お祭りデート 天の巻

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月25日〜08月31日

リプレイ公開日:2004年09月07日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
 だがそんな江戸市民にも、楽しみはある。祭りの日。いわゆるハレの日だ。

 この夏、江戸では『納涼夏祭り』が行われる。準備は整い、あとは開始を待つばかりだ。気の早い江戸っ子は、もう飲み始めて出来上がっている。平民の暮らしがきついこの世界、祭りは人々にとって安息の日でもあった。
 その夏祭りは、冒険者にも開放される。身分や生まれの違いはあるかもしれないが、祭りを楽しむのは同じ『人』である。
「祭りに行かないか?」
 その一言で始まる出会いもあるだろう。そんなときは大きく羽根を伸ばすといい。
 祭りは、特別な日なのだから。

●今回の参加者

 ea0708 藤野 咲月(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0822 高遠 弓弦(28歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5194 高遠 紗弓(32歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5419 冴刃 音無(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5945 時任 雫香(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5946 時任 義経(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

お祭りデート 天の巻

●お祭りの重要性
 世は祭りである。
 江戸に限らず、祭りというものはどこにでもある。作農の時にも収穫のときにも祭りはあるし、先祖を奉る祭りもあれば偉大な故人をしのぶ祭りもある。織姫と彦星の逢瀬にちなんだ七夕伝説を奉る祭りもあるし、五穀豊穣を願う豊穣祭もある。
 要するに、日本人は祭り好きなのだ――というと、実はそういうわけではない。
 庶民にとって、祭りの日はハレの日である。楽しいことが目白押しで、美味しい物を食べて楽しい見世物を見れる機会だ。楽しいのはそれだけではないのだが、とりあえず分かりやすいところを挙げればそういうことになるだろう。
 そして祭りの日はまた、交流の場を作る機会でもある。小さな村落の散在するジャパンの国風では、一つの村落の者のほとんどが近親者などということはざらである。近親結婚が良くない結果を産むことを経験則で知っている人々は、別の村から新たな血を入れるために、祭りで見合いめいたこともするのだ。当時は男が女性を訪ねる『通い婚』が主流なので、子供は母親と村全体で育てる。それが村社会というものの成り立ちの基礎となり、村は営々と運営されてゆくのだ。
 そして祭りはまた、宗教とがっちり組み合わさっている。先に挙げた祭りのほとんどは、神や先祖に供物を与えて加護を求めるものだ。豊作も凶作も神の御心しだい。お天道様のご機嫌如何による場合が多い。祈ってなんとかなるのなら、祈りたくもなるだろう。
 だから領主や村長などは、祭りを真剣に行う。祭りなくして、共同体の正常運営は成り立たないからだ。

●お祭り〜冴刃音無&藤野咲月編
「音無さま、ずいぶん遅いですわ」
 藤野咲月(ea0708)が、小さな稲荷様を奉っている社の前で人待ちのご様子である。相手は冴刃音無(ea5419)という二つ年上の男性だ。
 二人は、共に忍者で友人以上という関係である。もっとも忍びの恋など上の者からすれば害悪以外の何者でもないので、まさしく『お忍び』の状態だ。
「神社の鳥居の前で待ち合わせというのに、こんなに遅刻するなんて‥‥これはいろいろとおごっていただかないと」
 咲月が、夜空を見上げながら言う。周囲には人気どころか明かりもろくに無く、祭りに関係ありそうな場所には見えない。
「そういえば音無さま、何かおっしゃってましたわね。『着いたら、其処から動かないように』とかなんとか。嫌ですわね、幾ら私が、家から余り出た事がないと言っても、この位の待ち合わせ‥‥」
 声が、末尾のほうになって小さくなってゆく。さすがに場の雰囲気の悪さに、自信が揺らぎ始めていた。
 彼女には、くノ一として欠けているものが多い。
 血を見るのが苦手で、育ちが良いためか、汚れ仕事も向いていない。忍者は極端な例えだが、底辺をはいつくばってなんぼの商売である。咲月が、忍びという職業に何を思って志したのかわからないが、現実はどこまでもきびしい。今は武芸者として立身したいと考えているようだが、忍びの技は『裏』の技である。武士と違って、暗殺術は表芸というわけにはいかない。
 つまり、どこまで行っても日陰者なのだ。
 そこに光明を当ててくれたのが、冴刃音無である。彼は裏家業は裏家業と割り切り、情報屋として日陰と日向を繋ぐ仕事をしている。天真爛漫で馬鹿正直。ちょっと忍び向きの性格とはかけ離れているが、それを補う行動力が彼にはある。
 そこに、咲月は興味を覚えたのかもしれない。
 音無は、よく咲月の面倒を見てくれた。はじめこそ咲月の行動に振り回された音無だが、やがて互いに理解を深め、その行動パターンぐらいは把握できるようになっている。
「咲月さ〜ん!」
「音無さま!」
 だから音無は、自分が待ち合わせ場所を間違えたという自覚すらない咲月の行動も、おおよそ推察することができた。
「いや〜、探したぞ」
 息を切らせて、音無が言う。近所の鳥居のある場所を、しらみつぶしにしたのだ。たいそう走った様子だった。
「探した? 何をおっしゃっているんです? 女性をこんなに待たせるなんて、ひどいです!」
 咲月が音無を責める。咲月には自分が悪いという自覚が無いから、彼女にとってはポカをやったのはあくまで音無なのだ。
「え? いや、ああ、その‥‥すまん」
 それで謝ってしまう、音無も弱い。
「今日は、いろいろとおごっていただきますわよ」
 咲月がそう言って、音無の腕に自分の腕を絡めた。
「さ、まいりましょう」

