小江戸騒乱 追撃――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:09月14日〜09月21日

リプレイ公開日:2004年09月22日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
 そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。

 江戸で行われた『納涼夏祭り』。その際に起こった『百鬼夜行』。文字通り百種百匹以上の妖怪が、江戸を襲撃したのである。
 その首長は、狐の妖怪だという。それが、今なぜこの時に江戸に現れたのか?
 それは、誰にもわからない。しかしその妖怪がもたらしたものは、災厄以外の何者でもなかった。幽霊が現れ死者が起き上がり、魑魅魍魎が闊歩する。事態には急遽冒険者ギルドを通じて江戸じゅうの冒険者が駆り出され、これを撃退したかに見えた。
「今回の依頼は、お役所からのお仕事よ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、『百鬼夜行』の残党狩り。江戸周辺に散った妖怪の掃討よ。あたしの担当は、江戸から西の東海道にかけて。おおむね箱根宿までと考えていいわね」
 京子が言う。
「箱根は保養地として発展しているから、人も多いわね。そこに死人憑きでも入り込んでみなさいな」
 結果は、火を見るより明らかである。
「あなたたちは江戸から出立して、箱根まで東海道を行くこと。途中に化け物が居たら掃討して。そして箱根の別班の所に追い込むのよ。連戦になると思うから、僧侶を一人付けておくわ」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「以上、よろしくね?」

●今回の参加者

 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2557 南天 輝(44歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4522 九印 雪人(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5428 死先 無為(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6415 紅闇 幻朧(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6749 天津 蒼穹(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

緋邑 嵐天丸(ea0861)/ 羽 雪嶺(ea2478)/ 錬 金(ea4568)/ ファルマ・ウーイック(ea5875)/ 黒部 幽寡(ea6359

●リプレイ本文

小江戸騒乱 追撃――ジャパン・江戸

●妖怪というもの
 妖怪とは、広義には怪音や怪獣などの、人知の及ばない異常、不思議な事物や現象一般を意味する。だが狭義においては、形態や行動、能力が、既知世界に存在するものから、大きく逸脱しているとみなされる存在を意味している。
 例えば『ぬえ(鵺)』という妖怪は、複数の動物の部分の合成体であり、よく知られた『ろくろ首』は、首を異常に長くすることによって、『一つ目小僧』は小僧から目を1つのぞくことによって、作り出された妖怪である。つまり妖怪の特徴は、形態や行動などの過剰、欠如、あるいは合成。つまり現実の秩序からの、逸脱に求められるわけだ。
 妖怪は、超自然的存在という意味では『神』に属する。しかし人間によって祭祀、統御されていないために、しばしば人間に害をもたらすと考えられている。ゆえに、人間が祭祀することで幸福をさずける『神』と、区別することもできる。
 いずれにせよ、妖怪は人間世界にとって異端だ。双方の接触は衝突を生む。それが何か、生産的な行為に発展する事は希だ。
 そして、『それ』は起きてしまった。妖狐の襲撃と百鬼夜行。祭りに振って沸いた災厄。その痕跡は今なお江戸市中、そして周辺に残っている。
 今回の依頼は、そんな事件の後始末であった。

 今回この依頼に借り出された冒険者は、次の者達。

 ジャパン出身。ジャイアントの志士、山王牙(ea1774)。
 シャンと背筋を伸ばした、折り目正しい巨人志士。面倒見が良く不言実行タイプだが、『正義』という言葉には懐疑的。魔法・剣技共によく学んでおり、個人戦闘力は結構高い。
 ジャパン出身。人間の浪人、南天輝(ea2557)。
 管弦士という聞き慣れない職業を生業にしている、無頼浪人。とにかく礼儀作法や格式ばったことが嫌いで、そのためか仕官の話はなかなか来ない。技に秀でているが攻め一辺倒なのがちょっとつらいところ。
 ジャパン出身。人間の浪人、氷川玲(ea2988)。
 苦労人で苦労性。職人気質といえば聞こえが良いが、趣味に関しては頑なに譲らない頑固者。ちなみに趣味は、大工仕事と武術鍛錬。ふんどし一丁で巨大カニと戦ったこともある、ある意味猛者。今回は1名の支援を受けて出陣。
 ジャパン出身。人間の志士、山本建一(ea3891)。
 人物的に懐が深く、生まれも良いのか教師という生業は天職に思える。実際評判も良く、積極的な女性のアタックは日常茶飯事だ。もっとも彼の趣味は奥ゆかしい人なので、ストライクゾーンな出会いはなかなか無い。
 ジャパン出身。ジャイアントの女志士、鷹波穂狼(ea4141)。
 筋骨たくましい、船乗りを生業とする女志士。海を愛し海と共にありたいと願う女傑だが、行き過ぎで海の『漢(おとこ)』に見られることもしばしば。今回は1名の支援を受けて出陣。
 ジャパン出身。人間の浪人、伊東登志樹(ea4301)。
 安っぽい風体と仕草が、どことなく容貌に似合う武芸者。ずる賢く人を出し抜きたい考えが露骨に見えるのは、少々オツムが足りないせいだがほほえましくもある。最強願望あり。今回は2名の支援を受けて出陣。
 ジャパン出身。人間の侍、九印雪人(ea4522)。
 『俺は、俺の好きに生きる』を信条に、オーラ魔法を磨く白髪の侍。武家で生業は商家というから、世の階級の上と下を両方知っている、ある意味苦労人。白髪はそのせいだろうか?
 ジャパン出身。人間の忍者、死先無為(ea5428)。
 面倒嫌いで興味本位という、ある意味わがままな性分の忍者。心を刃で隠して忍びと書くが、それとはかけ離れた人物。策を練るのが好きだがその辺は並大抵。没個性化した外見は忍者向きとも言える。
 ジャパン出身。人間の忍者、紅闇幻朧(ea6415)。
 過去を全て捨てた孤高の忍者。目的のためには手段を選ばず、卑怯卑劣なことも厭わない。モンスターに対しては残酷で、それが生きがいにになっているとも言える。普段は用心棒をしている。
 ジャパン出身。人間の侍、天津蒼穹(ea6749)。
 格式を重んじる武家の出自のわりには、気さくで気の置けない性分の侍。教師を生業にしており、評判もすこぶる良いが、怒ると子供が泣くほど怖いためなるべく自重しようと思っている。ジャパン人としては破格の身長183センチ。

