豚鬼戦士現る――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 10 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月23日〜07月31日

リプレイ公開日:2004年08月02日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
 そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。

 豚鬼という鬼が居る。洋名オーク。弛んだ体に下顎から長い牙の突き出した、豚の頭のついた大柄のオーガである。貪婪(どんらん)で欲深く、弱い人間を好んで襲う。
 そして豚鬼の中には、『豚鬼戦士』と呼ばれる強力なオークが居た。
 そのオークの戦士は、普通のオークを率いて、江戸から北に3日ほど行った山奥のある村を占拠した。この事実はしばらく外部に漏れる事は無かったが、猟師の一人が山を降りた時にその事実を知り、その足で江戸まで来たのである。
 猟師は役人に助けを求め、そして役所から冒険者ギルドへと話は動いた。
「今回の任務は、鬼に占拠された村を開放することよ」
 艶やかしい冒険者ギルドの女番頭が、キセルをくゆらせながら言った。
「敵は豚鬼。数は20ほど。そしてその中に1匹、強力な豚鬼戦士が混じっているわ。いわば豚鬼の首領格ね」
 女番頭が言う。
「その豚鬼の戦士、けっこう頭が回るみたい。村人の女子供を一箇所に集めて監禁し、村人を奴隷として働かせているそうよ」
 集まった冒険者たちが、憤慨する。
「今回の任務の要点は、監禁された村人を救い豚鬼を殲滅すること。村人を助けるまでは、荒事は厳禁。村人の安全を最優先で動いてちょうだい。村人の檻に火でもかけられたら、目も当てられないから」
 タン。
 女番頭が、キセルで火箱を叩いた。
「よろしね」

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0901 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1715 月志摩 楓(18歳・♀・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4112 ファラ・ルシェイメア(23歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4162 フィール・ヴァンスレット(30歳・♀・クレリック・パラ・フランク王国)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea5247 長曾我部 元智嘉(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

豚鬼戦士現る――ジャパン・江戸

●豚鬼に占拠された村
 江戸から東に三日。
 その村があるのは山間(やまあい)の地峡で、街道は1本。段々畑がゆるく左右に広がっており、そこでは瓜や根野菜が植えられているそうである。
 逃げてきた猟師から聞いた村の地図を要約すると、次のような感じだ。街道から北のわき道に入って、そこから朝顔の双葉のように畑と山が広がっており、家屋はその中央にはさまれるようにある。
 村の女子供が捕らえられているのは、その中央の住居のうちのひとつで、家畜小屋に竹の檻が組まれてそこに放り込まれているそうだ。男衆は別の家に監禁されているらしく、その位置は判然としない。
「まず、男衆の捕まっている場所を探る事からはじめなければならんな」
 マグナ・アドミラル(ea4868)が、簡素な地図を見ながら言う。

 今回この事件を解決しに来たのは、次の冒険者たち。

 ジャパン出身。人間の志士、天城烈閃(ea0629)。
 ジャパン出身。人間の志士、御蔵忠司(ea0901)。
 華仙教大国出身。エルフの女武道家、月志摩楓(ea1715)。
 華仙教大国出身。人間の武道家、羽雪嶺(ea2478)。
 イギリス王国出身。人間の神聖騎士、カイ・ローン(ea3054)。
 ジャパン出身。ジャイアントの僧兵、嵐山虎彦(ea3269)。
 ロシア王国出身。エルフのウィザード、ファラ・ルシェイメア(ea4112)。
 フランク王国出身。パラの女クレリック、フィール・ヴァンスレット(ea4162)。
 ビザンチン帝国出身。ジャイアントのファイター、マグナ・アドミラル。
 ジャパン出身。人間の侍、長曾我部元智嘉(ea5247)。

