●リプレイ本文
●古今東西男物語
洋の東西を問わず、男は助平で愚鈍な生き物である。
そこの君、君の事だ。
自己顕示欲を満たすことに精を出し、強権を握っては破滅してゆく男どもを見て、女性はおおむね『男は馬鹿だ』とか『男って単純』という結論にたどり着くそうだ。男にも言い分や異論はあろうが、世の男どもの多くは女に醜態を晒し死んでゆく。女が原因で国が傾ぎ、破滅した例など今更語る必要はあるまい。
そういう作者も男なのだが、これについては作者も自信を持って『違う!』と言えないところが微妙な所である。
そんな馬鹿な、そんな助平で愚鈍な男を食い物にするモンスターの一匹や二匹、世の中に居てもおかしくはない。今回の手合いは、そういう種類のヤツだ。
今回の『愛(は)し姫』討伐に駆り出されたのは、次の10名(プロフィール付き)。
ビザンチン帝国出身。人間のウィザード、デュラン・ハイアット(ea0042)。
尊大で厚顔不遜、持って回った言い回しのわりには、戦闘時は明かり持ちぐらいしかしない二面君である。
華仙教大国出身。人間の武道家、漸皇燕(ea0416)。
寝る。とにかく寝る。暇があれば寝ている。寝るために生きているんだろうと思える毒舌家。だが口よりその拳法の奥義<爆虎掌>のほうが数倍痛い。
ジャパン出身。ジャイアントの志士、山王牙(ea1774)。
真面目でお堅い人物。正義は幻想だと思っているニヒリストだが、冷たい人物というわけではない。むしろ人情家である。
ビザンチン帝国出身。パラの女ウィザード、エステラ・ナルセス(ea2387)。
既婚、子持ち。結い上げた長い金髪と柔らかな物腰にファンは多そうだが、根は悪どいらしい。今回の事件には異様に乗り気である。
華仙教大国出身。人間の武道家、孫陸(ea2391)。
無理、無茶、無謀、無策で権力家が嫌いというノーガードバトル野郎。しかしノーガードゆえの<猪突拳>はちょっとすごい。
ジャパン出身。人間の侍、鷲尾天斗(ea2445)。
うまくいかないナンパを繰り返す『難破』師。顔の横に一文字の傷あり。傾奇(かぶき)者だが行動は堅実な、知る人ぞ知る冒険者。
イギリス王国出身。エルフの女クレリック、ララ・ルー(ea3118)。
ぽけぽけ聖職者。エルフらしくのんびりマイペースだが、今回の依頼は聖職者として期する物があるようである。
イギリス王国出身。エルフのウィザード、エドゥワルト・ヴェルネ(ea3402)。
孤高のブリティッシュ・ウィザード。人を楽しませるのが好きだが、名前をなかなか覚えてもらえないのが悩みのタネとか。ちなみに私は、スイマセンこの人の名前を発音できません。
ジャパン出身。人間の女浪人、笠倉榧(ea3445)。
後に言われる『江戸っ子』の原型をその身に宿している女性。胸が小さいのがちょっと悩ましい。書を趣味にしているのは意外な一面かも。居合いの達人。
ジャパン出身。人間の女侍、篝火灯(ea3796)。
女なのにハーレムを作りたいという剛毅な女性。大奥ならぬ大旦那とでも言うのだろうか。技に秀でているが地力が無いので、戦闘はちょっと苦手かも。
以上である。モンスター一匹相手には、やや豪勢な取り合わせだろう。それだけ、そのモンスターが強力だということだ。
通常の器物に対する耐性を持ち、人間の生気を吸収するこの手のモンスターは、総じて知能が高い。今回補足されたのはまさに天佑と言え、逆を言えば、後が無いわけでもある。油断はならない。
●出現予想現場下見
「『橋姫』とはよく言ったものだな」
デュラン・ハイアットが大仰な――悪く言えば尊大スレスレな――仕草で言った。まだ昼日中。件のモンスターは夜出てくるはずなので、今は現場の下見である。
川の下、つまり川原に相当する部分や橋の上下は、役人の手の及ばない一種の治外法権地帯である。ここには多くの流民や無宿人が住み着いており、その中には身体を売って生計を立てている女性も多い。役人も来ないし取り締まりも無いので、人間型のモンスターが入り込んだらちょっと探すのはホネである。
「まあ、今は下見だけでいいよな」
「俺ぁ夜に備えて寝とく」
デュランの言葉に応じず、漸皇燕が片手を振ってその場を去った。彼は寝るといったら必ず寝る。
「真面目な話、今回の敵は手ごわいですよ」
山王牙が、剣の柄を握りながら言った。今回の敵は、彼一人ではどうにもならない。彼は攻撃魔法や攻撃補助魔法を修得していないからだ。
