夏祭り準備・警備編1『対決! 茶鬼戦士』

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 78 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月18日〜08月24日

リプレイ公開日:2004年08月31日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
 そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。

「今回の依頼は、江戸夏祭り実行委員会から来てるわ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、江戸から北に2日ほど行った場所にある茶鬼の集落を殲滅すること。今まで手出ししてこなかったけど、今回の祭りの噂を聞きつけたのか、盛んにこちらの様子を伺っているらしいわ。相手は猟師の話によると、茶鬼が20匹ぐらいに茶鬼の戦士が4匹ほど。ちょっとした戦闘集団ね」
 茶鬼は洋名ホブゴブリンという、ゴブリンの上位種だ。そして戦士職のものは戦闘に特化されたホブゴブリンということである。装備も良く膂力も強い。ちょっとした難敵だ。
「まあ、『鬼』はあたしたちとは不倶戴天の敵。今回の祭りの邪魔が入らないように、先手を打っておこうというわけ。後に禍根を残すようなことはしないで。必ず殲滅してね」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「じゃ、よろしく」

【地形について】
 ホブゴブリンは、森の中の洞窟に住処を構えています。洞窟には6つのポイントがあります。
A:入り口:幅3メートル×高さ5メートル。見張りが居る。
B:分岐路:入り口から20メートルほど入ってY字路。右に行くとC、左に行くとD。
C:広間:幅6メートル、奥行き20メートルほどの広場。奥に行くとE。
D:通路:30メートルほど行くとF。
E:部屋:直径10メートルの鍾乳洞。
F:部屋:直径20メートルほどの広い部屋。

●今回の参加者

 ea0332 西方 亜希奈(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea2452 レティエル・レティーシャ(24歳・♀・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea2740 狩野 龍巳(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3200 アキラ・ミカガミ(34歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea4035 星 不埒(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4112 ファラ・ルシェイメア(23歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5523 高野 鬼虎(27歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea5694 高村 綺羅(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

夏祭り準備・警備編1『対決! 茶鬼戦士』

●祭りの前
 江戸は、開町してまだ20年の若い都市である。当然伝統とか格式といったものとは無縁なほうで、土着の風習など無きに等しい。
 ゆえに何もかもこれからの街であり、今回の納涼夏祭りもこれから江戸と共に、大きな祭りとして成長してゆくことになるだろう。出店に神輿、盆踊りといったイベントもそうだが、何より人と人が一つのことで出会いをつむぐこと。新しい交流があって人は、物心両面で幅を広げて行くわけである。江戸の拡大はその街に住む人々の成長にもつながるのだ。こと戦国期を経たばかりの今、人々の結束力はそれだけで武器になる。
 ゆえに、祭りは絶対に成功させなければならない。人々の切実な願いであると同時に、それは君主たちの重要な義務でもあった。

