不死身の山賊――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 75 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月30日〜08月07日

リプレイ公開日:2004年08月11日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
 そして、山賊などの襲撃はもっと深刻だった。

「『狛虎の又八』っていう山賊がいるんだけど‥‥」
 手配書の人相書きを差し出しながら、艶やかしい冒険者ギルドの女番頭は言った。
「別名『死なずの又八』。今まで何度も手配されて倒されたって話を聞くんだけど、いつの間にか生き返って山賊行為を繰り返しているのよね」
 女番頭が、さらに地図を出した。江戸よりさらに東国の地図だ。
「今度は、江戸から3日ほど離れた山の中に根城を構えたらしいわ、一党は10人ほど。洞窟を住処にしているようね。すでに近隣の村ににらみを利かせて、上納金のようなものを徴収しているらしいわ。今、村は夏の収穫期だから」
 タン。
 女番頭がキセルで火箱を叩く。
「今回の依頼は、この盗賊の頭目を倒すか捕縛すること。首尾よく捕縛すれば、金10両(10G)が役所から支払われるわ」

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0489 伊達 正和(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea0707 林 瑛(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1151 御藤 美衣(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2160 夜神 十夜(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2331 ウェス・コラド(39歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3394 ルーン・エイシェント(16歳・♂・ウィザード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea3834 鷹宮 清瀬(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3914 音羽 でり子(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

不死身の山賊――ジャパン・江戸

●不死身というもの
 このジ・アースには、わりとその辺に『不死身』というものが転がっている。
 たとえばアンデッドだ。彼らは通常の生物的には死んでいるが、負の生命とも言える生命活動システムを持っていて、彼らは彼らなりに生きているのである。
 まあ、ズゥンビなどは『生きている』というより『活きている』と言った方がいいかもしれないが、それでも生きていることには変わりはない。そして上級アンデッドのバンパイアなどは、死んでいるのが嘘のようなほど活発に活動している。そしてその不死性は瞠目に値し、その眷属となって不老不死を求める者も少なくはない。
 そして今回、この『不死身』の名を冠する又八なる者を捕縛するために集められたのは、次の冒険者たちである。

 華仙教大国出身。人間の女武道家、巴渓(ea0167)。
 無理、無茶、無策、無謀、猪突猛進。取り敢えず殴ってから考える筋肉娘。白い歯と鍛えた腹筋がチャームポイント。
 ジャパン出身。人間の浪人、伊達正和(ea0489)。
 愛こそすべてと考えるナンパ浪人。ある意味、ストイックであるべき武士からもっともかけ離れた男。しかしながら5ヶ国語を修得し、弁も立つ。まずは立身出世が必要か。
 華仙教大国出身。人間の女武道家、林瑛(ea0707)。
 水泳、小型船舶、大型船舶と、水に強いグラマラスな鉄拳美女。服を深い紫色で統一しており、その姿は藤か菖蒲か。『八剣者』というグループ所属。
 ジャパン出身。人間の女浪人、御藤美衣(ea1151)。
 派手な着物のツインテール娘。武芸者で、江戸では知られる実力者。小悪魔的な性格と相まって、なかなかの大人物になりそうな予感がする。
 ジャパン出身。人間の浪人、夜神十夜(ea2160)。
 新婚ほやほやの浪人夫婦の片割れ。助平でボケ役。黙っていれば二枚目で通るのに、嫁さんの乳を触りたがるのはヤメレ。
 ジャパン出身。人間の女浪人、音羽でり子(ea3914)。
 新婚ほやほや浪人夫婦のもう一人。貧乳を気にする関西人。自称漫才師。腰の辺りの肉がちょっと余っているのがマニアック。
 イギリス王国出身。人間のウィザード、ウェス・コラド(ea2331)。
 褐色の学者。軍師の才能があるが、人を見下すような態度が誤解を招きやすい人物である。本人は職務に忠実なだけなんだけどね。
 ビザンチン帝国出身。シフールのウィザード、ルーン・エイシェント(ea3394)。
 10歳の駆け出しウィザード。かなりの猫を被っているが、基本的にお子様なのであくどい事はなかなか成功しない。巨力願望がある。
 ジャパン出身。人間の志士、鷹宮清瀬(ea3834)。
 堅実で真面目な、模範的な武士。温故知新ではないが、古いものに憧憬を持ち収集する収集癖がある。最近のお気に入りは横笛だそうである。
 ジャパン出身。人間の志士、山本建一(ea3891)。
 悪く言えば無頓着な、よく言えばおおらかな志士。教師を生業にしており、子供に読み書きを教えている。

