【第三次カオス戦争】魔導兵器ロドバー:前
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■シリーズシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 98 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月02日〜11月05日
リプレイ公開日:2007年12月06日
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●オープニング
●壮大なフェイク
「カオスニアン勢力が西進した」という情報は、メイディア王宮にあわただしく伝わった。すでに各地で戦端が開かれ、個々にはかなりの規模の戦闘が行われている。なぜ「あわただしく」なのかというと、敵の攻勢はラケダイモンに行くと「大勢派」は思っていたからだ。ラケダイモンを陥落させれば、バの国から戦力を呼び込むことが出来る。そうなれば、過去のカオス戦争の再来である。強壮な大国と二正面作戦を展開せざるを得ないメイの国は、苦戦必至であった。
ゆえに宮廷の多くの者はラケダイモンの戦力強化を提唱し、そして実行された。賢王であるステライド王も、それに否を唱えなかった。
それが『アトランティス人の限界』であることは、天界人たちには自明だった。バの国+カオス勢力の連合軍はかつて、メイの国を滅亡させかけたのである。それはすでに、民族的なトラウマと言ってもいい。
しかし、冒険者たちだけが知っていた。敵の首長――もっと言うなら今回の『戦争』をコーディネイトした人物である天下太平左右衛門長上兼嗣――つまり日ノ本一之助の目的が、勝利では無いことを。
『戦争に勝つため』なら、バの国を巻き込んだほうが都合がいい。これは100パーセントの確信を持って言える。戦争はなんだかんだで『数』だからだ。
だが戦争結果に収斂するものが勝利ではない場合、その原則はは当てはまらない。つまり本戦争は、今までのアトランティスが経験したことのない『未知の戦争』をしているのである。
そしてまったく妥協も猶予も無いことに、そのイニシアチブは戦争を仕掛けた側に存在する。目的の設定を先にしたほうが、選択の幅が広いのだ。攻勢か守勢かというだけでも、攻勢側には『攻撃するorしない』という選択肢が発生する。しかし守勢側に『守らない』という選択肢は通常無い。理由は簡単だ。抵抗しなければ生活基盤が無くなるからだ。あとは『逃げる』ぐらいしか選択肢が無いが、守勢というのは通常拠点を持っている。ましてや城塞都市といった『市民』が存在するなら、逃亡は不可能である。
ゆえに、攻撃イニシアチブを取るというのは非常に重要な行為なのだが、あいにくカオス勢力はその卓抜した機動力で移動中の捕捉を困難にさせている。ゆえに後手後手に回る場合が多く、そしてその状況を打破するには『後の先を取る』以外に無い。
つまり敵が襲撃のために集結したところを、全力でたたくしか無いのである。
●ロドバーの迷宮の秘密
『ロドバーの迷宮』というのをご存じだろうか。北方山稜にある迷宮で、過去はどうやら魔法器物の工房だったらしい、と言われている場所である(シナリオ『魔術師の剣』参照)。
その関係依頼群が、突然出なくなったことを知る冒険者も居るだろう。一時はカルロ工房長も「そっちに研究所移そうかな」とかのたまっていた場所だ。異常な量の金塊やブラン塊が発見され、しかも稼働している魔法器物が実在するアレでナニな場所である。
「んで」
と、冒険者ギルドスタッフの烏丸京子は言った。
「そこンとこにカオス兵力が向かっているから排除してくれって依頼が来てるのよね」
抹香が苦虫を噛みつぶして濃すぎるエスプレッソを飲み下したような言い回しで、京子は言った。
