山鬼の白はげ――ジャパン・江戸
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月21日〜06月28日
リプレイ公開日:2004年06月29日
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●オープニング
ジャパンの東国『江戸』。
源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。
「『白はげ』っていう山鬼がいてね」
きせるをくゆらせながら、冒険者ギルドの艶かしい女番頭は言った。山鬼と言えば、赤褐色、あるいは青銅色の肌をした、筋骨たくましい大型モンスターである。洋名はオーガ。凶悪な顔に、角と牙を生やしている。愚鈍だが膂力が強く、その一撃はちょっとしたものだ。
「江戸から北に二日ほど行ったところにある村に、その山鬼が現れたって話なのよ。見つけたのは狩人。『白はげ』って言えば、東国じゃちょっと知られた山鬼で、人間を好んで食うのよね。今のところ被害は出ていないけど、ほうっておくわけにもいかないわ。そこで――」
女番頭は、冒険者一同を見渡した。
「――あなたたちには、この山鬼を退治してほしいのよ」
女番頭が言った。女番頭は、自分の言葉が冒険者たちに染み渡るのを待って、再び口を開いた。
「『白はげ』は身長2.2メートルぐらいの青鬼で、髪の毛が真っ白で頭頂がはげているから『白はげ』って呼ばれているわ。得物は、1.5メートルぐらいの鋲を打たれた太い金棒。当たると痛いわよ。狩人の話じゃ、住処は、村から3時間ほど行った場所にある、猟師雨宿りに使っている洞穴の中。中の構造はわかっているから、この地図を見るといいわ」
言うと女番頭は、冒険者たちに和紙に墨で描かれた地図を差し出した。
「期限は7日。出来れば被害が出る前に始末してちょうだい。よろしい?」
女番頭は、確認するように言った。
【地図について】
地図には6箇所のポイントがあります。
A:入り口。山の断層にぽっかり開いた穴。幅3m×高さ5m。見晴らしは良い。
B:Aからまっすぐ20mほど行った場所に分岐路。右へ行くとC。左へ行くとD。
C:泉。水を補給できる。行き止まり。
D:Bからまっすぐ20メートルほど行くと、直径10メートルほどのホール状になっている場所に出る。奥に通路が続いている(E)。こうもりが多数生息しているらしい。
E:Dから30メートルほど行くと、直径10mほどのホールになっている。奥に通路(F)が続いている。猟師達はここまでしか知らないらしい。
F:Eから20mほどで行き止まりのはず。
※通路は原則、幅3m×高さ5mです。
●リプレイ本文
山鬼の白はげ――ジャパン・江戸
●集まった冒険者たち
江戸より北に二日ほど。
その村は、小さなくぼ地に張り付くように存在していた。数は10戸ほど。主な産業は農耕のようで、ぽつぽつと立ち並ぶ家屋の周囲はすべて田畑になっていた。
一見して、貧乏な農村であることが見て取れる。これぐらいの農村だと、オーガ一匹で簡単に壊滅しかねない。
今日、この村に集まったのは、次の冒険者たち。
ビザンチン帝国出身。人間のウィザード、デュラン・ハイアット(ea0042)。
ジャパン出身。人間の女志士、紅龍寺氷雨(ea0171)。
ジャパン出身。人間の浪人、鴨沢米助(ea0615)。
ジャパン出身。人間の女浪人、言乃河臣珠(ea0993)。
ジャパン出身。人間の女志士、神有鳥春歌(ea1257)。
ジャパン出身。人間の志士、緋室叡璽(ea1289)。
ジャパン出身。人間の侍、秋山主水(ea1598)。
