白猿の森――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月21日〜06月28日

リプレイ公開日:2004年06月28日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
 そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。
 東国のさらに東方は、平野と湿地とが続いたあとは深い森になっている。そんな場所にも人間の営みはあり、そして問題もあった。
「ホオジロだー!!」
 村人の叫び声が上がった。
 江戸から離れて三日ほど。農耕しか産業の無い村に『それ』が現れたのは、一月ほど前だった。最初はただ村を静観しているだけの存在でしか無かったが、やがてちょくちょく村の周囲で見かけるようになり、そして村で作った野菜などに被害が出るまではもっと時間がかからなかった。
 白猿である。身長1.6メートルもある大きな猿。西洋ではサスカッチと呼ばれている。集団で行動し、粗末ながら道具も使う。
 その一家族が、村のそばの森に越してきたらしいのだ。数は5匹ほど。
 村人はその猿に立ち向かったが、怪我を負わされて帰ってきた。森の中は、猿の独壇場である。村人たちには為すすべもなく、村を荒らされる一方であった。

「というわけで、猿退治よ」
 冒険者ギルドの女番頭は、キセルをくゆらせながら集まった冒険者たちに向かって言った。
「敵は白猿。数は五匹ほど。親分猿は『ホオジロ』と呼ばれているわ。村の畑が荒らされているから、助けてほしいそうよ」
 コン。
 女番頭が、火箱にキセルをたたきつけた。火球が、灰の中に転がる。
「相手が猿だからって、侮らないで。猿は悪知恵もはたらくから、要注意よ。それと、絶対に森の中では戦わないこと。森の中は、相手の独壇場よ。まず敵わないわ」
 そして女番頭は、キセルに火を付けた。一息吸って、吐く。紫煙が板の間に、薄くけぶる。
「報酬は並。猿は全部捕獲するか殲滅すること。逃がしたら後が怖いわよ? よろしい?」

【村の地理】
A:南西−南東:街道が西から東へ走っている。
B:南西:村人の家屋がある。
C:中央:川が、北から南に流れている。農業用水。
D:南東:畑。大根などの根野菜が植えられている。もっとも被害の大きな畑。
E:北西:畑。ねぎなどの青野菜が植えられている。
F:北東:森。白猿の住処。

●今回の参加者

 ea0474 天薙 紫苑(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0489 伊達 正和(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea0696 枡 楓(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1160 フレーヤ・ザドペック(31歳・♀・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1244 バズ・バジェット(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1378 大嵐 反道(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2839 ジェイミー・アリエスタ(27歳・♀・レンジャー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3834 鷹宮 清瀬(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3913 エンジュ・ファレス(20歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

白猿の森――ジャパン・江戸

●我ら冒険者たち
 江戸から三日。
 山間部にあるその村に冒険者たちが到着したのは、夕暮れ時だった。斜陽が空を紅く染め、山影を黒く浮き立たせる。
 今回この村に来た冒険者は、次の10名である。

 ジャパン出身。人間の浪人、天薙紫苑(ea0474)。
 ジャパン出身。人間の浪人、伊達正和(ea0489)。
 ジャパン出身。人間のくノ一、枡楓(ea0696)。
 神聖ローマ帝国出身。人間の女戦士、フレーヤ・ザドペック(ea1160)。
 ビザンチン帝国出身。人間のウィザード、バズ・バジェット(ea1244)。
 ジャパン出身。人間の浪人、大嵐反道(ea1378)。
 ノルマン王国出身。人間の女騎士、リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)。
 ビザンチン帝国出身。エルフの女レンジャー、ジェイミー・アリエスタ(ea2839)。
 ジャパン出身。人間の志士、鷹宮清瀬(ea3834)。
 ロシア王国出身。エルフの女クレリック、エンジュ・ファレス(ea3913)。

 なかなかに、バラエティに富んだパーティー構成だ。
「よく来てくださった」
 村長らしい男が、節くれだった手を揉みながら言った。
「さっそくだが、状況を教えてもらいたい」
 リーゼが年長者らしく、落ち着いた雰囲気で村長に問うた。
「ホオジロは、村の北東の森の中に潜んでおります。出てくるのは決まって日中で、今日も作物をやられました。怪我人も出ていまして、早急に退治していただきたいです」
 村長が言う。その顔にも、引っかき傷がついている。
「怪我人を診せてもらえる? 治せるかもしれないから」
 エンジュが言う。畑仕事をしていて猿に襲われた人は数名。軽いケガなので、エンジュの<リカバー>でも十分に癒すことができた。村人が奇跡を目の当たりにして、感嘆の声を上げる。
「さて、支度を始めようぜ」
 紫苑が言った。