「まあ、依頼内容はここにあるから読んでみて」
と、京子は羊皮紙を出した。
『拝啓 メイの国冒険者の皆様。
初冬の候、皆様には益々御清栄の事とお慶び申し上げます。
さて今回ですが、皆様に折り入って依頼したき旨ございまして筆を取らせていただきました。
現在メイの国北方山稜に、ロドバーの迷宮なるものが存在することは皆様ご承知かと思います。高度な先史文明の遺産で、現在もメイの国では極秘裏に研究が続けられています。
表向きの調査が打ち切られたのには、理由があります。ロドバーの迷宮には、兵器転用が可能な魔法装置があります。レベルとしてはジ・アースに存在する既知の弩級魔法遺物には劣りますが、もちろん看過できるできるようなものではありません。幸い動力装置となる精霊殻のようなものは残されていないようですが、稼働した魔法装置があるとおり保存状態は相当なもので、おそらく動力さえあれば実働可能と思われます。
さてここで、大変残念なことを報告しなければなりません。
昨日、カオス勢力本営より、彼らが保有していた精霊殻が盗み出されました。内部の犯行のようですが、その目的は学術研究だけでは無いと思われます。具体的には、バの国の内部勢力の暴走のようです。
犯行を行った者は、高レベルの魔法使いを含む十数名の軍人です。実戦訓練の出来た対象なので、敵対した場合多少手こずると思います。
冒険者の皆様には、予想される被害を防止するためにご尽力いただきたく存じます。
危険で見返りの少ない依頼ではありますが、なにとぞ受領の上遂行いただきたく、伏してお願い申し上げます。
敬具
精霊歴一〇四〇年一〇月二十六日
日之本一之助
追伸
依頼遂行の際は、ぜひジルマ・アンテップどのをご随伴ください。では、よろしくお願いいたします。』
死―――――――――――ん。
絶望のような沈黙が、周囲に満ちた。
「ま」
と、会話を再開したのは京子だった。
「絶句する気持ちは分からないではないわ。あたしもあきれたもの。まあ、あの人もそうそう万能じゃないっていうか、無敵ってワケじゃないみたいね」
言わずもがなのことを、京子は言った。
「ただし、『予想される被害』っていうのがちょっと洒落にならないんだけどさ」
と、ばさっとばかりに京子は地図を広げた。
「ロドバーの迷宮にある魔法装置は、魔力を高圧の重力に変える変則《グラビティーキャノン》のようなもの、らしいわ。広域破壊を得意とする炎系じゃなくて、集約しモノから何から切断してしまうもの。「地面を掘ったらカオス界が〜」なんて迷信があるけど、『本当にそこまで出来るかもしれない器物』なわけ。まあ、状況が状況なんで、情報を公開してもらったんだけど」
チキュウの地殻をえぐると中からマグマが噴き出るが、普通はそんなことは無い。しかし湖を作ってしまうほどの破壊力が集約されたものなら、火山をその場所に作ることも不可能ではない。
結局は、大陸は真っ二つになる。アトランティスの地下にマグマがあればの話だが、無くても世界そのものの存亡の危機に違い在るまい。ジルマが名指しなのは、地系というカテゴライズに頼った話だろう。
「正直に言うと、実のところかなり状況は逼迫していると思うわ。あのひとが他人任せにするような真似をするかというと、普通はしない。だからこれは、彼にとっても超イレギュラーなのよ。だから、『本当に何が起こるか分からない』というレベルの話だと思うわ」
十分頷ける話である。
「王宮からは、多少旧型になったけどフロートシップを2隻、足の速いのを借りたわ。なんとかしてこの『状況』を解決してちょうだい。まあ『この戦争』じゃ裏の歴史だけど、冒険者にしか出来ない仕事よ。あと」
いつになく真摯な顔で、京子は言った。
「兵器のコードネームは『マギ・グラディウス』。魔術師の剣って意味ね」
やっとタイトルが出てきたようである。