 以上、10名。若干名新人が入っているが、豚鬼相手ならば、そうそう遅れを取る事は無いだろう。問題は豚鬼戦士と呼ばれる首領と、人質だ。
「虎兄、肩借りるよ!」
「おう」
 フィール・ヴァンスレットが、嵐山虎彦の肩に乗る。その卓抜した知覚力で、村の様子を伺う。
「ひい、ふう、みいの‥‥」
 フィールが数を数えた。ざっと見渡して、豚鬼は10匹強。豚鬼戦士の姿は見えない。
「うーん、今男たちは畑仕事させられているけど、女子供は見えないなぁ‥‥」
 フィールが言った。まあ、屋内にいるのだから、それも仕方あるまい。
 猟師から聞いた目星の建物には、確かに2匹の豚鬼が付いている。おそらくここに、女子供が監禁されているのだろう。

 冒険者一行は三手に分かれた。陽動と戦闘、そして救助の3班である。夜を待って、行動に移る予定だ。
 その陣容は次の通り。

【陽動】
 マグナ・アドミラル
 嵐山虎彦

【戦闘】
 カイ・ローン
 ファラ・ルシェイメア
 フィール・ヴァンスレット
 長曾我部元智嘉

【救出】
 天城烈閃
 御蔵忠司
 月志摩楓
 羽雪嶺

 一番先に行動を起こすのは、救出班である。そして陽動班は陽動の効果を確認してから、戦闘班に加わるのだ。
「やるぞ」
 マグナが言う。
 そして冒険者たちは、散っていった。

●潜入・豚鬼の村
 天城烈閃と御蔵忠司、月志摩楓と羽雪嶺は、村人のような扮装をして村の中へと忍び入った。
 烈閃は精霊魔法<ブレスセンサー>を用いて村内部の探索を行っていた。といっても村の家屋は10戸ほどしかないので、探索はすぐに終わった。
「女子供は東の家屋の納屋、男たちは南の家の中。村長の家に豚鬼どもが集まっている‥‥見張りは、各2匹というところか」
 精霊魔法<ブレスセンサー>は、かなりの精度で生物の探知が出来る。相手が豚鬼程度ならば、問題なく探知は可能だろう。
「私は女子供の方を助けます。烈閃君は男たちのほうをお願いします」
 忠司が言う。そして、夜陰にまぎれて家屋の陰に潜む。
 楓は『酒を買いに行って帰ってきた村の子供』という設定でわざとオークに捕まり、そして女子供の捕まっている家屋に放り込まれた。荷物は一切合財持ち去られ、魔法のポーションも奪われてしまった。
 ――あれは怪我をしている人のためのものなのに!
 それ以前に、エルフであることがバレなかったことを幸運に思ったほうが良いだろう。ジャパンにエルフはいない。
 見慣れぬ顔が入ってきたのできょとんとしている村人に向かって、楓が口を開いた。
「私は冒険者です。皆さんを助けに来ました。もうすぐ仲間がここから出してくれます。その時は、南の街道を目指して下さい」
 その言葉に、村人は安堵のため息を漏らした。
 雪嶺は昼間の間に、村人との接触を果たしていた。
『キョロキョロしないで、僕は猟師コウキチさんの依頼で来た。必ず助ける。夜は移動できる様に連絡を回しておいて、奴等は頭いいから気付かれないように注意するんだよ』
 うまく行っていれば、男たちはその準備に取り掛かっているはずである。その援護をするため、雪嶺は男衆の捕まっている建物の陰に潜んだ。
 準備は整った。あとは陽動班が動くのを待つばかりだ。

