魔性の女――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月27日〜08月02日

リプレイ公開日:2004年08月10日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
 そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。

 江戸市中で、異常な犯罪が起きていた。若い男が次々と、血を抜かれて死んでしまったのである。被害者は現在のところ3人出ている。
「事件は深夜、川伝いに起こっているわ。『何か』が江戸市内に入り込んだと思っていいわね。西洋には『吸血鬼』という化け物がズバリいるんだけど、ジャパンにも『愛し(橋)姫伝説』っていうのがあってね。血を吸う女の鬼の伝説があるのよ」
 艶やかしい冒険者ギルドの女番頭が、キセルをくゆらせながら言った。
 『愛し(橋)姫伝説』というのは、愛しい人を橋の上で待ち続けた美しい女が妖怪になり、愛しい人の面影を持つ男を次々と襲ってゆくというものである。古都京都あたりでは、本物がいまだに『出る』という話だ。
「今回の事件、その手の化け物の仕業だと思うわ。そうだとすると、もしかしたら魔法や魔法のかかった武器で無いと倒せないかもしれないわね」
 タン。
 女番頭が、キセルで火箱を叩いた。
「任務は、この吸血姫を倒すこと。絶対に逃がさないで。そして次の事件を未然に防いでちょうだい」
 女番頭が、静かに言った。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0416 漸 皇燕(37歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea2391 孫 陸(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3118 ララ・ルー(20歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea3402 エドゥワルト・ヴェルネ(19歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3445 笠倉 榧(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3796 篝火 灯(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●古今東西男物語
 洋の東西を問わず、男は助平で愚鈍な生き物である。
 そこの君、君の事だ。
 自己顕示欲を満たすことに精を出し、強権を握っては破滅してゆく男どもを見て、女性はおおむね『男は馬鹿だ』とか『男って単純』という結論にたどり着くそうだ。男にも言い分や異論はあろうが、世の男どもの多くは女に醜態を晒し死んでゆく。女が原因で国が傾ぎ、破滅した例など今更語る必要はあるまい。
 そういう作者も男なのだが、これについては作者も自信を持って『違う!』と言えないところが微妙な所である。
 そんな馬鹿な、そんな助平で愚鈍な男を食い物にするモンスターの一匹や二匹、世の中に居てもおかしくはない。今回の手合いは、そういう種類のヤツだ。

 今回の『愛(は)し姫』討伐に駆り出されたのは、次の10名(プロフィール付き)。

 ビザンチン帝国出身。人間のウィザード、デュラン・ハイアット(ea0042)。
 尊大で厚顔不遜、持って回った言い回しのわりには、戦闘時は明かり持ちぐらいしかしない二面君である。
 華仙教大国出身。人間の武道家、漸皇燕(ea0416)。
 寝る。とにかく寝る。暇があれば寝ている。寝るために生きているんだろうと思える毒舌家。だが口よりその拳法の奥義<爆虎掌>のほうが数倍痛い。
 ジャパン出身。ジャイアントの志士、山王牙(ea1774)。
 真面目でお堅い人物。正義は幻想だと思っているニヒリストだが、冷たい人物というわけではない。むしろ人情家である。
 ビザンチン帝国出身。パラの女ウィザード、エステラ・ナルセス(ea2387)。
 既婚、子持ち。結い上げた長い金髪と柔らかな物腰にファンは多そうだが、根は悪どいらしい。今回の事件には異様に乗り気である。
 華仙教大国出身。人間の武道家、孫陸(ea2391)。
 無理、無茶、無謀、無策で権力家が嫌いというノーガードバトル野郎。しかしノーガードゆえの<猪突拳>はちょっとすごい。
 ジャパン出身。人間の侍、鷲尾天斗(ea2445)。
 うまくいかないナンパを繰り返す『難破』師。顔の横に一文字の傷あり。傾奇(かぶき)者だが行動は堅実な、知る人ぞ知る冒険者。
 イギリス王国出身。エルフの女クレリック、ララ・ルー(ea3118)。
 ぽけぽけ聖職者。エルフらしくのんびりマイペースだが、今回の依頼は聖職者として期する物があるようである。
 イギリス王国出身。エルフのウィザード、エドゥワルト・ヴェルネ(ea3402)。
 孤高のブリティッシュ・ウィザード。人を楽しませるのが好きだが、名前をなかなか覚えてもらえないのが悩みのタネとか。ちなみに私は、スイマセンこの人の名前を発音できません。
 ジャパン出身。人間の女浪人、笠倉榧(ea3445)。
 後に言われる『江戸っ子』の原型をその身に宿している女性。胸が小さいのがちょっと悩ましい。書を趣味にしているのは意外な一面かも。居合いの達人。
 ジャパン出身。人間の女侍、篝火灯(ea3796)。
 女なのにハーレムを作りたいという剛毅な女性。大奥ならぬ大旦那とでも言うのだろうか。技に秀でているが地力が無いので、戦闘はちょっと苦手かも。

 以上である。モンスター一匹相手には、やや豪勢な取り合わせだろう。それだけ、そのモンスターが強力だということだ。
 通常の器物に対する耐性を持ち、人間の生気を吸収するこの手のモンスターは、総じて知能が高い。今回補足されたのはまさに天佑と言え、逆を言えば、後が無いわけでもある。油断はならない。