■貸与兵力
・ヤーン級級フロートシップ×2
・モナルコス級ストーンゴーレム×4
・兵士60名
・そのほかについては申請による
※事実上フル装備です。
●リプレイ本文
●作戦司令部
──ヤーン級フロートシップ一番艦
グォングォングォングォン
静かに空を飛ぶ。
メイディアを出港したフロートシップは、一路『ロドバーの迷宮』に進路を取ると、高速移動で向かっていった。
「まずは、迷宮に先回りし、敵を迎撃できる体勢を取る。それが、現状でもっとも有効的に敵に対して打撃を叩き込むことができる方法だと判断するが」
そこはミーティングルーム。
アルカード・ガイスト(ea1135)は、幾つか出した作戦の中でも、今回の目的地であるロドバーでの待ち伏せが最も適していると指摘。
確かに、現状では、それがもっとも有効打であると判断した一行は、その作戦を実行することとなったのだが‥‥。
──グォングォングォングォン
現在位置は北方山稜。
『ロドバーの迷宮』と呼ばれている遺跡群の入り口前方を、『ヤーン級フロートシップ』が二隻、低空飛行で飛んでいる。
「偵察部隊はまだ戻ってこないのか?」
オルステッド・ブライオン(ea2449)が伝声管に向かって叫ぶ。
その声を聞いた見張り台の兵士が、周囲をぐるっと見渡している。
「こちら見張り台のアルファ。偵察部隊はこちらに向かっていると思われます。なお、自分は現在、遺跡の高々度監視中です。敵カオスニアンが遺跡に取り付いた感じは見えません‥‥」
そのアルファ・ベーテフィル(eb7851)の報告を聞いて、オルステッドが静かに肯く。
そして、アルファが馬にのって走っている兵士達を確認すると、急ぎ伝声管に向かって叫ぶ。
『地上偵察部隊の姿を確認。風信機での連絡を!!』
「こちら通信、味方偵察部隊確認。風信機での報告では、この辺り一体でのカオスニアンの動きはないということです‥‥いかがしますか?」
そう告げる通信員に、オルステッドはしばし腕を汲んで考える。
時間にしてほんの刹那であるが、思考しているオルステッドには、それがかなり長かったように感じられていた。
「1番艦は遺跡入り口上部にて待機、2番艦はさらに上空200mで待機し、状況によって援護を頼む。指揮については、1番艦をツヴァイに任せる!!」
オルステッドの声が伝声管と風信機に走る。
『こちら2番艦ツヴァイ・イクス。作戦内容了解。後程そちらに移る‥‥』
一番艦のブリッジに、ツヴァイ・イクス(eb7879)の声が響く。
それと同時に、二番館が上昇を開始、それを見送る形で、一番館は遺跡の入り口上空にたどり着く。
──シュルルルルルッ
縄梯子が降ろされ、偵察部隊が船に戻る。
そしてそれと入れ違いに、調査班が大地に降り、入口の手前で敵カオスニアンを迎撃する為の準備に入った。
「艦首精霊砲準備。目標はロドバー迷宮入り口」
そのオルステッドの言葉に、一行は驚いたが、オルステッドを信じて、じっと見守っている。
「以前、カオスニアンが入り口内部で待ち伏せしていた事もあったからな‥‥艦首バリスタと精霊砲、同時発射!!」
その声と同時に、艦首精霊砲のシリンダー内部に精霊力が凝縮される。
そして砲口から『炎の精霊力』の塊が射出され、迷宮入り口に直撃した。
──ドゴォォォォォォォォォッッッッッッッッ
爆音と同時に、入り口付近は炎に巻き込まれ、がらがらと落盤が始まった。
「‥‥よ、予測を越えた反応だな‥‥まあ、これで内部で待ち伏せしているかもしれない『カオスニアン達』に対しての牽制は出来た。とりあえず先発として、内部調査に向かう」
「了解です」
オルステッドの言葉に返事をしてから、アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)が静かに印を組み韻を紡ぐ。
──ボウッ!!
