木賀の山賊――ジャパン・箱根
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:09月15日〜09月22日
リプレイ公開日:2004年09月29日
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●オープニング
ジャパンの東国『江戸』。
摂政源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
そして、野盗や野武士の襲撃はもっと深刻だった。
箱根は、天下の嶮(けん)と呼ばれる東海道の難所である。しかし芦ノ湖や箱根山といった風土の景勝地でもあり、東海道で唯一温泉のある観光地だ。東海と関東の境界であり、芦之湯と早川沿いの湯本、塔之沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀は『箱根七湯』と呼ばれる。
「今回の依頼は、その箱根を統治する小田原藩から来てるわ」
そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、箱根の木賀近くにある村を、山賊の手から開放すること。山賊は『猿(ましら)の三蔵』とその一味。人数は10名強。運よく逃げ出した村人の話によると、実のところもう一週間以上の長逗留になっているらしいわ」
京子がそう言って、地図を2枚出した。問題の村への道と村の地図だ。村はつり橋で行き来しているらしく、そこが一番の難所に思えた。
「猿の三蔵は10両金(10G)の賞金がかかっている凶賊よ。多分、卑怯な事は何でもするはず。怪物退治とはわけが違うから、注意してね。それと、報告者の連絡だと凄腕の浪人がいるらしいわ。用心棒のようなものね」
京子が、三蔵の人相書きを出した。
「最小の被害で、最大の効果を挙げること。これが今回の条件」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「以上、よろしくね?」
【村の地図について】
村の地図は、指定の無い限り森で覆われています。
A:入り口:村の入り口です。つり橋がかかっていて下は渓谷になっています。落ちたら余裕で3回ぐらい死ねます。渓谷は最悪の場合の脱出路にも使えますが、あまりお勧めできません。
B:集会場:村の集会場です。賊の多くはこの辺にたむろしていると思われます。戦闘に向いています。周囲は民家になっています。
C:温泉:Bの奥に大きな露天風呂があります。いわゆる川風呂で、川をせき止めて湯温を調節するものです。川の幅は10メートルほど。流れはそれほど早くありません。
D:滝:村の東側、Aの渓谷につながる川の滝です。幅5メートルほど。落差20メートルほどです。
E:山:村の北側。箱根山の一部に相当する山です。回り込む事も不可能ではありませんが、野生動物やオーガ、そして深い森林が天然の要害となっています。
【噂】
・猿の三蔵は、元忍者である。
・手下の中に女形がいる。
・村へは中に入ることが出来るが、外へは出してもらえない。
・用心棒は『先生』と呼ばれている。
・用心棒は居合いの達人だ。
・山の中には小鬼の群れがいる。
・滝の裏に秘密の通路がある。
・三蔵の持つ刀には『兼定』という銘がある。
●リプレイ本文
木賀の山賊――ジャパン・箱根
●いわゆる山賊というもの
読者諸賢は、山賊というとどのようなイメージを持っているだろうか?
曰く、粗暴な連中である。
曰く、善良な人々から金品を巻き上げる。
曰く、不潔である。
曰く、毛皮に髭もじゃの風体である。
曰く、頭は悪い。
まあ、こんなところだろう。だが実際は、山賊というものは結構したたかである。各地を渡り歩き、役人のあまり手が届いていない村を占拠しそこで略奪狼藉を働く。そして奪えるものを奪ったら、次の逗留地へと移動するのだ。
その間、村の人間の出入りは制限される。入る事は出来るが、出てゆくことが出来ないのだ。もし山賊が自分の居場所を知られれば、そこに役人なりなんなりが派遣されてくるからである。
弱者『だけ』を食い物にする、流浪の盗人たち。それが山賊というものの実情である。彼らは遊牧民のように、餌場を回遊しながら土地土地を流れてゆくのだ。
だから、今回のような地峡に拠点を構えられた場合、始末が悪い。進入路が制限されていて守りやすく、そして逃げやすいというのが難物である。十全の守りを山賊が行っているとは思えないが、見張りぐらいは立っていると考えたほうが良いだろう。こんな時は、「自分たちが山賊だったら」という視点で物を考えると良い。
今回、この難物事件の解決を請け負ったのは、次の者たち。
ジャパン出身。人間の侍、玖珂刃(ea0238)。
江戸っ子気質で気風がよく、最強になるために武術を磨く侍冒険者。今回は十全の信頼を寄せる恋人と共に、妹である玖珂麗奈の1名の支援を受けて参戦。得意技は<ブラインドアタック>。つり橋の確保を狙う。
