●リプレイ本文
不死身の山賊――ジャパン・江戸
●不死身というもの
このジ・アースには、わりとその辺に『不死身』というものが転がっている。
たとえばアンデッドだ。彼らは通常の生物的には死んでいるが、負の生命とも言える生命活動システムを持っていて、彼らは彼らなりに生きているのである。
まあ、ズゥンビなどは『生きている』というより『活きている』と言った方がいいかもしれないが、それでも生きていることには変わりはない。そして上級アンデッドのバンパイアなどは、死んでいるのが嘘のようなほど活発に活動している。そしてその不死性は瞠目に値し、その眷属となって不老不死を求める者も少なくはない。
そして今回、この『不死身』の名を冠する又八なる者を捕縛するために集められたのは、次の冒険者たちである。
華仙教大国出身。人間の女武道家、巴渓(ea0167)。
無理、無茶、無策、無謀、猪突猛進。取り敢えず殴ってから考える筋肉娘。白い歯と鍛えた腹筋がチャームポイント。
ジャパン出身。人間の浪人、伊達正和(ea0489)。
愛こそすべてと考えるナンパ浪人。ある意味、ストイックであるべき武士からもっともかけ離れた男。しかしながら5ヶ国語を修得し、弁も立つ。まずは立身出世が必要か。
華仙教大国出身。人間の女武道家、林瑛(ea0707)。
水泳、小型船舶、大型船舶と、水に強いグラマラスな鉄拳美女。服を深い紫色で統一しており、その姿は藤か菖蒲か。『八剣者』というグループ所属。
ジャパン出身。人間の女浪人、御藤美衣(ea1151)。
派手な着物のツインテール娘。武芸者で、江戸では知られる実力者。小悪魔的な性格と相まって、なかなかの大人物になりそうな予感がする。
ジャパン出身。人間の浪人、夜神十夜(ea2160)。
新婚ほやほやの浪人夫婦の片割れ。助平でボケ役。黙っていれば二枚目で通るのに、嫁さんの乳を触りたがるのはヤメレ。
ジャパン出身。人間の女浪人、音羽でり子(ea3914)。
新婚ほやほや浪人夫婦のもう一人。貧乳を気にする関西人。自称漫才師。腰の辺りの肉がちょっと余っているのがマニアック。
イギリス王国出身。人間のウィザード、ウェス・コラド(ea2331)。
褐色の学者。軍師の才能があるが、人を見下すような態度が誤解を招きやすい人物である。本人は職務に忠実なだけなんだけどね。
ビザンチン帝国出身。シフールのウィザード、ルーン・エイシェント(ea3394)。
10歳の駆け出しウィザード。かなりの猫を被っているが、基本的にお子様なのであくどい事はなかなか成功しない。巨力願望がある。
ジャパン出身。人間の志士、鷹宮清瀬(ea3834)。
堅実で真面目な、模範的な武士。温故知新ではないが、古いものに憧憬を持ち収集する収集癖がある。最近のお気に入りは横笛だそうである。
ジャパン出身。人間の志士、山本建一(ea3891)。
悪く言えば無頓着な、よく言えばおおらかな志士。教師を生業にしており、子供に読み書きを教えている。
以上10名。ほとんど経験深い冒険者だ。
まず一行は江戸を旅立ち、問題の村へと向かった。
「しっかし、不死身ってどういうことかねー?」
道中に、巴渓が言った
「さあ、興味無いな。死なない生き物は居ないもんだぜ」
伊達正和が言う。例外もあるのだが、そこまで彼らは世の中を知らない。
「おおかた、同じ名前の人物が何人もいるのよ」
林瑛が言った。私は戦闘屋だから考えないわよ、というオーラを発していた。殴るだけで事足りるならば、それに越した事は無い。
「あたいは『不死身』なんて信じてないよ? どうせ、顔の似た奴が次々と『又八』名乗って、不死身とか言ってるだけなんでしょ? どうせ、そこらのごろつきと変わらないか、ちょっと強いぐらいよ」
御藤美衣が言った。その言葉を裏付けていいのかどうかわからないが、又八は何度か死んでいるらしい。
「ん〜、やっぱりでり子の乳はいいなぁ〜」
夜神十夜が、リプレイに書けないようなことを音羽でり子にしている。「何すんのや〜」とグーで突っ込みを入れられているが。
「どうせくだらない理由だろう。『不死身』など山賊にはもったいない」
ウェス・コラドが、真面目に考える顔で言った。
「不死身かぁ。これが騙りや魔術‥‥人間操人形とかじゃないとして。でも何度も倒されてるって‥‥それ不死身でも無意味だよね。しょうもない人☆」
ルーン・エイシェントが、お気楽に空を飛びながら言った。あまり深くは考えていないようだった。
「油断すまいぞ」
鷹宮清瀬が言う。
「仮にも『不死身』と呼ばれるのだから、何か理由があるのだろう。甘く見ては、痛い目を見るかもしれん」
「まあ、今からそんなに力んでも疲れます。もっと飄々といきましょう」
清瀬の言葉に、山本建一がクールに言った。
誰もが、又八など眼中に無いという感じであった。それよりも成功時に貰える賞金10両金の事に頭が行っていた。
だから、まさかあんなことになるとは、思いもしなかった。
●『不死身』の又八
盗賊の討伐は、順調だった。冒険者たちは搾取されている村人たちを味方に付け、上納金を出し渋る振りをして山賊の子分たちの大半を、村におびき出したのである。