アルフレッドの全身が淡く白く輝く。
ディテクトアンデットが発動し、アルフレッドは周囲に意識を集中する。
「‥‥カオス界の魔物は存在しませんね。安心して作業を続けてください」
そう丁寧に返事をするアルフレッド。
「では、私もそろそろ作業を開始しましょう」
と告げて、アリシア・ルクレチア(ea5513)も遺跡入り口に移動。
そのまま崩れている入り口を調査し、抜け穴がないかどうか確認。
残念なことに、抜け穴らしきところはまったく存在しない為、1度、落盤した場所の撤去作業をしなくてはならない。
そして入り口近くを掘り返して、アリシアはある事に気が付いた。
「いくら精霊砲でも、こんなに簡単に破壊できるとは思えない‥‥何かあるはずです」
そう考えて、落盤してきた岩などを調べる。
と、あちこちの岩に、少し大きめの傷が付けられているのを確認した。
「オルステッド、これを見て‥‥」
「‥‥ふむ。鋭利な何かと‥‥これは『楔』だな。それらの仕掛けで、この辺りがダメージを受けた途端に入り口が破壊されるように造られたと‥‥」
そのまま更に掘り起こしていく一行。
と、今度はアリシアが入り口ちょっと奥の、壁の中に刻まれている碑文を確認した。
どうやらこの辺りの壁のあちこちが二重構造になっている様子がある。
周辺の壁に刻まれている『碑文』の解析を開始するが、その途中でふと、後方から何かの視線を感じ取った。
「‥‥オル、囲まれているかもしれないわ‥‥」
そう静かに呟くアリシア。
と、その言葉にアルフレッドとオルステッドの二人も、周囲に意識を配る。
──ガササッ‥‥
(確かに。だが、ここまで動いてきたという気配ではない‥‥まさか‥‥)
(逆に、我々が罠に填められた?)
そう二人が思考した瞬間、森の中から大量の矢が雨の如く打ち込まれてくる。
──ズサササササササササササササササササササササッ
それを躱わそうと、アリシア&アル&オルの3人が遺跡の中に飛び込む。
『オルステッド!! 敵フロートシップ確認。数は2隻、そのうち一隻が地表に何かを降ろしている!!』
「了解。そのまま迎撃に入ってくれ。モナルコス隊も出撃、敵ゴーレムの襲撃を考えて、遊撃に入れ!!」
風信機に向かって叫ぶオルステッド。
そしてその声と同時に、作戦は第二ステージに突入した!!
●第二ステージ〜空戦
──遺跡前方
グオングオングオングオン
ヤーン級フロートシップ一番艦が、前方に現われたフロートシップに艦首を向ける。
「‥‥内乱と思っていたけれど、どうやらただの内乱程度ではカタがつかないようだな‥‥全砲門、敵フロートシップに向かって撃てぇぇぇぇぇ」
ツヴァイの絶叫が伝声管を駆け巡る。
その声を聞いた精霊砲砲手が、力一杯精霊砲を操り、射程内に国籍不明のフロートシップを捕らえた。
──キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイン
精霊砲シリンダー内部に精霊力が圧縮される。
そして砲門から、『炎の精霊力』の塊が勢いよく放たれ、敵フロートシップに向かって飛んでいった!!
──ドゴォォォォォォォッ
それは敵船左舷デッキに直撃。
だが、敵も素早く反撃を開始、ゆっくりと船体を右転していく‥‥。
そして敵左舷に並んだ3門の精霊砲から、『風の精霊力』の塊が放たれる。
それはライトニングサンダーボルトの輝き。
二つは一番艦の横を掠め、一つは船体に直撃した!!
──バリバリバリバリッ!!
