小江戸騒乱 壱の陣――ジャパン・箱根
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:10人
サポート参加人数:5人
冒険期間:09月14日〜09月21日
リプレイ公開日:2004年09月24日
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●オープニング
ジャパンの東国『江戸』。
摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。
江戸で行われた『納涼夏祭り』。その際に起こった『百鬼夜行』。文字通り百種百匹以上の妖怪が、江戸を襲撃したのである。
その首長は、狐の妖怪だという。それが、今なぜこの時に江戸に現れたのか?
それは、誰にもわからない。しかしその妖怪がもたらしたものは、災厄以外の何者でもなかった。幽霊が現れ死者が起き上がり、魑魅魍魎が闊歩する。事態には急遽冒険者ギルドを通じて江戸じゅうの冒険者が駆り出され、これを撃退したかに見えた。
「今回の依頼は、お役所からのお仕事よ」
そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、『百鬼夜行』の残党狩り。江戸周辺に散った妖怪の掃討よ。あたしの担当は、江戸から西の東海道にかけて。おおむね箱根宿までと考えていいわね」
京子が言う。
「箱根は保養地として発展しているから、人も多いわね。そこに死人憑きでも入り込んでみなさいな」
結果は、火を見るより明らかである。
「あなたたちは江戸から出立して、箱根まで東海道を先回りすること。途中に化け物が居ても無視して。そして箱根で陣を組み、別班が追い込んでくる妖怪をそこで殲滅するのよ」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「以上、よろしくね?」
●リプレイ本文
小江戸騒乱 壱の陣――ジャパン・箱根
●箱根について
箱根は、『天下の嶮(けん)』と呼ばれる、古くからの東海道の難所である。その多くは、最高峰の神山、金時山、駒ヶ岳、二子山、鞍掛山などの山々で構成されており、古くから関東における山岳信仰の霊場で、東海と関東を分ける地峡でもある。
箱根には関東有数の温泉があり、芦ノ湖畔の芦之湯と早川沿いの湯本、塔之沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀は、『箱根七湯』の名で知られている。観光客も多く、箱根で一泊してゆく旅人の数も多い。江戸から手前の小田原宿とは、規模も状況も大きく違う。
つまるところ、箱根は源徳家康の支配地の西端の区切りであり、体面から考えても事件を箱根より先に出すことは許されない。そんな事をすれば、平織や藤豊だけではなく、周辺諸侯の失笑を買うことになるだろう。
ゆえに、冒険者たちの任務は、その内容以上に重要であった。過分に、政治的な意味合いを持っていると言っていいだろう。下手をすると、江戸における冒険者たちの活動を左右しかねない。
今回この依頼を受けたのは、次の者達。
ジャパン出身。人間の女浪人、西方亜希奈(ea0332)。
ナイスバディを着物に包んだ女剣士。その美しい肢体を揶揄されることもしばしばあるが、そんなことを言った相手はことごとく半殺しにしているというもっぱらの噂である。可愛いものが大好きなのは年相応だろう。
ジャパン出身。人間の浪人、伊達正和(ea0489)。
愛こそ全ての伊達男で、正義を夢見る陸奥流剣士。でも生業は教師で、市井の子供たちに読み書きを教える、奥様御用達な井戸端会議の話題の提供主。チャンスがあれば仕官の話もあるかもしれないが、現実はあくまで正義に厳しい。
ジャパン出身。人間の浪人、山崎剱紅狼(ea0585)。
猪突猛進が信条の、二刀流の武芸者。もちろん流派は二天一流で、充分使いこなしている部類に入るだろう。だがハムラビ的な考え方(目には目を、刃には刃を)を持っており、敵に回すとちょっと怖いかも。今回は狩多菫、松浦誉の、2名の支援を受けて参戦。
イギリス王国出身。人間のウィザード、ウェス・コラド(ea2331)。
