大蟹の産卵――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月29日〜08月03日

リプレイ公開日:2004年08月13日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
 そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。

 江戸湾のとある町で、大蟹の姿が見つかった。大蟹は幅1間(約3メートル)もある巨大な蟹で、今回の蟹は腹にいっぱいの卵を抱えているという。
「というわけで、蟹退治よ」
 と、艶やかしい冒険者ギルドの女番頭は言った。キセルをくゆらせ、吸い付ける。一息吐くと、紫煙が空気に溶けてゆく。
「まあ、放っておいてもそんなに害は無いと思うんだけど、ほら、蟹って万単位で卵を産むじゃない? このまま放置すると、来年か再来年には、そこの浜は大蟹の巣窟になっちゃうかもしれないわ。今回の依頼は、そうなる前に蟹を葬ってしまうこと。見事倒せば、浜の人たちが蟹鍋を振舞ってくれるそうよ」
 モンスターを食うと言うのも乱暴な話だが、人間は意外とたくましい。食用モンスターと言うのも確かに存在するので、これはこれでOKだろう。
「以上、よろしく」
 タン。
 女番頭が、キセルで火箱を叩いた。

●今回の参加者

 ea0247 結城 利彦(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0250 玖珂 麗奈(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0366 藤原 雷太(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0480 鷹翔 刀華(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2036 水神楽 八千夜(33歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3829 跳 夏岳(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5344 永倉 平九郎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

大蟹の産卵――ジャパン・江戸

●主に人間の事情
 今回の事件は、主に『人間の事情』で動いている。
 「自然と人間は調和すべきだ」という意見は多い。現にジャパンの人々の多くは自然を大事にし、そして調和を図っている。例えば猟師がそうだ。彼らは鹿を狩っても、メス鹿は狩らない。鹿の数が減るからだ。きこりもそう。彼らは、水源を守る森の木は切らない。自然が強固な堤防や避難所になることを知っているからだ。
 だが、この数十年の人間の躍進は、目を見張るものがある。井戸を掘り山を切り拓き、土地を田畑や都市に変えてゆく。水が布に染み広がるように、人間たちはその版図を広げていった。当然、それは土地に対する侵略行為である。人間は動物、植物を問わずに、その生物を殺さずに生きてゆく事は出来ないからだ。
 つまり、このカニ退治もそんな『人間の事情』で起きた事件である。カニに罪は無い。しかし放っておくこともできない。そんな二律背反を背負って、今回の冒険者は依頼を果たすのだ。

「蟹ちゃ〜ん♪ 今日のごはんちゃ〜ん♪ こっちだよ〜ん♪(by永倉平九郎(ea5344))」

 やべー。そんなこと微塵も考えていねぇよママン(汗

 今回のカニ退治に駆り出されたのは、次の冒険者たち。

 ジャパン出身。人間の志士、結城利彦(ea0247)。
 シスコンで彼女持ち(本人は否定)という、複雑な内面を持つ少年。まだ15歳の若さを考えればそんなに生き急がなくてもと思うのは、筆者がもう年だからだろうか。
 ジャパン出身。人間の女志士、玖珂麗奈(ea0250)。
 で、こちらが結城利彦に熱烈アタック中の彼女。同じ『志』の道を歩みながら、その行き先はなかなか交差しないと思うのは、若さゆえだろう。
 ジャパン出身。人間の志士、藤原雷太(ea0366)。
 お人好しのわりに感情を表に出さない青年志士。が、今回の依頼については何やら不気味なオーラを発している。含み笑いなどもするので、実はちょっとアブナイかもしれない。
 ジャパン出身。人間の女浪人、鷹翔刀華(ea0480)。
 無愛想、無関心、無表情と一通り揃った少女剣士。かなりキッツイ態度で相手を怒らせることしばしばだが、本人はあまり気にしていない。だが、カニには目が無いようだ。
 ジャパン出身。人間の女僧兵、水神楽八千夜(ea2036)。
 艶っぽく色っぽく、刹那的でお祭り好き。武器はムチを操る女王様系僧兵(なんだそれは)。酒も飲むが本当は真面目な女性である――らしい。
 ジャパン出身。人間の浪人、九竜鋼斗(ea2127)。
 武術を磨き刀剣類をい見るとに恍惚となる青年浪人。駄洒落好きだがまだレベルがぜんぜん足りない。とりあえず話術を磨くべし。
 ジャパン出身。人間の浪人、氷川玲(ea2988)。
 職人気質の苦労人。大工仕事を頼まれたり周囲の面倒の後始末をさせられたりと、何かとめぐりが悪い。まあ、本人は好きでやっているから問題は無いが。今回はふんどし一丁と小柄一本でカニに対決。
 華仙教大国出身。人間の武道家、跳夏岳(ea3829)。
 『何でも食う』と言われる華国人だけあって、今回の依頼にはカニ茹で用の大鍋を用意して参戦。卑怯でなければ『目的の為に手段を選ばない』だけの事はある。
 ジャパン出身。人間の女侍、神楽聖歌(ea5062)。
 19歳。月や星を眺めるのが好きなロマンチストで、おっとりしていてマイペース。でも戦闘は堅実なナイスバディ。彼氏がいないのがもったいない。
 ジャパン出身。人間の忍者、永倉平九郎。
 『興味本位』という行動原理を持ち、『高い所が好き』という人物像を持つ忍者。当然現れる場所は崖の上とか屋根の上。満月を背景に背負っていれば完璧。そしてカニ好き。