●猿狩り
 翌日。
「まずは俺だ!」
 そう言ってやおら七輪を取り出したのは、浪人の天薙紫苑である。彼は魚を焼いて、その臭いで猿を釣る考えでいた。村の南東の畑に陣取り、うちわをたたく。風向き良し。臭いは森の方に流れているだろう。
「こんな方法で、本当に大丈夫なのかなぁ‥‥」
 そうつぶやいたのは、白クレリックのエンジュ・ファレスである。彼女は村娘から着物を借りて変装し、猿の襲撃に構えていた。ただ方法は紫苑と五十歩百歩。弁当を広げて「美味しい〜〜っ!!」という言葉を連発しているだけである。
 不安だ。
 不安すぎる。
「とりあえず食いモン用意して、だ」
 鷹宮清瀬が、根菜畑に作物を積み、<ライトニングトラップ>を仕掛けている。食い物を取りに侵入した猿は、電撃の罠に引っかかるという寸法だ。
 レンジャーのジェイミー・アリエスタは、森の中に入って積極的に猿をおびき寄せようとしていた。護身用に持ったムチを構えながら、杉林の中を行く。
「悪いお猿さんは懲らしめなくてはいけませんよね」
 自分に言い聞かせるような口ぶりは、不安の現われか。いずれにせよ森の中では、ムチはその能力を半減させてしまう。
「だから猿を追い込むためで、森を焼き払おうというわけではない!」
 強い語調で村人と話しているのは、ナイトのリーゼ・ヴォルケイトスである。彼女は森の周囲に燃え草を配置し、猿をおびき寄せたらそれを燃やして退路を断とうという案を出していた。それが村人の反感を買ったのである。森は村の水源を守り、さまざまな実りを与えてくれる大事な場所。それを万が一にでも焼尽させてしまうようなことがあれば、村はただ事では済まない。
 ジャパンの家屋の多くは、木と草と紙で出来ている。リーゼの取ろうとした手段は、火事に弱い日本の家屋事情を考えても不適当であった。結局森を囲むほどの火炎陣を敷くための協力は得られず、リーゼの案は廃案となった。
「金物の臭いを怖がらなきゃいいんだけどな」
 大嵐反道が、森と畑の境界に穴を掘りそこに潜伏する。野生動物は、金物の臭いを嫌がる。刀の臭いを感づかれては、全体の作戦に障る。
「奴らが出てきたら頼むぞ」
「分かってます」
 歴史的仇敵とも言える神聖ローマのファイターとビザンチンのウィザードである、フレーヤ・ザドペックとバズ・バジェットが、畑に潜んだ。有事の際に、バズの<クリスタルソード>の供与を受けて戦うためである。呉越同舟とはよく言ったものだ。
 忍者の枡楓も、村娘から着物を借りて森の南側を意味ありげに歩き回っていた。川魚を焼いたものを持って、こちらも臭いで猿をおびき寄せる作戦である。
「うむっ、そういう事でひとつよろしゅうにっ!」
 誰に何をことわっているのか分からないが、そういうことらしい。
「猿は来るぜ! 必ず来る!」
 伊達正和が、楽しそうに言った。たいまつを持って、猿が出てきたら焼肉にしてやるつもりだった。
 準備は万端整った。後は猿が出てくるのを待つばかりであった。