ブリッジの横を稲妻が駆け抜ける。
「各機関、船体のダメージを報告しろっ!! 敵精霊砲の正面に回りこむな、船体を反転、全速で回避しろっ」
ツヴァイの声が伝声管を駆け抜ける。
やがて各機関部からの報告が送られてくるが、特に致命的なダメージは食らっていない。
船体装甲が一部損傷した程度にすぎない。
「ジルマ殿、少し荒っぽくなるが、我慢してくれっ」
「う、うむ。荒事にはなれておる。安心しろ!!」
ツヴァイの横で腕を組み、じっと敵艦を睨みつけているジルマ・アンテップがそう呟く。
「敵艦の動きが変わりました‥‥敵ゴーレムグライダーが6機、敵フロートシップより離脱、こちらに向かって飛んできます!!」
空中戦ということなら‥‥。
そう心の中で思ったツヴァイだが、最悪な事に、このヤーン級一番艦にはグライダーは搭載してきていない。
「絶対に取り付かせるな。弓兵は対空防御に!!」
ツヴァイの激と同時に、弓兵が甲板に駆け出す。
長弓を構えた兵士達が甲板に飛び出し、次々と矢を放つ。
だが、空中で姿勢制御できるゴーレムグライダーの動きをうまく捉える事は出来ない。
グライダー下部や翼裏などに次々と矢は突き刺さるが、パイロットにダメージを与えられない。
やがてグライダーはヤーン級一番艦の甲板部に着地すると、パイロットは素早く剣を引き抜いてメイの兵士達に斬りかかった!!
──ガギィィィン!!
甲板上で剣戟が鳴り響く。
いくらメイの兵士達が屈強な強者集団だったとしても、飛んでいるフロートシップの看板上という、実に不安定な場所での戦いなど、まったく想定していない。
しかも、敵はグライダーにて突撃してきたのである。
今まで、メイではこのような『危険極まりない、突撃にも等しい戦法』など考えたことは無かったのだろう。
そのモロさが、致命傷となった。
「兵士の増援を!! 絶対に艦内には近寄らせるな!!」
そう伝声管に叫ぶツヴァイの横で、ジルマがゴキゴキッと拳を鳴らしている。
「うむ。では出撃ぢゃ!!」
そのままブリッジを後にするジルマ。
「ジルマ殿、何か策でも?」
そう問い掛けるツヴァイに、ジルマは右腕を高々と掲げる。
「ワシの精霊魔法は無敵ぢゃ!!」
──ドッゴォォォォォォン
やがて、甲板上に『グラビティキャノン』が炸裂する。
通路から外で戦っているバの兵士に向かって、ジルマがグラビティキャノンをブッ放したのである。
「今のうちに、傷ついた兵士を回収するのぢゃ!! ツヴァィ殿、聞こえるか?」
近くの兵士に叫んでから、これまた入り口近くの伝声管に叫ぶジルマ。
「ああ、判って居る。操舵手、ゆっくりと上昇開始、反転準備。ジルマが味方を回収したら船体を横90度傾けろ!!」
それはかなり危険な賭け。
水平移動を原則とするフロートシップで、よりによって横に船を傾けるなど。
普通の船ならば沈没は確定。
その荒業を上空で、フロートシップで行ない、甲板上の敵兵士を振り落とすというのであろう。
構造上、不可能ではない。
だが、それをやらなければならない。
ツヴァイにとっても、それは危険な賭けである。
今までの戦いを考え直す。
バの兵士は、すでに空中戦という立体的な戦いを展開しているというのに‥‥。
新しい戦術を考える必要がある。
「いまぢゃ!!」
そう叫ぶジルマの声に合わせて、ツヴァイが叫ぶ!!
「90度傾けろっ!!」
──ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
ツヴァイの叫びと同時に、船体が傾く。
慌ててグライダーに飛び乗って逃げる奴、乗り遅れてしまい、甲板から落ちていく奴など、阿鼻叫喚の様子を見せている。
そんな中。
──ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
絶叫を上げて甲板から落下していくジルマ。
そのまま森に落下していくのを、ツヴァイは傾いたブリッジから見ていた。
「ジ‥‥ジルマ殿ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。船体の傾きを元に、急ぎジルマ殿の救出に!!」
「駄目です。現在回避航行、敵艦からの砲撃により、近付く事ができません!! それにこの高さです‥‥」
──ダン!!