 以上10名。ほとんどは『カニ鍋』の3文字に引っかかった冒険者たちだ。だが侮ってはいけない。彼らも巨大カニを相手に引けを取らない、練達の冒険者なのである。

 そこのお前、笑うな。

●カニの姿を求めて
「蟹♪ 蟹♪ 食っべ放題♪♪」
 陽気に、永倉平九郎がスキップしている。その後ろからは、冒険者一行がぞろぞろと(者によっては鍋を抱えて)付いてきていた。
 その中に、見慣れぬごま塩頭の老人がいる。今回の巨大カニを目撃した、元漁師のヘイジである。
「甲羅の青いカニだで水んなか居(お)るとよく分からんっとよ」
 どこの方言だか分からない言葉で、ヘイジが言う。
 ヘイジが案内しているのは、カニの目撃現場である。砂浜にいきなり突き出した岩礁がその場所で、足場は悪く転んだら怪我をしそうだ。
「砂浜がわにおびき寄せれば、戦闘は楽でござるな」
 藤原雷太が言った。早くもよだれを出さん勢いである。
「問題は足場ね‥‥」
 跳夏岳が言った。想像していたよりも、足場が悪すぎる。岩礁は尖った岩が突き出し、凹凸も激しかった。満足に動くには、一種軽業的な足捌きが必要だろう。
「えへへ〜☆ としくんと一緒の冒険だ〜」
「くっつくなよ麗奈」
 玖珂麗奈と結城利彦がいちゃいちゃしている。これから難敵と戦うようには見えない。
 ――さて‥‥蟹鍋のためにがんばろう(力説)。
 鷹翔刀華が、いつになくやる気を見せている。手を握ったり開いたりして、感覚を確認していた。
「カニって、満潮の岩礁に卵を放つんだって。だからこの岩礁が満潮になって水に浸れば、カニも出てくると思うわよ」
 水神楽八千夜が言った。それに冒険者たちが、難しい顔をした。それはそうだろう。足場の悪い岩礁に、さらに水である。戦いの条件は、不利になるばかりだ。
「カニの数は?」
 九竜鋼斗が、ヘイジに問うた。
「一匹ですじゃ。今は海ン中おりよります」
 ヘイジが言う。
「海で戦うのは論外だな‥‥」
 鋼斗がつぶやいた。
「まあ、出てくるのを待つしか無いだろう」
 旅装束を肩にかけながら、氷川玲が言った。
「では、待ち伏せですか?」
 神楽聖歌が問うた。
「ああ、夜、満潮になるまで、ここで見張りだ」
 玲が言った。