ジャパン出身。人間の女志士、結城紗耶香(ea0243)。
玖珂刃の恋人で、落ち着きのある慎み深い女性。剣を振るうことより、神皇から下賜された精霊魔法を遣うことを好む。実際そちらのほうを得意としており、その役割は刃の援護にまわることが多い。今回は結城利彦の1名の支援を受けて参戦。
ジャパン出身。人間の志士、御蔵忠司(ea0901)。
名声では、すでに『江戸の実力者』を詠われる青い目の志士。努力家のハーフで日々修行に余念がないが、地力が今ひとつ足りていないと言えるだろう。器用貧乏にならないよう、剣技か魔術、いずれかをしっかり伸ばしたほうが良いとも思える。槍使い。
ジャパン出身。人間の志士、物部義護(ea1966)。
青いひたたれの似合う麗人。目つきが鋭くガンをつけられると思わず引いてしまいそうだが、本人は色恋の苦手な純情青年。寝起きが極度に悪く、彼を布団から引きずり出すのはちょっと至難である。今回は名刀『兼定』の奪取をもくろんでいる。親戚の、浦部椿の1名の支援を受けて参戦。
ノルマン王国出身。エルフのファイター、レティエル・レティーシャ(ea2452)。
一般的にエルフの女性と言えば、線が細く肉体的な魅力に乏しいというのが定番だが、この女エルフは豊満な肉体にメリハリのついたプロポーションをしており、耳がとがっていること以外人間とは区別がつきにくい。箱入り娘なのはいいのだが、気の多い同性愛嗜好者なのは騒動の種である。
ジャパン出身。ジャイアントの僧兵、阿武隈森(ea2657)。
粗暴で猪突猛進。とりあえず殴ってから考える暴力僧兵。反骨精神旺盛で、大衆には絶対にひよらない信条の持ち主。僧侶だが長髪で、しゃれこうべの首飾りをぶら下げている。ある意味破戒僧。
ジャパン出身。人間の女僧兵、朔良翠(ea2805)。
お茶好きの女僧兵。しゃんとした不動の姿勢からは意志の強さが見て取れ、自己犠牲的なまでに弱者の救済を求めるその姿は、まさに現代の菩薩。しかし女性であることにコンプレックスがあるらしく、「女のくせに」と言われるとキレる。
ジャパン出身。人間の浪人、星不埒(ea4035)。
額に十字の傷を持つ快男児。大見得を切る癖があるところを見ると、目立ちたがり屋でもあるようだ。世界中を旅したいという願望を持っているが、それがかなうのはいつのことになるだろうか? とりあえず月道通行料に100両金稼ごう。
ジャパン出身。人間の女浪人、馬籠瑰琿(ea4352)。
妙齢の女浪人。若作りでまだ三十路前ぐらいに見えるのは、本人の資質と彼女の不断の努力の賜物であろう。虫が苦手で特にアブラムシ(ゴキブリ)がダメ。小太刀と小柄の二刀流の使い手。気風の良い姉御である。
ジャパン出身。パラの女侍、白羽与一(ea4536)。
上品でたおやかな女武者。物腰柔らかく無益な殺生を好まず、愛馬『漣(さざなみ)』との鍛錬を愛する努力家でもある。めざすは現代の那須与一(なすのよいち)。丁寧な口調とうらはらに、攻撃の手に容赦は無い。
以上、13名。戦力としてはほぼ互角と言っていいだろう。地の利が山賊にある以上は、こちらもそれ相応の策を用いねばなるまい。
●木賀のあららぎ村
件の村は、あららぎ村という名前らしかった。木賀温泉の支泉のある、いわゆる『秘湯』系の温泉宿で、観光地である箱根の中では閑散とした場所だ。
ゆえに山賊が出たとも言える場所であり、その地理地勢は、一種の城砦とも言える。二方を崖に囲まれ、残る一方は川、もう一方は山になっている。三方を堀に囲まれた、山城と同じだ。
「一週間も賊を放置して置くとは、小田原藩は何をしていたのだ」
物部義護が、苦りきった表情で言った。それに応えたのは、意外にもレティエル・レティーシャであった。
「オダワラはこの事件を、ギルドに持ち込む寸前まで知らなかったそうです。お京さんの話によると、渓谷に落ちて奇跡的に助かった村人が助けを求めたそうで、それまで事件が外部に漏れなかったんですね」
意外な人物の意外な説明に、一同が頓狂な顔をする。
「二回めの冒険でハードなのを選んじゃいましたけど、もらう報酬分はしっかり働かせてもらいますね☆」
レティエルが言う。確かに、しっかり働いているようだ。
「俺ァ、山側に回ってみるワ」
阿武隈森が言う。噂では、滝の裏側に秘密の通路があるという。万一それが本当だった場合、そこから逃げられる可能性がある。
「じゃあ、始めようぜ」
星不埒が言った。その言葉に、白羽与一と玖珂刃、玖珂麗奈、レティエル、義護、御蔵忠司、結城紗耶香が前に出た。つり橋の向こうには、見張りらしき人影がある。幸いなことにひとつだけだ。
「弓の与一、参りまする」
「あら与一ちゃん、凛々しくて素敵☆」
与一とレティエル、刃が弓を構える。義護は手裏剣、忠司と紗耶香、麗奈は精霊魔法の構えだ。
びびびん!
