夜叉姫伝――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月24日〜07月31日

リプレイ公開日:2004年08月04日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
 そんな中にも貧富の差は、依然としてある。裕福なものは良い着物を着て美味いものをたらふく食べ、良い匂いのする女を抱いて寝るのだ。

 そんな生活をしているとある大店で、ある事件が起こった。大店の囲い女(め)が、正妻を殺害するという事件が起こったのである。
 陰惨な事件ではあるが、わりと筋の読める、ありがちな事件ではあった。
 しかしこの事件、これだけでは終わらなかった。同じ大店の別の囲い女が、一番正妻に近かった囲い女を殺害するという事件が、立て続けに起こったのだ。
 そしてこの事件に共通しているのは、加害者の囲い女がいずれも、前後不覚の虚脱状態になっていることだった。今は取り調べもままならない状態らしい。
 ――これは、何かの呪いでは?
 大店の主人はそう思い、冒険者ギルドに使いの者を出した――。

「事件のあらましはこんなところ」
 冒険者ギルドの艶やかしい女番頭が、キセルをくゆらせながら言った。
「問題の大店の主人は、あと3人女を囲ってるわ。多分次に狙われるのは、その中の誰かじゃないかしら。そのご主人は「呪いでは」って言っているけど、なんとも言えないわね。呪い主の心当たりも多そうだし」
 女番頭が、キセルを吸い付ける。一息吐くと、紫煙が舞う。
「今回の任務は、予想される第3の事件を未然に防ぎ、その原因を探ること。そして呪いや幽霊の類が原因だった場合は、それを排除すること。以上よ」
 タン。
 女番頭が、キセルで火箱を叩いた。
「よろしい?」

【人物】
・主人:清兵衛(44)
 女好きの酒好き。正妻も含め7人も女を囲っていた。少々あくどい儲けをしているが、悪徳商人というほどではない。今回の事件にショックを受けている。

・囲い女1:こよみ(24)
 豊満で明るい女性。あっけらかんとした性格をしている。現在もっとも正妻に近い立場に居る。多少の浪費癖あり。

・囲い女2:ありさ(20)
 スレンダーでおしとやかな女性。西欧人とのハーフ。店では店子たちにもっとも信頼されており、この女性を正妻に推す声も多い。

・囲い女3:さち(18)
 物静かな女性だが魅力的で、若く囲われてからも日が浅い。清兵衛が橋の下で拾ってきた子供で、清兵衛を一番慕っている。若紫計画とも言う(w

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0501 神楽 命(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea2673 十三代目 九十九屋(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3055 アーク・ウイング(22歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea3913 エンジュ・ファレス(20歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea4083 橘 雪菜(32歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4185 カイン・ミナエフ(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

夜叉姫伝――ジャパン・江戸

●世の中はけっこう金
 世の中は、なんだかんだ言って金である。
 『愛さえあれば』などと言って、清貧を気取ってみてもしょうがない。愛や家庭を維持するのにだって、金は必要なのだ。金の切れ目が縁の切れ目。逆を言えば、金のある奴は縁も多くあるのである。
 で、今回の連続殺人事件だ。同一犯によるものではないので『連続』というのはおかしいかもしれないが、とにかく事件は連続して起きた。金持ちの清兵衛の所にある『縁』が次々と断たれているのである。

 今回この事件解決に乗り出したのは、次の冒険者たち。

 ジャパン出身。人間の忍者、大宗院透(ea0050)。
 ジャパン出身。人間の女浪人、神楽命(ea0501)。
 ジャパン出身。人間の浪人、壬生天矢(ea0841)。
 ジャパン出身。人間の侍、結城友矩(ea2046)。
 ジャパン出身。人間の僧侶、八幡伊佐治(ea2614)。
 ジャパン出身。人間の忍者、十三代目九十九屋(ea2673)。
 ロシア王国出身。人間のウィザード、アーク・ウイング(ea3055)。
 ジャパン出身。エルフの女クレリック、エンジュ・ファレス(ea3913)。
 ジャパン出身。人間の女志士、橘雪菜(ea4083)。
 神聖ローマ帝国出身。人間の女神聖騎士、カイン・ミナエフ(ea4185)。