 以上、15名。同行の僧侶の支援者も入れると、16名の大所帯になる。
「作戦を説明する」
 南天輝が、箱根までの街道を指して言う。
「我々は街道を3班に分かれて進撃する。中央を俺の隊が押さえるから、他のみんなには左右を固めてもらうことになると思う。いわゆる『鶴翼の陣』というやつだ。中央の主力は俺と伊東登志樹、紅闇幻朧。支援に羽雪嶺、ファルマ・ウーイック、黒部幽寡が当たる。この陣の斬り込み隊と考えてくれ」
「いいぜ」
「心得た」
 登志樹と幻朧が、刀に手を添えながら言った。
「右翼は山本建一、鷹波穂狼、天津蒼穹。支援に錬金がついてもらう」
「承知」
「あいよ」
「了解だ」
 建一、穂狼、蒼穹が言う。
「左翼は氷川玲、九印雪人、死先無為に務めてもらう。支援には緋邑嵐天丸がつく。左は海側だから、網を抜ける敵は少ないだろう」
「わかった」
「了解」
「承知しました」
 玲、雪人、無為が言った。
「山王牙には後詰を受け持ってもらう。保険みたいなものだが、絶対に必要だ。江戸側に化け物を逃がすと洒落にならんからな」
「承りました」
 牙が言った。指を組みバキバキと鳴らす。そして言葉を続けた。
「冒険者ギルドの差配により、箱根までの街道筋に居る人々は、この3日間近場の宿場に引きこもってもらっている事になっています。街道筋には同じ目的の冒険者以外は居ないはずです」
 牙が言う。その後を、輝が受け持つ。
「俺たちの目的は、敵の殲滅ではない。出来るだけ多くの化け物を江戸から遠ざけ、箱根までの安全を確保することだ。箱根には、敵を殲滅するための陣が張ってある。殲滅戦はそっちに任せればいい。元箱根への街道も開けておいていいそうだ。完全に陣を封じてしまうと、敵も死に物狂いになる。元箱根のほうへ逃げる敵は追わなくていいとの、お京さんからのお達しだ」
 輝が言った。箱根の街道は、移転と開削によって合計三つのルートがある。現在の箱根街道は、源徳家康が開削整備したもっとも新しい道路だ。元箱根と呼ばれる街道は一つ前の街道で、より山側に位置する旧道になる。今は関所の跡地しかその痕跡は無く、凶状持ちなどが忍んで使うぐらいのものだ。
「僧侶の郁少さんは、牙についていてもらう。状況に応じて臨機応変に回復作業を行ってもらう予定だ」
「よろしく」
 三十がらみの僧侶が、一同に頭を下げた。今回冒険者ギルドから派遣された白僧侶だ。
「これから三日、休憩以外は睡眠もろくに取れない強行軍が続く。行動は迅速に無駄なく行こう。では、出発!」
「「「「「応!!」」」」」
 全員の掛け声が揃った。