山賊達はことごとく冒険者たちの手にかかって倒れ、又八はほぼ丸裸の状態になった。子分も5人と残っていないはずである。
冒険者たちは山賊の住処である、洞窟へ向かった。
「来やがったな! 源徳のイヌどもめ!」
山賊たちは、待ち構えていた。人数は5名。真ん中の、蓬髪にがっしりした体躯の男が、おそらく又八であろう。
「予定と違うな」
ウェスが言う。彼の目算では、盗賊たちはもっと姑息に動き回ってもらうはずだった。
「あら、結構いい男じゃない」
瑛が手傘をかざしながら言う。
確かに又八は、容姿に関してはそれなりにまともな部類に入る。素肌に中古の胴丸鎧を付けているあたり山賊だなぁと思わせるが、それを差し引いても精悍な類に見えた。
「ま、俺ぁぶん殴れればどうでもいいんだけどさ」
渓が言った。そしてバシンと、拳を叩き合わせた。
「ここが夢の終点だ。不死を夢見た奴の終わりなんて惨めな物だぜ?」
十夜が抜刀し言うと、でり子が「ああ〜、今日は何もお笑い取れてへん〜!」と悲痛な叫びを上げた。それに一筋、十夜のほほに汗が伝う。
ちゃっ。
美衣が、両手の剣に手をかけた。さらに正和が抜刀し、散開した手下たちと間合いを計る。
「今日は暑いから、<アイスコフィン>でも1時間ぐらいしか持たないんだ。だから早めに決着をつけるよ」
ルーンが言った。
「鷹宮清瀬、参る」
清瀬が抜刀して言う。建一も刀を抜き、構えた。
「‥‥おおお、親分。だ、大丈夫なんでしょうね?」
又八の部下が、はげしくうろたえながら言った。すでに気合戦で負けていた。
「まあ、任せろ。お前たちは逃げなきゃいい」
又八が言う。そして拳を手で揉み、ボキボキと骨を鳴らした。
ダン!
又八が地面を蹴った。先制し、防備の薄そうなウェスを狙う。
バキィッ!
「ぐはっ!」
ウェスの顔面に、拳が当たった。のんきに呪文詠唱している間など無かった。
「吩っ!!」
渓の<ストライク>が、又八の腹を叩いた。
――逝った!!
確かな手ごたえ。この一撃は内臓の一つや二つは破裂させているに違いない。
しかし。
「効かねぇなぁ」
にたりと、又八が笑った。渓が驚愕の表情を見せる。それほど確信を持てる一撃だったのだ。
「破っ!」
瑛が<ダブルアタック>で連撃を又八に当てる。しかし、それも効かない。
「どうなってるの!?」
瑛が言う。間合いをとりなおし、又八を見た。
「どうした、もう終わりかい? 美人のねーちゃん」
「「やあっ!」」
十夜とでり子が、同時に攻めた。十夜は<スタンアタック>狙いである。
がきっ!
「ぬっ!」
十夜がうめく。岩を叩いたような感触だった。とても肉をまとった人間のものとは思えない。
その緊迫した空気は、他の雑魚を相手にしていた者たちにも伝播した。何かが起きている。それも、特別異常な何かが。
「さて――」
又八が言う。
「そろそろ本気を出すか」
ざわり。
又八の形相が変わる。口元が前にせり出し、牙が伸びた。身体が獣毛に覆われ、特徴的な黄色と黒の縞模様を浮かび上がらせる。筋肉と骨格が変形・隆起し、それは半人半獣の姿となった。
――虎だと?
正和が思う。
その生き物は、人間の骨格を持った虎だった。
「アカン! 獣人か!!」
美衣が叫ぶ。
『不死身の又八』の正体――それは華国に居るという獣人の一種、虎人であった。戦闘時には獣の形態を取り、攻撃力を飛躍的に向上させる。
虎人はその中でも凶悪な部類に入り、はっきり言って始末に負えない。
ガルルルルルルッ!!
ぶん!
又八――虎人の一撃が、渓を狙った。それはなんとかかわしたが、背後の立ち木の幹がむしられる。すごい威力だ。
「<アイスコフィン>!」
ルーンの魔法を、又八がレジストする。獣人は耐久力もずば抜けている。
「<ウインドスラッシュ>!」
清瀬の放った精霊魔法が、又八に手傷を負わせた。
「魔法は効く! なんとかならんか!?」
清瀬が言った。なんとかというのは、付与系魔術のことだろう。
だがこのパーティーの中に、付与系魔術を持つ者は居なかった。建一があわてて装備を外し、精霊魔法を唱えられるように準備している。
ガウッ!
今度は清瀬に、又八が向かっていった。腕を噛まれて、肉をむしられた。
戦いは、激化していった。
●又八捕まる
最後のとどめは、ルーンの<アイスコフィン>だった。又八は凍りつき、縄をかけられ見事に捕縛となったのである。
それまでに、ウェスの<プラントコントロール>と清瀬の<ウインドスラッシュ>、建一の<ウォーターボム>が、魔力尽きるまで使われたことは記しておくべきだろう。
「だー、死んだー」
やっとで倒した又八を見て、でり子が言った。皆怪我を負い、ほうほうの態である。逃げ出さなかったのは立派であろう。
「不死身の秘密が獣人とはねぇ‥‥」
瑛が言う。彼女のそろいの服もぼろぼろだ。
確かに今回、一つ勉強になった。獣人に通常の器物は通用しない。倒すには魔力の帯びた器物が必要である。
まあ、侮っていなければ、もう少し状況は変わっていたかもしれない。冒険者たちは確かに、たかが山賊と敵を侮っていたのだから。
ともかく、依頼は果たした。賞金も出るだろう。
今回のことは、教訓にすればい。
「ああー、やっぱりお笑いがでけへんかったー」
でり子の叫びが、山賊の山にこだました。
【おわり】