本文
●集まった冒険者たち
東国『江戸』の、さらに東に歩いて三日。
急な斜面に張り付くように、その村はあった。段々畑が山肌に連なり、吹けば飛びそうな家屋がぽつぽつと立ち並んでいる。一見して分かるのは、あまり裕福な村ではないということだ。
「ようこそおいでくださいました」
節くれだった手を揉みながら、その村の村長は満面の笑顔で冒険者たちを出迎えた。片目が白いごま塩頭の男で、名前はゼンという。
「例の洞窟への案内は、猟師を営んでおりますリキが行います」
「よろスく」
毛皮を羽織った猟師風の男、リキが頭を下げた。ひどい訛りは、さらに東国のものだろう。
今回仕事を請け負ったのは、次の6名。
ジャパン出身。人間の侍、玖珂刃(ea0238)。
ジャパン出身。人間の志士、雨業雪比古(ea0363)。
ジャパン出身。人間の志士、藤原雷太(ea0366)。
イギリス出身。ジャイアントのナイト、アスク・サルファンス(ea0726)。
ジャパン出身。人間の女志士、土御門朱雀(ea1732)。
イスパニア出身。シフールのジプシー、レイ・ニア(ea2783)。
いずれも江戸で初顔合わせをした、とれたてぴちぴちの冒険者だ。アスクはジャパン語が話せないので、イギリス語の話せるレイや雪比古に、通訳を頼みながらの参加である。
これに今回は、猟師のリキが加わる。朴訥そうな男で、弓を使うそうだ。
「さっそくですが、確認したいことがあります」
レイが、ゼン村長に向かって問うた。
「この地図についてですが‥‥」
レイが言う。出立前に、集められる情報を集めようというのだ。
レイの確認事項と返答は次の通り。
Q1:洞窟から続いていそうな穴が入り口の他にありますか?
A1:無いはずです。ですが小鬼が洞窟を掘り広げていたら分かりません。
Q2:洞窟の川がどこかの水源につながっていてそこから出入りが出来ますか?
A2:洞窟の川の水源は、山の雪解け水だと思います。地下水脈の一部と思われ、入り口も出口もわかりません。
「あまりよく分かっていないんですね」
返答らしい返答をもらえずに、レイが小さな肩を苦笑しながら落とした。村長が申し訳なさそうに頭を下げる。
さもありなん。村人は洞窟に近寄らないし、小鬼が住み着くまで封鎖されていたのだから、中の様子が分からなくて当然なのだ。結局のところ昔の小鬼事件を知っている人物に頼るしかないのだが、それもこのごま塩頭の村長が子供のころの話である。中に入った者は、今は誰もいない。
結局、行って見るしか無いのだ。
●件の洞窟へ
「さて‥‥と」
洞窟の入り口を見ながら、玖珂刃がつぶやいた。時刻は昼日なか。太陽がさんさんと輝く日中である。
目当ての洞窟は、猟師のリキの案内ですぐ見つかった。そして予想通り、見張りが居た。褐色の、子供のような背丈の醜悪な鬼。ゴブリンである。
「見張りの数は、一匹みたいだな」
刃が言う。その言葉の通り、洞窟の入り口にはゴブリンが一匹居た。見張りらしいのだが、そのゴブリンは持った槍に突っ伏すようにうたたねをしていた。
まあ夜行性のゴブリンにとって日中は、人間の夜中も同然である。たいした使命感も持ち合わせていない彼らならば、こんなもんだろう。
ただ忍者やレンジャーが居れば、もう少し状況が変わってくるかもしれない。居ないものを乞うてもせん無きことではあるが、わざわざ逃がして警戒させるのもナンである。
「予定通りいきましょう」
レイが言う。すでに魔法<サンレーザー>を放つ体勢になっている。土御門朱雀は弓をゴブリンに狙いをつけた。猟師のリキも、弓に矢をつがえた。
「「「せーのぉ!」」」
レイの<サンレーザー>、朱雀とリキの弓矢が、いっせいにゴブリンに向かって放たれた。
「ギ!」
命中! 命中! 命中!