伝声管に拳を叩きつけるツヴァイ。
「何故だ‥‥まだまだ、教えてもらうことはあった筈なのに‥‥」
そう叫ぶツヴァイ。
ブリッジの外では、今だ精霊砲の激しい砲撃音が響いている。
「二番艦に伝令!! ジルマ殿の落下地点をしらみつぶしに探させろ!!」
そのまま戦闘は続けられる。
だが、敵艦2に対して、こちらは一番艦のみ。
搭載精霊砲の装填数やゴーレムグライダーなど、どう見ても分が悪すぎた‥‥。
●第二ステージ〜陸戦〜
──遺跡前
グゥォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
森林に恐獣の絶叫が響き渡る。
敵バの国の放った恐獣は全部で5。うち三頭は3.5m級、二頭が4m級である。
それ以外にも、カオスニアンの軍勢が森のあちこちからこちらにむかって展開しているようである。
「‥‥まさか、ここの遺跡自体を囮に使ったというのですか?」
そう呟きつつも、アルカード・ガイスト(ea1135)はカオスニアンの軍勢に向かって、ファイアーボールを放つ!!
「爆炎よ、彼の地で踊れ」
──ゴゥゥゥゥッ
掌に集められた精霊力が、小さな炎となる。
それは高速で渦巻くと、ゴウッと前方のカオスニアン達に向かって飛来し、そして爆発した!!
激しい炎に身を焼かれ、一部のカオスニアン達はその場で身もだえる。
タイミングが悪く、爆散した炎を吸い込んだのであろう。
大地に転がり、喉をかきむしるようにのたうち回っている。
「さて‥‥あのデカいのは頼みますよ」
そのアルカードの言葉に肯くと、アルファとシャノン・マルパス(eb8162)が遺跡の横で待機していたモナルコスに乗り込む。
「了解。モナルコス1・シャノン行きます」
──ドゴォォォッッッッッ
ゆっくりと立ち上がり、 そして前方に踏み出すモナルコス1。
「同じくモナルコス2・アルファ行きます。モナルコス3と4はこっちに付いてきてください。ファランクス隊形で、恐獣を一匹ずつ始末します!!」
そう告げて、モナルコス2も機動。
そのまま前方からやってくる恐獣に向かって突撃していく。
──グウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
雄叫びを上げて突撃してくる恐獣に、アルファと二機のモナルコスはファランクスで迎撃に出る。
正面からはアルファ、左右を仲間が囲む形で陣形を取ると、そのまま手にした槍を構えて牽制し、そして一気に突き殺す。
「ふぅ‥‥次に行きます。陣形はこのままでお願いします」
「ヤー」
「了解」
再び移動を開始し、次の恐獣に向かって身構えるアルファだが、敵のカオスニアンも黙ってはいない。
そのままアルファ機の元には3.5m級が全て、シャノン機の元には4m級が2体、一気に攻勢に出た。
「じ、冗談ではないです!! こんなに同時に襲いかかってくるなんて、一体どういう訓練を受けてきたんですか!!」
巨大な顎で襲いかかってくる二匹の恐獣。
その激しいまでの攻撃を、シャノンはなんとか楯で受止めてはいるが、それでも限界はある。
モナルコスでは、攻撃を受止めるのが精一杯で、攻勢に出るタイミングを見付けづらい。
何処かで攻撃を躱わさなくては、いずれはスタミナ切れで機動停止となる‥‥。
──ガギガギカギガキィィィィィッ
そこでシャノンは勝負に出た。
「楯ごと叩き込めば!!」
敵の攻撃にたいしてカウンターでというのは、技術的にはシャノンでは無理だが、その攻撃に合わせて、楯を使った回避をとれば。
素早く一歩踏込み、攻撃に合わせて機体を沈ませる。
脚部膝をクッションのように沈ませて、そして一気に伸び上がり前に突撃。
そのまま距離をおいて機体を反転させると、素早く手にした槍を恐獣に向かって突き刺す!!