褐色の策士。地味で目立たないが、部隊の中で重要なポイントを押さえていることが多く、その働きに見合った名声を得ているかというと疑問である。どちらかというと鼻に付く尊大な態度に目が行くが、本人はそれを楽しんでいる様子もある。
ジャパン出身。人間の志士、凪里麟太朗(ea2406)。
若干10歳の少年志士。ツッコミ好きでツッコミのタイミングは外さない。剣もそれぐらいの実力があれば良いのだが、いかんせん10歳である。権力を嵩に着る奴は大嫌いだが、ウェスとは良いコンビを組めそうである。もちろん漫才の。
ジャパン出身。人間の侍、鷲尾天斗(ea2445)。
顔に横一文字の傷を持つ侍。剣技はまあまあだが、オーラ魔法はまだまだ基礎の段階を出ていない。江戸近藩某家の御家人で、現在着々と冒険者としての腕と名声を積み上げている。何をするかわからない奇癖がある。今回はエレオノール・ブラキリアの1名の支援を受けて参戦。
イギリス王国出身。人間の神聖騎士、カイ・ローン(ea3054)。
約束に堅い神聖騎士。表情は乏しいが、悪は絶対に許さない正義漢。東洋人とのハーフで、外見から察するに母親が東洋人らしい。巡回医師として、現在治療活動に活動中。今回は八幡伊佐治、エンジュ・ファレスの2名の支援を受けて参戦。
ロシア王国出身。エルフのウィザード、ファラ・ルシェイメア(ea4112)。
透明な感じの、美貌のエルフウィザード。無愛想で感情を表に出すことが無く、他人に関しても無関心だが、そこがいいというファンもいる。逆を言えば、地味なのでなかなか働きや能力に見合った名声を得られていないとも言えるが、本人はそんあことは気にしていないようである。
ジャパン出身。人間のくノ一、鴨乃鞠絵(ea4445)。
若干10歳とは思えない艶っぽさを持つ異貌のくノ一。くノ一とは女忍者のことである。気分屋で天邪鬼という迷惑な性格をしているが、仕事はきっちりこなす方。琵琶法師を生業にしているが、こちらは本業ほどうまくは無い。
ビザンチン帝国出身。ジャイアントのファイター、マグナ・アドミラル(ea4868)。
生業が暗殺剣士というのを知ると、なかなか引きそうな相手ではあるが、本人は無愛想ながらいたって真面目な人物である。だが実は熱血漢で、血気も盛ん。結局本性は人の良いおっさんというところのようだ。
以上、15名。もう一班先陣が組まれているはずなので、総員で30名弱。守りとして多いか少ないかは、微妙な所だ。
●早駆け〜陣立て
「国内有数の保養地・箱根、か。旅行というには忙しい行程だが‥‥まあいいだろう。江戸もそろそろ飽きてきた頃だしな」
ウェス・コラドが言う。そしててきぱきと指示を出し、陣容を整え始めた。彼は仕切り屋ではないが、『戦闘は始まった時点で勝利が決まっている』という言葉もある。策士を標榜するなら、これぐらいの手配は済ませておきたいものだ。
ウェスの手配により、馬での行軍の手配は進められた。別班が冒険者ギルドに馬の借り入れを申し出ていたので、ウェスもそれに倣った。不足分と予備の馬を手に入れ、行軍の準備は半日で成った。
出立は早朝だった。別班はすでに出ているのでやや遅れ気味となってしまったが、これは周到な準備の必要経費のようなものである。マグナ・アドミラルなどは縮められて目算2日の距離と見込んでいたが、実際はファラ・ルシェイメアの<ストーム>などの魔法の援護により、ほぼ問題なく1日で到着することが出来たのだった。
まあ、鴨乃鞠絵が西方亜希奈の背に乗ったとき、「亜希奈姉様の馬術‥‥ちと乗るのが怖いですの。くすくす」などと言った言葉を真に受けて、亜希奈が手綱を誤りコケそうになったりもしたが。
ともあれ、走りづめで疲労困憊のところに半日の休憩を挟んで、2日目の午後には陣を張る準備が始められた。主な仕掛けは縄罠と落とし穴であるが、これは完全に肉体労働なので箱根の地回りや役人の協力を得て作業を行った。幸い、冒険者ギルドのお京が手を回していたのか、通行路には真っ当な人影は無く、怪我人を助けるために手間を取られる必要もなくなっていた。皆、宿場に引きこもったのである。だから、人手だけは揃っていた。
街道にあまり深く穴を掘るのもナンなので、腰ほどの高さの塹壕のような穴を広く掘る。そこに短い竹杭を立てて、罠をむしろで隠して土で埋める。それを二重に張り巡らせて、陣容は整った。もう一つの班は、精霊魔法<ストーンウォール>を用いて、防御陣を敷いているようだった。地味な魔法も使いようである。