 以上10名。いずれも、最近巷で噂になっている冒険者たちだ。

 清平の囲い女だった女は6人+正妻1名。そのうち2名が死に、二人が虚脱状態になっている。加害者の二人は役人に捕らえられたが、取調べもままならない状態だ。その様子は『抜け殻』と言ってもいいだろう。
 ともあれ、起こりうる第3の事件を未然に防ぐため、冒険者たちは捜査に乗り出した。

●調査開始
「あなたもハーフなのですか‥‥私も“ハーフ”で、昔はよく仲間から“はぶ”にされました‥‥」
 大宗院透が、ありさと話している時に言った駄洒落は、誰にも理解されずスルーされてしまった。
 ここは清兵衛の店である。大店ということで来てみたが、いわゆる大店とは趣が違ってた。店はそれほど繁盛しているというわけではなく、店構えも越後屋などに比べるとはるかに小さい。
「これは店主の性格がうかがえるわよねぇ」
 神楽命が言う。命の言わんとするところは、要は『女にうつつを抜かすぼんくら店主』というところだろう。稼いだ金の多くを酒と女につぎ込んでいるわけだ。
 幸い、店を維持してゆくだけの商才はあるらしく、それでも問題は無さそうだった。個人の趣味には、深く立ち入らないのが賢明である。
「じゃ、あたしは仮眠を取るね。夜になったら不寝番をするから」
 そう言い、命は早々に別室に引きこもった。

 エンジュ・ファレスは壬生天矢を伴い、加害者の囲い女二人に面会を求めた。二人は先にも書いたが、役人の所で取調べを受けている。牢から出すことは出来なかったが、面会は果たせた。早速神聖魔法の<メンタルリカバー>を試してみる。
 ほどなく、二人は意識を取り戻した。魔法をかけた途端、二人ともわっと泣き出したのである。
「こっ、殺すつもりなんて無かったんです! ただ、我主様を独り占めしたい気持ちがどんどん膨らんでいって‥‥」
 ――殺害に及んだ。二人の供述は一致していた。
「まったく同じってのが解せないな」
 天矢が、キセルをくゆらせながら言う。
「何か作為的なものを感じます。無実‥‥というわけにはいかないでしょうが‥‥あの人たちを助けられると良いですね」
 エンジュが言った。

「拙者はさちが怪しいと思う。あの女は清兵衛殿が橋の下で拾ったとか。美しいが素性の判らぬ女だ。花のかんばせの下に野心を秘めているやも知れぬ。よって、さちの監視を行いたい。もちろんこれは拙者の憶測だ。見当違いかも知れぬ。その時はご無礼お許しくだされ」
 結城友矩が、清兵衛に言った。清兵衛は「まさか」と言って取り合おうとはしなかったが、最終的には折れた。友矩はさちに張り付いた。

「いらっしゃいませ」
 十三代目九十九屋が、営業用のスマイルを見せて言う。
 九十九屋は清兵衛に頼んで冒険者という身分を隠し、店子として店に入り込んだ。趣味の商人としての技能を活かして、店員として手際よく働く。かっ達とは言えないが、それでも店員としてはよく働いた。
「さて、そろそろ仕込みに入りますか」
 九十九屋は店員として、店の者に対し聞き込み調査を開始した。

 八幡伊佐治は、僧侶のくせに花街を渡り歩いていた。清兵衛は7人もの女を囲っていた人物である。こういう場所ならば有名人だろう。
 話は、割とあっさり聞けた。不幸な噂は、走るのも早い。清兵衛の店での話は、もう花街で噂になっていた。
「しかし‥‥他愛の無い噂ばかりだよなぁ」
 伊佐治が思う。
 清兵衛は噂の多い人物だが、そのほとんどはヨタ話の類である。有益な情報など無きに等しい。というより、砂山で一本の針を探すようなものだ。
「ちょっとギルドへ行ってみるか」
 さっそく、伊佐治はギルドへと行ってみた。そこにはこの依頼を流した、艶やかしい黒髪の女番頭が居た。
「あら、何の御用?」
「ちょっと話が聞きたくてね」
 伊佐治が言う。
「番頭さんは今回の事件、どう思う?」
 女番頭は、キセルを吸いつけ、ひと息吐いた。
「まあ、不幸な事件だとは思うわ。でも、それ以上は調べていないから、わからないわね」
「そりゃ、ごもっとも」
 伊佐治がかしこまる。
 その後他愛の無い話をして、伊佐治はギルドを後にした。

