這いずり回るもの――ジャパン・江戸
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月28日〜08月02日
リプレイ公開日:2004年08月11日
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●オープニング
ジャパンの東国『江戸』。
摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。
江戸のとある廻船問屋。その大店の主人が、蔵の中で変死した。その遺骸は半身を溶かされて内臓などがはみ出しており、第1発見者の奥方はそれを見て卒倒した。
蔵には開け放たれた西洋の宝箱があり、主人の亡骸の周囲には小瓶と何かが這いずった跡があって、それは蔵の地下へと続いていた――。
「今回の依頼は、この地下通路の掃除よ」
艶やかしい冒険者ギルドの女番頭は、キセルをくゆらせながら言った。
「何が起きたのかは、だいたい想像がついているわ。この廻船問屋、海外から色々なものを輸入しているんだけど、それにスライムの種が付いていたようなのよね」
女番頭が言う。スライムとはゲル状の不定形生物で、有機物なら何でも溶かして滋養にしてしまう貪欲なモンスターだ。ごく小さな欠片からも摂取した肉の量に応じて再生、巨大化し、最後には手を付けられなくなってしまう。西洋の迷宮の番人としては定番で、はっきり言って始末が悪い。
女番頭が、言葉を続けた。
「蔵の地下には、いつ作られたかわからない秘密の通路があって、そこにソレは入り込んだらしいわ。あなたたちの任務は、この危険な生物を駆除すること。通路の中を知るものはいないから、手探りの探索になるわよ」
タン。
女番頭が、キセルで火箱を叩いた。
「よろしくね」
【迷宮について】
迷宮は石造りで、幅3メートル、高さ3メートルほどです。
A:通路:はしごを降りると南北の通路がある。北に何かの這った跡がある。北へ行くとB、南へ行くとC。
B:分岐路:東西に分かれている。溶かされた大ねずみの死体がある。這いずった跡が途切れている。東へ行くとD、西へ行くとE。
C:川:100メートルほど進んで屋外に出る。行き止まり。
D:通路:床が板張りになっている。先へ進むとF。
E:部屋:幅5メートル奥行き8メートルほどの部屋になっている。西洋から輸入した珍品がある。
F:部屋:幅5メートル奥行き8メートルほどの部屋になっている。西洋から輸入した珍品がある。
●リプレイ本文
這いずり回るもの――ジャパン・江戸
●廻船問屋というもの
『廻船問屋』の本来の意味は、沿岸航路で旅客または貨物を輸送する船を使用し、荷物の仲買などを行う商売をしている業者のことを言う。中世以来発達し、神聖暦999年現在では中央の諸港とを結んで、きわめて盛んに行っている。
ただ、人間のやる事である。裏というものは必ずあり、そういう場所にトラブルはつき物だ。今回の事件も、その手の部類に入るものである。地下迷宮で発見された宝箱を丸ごと買い取り、その中身や時には箱までも売り払う。中身に何か問題があっても、知らぬ存ぜぬで通すだけ。事故は起きてからでないとわからない。後はすべて闇の中、というわけだ。
だから、こんな事件が起きても、人々は基本的に他人事だ。いちいち気にしていたら、夜も眠れない。
今回、この溝(どぶ)掃除に駆り出された冒険者は、次の10名。
ジャパン出身。人間の女浪人、西方亜希奈(ea0332)。
美麗な少女だが負けん気が強く、ちょっと自意識過剰。ボリュームのある肢体をしているがそれを指摘されると怒り出す、気難しい16歳である。
ジャパン出身。ジャイアントの侍、三笠明信(ea1628)。