●猿出現
 昼ごろ。そろそろ冒険者たちが休憩を取ろうと考え始めた時に。
 がさり。
 藪がゆれる音がして、そこから白い姿が湧いて出た。
 白猿――西洋ではサスカッチと呼ばれる、人ほども大きさのある大猿であった。
「きゃあああああああ、あれええええええええ!」
 楓が、悲鳴を上げた。棒読みで読むといい感じである。
 そしてわたわたと、逃げ始めた。しかし装備重量が重く、その歩みは遅々としたものだ。
 そして猿は、その楓に対して何の反応も見せなかった。猿はびびる相手に対して牙を向ける習性がある。楓の行動は、十分に猿を引き寄せられるはずだった。
 猿の姿が増えた。2匹、3匹となって、4匹まで出る。藪から身体を出し、うろうろと歩き回る。どうやら、警戒しているらしい。
 猿が興味を示しているのは、清瀬の<ライトニングトラップ>付きの作物だった。その周囲を、ぐるぐる回っている。明らかに警戒している感じである。
 ――食いつけ!
 清瀬が念じる。その念が通じたのか、猿の一匹が作物に手を出した。
 バシン!
 ギャン!!
 地面から発した雷光が、猿の手を焼いた。
「今だ!」
 バズが呪文を唱え、地面から水晶剣を取り出す。それをフレーヤに手渡すと、フレーヤは果敢に猿に向かっていった。
「いくぜ!」
 穴から這い出て、反道が刀を振るう。<ソニックブーム>が猿の一匹の背を割った。
「一気にたたみ込め!」
 リーゼが気勢を上げる。<オーラエリベイション>で意気を上げ、猿たちに向かって走り出した。ロングソードの漸撃! 猿が手傷を負う。
 畑はたちまち、戦場となった。棍棒を持った猿4匹と10人の冒険者。手数とすばやさで勝る猿相手に、冒険者たちはなかなか痛打を与えられずにいる。しかし猿も恐慌状態にあり、森へ逃げ込むという『猿知恵』も働かない状態だ。
 ギャン!!
 チン。
 そんな中、天薙紫苑の刀が鳴り猿の一匹に致命傷を負わせた。居合い――<ブラインドアタック>である。
 ――ギャオウォウ!!
 その時、森の中から別の叫び声が上がった。見るとそこには、今までの白猿に比べて二周りも体格の良い白猿がいた。そしてその猿は棍棒ではなく、日本刀を握っていた。
 ほほの毛が、白い。
「ホオジロか‥‥」
 正和がつぶやく。
「先手必勝じゃ!」
 楓が、手裏剣を投げた。手裏剣は身を伏せたホオジロの頭の上を過ぎてゆく。ホオジロが、手を地につきながら駆け出した。素早い――。
 ギン!
「っく!」
 最初に接敵したのは、戦士のフレーヤだった。一撃をクリスタルソードで受けて、相手の力量を測る。剣技など無きに等しいが、膂力は侮れない。それがフレーヤの、ホオジロに対する評価だった。
 ただ一撃を受けると、かなり痛そうである。レザーアーマー程度ではお話にならない。
 フレーヤは、防戦一方になった。攻め疲れを待つより先に、こっちが参ってしまいそうである。
「助太刀するぜ!」
 反道がそこに、割って入った。自分の担当していた白猿を葬り、そして今度は反道のほうがたたみ掛ける。素早い攻撃に、ホオジロがたじろぐ。
 ギャーッ!
 そうこうしているうちに、他の白猿は全滅していた。残りはホオジロだけになった。
 ホオジロは逃げ出した。森の中へ入り込もうとする。
「ここは通しません」
 そこにジェイミーが現れ、ムチを放った。ホオジロの身体に、ムチが巻きつく。
「あら?」
 ずざざざざー。
 しかし、基礎体力が段違いであった。ジェイミーはそのまま引きずられて、ホオジロの森への入城を許してしまった。
「待てー」
 ジェイミーの身体を、正和が掴んだ。すぐピンと張ったムチを、ジェイミーが取り落とす。それを、反道が追う。
 一同は、完全に森の中へ入ってしまった。
「逃げたか?」
 清瀬が言う。
「いや、ちがうだろう。殺気を感じる」
 フレーヤが言う。
「上!」
 がさっ!
 ジェイミーの警告と同時に、樹上から何かが落ちてくる気配がした。
「やべぇ!」
 反道が大きく身をそらす。上から体重をかけて突き下ろされた日本刀を、反道は寸でのところでかわした。
 がつっ!
 木の根に、深く日本刀が突き刺さった。
 ギャッ!
 突き刺さって動かなくなった日本刀を、ホオジロが必死に抜こうとしている。
 そこに、スキができた。
 チン。
 紫苑の<ブラインドアタック>が、ホオジロに絶命の一撃を与えた。

●戦い終わって
「ありがとうございました」
 村人が、冒険者一同に例を言う。
 結局、ホオジロは人間の武器を手に入れ、人間が行うようなミスをして死んだ。まさに『猿知恵』である。猿は結局、猿なのだろう。
 ひとまず、この村ですべき事はした。一同はささやかながら酒宴を開いてもらい、そして翌日旅立った。
 次はどんな冒険になるだろう。
 心はもう、空を飛んでいた。

【おわり】