──ドゴォォォォォォッ
深々と突き刺さった槍。
だが、もう一頭がシャノンのモナルコスの頭部に向かって顎を開き、そして一撃で頭部をかみ砕いた!!
──フッ‥‥
制御胞の正面の映像が消える。
頭部からの情報を映し出していた為、正面が真っ暗で、なにも見えなくなった。
「こちらモナルコス1、モナルコス各機に救援を求める!!」
そう風信機に向かって叫ぶシャノン。
──ミシミシミシッ‥‥
突然機体に激しい衝撃が走り、そして内部のあちこちがゆがむ。
外側で二頭の恐獣が猛攻撃を仕掛けていたのである。
「‥‥う、動け‥‥動いて‥‥」
死が眼の前に見えた瞬間、シャノンは制御胞の両側の制御球に向かって、そう呟いた。
──ビクビクビクッ
モナルコスのあちこちが痙攣したかのようにうごき、なんとか立ち上がろうとして‥‥
──ズシィィィィィィィィィン
そのまま崩れ落ちる。
その衝撃はダイレクトにシャノンに伝わると、そのままシャノンは意識を失った‥‥。
──一方
「レイフ、レイフ‥‥レェェェェェェィィィィフフフフゥゥゥゥゥ」
モナルコス3パイロット『レイフ・キャリー』の名を叫びつつ、アルファは砕かれた槍の先を降り回しつつ、一頭の恐獣に押さえこまれているモナルコス3を助けるべく走り出した。
──ミシミシミシミシィィィィッ
顎でかみ砕かれ、破壊されたハッチ。
──ゴリッ‥‥グシュッ‥‥グチャッ‥‥グチャッ‥‥
そこに頭を突っ込んで、何かを粗食している音。
ふとモナルコス2の足音に気が付き、振り返る恐獣。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
もう正気を保っている事がやっとのアルファ。
後方では、必死に抵抗を続けているモナルコス4の姿も見えるが、生きていると『信じている』アルファは、モナルコス3の助太刀に回った。
作戦は間違っていてない。
ただ、敵戦力が『強大』すぎただけ。
撤退するにも、ここを離れると、遺跡の皆が襲われる。
ならば、ファランクス隊形を維持しつつ、攻勢防御を続けていこう。
そう考えたアルファであったが‥‥。
──グルルルル‥‥
モナルコス3の制御胞から頭を出す恐獣。
その口からは、千切れたレイフの腕が見え隠れしている。
「レイフの仇ですっ!!」
そう叫びつつ、槍を恐獣の胴部に突きたてる。
先は砕かれているので、鋭利にとがっていた。
それを恐獣の腹部に突き刺すと、そのまま踏み込んで上空に向かって突き上げる。
──ギィェァォォォォォォォォォォ
絶叫を上げてその場に倒れる恐獣。
その返り血を全身に浴び、しかも頭部が血塗られてしまった為、モニターが使い物にならない。
『「こちらモナルコス1、モナルコス各機に救援を求める!!』
それはシャノンの声。
コクピットに搭載している風信機からの連絡だろう‥‥
「こちらモナルコス2。了解した、急ぎそちらに向かう!!」
そう叫んで、アルファはモナルコス2を移動させていく。
視界が悪くなったため、一瞬だけ胸部ハッチを開いて周囲を見渡すと、急いで目の部分の血を拭い、再びハッチを閉じる。
綺麗に拭えなかったものの、視界は回復したので、再びモナルコス4とファランクス陣営を取り戻してから、残った恐獣をどうにか片付けようとした。
●第二ステージ〜遺跡〜
──遺跡内部
静かな空間。
入り口付近の撤去作業を終えたものの、今だ入り口より役には進む事が出来ない。
どうしたらいいのかと、頭を抱えているオルステッドだが、今持ってきている道具では、穴も開ける事は出来ない。
それどころか、周囲からいつカオスニアンやバの兵士が出てくるか判らない状況である。