 以上10名。ほとんど経験深い冒険者だ。
 まず一行は江戸を旅立ち、問題の村へと向かった。
「しっかし、不死身ってどういうことかねー?」
 道中に、巴渓が言った
「さあ、興味無いな。死なない生き物は居ないもんだぜ」
 伊達正和が言う。例外もあるのだが、そこまで彼らは世の中を知らない。
「おおかた、同じ名前の人物が何人もいるのよ」
 林瑛が言った。私は戦闘屋だから考えないわよ、というオーラを発していた。殴るだけで事足りるならば、それに越した事は無い。
「あたいは『不死身』なんて信じてないよ? どうせ、顔の似た奴が次々と『又八』名乗って、不死身とか言ってるだけなんでしょ? どうせ、そこらのごろつきと変わらないか、ちょっと強いぐらいよ」
 御藤美衣が言った。その言葉を裏付けていいのかどうかわからないが、又八は何度か死んでいるらしい。
「ん〜、やっぱりでり子の乳はいいなぁ〜」
 夜神十夜が、リプレイに書けないようなことを音羽でり子にしている。「何すんのや〜」とグーで突っ込みを入れられているが。
「どうせくだらない理由だろう。『不死身』など山賊にはもったいない」
 ウェス・コラドが、真面目に考える顔で言った。
「不死身かぁ。これが騙りや魔術‥‥人間操人形とかじゃないとして。でも何度も倒されてるって‥‥それ不死身でも無意味だよね。しょうもない人☆」
 ルーン・エイシェントが、お気楽に空を飛びながら言った。あまり深くは考えていないようだった。
「油断すまいぞ」
 鷹宮清瀬が言う。
「仮にも『不死身』と呼ばれるのだから、何か理由があるのだろう。甘く見ては、痛い目を見るかもしれん」
「まあ、今からそんなに力んでも疲れます。もっと飄々といきましょう」
 清瀬の言葉に、山本建一がクールに言った。
 誰もが、又八など眼中に無いという感じであった。それよりも成功時に貰える賞金10両金の事に頭が行っていた。
 だから、まさかあんなことになるとは、思いもしなかった。