ゴブリンは半音だけ奇声を発すると、動かなくなった。サンレーザーで焼かれた肉臭いが、周囲に漂った。
「じゃあ、行こう」
刃が言う。待ち伏せは無さそうだ。奇襲は成功である。
猟師のリキを置いて、一同は隊列を組み内部に侵攻していった。
●地底の川
ざあざあと、水の流れる音がする。
洞窟の一本道を行くと、予定通り地底の川に出た。頼りは縄一本という頼りなさだが、一応渡れそうである。人間なら膝まで濡れるところだが、ゴブリンだと腰ぐらいまでの水かさになろう。ただよほど体重が軽くない限り、流されることはあるまい。
「どうやら川伝いには、逃げられそうに無いね」
雨業雪比古が、周囲を見渡して言う。洞窟の川は壁から吹き出し、壁の中へ消えていた。水の中で呼吸できない限り、脱出は不可能だろう。
レイの先導があって、一同は無事に川を渡り終えた。ゴブリンの襲撃は無い。物音は水音が消しているし、洞窟に風も無い。
どうやらゴブリンは、完全にこちらの動向に気づいていないようだ。
「進むでござる」
藤原雷太が言い、雨業雪比古が縄を切った。ゴブリンを逃がさないようにするためである。
●分岐路
「では、ここで待つでござる」
藤原雷太が言う。玖珂刃とレイ・ニアも前に出た。右の奥が本当に行き止まりかどうか、確かめに行くのだ。
数分と待たずして、3人は帰ってきた。げんなりした表情で。
「厠(かわや)だった‥‥」
刃が言う。右の奥は行き止まりになっていて、ゴブリンのトイレに使用されていたのだ。確かに、げんなりもするだろう。
とりあえず空気を吸いなおし、本命と思われる左の洞窟へと一行は進んだ。
●本命の洞窟
レイは魔法<インビジブル>を使って、天井近くを飛んで洞窟の中を先行偵察していた。
――見つけました。
気配は、すぐに感じられた。獣脂の焼ける臭いにひといきれ。焚き火の煙に騒ぐ声。
ゴブリンが、さらった家畜を焼いて宴会でも開いているのだろう。
レイがそこに入ると、案の定その通りだった。ゴブリンが、焼けた牛の首を奪い合っている。その中にホブゴブリンも混じっていた。
全体の数は、10匹。ゴブリンが8、ホブゴブリンが2。ほぼ情報通りだ。
レイはパーティーの所に戻ると、状況を告げた。
「敵の退路は俺が断つ」
アスク・サルファンスが、でかい身体をいっそう広げて言う。確かに壁役としては最適だが、防具が皮鎧なのが気になる。
太陽の無い場所では攻撃力が皆無と言える、レイの役目はここまでだ。後は前衛職に任せておけばいい。
「先陣はあたしが切らせてもらう」
先ほど弓で見張りを倒した、土御門朱雀が言う。弓を射った後は日本刀に武器を持ち替えて、接近戦を挑むつもりのようである。
一行は、玖珂刃を先頭に隊列を組んだ。並んで雨業雪比古、後ろに藤原雷太、土御門朱雀、最後にアスク・サルファンスとレイ・ニアという順番になった。
「いくぞ!」
刃が号令をかける。朱雀が弓を射かけた。狙ったのはホブゴブリンの一匹。
「ギャン!!」
突如襲った激痛に、ホブゴブリンが悲鳴を上げた。戦闘開始の合図。一同が突撃し、一気に乱戦に持ち込む。10メートル直系の鍾乳洞は、阿鼻叫喚の巷と化した。
「ギャーッガッガッ!!」
玖珂刃は、手近なゴブリンに向かっていった。
「むん!」
チン。
刀が鳴る。抜刀した動きは見えなかった。ただ結果が表示されただけ。ゴブリンの胸板が斜めに切れて、血が噴き出していた。<ブラインドアタック>である。
「これでも喰らいな!」
ごっ。
放たれた剣圧に、3匹のゴブリンがまとめて吹っ飛んだ。雨業雪比古の、ソードボンバーであった。
「後ろか!」
藤原雷太が順手に持っていた日本刀を逆手に持ち替えて、後ろに向かって突き出した。背後から襲いかかろうとしていたゴブリンが、まともに腹を貫かれる。そしてすばやく抜き、前に向かって構えた。必勝を信じていたゴブリンは、目を剥いた。
土御門朱雀は、後衛でアスクのフォローをしていた。敵の数が多く、アスクでも支えきれそうになかったからだ。
戦いは、激しいものとなった。
●宝発見
約10分後。
戦闘はおおむね終わっていた。ホブゴブリンは斃れ、生き残った3匹のゴブリンは奥の部屋に逃げていった。
冒険者の、大勝利である。残りのゴブリンも追い詰められて、殲滅された。
さらに奥の部屋は、ゴブリンのリーダーが使っていたようだ。今となってはどのゴブリンがリーダーだったかわからないが、そこには宝箱が置いてあった。
「えへへ〜」
レイが、宝箱にしがみついている。いつのまに来たのだろう。おそらく戦闘中に、<インビジブル>で相手をやりすごして来たに違いない。
宝箱には、鍵がかかっていた。一同は斃れたゴブリンの死体から鍵を見つけ出し、箱を開けた。
「わあ」
レイが、喜色の良い声を上げた。中には銅貨と宝石が入った袋があったからだ。
予定外の報酬を得て、一向は意気揚々と帰路についた。村ではささやかながら宴も催され、一同は村人の感謝の言葉を得て帰ったのである。
めでたしめでたしであった。
【おわり】