●陽動――攻撃
 陽動は、虎彦の怪しい行動から始まった。藪で物音を立て、自分の姿を晒し引っ込める。それを目立つように、繰り返して行う。
 豚鬼は気づいたらしく、虎彦の姿を探しに3匹ほどやってきた。
 一方その反対側では、マグナが旅人の装束で村へ入り込み、オークの姿を見て逃げたフリをして走っていた。こちらも3匹ほどが追いかけてくる。
 男衆と女子供の見張りは、完全に引き剥がした。
 二人は、追っ手を戦闘班の居る場所へと引き付けた。予定の場所では、カイ・ローンとファラ・ルシェイメア、フィール・ヴァンスレットと長曾我部元智嘉が待ち構えていた。
「騙されたな豚ども!! 今宵この時、貴様らの悪事が潰える時ぜよ!!」
 元智嘉が名乗りを上げる。
「村人に手は出させない。青き守護者カイ・ローン、参る」
 馬上から、カイが言った。そしてスピアを構え、突撃する。一気に加速したカイの攻撃は、狙い誤たらずオークの胸板を貫き通した。
 まずは1匹。
「<ストーム>!!」
 ファラが、固まってやってきたオークに向かって魔法を唱える。魔法の風でオークは吹き飛ばされ、転倒した。
「<ライトニングサンダーボルト>!!」
 オークの1匹に向かって稲妻が飛ぶ。身体を焼かれて、オークがのけぞった。
「その腐った命、この長曾我部元智嘉が天に代わって断ってくれようぞ!!」
 馬上から槍で、元智嘉がオークを突いた。フェイント交じりの攻撃を、オークは避けることが出来なかった。
 バキン!!
 虎彦の<バーストアタック>が、オークの棍棒を折った。オークは戦意を喪失し、逃げようとしたところをフィールの<ディストロィ>で撃砕された。
「ははっ‥‥皆殺しだよ‥‥君達‥‥?」
 フィールが、邪悪な笑みを浮かべて言う。豚鬼に人語が理解できるかどうかはわからないが、それ相応の効果はあったようだ。
「悪いが仕留める。斬!」
 マグナが、最後のオークにとどめを刺した。
「罠の必要は無かったようだな」
 カイが言う。有事の際に備えて、軽微な罠を周辺に仕掛けておいたのだ。
 だが、その必要は無かったらしい。冒険者たちは十分に機能し、コンビネーションもばっちりだ。
「おーい」
 その時、村のほうから、声がかけられた。潜入していた仲間達――天城烈閃、御蔵忠司、月志摩楓、羽雪嶺が、村人を引き連れて逃げてきたのだ。村人は一部豚鬼に食われたらしいが、ほとんどを助けることが出来た。
 あとは、残った豚鬼と豚鬼戦士の始末である。

●豚鬼戦士との戦い
 すでに目的の半分は達した。村人は解放されすでに街道まで下げている。
 夜は不案内であるし野生の獣も多いため、冒険者の中からファラ・ルシェイメアとフィール・ヴァンスレットが警護として残ることになった。魔力が尽きかけているため、今後の戦闘にはあまり貢献できないであろうことからの配慮である。
 一同は村を目指し、内部へと入り込んだ。
「寝てるな‥‥」
 村長宅の豚鬼達は、何事も無かったかのように寝ていた。楓の持ち込んだ酒の効果があったのだろう。
「ブヒ?」
 豚鬼の中で異様に武装度の良い奴――おそらく豚鬼戦士が、目をあけた。冒険者たちの姿を認めて、驚愕らしい表情を浮かべる。
「ブヒーッ! ブヒーッ!」
 オーク語で、豚鬼戦士が何かを叫んだ。残り4匹となっていたオークたちが、何事かと目を覚ます。
「豚鬼戦士、貴様の悪行もこれまでだ、討ち取ってくれる」
 マグナが言い、長剣を構えた。
 戦いの勝敗は、すぐに決した。

●戦い済んで
「ありがとうございました」
 村人たちから感謝の言葉と瑣末ながら食料などを受け取り、冒険者達は江戸への帰路についていた。
「意外と楽勝だったね」
 フィールが言う。
「そうだな。まあ、つぼにはまればこんなもんだろう」
 虎彦が言った。
 強敵・豚鬼戦士は死んだ。配下の豚鬼も完全に殲滅した。
 村には平和が戻ったのだ。
「もう少し、出番が欲しかったかな」
 元智嘉がぼやく。まあ、新人ゆえやむをえない部分はある。
 足取りも軽く、冒険者たちは帰っていった。

【おわり】