●お祭り〜高遠弓弦&高遠紗弓編
 高遠紗弓(ea5194)と高遠弓弦(ea0822)は、姉妹である。片や志士、片や僧侶と道は違えたが、仲の良い姉妹で、時折互いの様子を見に出向いている。
 もっとも、今は互いに勤めがあるため、この祭りで会うことは、本人たちにとってもめったに無いハレの日であった。
「このような明るい夜を見ていると、還俗したくなるわね。姉さま」
 弓弦が、提灯で飾られた街路を歩みながら言う。
「うん。そうだね。来て良かった」
 やや硬い声で、紗弓が言った。真面目な性質でこういうにぎやかなのが苦手な紗弓は、先ほどから妹に手を引かれて振り回されっぱなしなのだ。弓弦は、姉の手をしっかり握って離さない。これではどちらが俗人かわからなくなってしまう。
 ただ楽しいのは紗弓にも確かで、悪くない気分になってはいた。志士としては不謹慎かもしれないが、町人と交わって生きてゆくのも悪くない。そんな気にもなってくる。
 ただ依然として、貴士農工商の階級社会は強固な敷居として人々の間に存在し、一種の暗黙の了解として人々の間に横たわっている。身分違いの婚姻などは普通無く、生まれの階級が変わる事も普通は無い。このジャパンでは生まれた瞬間から、その人生の多くが決定付けられるのである。
「あら‥‥綺麗な風鈴‥‥お姉さま、一緒に同じものを買いませんか?」
 弓弦が、意匠と彩色の施された磁器の風鈴を見て言う。風がそよぐと、一斉にちりりんと涼しげな音を立てた。ガラスの風鈴はまだ高価で、市井の庶民には手に入らない。
 紗弓は照れた。姉妹二人で、同じ買い物。まるで恋人同士がやることだ。
 紗弓はやや抵抗したが、結局妹の熱心なおねだりの前に斃れた。二人で同じ風鈴を買い求め、手に下げながら祭り見物を続ける。
 二人の心はいつしかほぐれ、弾んでいた。

●お祭り〜時任雫香&時任義経編
 時任義経(ea5946)と時任雫香(ea5945)は、共に志士で夫婦という関係である。普段は厳しい職務に明け暮れ、夫婦らしい生活を営む事もままならない二人ではあったが、上司や仲間の気遣いや応援があって、今回の祭りに合わせて1日だけ休みが取れたのだ。
『今日だけは、仕事の話は無しにしよう』
 この祭りに当たって、二人が取り決めた約束事である。時と場合によっては切った張ったの血なまぐさい世界に生きている二人であるが、周囲の者たちの気遣いを無駄にしないために、今日1日だけは完全に仕事と立場を忘れてただの『夫婦』でいようと決めたのだ。
 浴衣に下駄姿の二人が、提灯で飾られた境内を歩いてゆく。雫香は、今日だけは武士の奥方として振る舞うべく、懐剣以外の金物は持っていない。
「いい夜だ」
 義経が言う。
「そうですね」
 雫香が答えた。そしてお互いの顔を見合い、ぷっと吹き出す。いい雰囲気である。
「浴衣。似合うぞ、雫香」
「ありがとうございます」
 雫香がほほを染めてうつむく。後ろからケリを入れたいぐらいのバカップルぶりだ。
「お祭りなんて、ひさしぶりです」
「このところ忙しかったからな」
 雫香の言葉に、感慨深げに義経が言う。平織、藤豊、源徳、その他の諸侯は、このジャパンの覇権を握らんと日々力を蓄えている。いつ何時、何が起きてもおかしくない。世情が不安定だと世の中も乱れる。偽志士なども出てくるご時勢である。
「おっと。今日は勤めことを考えるのは無しだったな」
 黙りこんだその顔をじっと見ていた雫香に、言い訳するように義経が言った。
「ほれ、あちらで飴が売っている。一つ買ってみるとしよう」
 話題を逸らすように、義経が言った。それに雫香は、にこり微笑んだ。
 その後二人は、お囃子の演奏に飛び入り参加したり反物を選んだりと、十分に祭りを満喫した。雫香は義経に甘えるだけ甘え、久しぶりに夫婦であることを楽しんだ。
「来年もまた来ような」
 義経の言葉に、雫香が微笑んで答えた。

●一方そのころ
 一方そのころ、江戸では華国から来た妖怪が暴れまわったりなんだりしていたそうであるが、それはまた別の講釈にて。

【おわり】

●ピンナップ

藤野 咲月(ea0708


PCツインピンナップ
Illusted by 匠成織