ともあれ、準備は整った。あとは敵を待つばかりだ。
●箱根攻防戦
箱根を出立する前に、“緋牡丹お京”こと烏丸京子から言い含められたことがある。それは、『完全に罠を閉じるな』ということだった。
「まあ、小鬼なんざ今更あんたたちの相手になるとは思っていないけど、窮鼠猫を噛むとも言うでしょ? 必死に戦われて怪我でもされちゃ困るから、元箱根のほうに逸らしちゃってほしいのよ。小田原藩とは、話をつけておくわ」
『この戦、負けられねえ。必死で生き抜く!』
という覚悟でいた伊達正和あたりは、拍子抜けしたぐらいの気軽さだった。
「まあ、やることァ変わらねぇがな」
刀を鳴らしながら、山崎剱紅狼が言う。そうである。ここまで来た以上、鬼が出ようが蛇が出ようが、戦い叩き伏せるだけだ。
「ま、気楽にいこう」
鷲尾天斗が言う。陣の中央にどっかと座り、酒盃を傾けていた。
「終ったら温泉に入っていきたいわね〜」
亜希奈が言う。その後ろで、鞠絵がくすくすと笑っている。
待つことさらに半日。3日目の夕刻。
街道を小鬼が一匹やってきた。しかしこちらの陣容に気が付くと、慌てて逃げていった。
「来るな」
カイ・ローンが言う。そしてその後、大型、小型含めた人型の群れがぞろぞろとやってきた。小鬼や茶鬼、豚鬼などである。死人憑きなどの姿もある。
もともとボロボロな死人憑きはともかく、他のオーガたちもかなり消耗しているようだった。確かに3日も逃げ回れば、こんな風体にもなるだろう。
「いくわよ。鞠絵、ついてきなさい」
「姉様、決してご無理はなさらぬよう。怪我など召されたら、それをねたにからかって差し上げます」
亜希奈の上げ足を、鞠絵が取った。
「阿紫が死の間際に言ったという“大いなる古”について訊きたいところだが、我々の言葉が分かる者はいそうもないな」
凪里麟太朗が、刀を抜く。
「抜けば魂散り風切る刃、陸奥流風切りっ!!」
戦いの合図とばかりに、正和が剣撃を放った。<ソニックブーム>だ。
ばしん!
その剣撃を受けた者が居た。人間の女だった。
――いや、違う。
一同が、同じ印象を持った。それは女の姿をした『何か』。
「『精吸い』だ。いきなり出たか」
ウェスが言う。女の美しい顔が醜悪にゆがみ、指の爪が伸びる。
「菫、誉、援護を。俺ぁあいつを叩き伏せる」
剱紅狼が言う。剣に<オーラパワー>が付与され、剣撃が飛ぶ。
「我は『白銀の旋律』に護られし外道を狩る双刃の猛禽、鷲尾天斗! 冥土の土産に名を持って逝きな!」
天斗が酒盃を投げ捨て、刀を抜いて突っ込んだ。
「ここは抜かせない。青き守護者カイ・ローン、参る」
カイが、スピアを構えて戦列に突っ込む。
「<ライトニングサンダーボルト>!!」
ファラが精霊魔法を使用した。『女らしきもの』に向かって。さすがにこれは効いたようだった。
「さてはて上手くいったらお慰み。<春花の術>」
鞠絵が術を唱える。範囲内に居た者たちが、パタパタと倒れる。小鬼とかにはてきめんだ。必然、立っているのは眠らないアンデッドなどが多くなる。
「ふ。子鬼や茶が鬼など、山鬼に比べれば敵では無いわ!」
本人が鬼じゃん! という勢いで、マグナが戦域に突っ込んで行った。
早くも、勝敗は決しているようなものだった。敵はことごとく打ち倒され、逃げてゆく。雑魚の集団は雑魚でしかない。アンデッドたちも、カイやファラ、そして支援者たちの魔法で駆逐されてゆく。
2時間後。それでもかかったほうだろう。戦闘は終結していた。
こちらは多少の怪我を負った者が居たが、欠員無し。敵はほぼ壊滅。
大勝利であった。
●終わったら温泉
箱根は、重ねて言うが温泉町である。
というわけで、一行は汗と血にまみれた身体を清めるため、温泉に入って行くことにした。箱根まで来て温泉に入らないのも野暮というものである。というか、ゆっくり休みたい。
ここでコミックリプレイならば、筆者は血反吐を吐いても読者サービスをする展開なのだが、残念ながらノベルリプレイなのでその辺は許して欲しい。亜希奈のナイスバディも鞠絵の未発達な肢体も、今回はお預けである(血涙)。
とりあえず命の洗濯を行った一行は、丸一日を休憩と観光に充て、帰路についた。おみやげを買うのも忘れない。
街道は、いつもの賑わいを取り戻していた。
冒険者たちは自分たちのささやかな勝利を誇りに思い、そして帰っていった。
【おわり】