●出現予想現場下見
「『橋姫』とはよく言ったものだな」
 デュラン・ハイアットが大仰な――悪く言えば尊大スレスレな――仕草で言った。まだ昼日中。件のモンスターは夜出てくるはずなので、今は現場の下見である。
 川の下、つまり川原に相当する部分や橋の上下は、役人の手の及ばない一種の治外法権地帯である。ここには多くの流民や無宿人が住み着いており、その中には身体を売って生計を立てている女性も多い。役人も来ないし取り締まりも無いので、人間型のモンスターが入り込んだらちょっと探すのはホネである。
「まあ、今は下見だけでいいよな」
「俺ぁ夜に備えて寝とく」
 デュランの言葉に応じず、漸皇燕が片手を振ってその場を去った。彼は寝るといったら必ず寝る。
「真面目な話、今回の敵は手ごわいですよ」
 山王牙が、剣の柄を握りながら言った。今回の敵は、彼一人ではどうにもならない。彼は攻撃魔法や攻撃補助魔法を修得していないからだ。
「あの番所とか、夜の隠れ家になりそうだな」
 孫陸が、川沿いを歩きながら言う。彼も、下見をしているクチである。
「お嬢さん、この辺の娘さん? ちょっと茶屋でも行って、話聞けないかな」
 ――くすくすくす。
 鷲尾天斗が、ナンパしていた。現場検証という目的があるはずだが、ただ楽しんでいるように見えるのは気のせいだろうか。
 エドゥワルト・ヴェルネは川沿いの植物を見ていた。丈の高い雑草に川沿いに埋められた柳。<プラントコントロール>で操れる植物は、思いのほか多かった。柳などはしなやかで強靱なので、捕縛するのには都合が良い。
 囮は牙、バックアップがエドゥワルト。合図は牙が空中に放り上げたランタンということで、話は決まった。
 そのころ、エステラ・ナルセス、ララ・ルー、笠倉榧、篝火灯の女性組み4人は――。
「あら、このお菓子おいしいわ」
「そうですねー」
「これは『葛きり』という冷菓だ。美味いだろう」
「京都のお菓子なんだよね。これ」
 さっさと下見を切り上げてお茶していた。必要な情報はもう集めている。女性の<井戸端会議スキル>をなめてはいけない。
「じゃあ、わたくしは仮眠を取らせていただきます」
 エステラが席を立つ。女性陣は、それで解散となった。
 あとは、夜を待つだけであった。

●夜の川べり
「あらにいさん、いい男。一切れ百文でどうだい?」
 夜の川べりは、なにやら昼間とは違った熱気というか生気というか、そういうものに満ちていた。
 牙は川べりを歩いていた。最近の夜は物騒だというのに、女を買おうという男は少なくない。声をかけてくる女性もそれなりに居て、いざ愛し姫出現となったときに混乱を呼びそうだ。
 まあ、たいがいは事に夢中で気付きもしないだろうが。
 しばらくぶらぶらしていて早くも夜半すぎ。
「そこの方」
 鈴を鳴らしたような声が、牙を呼び止めた。振り返るとそこには、多分人間族の女性が居た。
 多分というのは、その女性の美貌が人間離れしていたからである。濡れ羽色の艶やかしい黒髪。白磁のような肌は透き通るようで、一刺し刺した唇の紅が、異様に鮮やかであった。
 ――歌?
 ぐわん。
 牙の視界が、ゆがんだような気がした。おかしい。何かがおかしい。
 牙の心が、激しく警鐘を鳴らす。しかし意識がまとまらない。何か危険が迫っている。だが違う。
『ああ、愛しいあなた』
 どこか遠くから、声が聞こえた。だが赤い唇が、間近に迫っている。
『そう――そのまま――』
 ひゅん!
 何かが飛来する音と共に、短刀が女性の胸に突き立った。
 ゆるり。
 女が振り向く。その視線の先には、灯が居た。短刀を投げたのは彼女だろう。
「そこまでだよ」
 榧が現れ、言う。
 女が胸に生えた短刀を不思議そうに見ると、その短刀は時間が逆回しになったかのようにぽとりと抜け落ちた。
「何をするんだ!」
 牙が言う。目つきが怪しい。
「<チャーム>ですか」
 ばさぁっとマントをひるがえして、デュランが言う。お前いつどこからどうやって湧いた、というような現れ方だ。
 実際は<リトルフライ>で上空を飛んでいたのだが。
「3人も殺(や)られて争いのあの字も無いんですもの。それは怪しいですよね」
 エステラが言った。さすがウィザード、的確な状況判断だ。
 ついで漸皇燕、孫陸、鷲尾天斗が現れる。
「いやー、女は怖いなぁ」
 天斗が言った。さらにララ・ルーとエドゥワルト・ヴェルネが現れ、役者はそろった。
 にたぁ。
 女が笑った。邪悪な笑みだった。
『ああ、愛しい人。私は殺されてしまう』
「そんなことは無い! 仲間はそんなことはしない!」
 牙が言う。完全に魅了されていた。
「吩(ふん)っ!」
 皇燕が気合を入れた。オーラ魔法、<オーラパワー>だった。
 戦闘が、始まった。

●伝説の終焉
「破ぁっ!」
 陸の<猪突拳>が、愛し姫にとどめを刺した。愛し姫はチリになって消えた。
「もうこれで、殿方が犠牲になることは無いでしょう」
 ララが言う。彼女は神聖魔法の<ホーリー>を使い尽くし、疲弊していた。
「なんということだ‥‥」
 牙が、頭を抑えている。魅了されて、冒険者の仲裁に回っていたからだ。美人の恋人と冒険仲間。どちらを取るか悩ましい状況である。ちなみにデュランは明かり持ちしかしなかった。
「まあ、犠牲者が出なくて何よりだ」
 多少怪我をした天斗が、かんらかんらと笑いながら言う。

 その後、殺人事件は、ぱったりと止まった。
 牙の魅了は、まだ解けていない。

【おわり】