「あの番所とか、夜の隠れ家になりそうだな」
孫陸が、川沿いを歩きながら言う。彼も、下見をしているクチである。
「お嬢さん、この辺の娘さん? ちょっと茶屋でも行って、話聞けないかな」
――くすくすくす。
鷲尾天斗が、ナンパしていた。現場検証という目的があるはずだが、ただ楽しんでいるように見えるのは気のせいだろうか。
エドゥワルト・ヴェルネは川沿いの植物を見ていた。丈の高い雑草に川沿いに埋められた柳。<プラントコントロール>で操れる植物は、思いのほか多かった。柳などはしなやかで強靱なので、捕縛するのには都合が良い。
囮は牙、バックアップがエドゥワルト。合図は牙が空中に放り上げたランタンということで、話は決まった。
そのころ、エステラ・ナルセス、ララ・ルー、笠倉榧、篝火灯の女性組み4人は――。
「あら、このお菓子おいしいわ」
「そうですねー」
「これは『葛きり』という冷菓だ。美味いだろう」
「京都のお菓子なんだよね。これ」
さっさと下見を切り上げてお茶していた。必要な情報はもう集めている。女性の<井戸端会議スキル>をなめてはいけない。
「じゃあ、わたくしは仮眠を取らせていただきます」
エステラが席を立つ。女性陣は、それで解散となった。
あとは、夜を待つだけであった。
●夜の川べり
「あらにいさん、いい男。一切れ百文でどうだい?」
夜の川べりは、なにやら昼間とは違った熱気というか生気というか、そういうものに満ちていた。
牙は川べりを歩いていた。最近の夜は物騒だというのに、女を買おうという男は少なくない。声をかけてくる女性もそれなりに居て、いざ愛し姫出現となったときに混乱を呼びそうだ。
まあ、たいがいは事に夢中で気付きもしないだろうが。
しばらくぶらぶらしていて早くも夜半すぎ。
「そこの方」
鈴を鳴らしたような声が、牙を呼び止めた。振り返るとそこには、多分人間族の女性が居た。
多分というのは、その女性の美貌が人間離れしていたからである。濡れ羽色の艶やかしい黒髪。白磁のような肌は透き通るようで、一刺し刺した唇の紅が、異様に鮮やかであった。
――歌?
ぐわん。
牙の視界が、ゆがんだような気がした。おかしい。何かがおかしい。
牙の心が、激しく警鐘を鳴らす。しかし意識がまとまらない。何か危険が迫っている。だが違う。
『ああ、愛しいあなた』
どこか遠くから、声が聞こえた。だが赤い唇が、間近に迫っている。
『そう――そのまま――』
ひゅん!
何かが飛来する音と共に、短刀が女性の胸に突き立った。
ゆるり。
女が振り向く。その視線の先には、灯が居た。短刀を投げたのは彼女だろう。
「そこまでだよ」
榧が現れ、言う。
女が胸に生えた短刀を不思議そうに見ると、その短刀は時間が逆回しになったかのようにぽとりと抜け落ちた。
「何をするんだ!」
牙が言う。目つきが怪しい。
「<チャーム>ですか」
ばさぁっとマントをひるがえして、デュランが言う。お前いつどこからどうやって湧いた、というような現れ方だ。
実際は<リトルフライ>で上空を飛んでいたのだが。
「3人も殺(や)られて争いのあの字も無いんですもの。それは怪しいですよね」
エステラが言った。さすがウィザード、的確な状況判断だ。
ついで漸皇燕、孫陸、鷲尾天斗が現れる。
「いやー、女は怖いなぁ」
天斗が言った。さらにララ・ルーとエドゥワルト・ヴェルネが現れ、役者はそろった。
にたぁ。
女が笑った。邪悪な笑みだった。
『ああ、愛しい人。私は殺されてしまう』
「そんなことは無い! 仲間はそんなことはしない!」
牙が言う。完全に魅了されていた。
「吩(ふん)っ!」
皇燕が気合を入れた。オーラ魔法、<オーラパワー>だった。
戦闘が、始まった。
●伝説の終焉
「破ぁっ!」
陸の<猪突拳>が、愛し姫にとどめを刺した。愛し姫はチリになって消えた。
「もうこれで、殿方が犠牲になることは無いでしょう」
ララが言う。彼女は神聖魔法の<ホーリー>を使い尽くし、疲弊していた。
「なんということだ‥‥」
牙が、頭を抑えている。魅了されて、冒険者の仲裁に回っていたからだ。美人の恋人と冒険仲間。どちらを取るか悩ましい状況である。ちなみにデュランは明かり持ちしかしなかった。
「まあ、犠牲者が出なくて何よりだ」
多少怪我をした天斗が、かんらかんらと笑いながら言う。
その後、殺人事件は、ぱったりと止まった。
牙の魅了は、まだ解けていない。
【おわり】