 アーク・ウイングは、店の周囲を警戒していた。
「女の恨みは怖いとはよく言うけど、そっちがらみだと面倒なことになりそうだなー」
 アークが言う。店の周囲に、怪しい人影は見られない。こういうのは隠密にしかわかりにくいのだが、とりあえず警戒するに越したことはない。

 カイン・ミナエフと橘雪菜は、南蛮図書館でこの事件に関係ありそうな化け物を調査していた。不死者と妖怪を中心に、地道な調査を進めてゆく。何種類かのモンスターをリストアップし、それを持って冒険者たちの詰めている清兵衛の店に戻ったのは、すでに夜半近くであった。
「護衛についている最少の人員を残して、みなさん集まって下さい」
 雪菜が言う。
「事態は一刻を要する、というわけではありません。ですが油断もできません」
 カインが言った。
「今回の事件、敵の正体は『デビル』だと思われます」
 カインが言う。しかし聞きなれぬ言葉に、ジャパン人のほとんどは顔に疑問符を浮かべた。
「私たちの言葉で言えば、『悪魔』になるのかしら。よくわからないけど、魂と引き換えに願いをかなえてくれたりする奴らで、相当な悪党よ」
 ジャパン人にはジーザス教の教えは浸透していないので、悪魔というものに対してピンと来るものが無い。地獄の『悪鬼』がそれに相当するかもしれないが、微妙に違う。
「『夜叉』って聞いたことありますか?」
 雪菜が問うた。夜叉といえば、女が鬼となった化け物と言われている。般若とかとも言われるが、基本的に女の化け物だ。
「まあ、本体の無い幽霊みたいなものなのですが、これが関係していると私は考えます」
 夜叉とは、文献によると女の負の感情を増長し、破滅させることを無上の喜びとする悪魔で、その正体は幽霊のようなものらしい。らしいというのは、その正体を見たものがいないからである。
「予防方法は?」
 透が問う。
「神聖魔法の<デティクトアンデッド>で発見できると思うのですが‥‥」
 冒険者たちに沈黙が降りた。この魔法を持ち合わせている聖職者は、このパーティーにはいない。
「誰かにすでに取り付いている可能性は?」
 伊佐治が言う。彼はこの直前まで、花街に出ていたので、様子を知らない。
「それはなんとも――」
 カインがそう言いかけた時。
 ――きゃああああああああああああ。
 女の悲鳴が響いた。
 命のものだった。

●夜叉――その正体
 命は布団に突っ伏し、うめいていた。その視線の先には、二人の女性が居る。囲い女のこよみとさちである。こよみはさちを羽交い絞めにし、刀を突きつけていた。こよみの顔はまさしく――悪鬼のそれだった。
 その大部屋には、3人の囲い女が眠り命が見張りについていた。そして見張りの命が床に突っ伏しこよみがさちを人質に取っている。ありさはすでに、気絶していた。
『殺してやる』
 般若の顔をした、こよみが言う。
『皆殺しだ。貴様らともども』
「魔法を!」
「だめです! こよみさんを傷つけてしまいます!」
「これならどうだ! <ホーリー>!」
 伊佐治とエンジュの魔法が、こよみを直撃する。<ホーリー>は邪悪なものに問答無用でダメージを与える魔法だ。こよみは吹っ飛ばされ、庭に倒れた。
 ――るるるるる‥‥。
 こよみの身体から、青い幽鬼が浮かび上がった。おそらく夜叉の本体だろう。
「<ライトニングサンダーボルト>!!」
 アークが魔法を放つ。それは夜叉に、いくばくかのダメージを与えたようだった。
 ――おあああああああ‥‥。
 無念の声を上げて、夜叉は逃げた。不利と見て取ったのだろう。
「怪我をしてる。治療を」
 九十九屋が言う。
 神聖魔法を使えるものたちが、<リカバー>を唱えた。

●結局のところ
 第3の事件は防がれた。冒険者たちの手によって。
 夜叉を放ったのが誰か、という問題は残ったが、とりあえず一件落着である。
 清兵衛はいたく冒険者たちに感謝し、酒宴を設けてくれた。
「結局のところ、この事件にどういう意味があったんだろう」
 アークがつぶやく。
「まあ、無事に解決したんだから、深く考えるな。あと10年もすれば坊主にもわかるようになるよ」
 伊佐治が言った。
 清兵衛の女好きは、まったく治っていない。

【おわり】