●対決! カニ鍋決戦!!
 ざっぱーん。
 岩礁に、波が当たって砕けている。
 崖上に、平九郎が腕を組んで立っている。ロケーションはばっちりだが、飛び降りると素で死ねるので、一応下に向けて縄を放ってある。
 冒険者一行は、カニの出現を待っていた。彼方の砂浜では、焚き火の火がちろちろと燃えているのが見える。カニ鍋の準備が行われているのである。
 時は満潮。中天に月がかかり、雰囲気はばっちりだ。舟幽霊の一匹ぐらい出そうである。
「来た」
 夏岳が言う。その視線の向こうに、カニが居た。岩礁を8本の足で器用に渡り歩き、水に浸った産卵場へ入ってくる。
「今だ!」
 利彦が言う。
「<アイスブリザード>!!」
 麗奈が精霊魔法を放った。吹雪の嵐が、カニを襲う。
「吶喊!!」
 雷太が言う。もう心はカニ鍋に向いている。
「食らえ! <パーストアタックEX>!!」
 バキン!
 雷太の日本刀が殻を破った。ここを<ポイントアタック>で狙えば、さらに有効な打撃を与えられる。
「蟹鍋‥‥じゃなくて‥‥蟹鍋‥‥鍋‥‥(キュピーン)」
 刀華が目を光らしてカニに突っ込み、居合い(ブラインドアタック)を仕掛けた。
 ガッ!
「なっ!?」
 当たった。が、打撃を与えるところまでは至らない。カニの甲羅が厚いのだ。刀華の剣は甲羅にはじかれていた。手がしびれる。
「<ディスカリッジ>!」
 八千夜は神聖魔法で援護に徹していた。<ディスカリッジ>と共に<ブラックホーリー>で攻撃する。魔法は良く効いているようだ。
「さて、かかってきな!! 俺が美味しく食してやる」
 鋼斗が言う。だが、カニはなぜか、横走りに逃げ出した。
「あ、待て。逃げるな!」
 鋼斗がカニを追った。しかし足場が悪く、思うように動けない。
「<火遁の術>!!」
 ごうっ!
 炎が、カニの逃げ道を遮断した。平九郎の忍法である。今崖上から降りてきたのだ。ナイスタイミングである。
「行くぜ!」
 玲が、カニの甲羅にへばりついた。そして関節を狙って攻撃する。<スタッキングポイントアタック>である。玲は都合2回攻撃すると、カニから離れた。今はふんどし一丁。攻撃を受ければひとたまりも無い。
「カニ、覚悟!!」
 オーラパワーを付与した日本刀で、聖歌がカニに攻撃を仕掛ける。フェイントを織り交ぜた攻撃は狙い過たらずカニを直撃し、その防備も割ってのけた。
「私の刀にも魔法を!」
 めずらしく語気を荒げて、刀華が言う。居合いも力負けしていてはどうにもならない。カニはちゃんとパーティーに貢献して食べたいのだ。
 戦いは続き、やがてカニは動かなくなった。力尽きたのだ。
「あ痛ぁ‥‥」
 利彦が額をなでている。転んで怪我をしたのである。
「としちゃん大丈夫?」
 麗奈が、その顔を覗き込んでいた。

●カニ鍋パーティー
 カニは味噌出汁のカニ鍋にされた。カニと野菜と味噌を放り込んで煮る。ただそれだけである。シンプルだが浜らしい料理だった。
「はい、としちゃん」
 麗奈が利彦に椀を渡す。それを利彦が、そっぽを向いて受け取る。
「いやぁ、なんでもした甲斐があったでござる」
 カニ鍋をほおばり、雷太が言う。本当に、カニのためなら何でもするつもりだったからだ。
「美味い‥‥‥‥(黙々)」
 刀華が、黙々と箸を進めている。やはり、戦いに貢献した後のカニは美味い。
「一匹しかいなかったのは残念ね」
 八千夜が、酒を飲みながら言った。焼いたカニの身を肴に一杯やっている。鋼斗もそれに相伴に預かっていた。カニは、やはり美味い。
 玲はふんどし一丁の姿から旅装束に戻って、こちらもカニを食っていた。カニの鋏は取られてしまったが、カニ味噌や卵も食えてご満悦であった。
「はいはーい、カニ鍋はまだまだいっぱいあるよー」
 夏岳が鍋を取り仕切っている。本当に楽しそうだ。
「美味しいですわ」
 聖歌が、カニ鍋に舌鼓を打っていた。自分で倒したカニは、やはり美味い。
「激うま♪」
 平九郎もご満悦である。

 一同は村人たちと共にカニ鍋をきれいに平らげると、村人から礼を受け取り村を後にした。
「またこういう機会があればいいなぁ」
 誰かが言う。
 皆、同じ気分だった。

【おわり】