 今回その祭りの警備の一端を担うことになった冒険者は、次の者たち。

 ジャパン出身。人間の女浪人、西方亜希奈(ea0332)。
 「女のくせに」と言われるのが嫌いな微妙な16歳。しかし抜群のプロポーションは嫌でも男の目を惹くので、それもやむなしではある。もっとも、自分の成長ぶりに文句は言えないが。
 ジャパン出身。ジャイアントの侍、三笠明信(ea1628)。
 武芸者を生業とする、目もとの涼しげな青年。育ちの良さそうな顔立ちをしているが、おつむはちょっと足りない。世界を旅したいと考えており、今日も修行に余念が無い。
 ノルマン王国出身。エルフの女ファイター、レティエル・レティーシャ(ea2452)。
 抜群のプロポーションを誇る女性エルフ。エルフは線が細いと思われがちだが、この女性はプロポーションが非常にはっきりしている。ただし箱入り娘で同性愛嗜好者。弓を使う。
 ジャパン出身。人間の浪人、狩野龍巳(ea2740)。
 武者修行に明け暮れる、ストイックなもののふ。名より実をモットーとし、言動は少々荒っぽいものの思いやり深い一面も持ち合わせている。まだ名前も無い技を磨いている最中で、我流を極めたいと思っているようだ。
 フランク王国出身。人間のナイト、アキラ・ミカガミ(ea3200)。
 東洋系の名前なのでおっと思うかもしれないが、銀髪白肌碧眼のほぼ純粋な北欧系人種である。『俺より強いやつに会いに行く』を地で行っており、自分より強い者に好意を寄せる癖がある。女性剣士とかに負けたときが見ものである。
 ジャパン出身。人間の浪人、星不埒(ea4035)。
 豪胆、豪放、そして放埓な両替商。そのわりに金を持っていないのは痛いところ。見かけはならず者だが詩歌や政治を嗜み、世界を旅したいと夢見る21歳。
 ロシア王国出身。エルフのウィザード、ファラ・ルシェイメア(ea4112)。
 無愛想で感情を表面に出さないタイプの、エルフの魔道師。他人に対して無関心で束縛されることをもっとも嫌う。ニヒリストで皮肉屋だが志はもっと遠くに向いている。
 ジャパン出身。人間の女浪人、西園寺更紗(ea4734)。
 西洋人とのハーフで銀髪色白。彼女も抜群のプロポーションなのだが、なぜかやはり『女性であること』に抵抗があるようだ。刀剣マニアで京言葉。得意技は<スマッシュ>。
 ジャパン出身。ジャイアントの僧兵、高野鬼虎(ea5523)。
 いかにも武闘派な外見で、その通り力押しを好む巨人僧兵。蜘蛛が苦手だが、今回の敵が茶鬼であるのは幸いだ。無益な殺生は嫌いだが、人々のハレの日のためにと依頼に参加。
 ジャパン出身。人間のくノ一、高村綺羅(ea5694)。
 感情を表面に出さない訓練を受けた、クールなくノ一。しかし実のところはかなりの人情家で、情熱的でもある。今回は、江戸の人々の笑顔のために参加を決定。戦地に赴く。

 以上10名。多いか少ないかは、微妙なところだ。

 いずれにせよ、江戸近郊に茶鬼が居を構えていることは望ましいことではない。いつかが今日になっただけの話である。オーガと人間は不倶戴天の敵同士。遺恨無くやりあえばいいだけの話だ。
 冒険者たちは作戦を決め装備を整えると、足早に問題の山へと向かった。

●第1関門:見張り
 見張りの茶鬼は、1匹だけだった。眠そうに洞窟の壁にもたれかかってうたたねをしている。
「やるわよ」
 西方亜希奈が、一同に号令をかける。
 見張りを潰す役割を担うのは、西方亜希奈、レティエル・レティーシャ、狩野龍巳、高村綺羅である。亜希奈と龍巳が<ソニックブーム>、レティエルが弓、綺羅が<疾走の術>で飛び込んでの短刀という構成だ。ファラ・ルシェイメアの精霊魔法<ライトニングサンダーボルト>という手もあるが、光で発見されかねないので見張りに対しては静観することになった。
「せーの!」
 亜希奈の号令と共に、各員が技を放つ。
「ゲヒッ!!」
 一声上げて。
 見張りのホブゴブリンは斃された。
 まずは予定通り、上々の首尾である。
「じゃ、予定通りいくでござる」
 星不埒が、言った。その言葉に、他の者が準備を始めた。