世界中を旅したいと夢を見るまだ少年。ただ少年ながらすでに体躯は2メートルの長身で、侮れない戦闘力を持っている。
ジャパン出身。人間の女浪人、不破恭華(ea2233)。
豊満な体型を155センチの身長に押し込めた、見た目はクールな女性。温泉好きで情熱家。竹串をいつも口にくわえている。
インドゥーラ国出身。エルフの女僧侶、グラス・ライン(ea2480)。
日本に来て温泉にはまったインドの僧侶。ジャパン後も堪能で説法などをよくしている。ただなぜか、ジャパン語は関西弁である。
ジャパン出身。人間のくノ一、丙荊姫(ea2497)。
14歳の、わがまま盛りのお嬢様忍者。現実主義者のくせにやられたらやり返すというハムラビ式な性格は、『分裂してるなぁ』と思うのは筆者だけだろうか。
フランク王国出身。人間のナイト、アキラ・ミカガミ(ea3200)。
『俺より強いヤツに会いに行く』ためにフランクからジャパンまでやってきた騎士。自分より強いヤツに惹かれる所を見ると、これは嫁さん探しの旅なのではと思ってしまう。
ジャパン出身。人間の女浪人、西園寺更紗(ea4734)。
18歳でこのプロポーションは犯罪である。というほど女っぽいのだが、女であることを指摘されると怒り出すのは亜希奈と同じ。ただ隙があるとすれば、刀剣マニアというところだろうか。
ジャパン出身。人間の女侍、斉藤志津香(ea4758)。
西洋人とのハーフという月道が生み出した時代の寵児。パッツンセミロングが学者風だが悪を許さぬ正義漢でもある。青い目のお侍さん。
ジャパン出身。人間の忍者、神山明人(ea5209)。
ハーレム作りを目指すシノビ。美形好きで生業は教師というのだから犯罪者寸前とも言える。廃と言われる前に更生することが望まれる。
ジャパン出身。人間の忍者、死先無為(ea5399)。
策謀好きで面倒くさがりやという、アンビパレンツなキャラクターをどう表現しようか迷うところだが、結局興味本位自分本位というところに落ち着きそうだ。今回の依頼に関しては、自宅より塩一升を持参。スライムに効くだろうか?
以上である。
一同は罠が張り巡らせてあるはずの地下通路へ、はしごを降りて入っていった。
●A:通路
「ここには居ませんね」
死先無為が、提灯で周囲を照らしながら言う。はしご、通路、壁には、何か粘液質のものが付着していた。通路は南北に続いている。粘液は北へ這っていて、明かりは無い。
「じゃあ、手分けして探そうっか」
西方亜希奈が言う。班分けとは、この通路を探索する班分けのことだ。
まず北。こちらへは亜希奈、不破恭華、グラス・ライン、丙荊姫、アキラ・ミカガミ、斉藤志津香、神山明人、死先無為が向かう。そして南へは、三笠明信、西園寺更紗が行くことになった。南の人数が少ないのは、スライムの這いずった跡が無いからである。
「では、何かあったら大声を出すということで」
明信が言い、一行は二手に分かれた。
●C:川
「水の音がしはりますなぁ」
更紗が言う。明信も気づいた。
南側は、夏の水辺特有の生ぬるい風が吹き込んできていた。そして一丁(約100メートル)ほど進むと、開けた場所に出た。足元を水が濡らし、川のミズゴケのにおいがする。
「どうやらはずれでしょうか‥‥外に出てしまったら探しようがありませんね‥‥」
明信が言う。天井や壁をくまなくたいまつで照らしてみるが、スライムの痕跡は見て取れない。
「戻りまひょ。ここにもう、用はありまへん」
更紗が言い、二人は仲間への合流の道を辿った。
●B:分岐路
そのころ。
北に向かった一行は分岐路にたどり着いていた。
そこには、大ねずみの死骸らしきものが転がっている。生々しい食い散らかされ方だ。
粘液の痕跡は、そこでふっつり消えていた。
「スライムの仕業やすはろか?」
グラス・ラインが言う。そして、周囲を見渡した。