ジャパン出身。人間の侍、鷲尾天斗(ea2445)。
ロシア王国出身。エルフのファイター、ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)。
ジャパン出身。ジャイアントの浪人、牙亜羅周蔵(ea3883)。
以上の10名である。陣頭指揮は、年長者の秋山主水が取っている。ちなみにこの旅の最中、鷲尾天斗は紅龍寺氷雨に急接近すべく、いろいろとコナかけしていたことを付け加えておこう。
ともあれ、冒険者たちは村人の集会場になっている村長宅に案内され、事情を聞くことになった。村長宅の外には異国人の混じった冒険者を一目見ようと、人垣が出来た。
「五日ほど前になります。猟師のカキチが猟に出ていたところ、ものすごい叫び声がしまして。それを見に行ったら、大きな鬼が居たのです。カキチから話を聞いて、すぐにその鬼が『白はげ』であることがわかりました。カキチは鬼の住処を確認すると、それを知らせに村に下りてきました。それから村では、冒険者ギルドに使者を出した他に、外へ人を出しておりません。風向きにもよりますが、鬼はそろそろ人間の臭いを嗅ぎつけて来ることでしょう。どうか冒険者様、白はげを退治してください」
そして、カキチという猟師が紹介された。山に詳しい、鬼の第1発見者である。
一行はカキチの案内で、鬼が住処にしている洞窟へと向かった。
「あンの洞窟さこうもりが出るっぺよ。中では静かにしたほうがいいっぺ」
カキチが案内の道中に言う。
「魔法は使わないほうがいいのでしょうか‥‥」
志士の氷雨が、つぶやくように言う。彼女は志士なので、朝廷から下賜された精霊魔法がある。ただ洞内で<ライトニングサンダーボルト>など使おうものなら、こうもりがパニックを起こし事態は収拾がつかなくなるかもしれない。
「予定は変わらん」
秋山主水が言った。
「かねてからの打ち合わせ通り、ハイアットどのと紅龍寺どの、そして鷲尾どのが鬼を引っ張り出す役」
「了解だ」
「わかりました」
「承知」
主水の言葉に、3人が返答をする。主水がさらに言う。
「鴨沢どのと神有鳥どの、ロフキシモどの、牙亜羅どのが泉側の通路からの待ち伏せ役」
「うむ」
「了解です」
「わかったぜ」
「腹減った‥‥」
4人が応(いら)えた。
「緋室どのは陽動班と合流の後(のち)、入り口を守ってくれ」
「承知しました」
叡璽が言った。
「私と言乃河どのは、こうもりの居る洞窟で鬼をやり過ごし、後背から攻撃。三方より囲んで、鬼を討つ。末席ながら、わしの新陰流を見せてくれる」
主水が言った。そして刀を鳴らす。さまになっている。
「では、行こうか」
言乃河臣珠が言った。
●鬼の洞窟
一行が山へ案内されたのは、日中であった。山鬼は夜行性と聞いている。山鬼相手に正々堂々を貫いても意味がない。寝込みを襲い、相手がその能力を発揮する前に叩く。それも兵法である。
カキチが案内した洞窟は、山の斜面にぽっかり口を開けていた。幅は3メートルほどで高さは5メートル。洞窟は岩に穿たれた穴の中で、周囲からの見晴らしは良い。見張りなどがいれば面倒なことになっていただろうが、白はげにそういう気配りは不要だったようである。
「やつは中だな。左奥だ」
デュランが言う。風系精霊魔法<ブレスセンサー>を使用し、内部の様子を探ったのだ。洞窟内部の呼吸は、入り口から左側に小さいが千単位の生物の呼吸。そしてその奥に、大きな一つの呼吸があった。
「進もう」
主水が言う。一同はカキチを置いて、隊列を組み内部に侵入していった。
●分岐路
何事もなく、一行は洞窟を進む。時折頭の上をこうもりが通り過ぎてゆくが、問題にはならない。
そうこうするうちに、一行は分岐路に行き当たった。予定通りだ。