●東海道
「てぇりゃっ!」
 ごっふぉっ!!
 牙の<ソードボンバー>が、戦列からもれてきた小鬼を吹き飛ばした。手傷を負った鬼は悲鳴を上げながら逃げてゆく。
「すまんな」
 輝が牙に言う。敵を漏らしたことを謝っているのだ。
「いや、たまには仕事をしないと」
 牙が涼しげな顔で言った。
「判っているとは思うが、魔法は通常攻撃の効きにくい相手だけに絞り、極力温存するんだ。俺達は正面に立つ以上、ここを抜けられると後が無い。突破するなら容赦なく倒せ」
 中央の仲間に向かって、輝の檄が飛ぶ。
 登志樹は、茶鬼3匹を相手に少々てこずっていた。手数で圧されて、攻撃に移れないのだ。地力があるのでそうそう打撃を受ける事は無いが、数というのも立派に武器である。
 そこに、3人の幻朧が現れた。幻朧の<分身の術>である。茶鬼が何事かと後ろを向いた瞬間、攻守が逆転した。茶鬼たちは登志樹と幻朧から痛打を受けて逃げ散る。
「逃がすか!」
 江戸方面に抜けようとした小鬼を、幻朧が背後から容赦なく斬り伏せた。雪嶺やファルマ、幽寡もよく働いている。
 左翼では。
 うああああああ。
 死人憑きが、苦鳴をあげながら迫ってきていた。悪臭が鼻を突く。
「お呼びじゃないんだよ!」
 玲が、刀で死人を斬った。しかし死人はひるむことなく向かってくる。死人をもう一度殺すのは、結構大変だ。
「ちょっと待ってくれ」
 雪人が呼吸を整え、気を練る。そして玲の剣に、魔法を付与した。<オーラパワー>である。
「ありがてぇ」
 玲が再び死人憑きに斬りかかる。それは確かに、死人憑きに痛打を与えた。2度ほど斬りつけると、死人は動かなくなった。
「南無」
 玲が拝むしぐさをする。願わくば、自分はこんな最後は遂げたくない。
「さて‥‥死なない程度に頑張りますか」
 無為が、能面のような顔でつぶやいた。いまさらのような気もするが、全員が全員、いつも全開というわけにはいかないのが今回の任務である。
「伝わるかは判らないけど、一応。箱根方面へ逃げるというならば命までは取らないので、逃げてくれませんか?」
 小鬼の群れに向かって、無為が言う。しかし伝わった気配は無い。小鬼はくみし易しと見てか、武器を構えて襲い掛かってきた。
「仕方ないですね」
 ごっふあっ!
 無為の<火遁の術>が、小鬼の群れを焼く。小鬼は我先に逃げ出した。先行していた助っ人の、嵐天丸の敵を奪った形になった。嵐天丸が不満を表すが、そんな余裕もあればこそ。次の敵が迫ってきていた。
 右翼では。
「江戸方面には一体も行かせません」
 建一が豚鬼相手に奮戦していた。豚鬼は肉の厚い分、ちょっと頑丈である。それでも果敢に一匹を討ち取り、次の敵にかかった。
「建一! ちょっと待ちな!」
 穂狼が、その健一に制止をかけた。反射的に歩みを止めた健一の、本来あるべき空間を何かが凪ぎ過ぎる。
 それは、着物を着た女性の爪だった。ひどく醜く伸びたいびつな爪。なればそれは、人外のもの以外の何者でもない。
「それは人間では無いぞ!」
 僧侶・郁少が声を上げた。<ディテクトアンデッド>を使ったのだろう。
「気をつけてください! 『ソレ』は魅了の魔法を使います!!」
 牙が声を上げる。以前の依頼で牙は、これに<チャーム>の魔法をかけられて無力化されたことがある。
 そうしているうちに、その喉から歌が流れてきた。<チャーム>の魔法だ。目標は天津蒼穹。
「むっ!」
 ぐらりと、蒼穹の視界がゆがんだような気がした。魔法の効果が、精神を圧する。
「ぬううううあああああありゃあっ!」
 その効果を、蒼穹は気合で跳ね除けた。そして槍に<オーラパワー>をかけると、それをアンデッド・精吸いに叩き込んだ。槍に射抜かれ、精吸いの動きが鈍る。錬金もこれに加勢し、ファルマと幽寡からの<ホーリー><ブラックホーリー>なども痛打を与えた。
「<アイスコフィン>!!」
 穂狼が精霊魔法を唱える。氷の棺が精吸いを覆い、封じ込めた。耐呪できなかったらしい。
「よっしゃあ!」
 穂狼が、思わず快哉をあげる。
「‥‥槍をどうやって抜いたらいいんだ‥‥」
 槍が、精吸いの胸を貫いたまま凍っている。
 蒼穹が、得物を奪われて呆然としていた。

●戦い済んで
 3日後。
「こんなもんか」
 陣頭指揮を取っていた輝が、箱根宿の数キロ手前で言った。街道のほとんどの敵の掃討が、この時点で終了していた。倒した敵の数はそれほど多くは無いが、接触した敵の数は二桁後半になっていた。
 気力は、全員残っていなかった。魔法も忍術も使い尽くし、怪我も負っている。予想以上にパーティーが機能して優勢に事を進められたが、実際これ以上は無理だろう。
 後、平和になった箱根宿で、パーティーは泥のように眠ることになる。
 ――もうこんな依頼受けねぇぞ。
 結構本気で、一同は思っていた。
 何はともあれ、依頼は成功である。あとは、箱根の陣に任せればよい。
 箱根の空は、今日も青い。

【おわり】