●洞窟
「これはキツイですなぁ」
 燃えるわら束を見ながら、高野鬼虎が言った。わら束には鯨油がかけられていてさらに唐辛子が混ぜてある。この煙を吸うと目や喉をやられて大変なことになるのだ(良い子は絶対真似しないで下さい)。
 煙の半分は洞窟の中に流れているはずである。出口の無い洞窟だからどれほどの効果があるかわからないが、別にコレでケリをつけるわけではない。
「ギギッ!」
「グォッグォッ!」
 中から声が響いてきた。異変を感じ取ったホブゴブリンが出てきたのだろう。
「やりまひょか」
 西園寺更紗が言って、刀を抜いた。同時に、煙の中からホブゴブリンが現れる。
「たーっ!!」
 更紗の<スマッシュ>がホブゴブリンを撃つ。
「ご覚悟!」
 三笠明信が刀と短刀による<ダブルアタック>を仕掛けた。
「ゲヒィッ!!」
 ホブゴブリンが倒れ、燃えるわら束の中に突っ込んだ。ちょっとこれ以上無いむごい死に方である。
「くっ!」
 アキラ・ミカガミが窮地に陥っていた。つばぜり合いでやや負けている。ホブゴブリン戦士である。
「やっ!」
 そこを、亜希奈が助けに入った。二人で息の合った攻撃を行い、ホブゴブリン戦士を撃沈する。
「ありがとう、助かったよ」
 アキラが亜希奈に向かって言う。
「え、ええ、うん。どういたしまして」
 それに、亜希奈は顔を赤面させ目線を逸らして答えた。なかなか良い雰囲気である。
「二人とも、次が来るぜ」
 不埒が言う。それに二人が、真顔になる。
 結局、洞窟の入り口で組んだ戦線は、約10匹のホブゴブリンと1匹のホブゴブリン戦士を倒して停滞した。
「あとは、中に入って始末しよう」
 龍巳が言う。
 一同は火を消し、煙が収まるのを待って内部に侵入した。

●洞窟
 光無き洞窟。
 <インフラビジョン>のような特殊能力が無いと、人間にはこの闇はつらい。しかも今回の洞窟は煙たい。たいまつやランタンの明かりも頼りなく、そして何より異臭と目をさいなむ唐辛子成分がキてた。
「中に入ることを考えてませんでしたね」
 明信が言う。もっともな意見である。人間は過去から様々な害悪を自然の中に垂れ流しているが、今回のもそういうのと似ている。汚染された空気は、なかなか正常にはならない。風通しの悪い洞窟ならばなおさらである。
 一同は戦車のごとく、隊伍を組み洞窟内を侵攻していった。機能するパーティーは、時折ものすごい戦闘能力を発揮することがある。今がまさにそれである。
 洞窟がY字路に差し掛かり分岐していたところで、彼らは隊列を組みなおした。ホブゴブリンを逃がさぬように、通路を同時に攻める。ここでもパーティーは予想以上に機能し、ホブゴブリンを次々と撃破していった。中にはホブゴブリン戦士も居たはずだが、勢いに乗る彼らの敵では無かった。
「無益な殺生は好まぬが‥‥これも宿命と思ってあきらめられよ」
 最後のホブゴブリンを追い詰めて倒したとき、ホブゴブリンはすでに戦意を喪失していた。しかし禍根を残すわけにもいかないし、依頼内容はホブゴブリンの『殲滅』である。オーガ種は人間とは不倶戴天の敵同士。逃がしてやる義理も無かった。後味がちょっと悪かったが。
「さて、何があるかな」
 綺羅が言う。オーガの巣窟といえば、たいていそれなりのお宝を溜め込んでいるはずである。武器類はすでに一通り見て回ったが、めぼしいものは無い。あとは宝石、現金などが定番ではあるが、その辺はおおむねすでに見つけてしまっていた。
 おおよその報酬が決まったところで、一同は探索を終了し、洞窟を出た。新鮮な空気を肺一杯に吸う。
「今日はありがとう」
 アキラが、亜希奈に向かって言う。
「いや、えと、あの」
 亜希奈がそれに答えあぐんでいると。
「えい☆」
 レティエルが、亜希奈に抱きついてきた。
「ねー亜希奈、私、あなたのこと好きになったみたい」
「「「ええええええええええっ!!!」」」
 レティエルの告白。一同は驚いた。

 その後の彼らのことは、よく分からない。依頼は完璧に執り行われ報告書も提出し、そして報酬も支払われた。
 亜希奈の頭痛の種は、今日も尽きない。

【おわり】