●『不死身』の又八
 盗賊の討伐は、順調だった。冒険者たちは搾取されている村人たちを味方に付け、上納金を出し渋る振りをして山賊の子分たちの大半を、村におびき出したのである。
 山賊達はことごとく冒険者たちの手にかかって倒れ、又八はほぼ丸裸の状態になった。子分も5人と残っていないはずである。
 冒険者たちは山賊の住処である、洞窟へ向かった。
「来やがったな! 源徳のイヌどもめ!」
 山賊たちは、待ち構えていた。人数は5名。真ん中の、蓬髪にがっしりした体躯の男が、おそらく又八であろう。
「予定と違うな」
 ウェスが言う。彼の目算では、盗賊たちはもっと姑息に動き回ってもらうはずだった。
「あら、結構いい男じゃない」
 瑛が手傘をかざしながら言う。
 確かに又八は、容姿に関してはそれなりにまともな部類に入る。素肌に中古の胴丸鎧を付けているあたり山賊だなぁと思わせるが、それを差し引いても精悍な類に見えた。
「ま、俺ぁぶん殴れればどうでもいいんだけどさ」
 渓が言った。そしてバシンと、拳を叩き合わせた。
「ここが夢の終点だ。不死を夢見た奴の終わりなんて惨めな物だぜ?」
 十夜が抜刀し言うと、でり子が「ああ〜、今日は何もお笑い取れてへん〜!」と悲痛な叫びを上げた。それに一筋、十夜のほほに汗が伝う。
 ちゃっ。
 美衣が、両手の剣に手をかけた。さらに正和が抜刀し、散開した手下たちと間合いを計る。
「今日は暑いから、<アイスコフィン>でも1時間ぐらいしか持たないんだ。だから早めに決着をつけるよ」
 ルーンが言った。
「鷹宮清瀬、参る」
 清瀬が抜刀して言う。建一も刀を抜き、構えた。
「‥‥おおお、親分。だ、大丈夫なんでしょうね?」
 又八の部下が、はげしくうろたえながら言った。すでに気合戦で負けていた。
「まあ、任せろ。お前たちは逃げなきゃいい」
 又八が言う。そして拳を手で揉み、ボキボキと骨を鳴らした。
 ダン!
 又八が地面を蹴った。先制し、防備の薄そうなウェスを狙う。
 バキィッ!
「ぐはっ!」
 ウェスの顔面に、拳が当たった。のんきに呪文詠唱している間など無かった。
「吩っ!!」
 渓の<ストライク>が、又八の腹を叩いた。
 ――逝った!!
 確かな手ごたえ。この一撃は内臓の一つや二つは破裂させているに違いない。
 しかし。
「効かねぇなぁ」
 にたりと、又八が笑った。渓が驚愕の表情を見せる。それほど確信を持てる一撃だったのだ。
「破っ!」
 瑛が<ダブルアタック>で連撃を又八に当てる。しかし、それも効かない。
「どうなってるの!?」
 瑛が言う。間合いをとりなおし、又八を見た。
「どうした、もう終わりかい? 美人のねーちゃん」
「「やあっ!」」
 十夜とでり子が、同時に攻めた。十夜は<スタンアタック>狙いである。
 がきっ!
「ぬっ!」
 十夜がうめく。岩を叩いたような感触だった。とても肉をまとった人間のものとは思えない。
 その緊迫した空気は、他の雑魚を相手にしていた者たちにも伝播した。何かが起きている。それも、特別異常な何かが。
「さて――」
 又八が言う。
「そろそろ本気を出すか」
 ざわり。
 又八の形相が変わる。口元が前にせり出し、牙が伸びた。身体が獣毛に覆われ、特徴的な黄色と黒の縞模様を浮かび上がらせる。筋肉と骨格が変形・隆起し、それは半人半獣の姿となった。
 ――虎だと?
 正和が思う。
 その生き物は、人間の骨格を持った虎だった。
「アカン! 獣人か!!」
 美衣が叫ぶ。
 『不死身の又八』の正体――それは華国に居るという獣人の一種、虎人であった。戦闘時には獣の形態を取り、攻撃力を飛躍的に向上させる。
 虎人はその中でも凶悪な部類に入り、はっきり言って始末に負えない。
 ガルルルルルルッ!!
 ぶん!
 又八――虎人の一撃が、渓を狙った。それはなんとかかわしたが、背後の立ち木の幹がむしられる。すごい威力だ。
「<アイスコフィン>!」
 ルーンの魔法を、又八がレジストする。獣人は耐久力もずば抜けている。
「<ウインドスラッシュ>!」
 清瀬の放った精霊魔法が、又八に手傷を負わせた。
「魔法は効く! なんとかならんか!?」
 清瀬が言った。なんとかというのは、付与系魔術のことだろう。
 だがこのパーティーの中に、付与系魔術を持つ者は居なかった。建一があわてて装備を外し、精霊魔法を唱えられるように準備している。
 ガウッ!
 今度は清瀬に、又八が向かっていった。腕を噛まれて、肉をむしられた。
 戦いは、激化していった。

●又八捕まる
 最後のとどめは、ルーンの<アイスコフィン>だった。又八は凍りつき、縄をかけられ見事に捕縛となったのである。
 それまでに、ウェスの<プラントコントロール>と清瀬の<ウインドスラッシュ>、建一の<ウォーターボム>が、魔力尽きるまで使われたことは記しておくべきだろう。
「だー、死んだー」
 やっとで倒した又八を見て、でり子が言った。皆怪我を負い、ほうほうの態である。逃げ出さなかったのは立派であろう。
「不死身の秘密が獣人とはねぇ‥‥」
 瑛が言う。彼女のそろいの服もぼろぼろだ。
 確かに今回、一つ勉強になった。獣人に通常の器物は通用しない。倒すには魔力の帯びた器物が必要である。
 まあ、侮っていなければ、もう少し状況は変わっていたかもしれない。冒険者たちは確かに、たかが山賊と敵を侮っていたのだから。
 ともかく、依頼は果たした。賞金も出るだろう。
 今回のことは、教訓にすればい。
「ああー、やっぱりお笑いがでけへんかったー」
 でり子の叫びが、山賊の山にこだました。

【おわり】