ここは一旦、撤収という形を取るのが理想であろう。
「こちら地上のオルステッド。二番艦に通信、これより撤収に入る。遺跡後方の丘陵地までこれるか?」
『こちら二番艦、了解。これより降下、回収作業に入る』
その通信が届くと同時に、一行は遺跡後方に回りこむ。
そして、周囲を眺める事の出来るその場所で、二番艦と合流し、地上から脱出する‥‥。
●第三ステージ
──一番艦
空中での艦隊戦闘。
それはメイの敗北に終った。
崩れかけた船体、今にも墜落しそうな状況。
そのさ中、精霊砲も、バリスタも打ちつくした。
あとは、接岸しての乗り込み白兵戦であるが、こちらの疲弊は半端ではない。
「全速で後方に離脱‥‥」
苦汁の選択をするツヴァイ。
そしてその姿を、バのフロートシップは追撃してこなかった。
──陸戦
恐獣達が後方に下がる。
ファランクス隊形で敵恐獣を蹴散らしつつ、なんとか襲われているシャノン機にまでたどり着く。
その時点で、恐獣達は後ろに下がり、それと入れ違いにバのストーンゴーレム『ガナ・ベガ』が4機、突入してきた。
──ガバンッ
ガナ・ベガの制御胞が開かれ、男の声がする。
「メイの腰抜け鎧騎士に告げる。ここは一旦退却して、新しい作戦でも練ったらどうかね? 現状では、貴公らの敗北は目に見えている。我々としては、貴公らを捉え、本国に送還しなくてはならない。が、貴殿らもそれは本意ではあるまい‥‥」
その言葉に、アルファも制御胞を開く。
「ふざけないでください。我々はまだ戦えます。ゴーレム同士の一騎打ちなら‥‥」
そう叫ぶアルファにたいして、敵の鎧騎士の口許がニヤリと動く。
「よかろう。では、貴公と一対一の決闘を申し付ける。貴公らが勝ったなら、好きにするがよい。だが、我が勝った場合は、『敗北を認め』、ここからの撤退を命じる!!」
そう告げられて、アルファは同意し、制御胞のハッチを閉じた。
──ガギィィィン
ゆっくりと機体を立ち上げ、そして剣を構える。
敵ガナ・ベガもまた、同じ角度同じ動きでゆっくりと構えを取る。
──ドガドガドガドガッ
二機のゴーレムが同時にスタート。
そしてすれ違いに武器を振るう。
──ガギガギッ!!
そしてすれ違った後、お互いが振り返る。
ガナ・ベガの頭部装甲に亀裂が入り、仮面が砕ける。
その中からは、銅の素体が見えていた。
「中身はガナ・ベガじゃないっていうことかよ‥‥」
そう呟くアルファ。
モナルコスの胸部ハッチが一撃で破壊され、制御胞が丸見えになっている。
勝敗は決したようである。
「では約束だ。そのモナルコスは騎士の情けで持っていくが良い‥‥」
そう告げる鎧騎士。
そしてその報告がアルファ達のフロートシップにも届けられた。
──そして
夕陽を背に、メイディアに帰還する一行。
敗北という名の、辛い経験。
訓練された恐獣とバの兵士のコンビネーション。
ゴーレムグライダーとフロートシップの連携、それに伴う空中艦隊戦闘。
全てにおいて、負けた。
だが、敵はそんな一行をあっさりと見逃した。
全て抹殺、死体も残さないという事も出来た筈なのに、フロートシップやゴーレムを鹵獲することもなく。
まるで、敵に情けを掛けられたような感覚であった‥‥。
●損傷度合
・ヤーン級級フロートシップ一番艦:極めて危険
・ヤーン級級フロートシップ二番艦:軽微
・モナルコス1:中破(修理に10日)
・モナルコス2:中破(修理に10日)
・モナルコス3:破壊(回収不能・迷宮付近に放置)
・モナルコス4:大破(廃棄)
・残存兵士:42名
──Fin
(代筆:一乃瀬守)