「さて、分岐路だ。どっちへ向かう?」
不破恭華が言う。
「二手に分かれよう」
丙荊姫が言った。ランタンをかざして左右を見る。暗い洞(ほら)は、それぐらいでは見渡せない。
冒険者達は相談し、東へは亜希奈、荊姫、志津香、無為が向かい、西へは恭華、グラス、アキラ、明人が向かうことになった。
●D:通路
亜希奈、荊姫、志津香、無為は、突然途切れた石床の上に居た。一歩先は、何かありげな板張りの床になっている。
荊姫と無為が、床を調べている。
「刃張りの罠ですね。床板が沈む仕掛けになっていて、足を踏み入れると板の継ぎ目から刃が飛び出し、踏んだ足を傷つけるものです」
無為が言う。そして壁をさぐると、隠し蓋を探り当てた。そこにはレバーがあり、それを引き下ろす。
――がこん。
何かの作動音がした。
「もういいですよ」
無為が言った。
一同は先へ進んでいった。
●F:部屋
西の、恭華、グラス、アキラ、明人のほうは、すぐ扉に行き当たった。
「これは‥‥」
アキラが言う。
目の前には扉があり、その上の天井から何かがぶら下がっていた。
「ひも‥‥だな」
明人が言う。西洋風のビロードのひもが、ぶら下がっていた。明人が罠を調べにかかる。
「馬鹿にしてる。ひもを引っ張ると落とし穴に落ちる仕掛けになっている。こんなのに引っかかるやつの気が知れん」
明人が言った。アキラが、複雑な顔をする。つい引っ張ってしまいそうになったからだ。
明人は扉の鍵を開け、内部に入った。
――でたー!
その時、通路の反対側から声が響いてきた。
「!?」
一同は通路の反対側へと向かった。
●F:扉
亜希奈、荊姫、志津香、無為が罠を突破すると、扉に行き当たった。
「天井は‥‥」
志津香が上を見る。
ひききっ。
志津香の顔が引きつった。その視線の先に、ゲル状の物体があった。その中央には半分溶けた大ねずみの頭。白くにごった目が志津香を見下ろしていた。
その周囲には内臓だかなんだかわからないものがうごめいており、公共放送なら間違いなくモザイクものである。
「「「でたー!!」」」
うぞり。
『それ』が動いた。もぞもぞと不気味な蠕動運動をしている。かなり気色悪い。
それが、襲ってきた。
「きゃああああああああっ!」
亜希奈がびびって後ろに下がる。オーガなどにも引けを取らない彼女ではあるが、気色悪い系統の化け物はその許容範囲ではない。
びゅっ!
「熱っ!」
スライムが、何か液体を飛ばした。それは志津香の身体にかかるとじゅっと音を立てて煙を吹いた。酸の液体であった。
「むん!」
無為が手裏剣を投げた。それはスライムに突き刺さり、ダメージを与えた‥‥と思う。
どばー。
滝のように、スライムが床に落ちた。ぶるぶると震わせているゲル状の身体の中で、未消化の骨や臓物が泳いでいる。気の弱い人ならば失神物だ。
「来たぞ!」
そこに恭華、グラス、アキラ、明人が。そして遅れて、明信、更紗が来る。
一瞬、一同は声を失ったが、それでも気丈に踏ん張り、タコ殴りを始めた。
●スライム死す
「今日はこの為に来たと言っても過言では無いっ!」
無為が言い、スライムの小片に塩をどさっとふりかけた。果たして効くかどうかはわからないが、スライムはとにかく退治された。
「最悪の敵だった‥‥」
アキラが言う。剣などが酸にやられて鈍色になっている。研ぎに出さないとやられてしまうだろう。他の者もだいたい同じである。なんとも嫌な相手であった。
ともかくも、スライムは撃退された。故人の持ち物についても安全が確保され、それは相続すべき人物が相続した。
とりあえず、終わりである。
しかし、あれが最後のスライムとは限らない。必ず第2、第3の事件が起こる。
――でも、スライムの相手はこれっきりにしたい。
それは冒険者一同の、共通した見解であった。
【おわり】