「左に気配がある」
デュランが言う。<ブレスセンサー>だ。先ほどと同じ反応。動いた気配はない。
「寝てるな、多分」
デュランが言った。
「では、手はずどおりに」
主水が言う。右――泉のある方に、鴨沢米助、神有鳥春歌、ヴァラス・ロフキシモ、牙亜羅周蔵が向かう。そして左のほうに、デュラン・ハイアット、紅龍寺氷雨、鷲尾天斗、言乃河臣珠、秋山主水が向かう。居残りは緋室叡璽だ。臣珠と主水は、こうもりの居る洞窟に身を潜める算段になっていた。
●泉
「こっちには何も居ないようだな」
たいまつを持った、鴨沢米助が言う。通路は地図どおり行き止まりになっていて、水溜りになっていた。水溜りの中央から水が湧き出しているらしく、水の表面にはさざ波が立っている。
にゅ。
「きゃっ!」
神有鳥春歌が、声を上げた。水の中から、ヘビが出てきたからだ。長さは30センチぐらい。青大将か何かだろう。
「ヘビぐらいでびびってんじゃねーよ!」
ヴァラス・ロフキシモが言う。そういう彼も、胸に手を当てて驚きを示している。
「ここは大丈夫じゃないか? 食いもんも無さそうだし。戻って鬼に備えよう」
牙亜羅周蔵が言った。
●こうもりの洞窟
数千という数のこうもりを見たのは、彼らは初めてだった。彼らというのは、デュラン・ハイアット、紅龍寺氷雨、鷲尾天斗、言乃河臣珠、秋山主水の5人である。洞窟はほんのりと生暖かく、こうもりのあげる奇声が響きその床はこうもりの糞で埋め尽くされていた。間違っても転びたくはない。
「奥に大きな呼吸。多分白はげだな」
デュランが言う。ここまでくると確信めいてくる。
「では、わしと言乃河どのはここで鬼を待ち受ける」
主水が言う。臣珠が刀に手をかけながら、通路の脇に潜んだ。デュランと氷雨、天斗はさらに奥に進んだ。
●白はげ
未踏の通路は、意外と広かった。こうもりもおらず、中は意外と快適そうである。
「氷雨、怖くない?」
天斗が氷雨に向かって、笑いかける。しかし氷雨は、何も答えない。氷雨自身は不言実行を旨としているので、こういうおしゃべりな男には抵抗があった。
「すぐそこだ。静かに」
デュランが言った。もう聞こえる、いびきだ。鬼が寝ているのである。
「私の役目は終わったな」
鬼を発見して、デュランは役目を終えたといえる。彼は攻撃魔法を持っていない。
「では殺ろう」
天斗が刀と脇差を抜いた。
「せやっ!」
ドッドス!
ギャン!
山鬼が痛みにほえた。そしてでたらめに手を振り回す。
ドカッ!
「うお!」
その爪に、天斗がかかってしまった。不運な一撃だが、防備の薄い天斗には洒落にならない。
「<ライトニングサンダーボルト>!」
氷雨が魔法を唱え、発動させた。雷電の帯が、山鬼を焼く。
山鬼はいっそう暴れだした。
「さあ、戦術的撤退だ!」
殴り飛ばされて負傷した天斗に手を貸しながら、デュランが言った。
●鬼、斃れる
天斗が負傷した以外は、作戦は成功だった。一行は鬼を分岐路に封じ込め、三方から一斉に攻撃したのである。米助のスマッシュ&ポイントアタックで鬼は利き腕を砕かれ、臣珠は堅実にスマッシュで深手を負わせた。春歌は矢を射かけ叡璽はカウンターで鬼に痛い目を見せた。ヴァラスははげしく騒いでいたが、それ以上に手数を出していた。
とどめを刺したのは、周蔵のスマッシュEX&カウンターアタックだ。強力な一撃に、さしもの山鬼も斃れ果てた。一同は鬼の首級を挙げ、意気揚々と村へ戻ったのである。
村人が喜んだことは、言うまでもない。一行は村人から、治療ともてなしを受けて、江戸の街に帰っていった。しばらくの間、『鬼殺し』の逸話は語られることになるだろう。
そしてまた、伝説は作られるのだ。
【おわり】