弓弦の鳴る音がした。同時に風の刃が二条、見張りに向かって飛んでゆく。
どどっどどっ!
声を上げる間も無く、見張りは倒れた。
「刃、あとは任せる」
紗耶香が言う。
「南無‥‥」
朔良翠が、手を合わせた。
一行は最大の難所を苦も無く通り過ぎると、つり橋を渡り村の内部へと向かった。
●村での戦闘
「ふっ」
チン。
「ぐわらああああ!」
刃の<ブラインドアタック>が、山賊の一人の胴を薙いだ。臓物を腹からはみ出させ、山賊は行動不能になった。
「念仏は唱え終わったかい? すぐ逝ってもらうよ!」
馬籠瑰琿が、両手に構えた小太刀と小柄で山賊に斬りかかる。避けきれず、数度のやりとりで山賊は深手を負った。
「ひとつ! ふたつ!」
与一が、弓を放つ。それは山賊の手を確実に狙い、武器を取り落とさせていた。
「イイわぁ‥‥」
その与一に、レティエルが熱い視線をそそいでいる。戦いそっちのけだ。
「右に二人‥‥左に三人‥‥」
紗耶香が、仲間に向かって言う。精霊魔法<ブレスセンサー>である。物陰に姿は隠れていようとも、呼吸までは隠せない。
義護は三蔵の姿を探していた。正確には、三蔵が持つという『兼定』を探していた。山賊風情にはもったいないというのが、彼の評である。槍を操り、敵をかきわけ戦場を駆け抜ける。
彼のいっぱしの使い手ではあるが、今はまだ飛びぬけるというほどではない。山賊相手では、丁々発止というところだろうか。戦線を支えるのには一役買っているが、今ひとつ奮わない。
「<コアギュレイト>」
「うっ、くっ、う、動かねぇ!」
翠によって動きを封じられた山賊が、うめくように言う。
「三蔵はどこです?」
翠が、山賊に向かって問うた。
「親分! おやぶーん!!」
山賊が叫ぶ。
くらっ。
そのとき、翠はめまいがしたような気がした。そのまま、水底に石が落ちるように意識が埋没してゆく。
「そこまでだ」
倒れ掛かった翠を抱えて、猿の三蔵が、その首筋にくない手裏剣を当てていた。いつでも首をかき切れる体勢だ。冒険者たちが一斉に武器を向け、対峙する。人質を取られて、その場が凝固した。
「無駄な抵抗はやめなさい」
忠司が、翠を抱えたままの三蔵に向かって言う。
「馬鹿言ってんじゃねぇや。そっちこそ変な動きを見せたら、こうだぞ!」
ぐっ。
三蔵が手に力を込めた。血が一筋、翠の首を伝った。
――むう、これでは手が出せない。
不埒が思った。
三蔵は、凶状持ちである。つかまれば、もちろん獄門行きだ。
相手が、忍者崩れということもすっかり失念していた。先刻のはおそらく、<春花の術>であろう。
「へへへへへ‥‥」
三蔵は、じりじりと後ろへ下がってゆく。
ドン。
その三蔵の背が、何かに当たった。三蔵が振り返るより早く、岩のように硬い拳が三蔵の側頭部を殴り飛ばしていた。三蔵がいびつに半回転して、地面に転がった。
「此処から先は通行止めだぜ」
なにやらすさまじい修行をしてきてぼろぼろの態になったような僧兵、阿武隈森であった。後から聞いた話なのだが、滝の裏に秘密の通路など存在せず、川を渡り小鬼を蹴散らして、山の中を突っ切ってきたというのである。翠を受け止め、森は座って一息ついた。
「用心棒の『先生』が居ないな」
「『女形』とかも居ませんね」
あらかた山賊を倒した冒険者たちが、状況を検索する。状況にいくつか食い違いが発生している。
「『噂』は『噂』ってことか」
三蔵の持っていた刀を検分していた、不埒が言った。三蔵は日本刀を持ってはいたが、それは無銘のなまくらであった。
その後、助けられた村人や観光客から話を聞いたところでは、『女形』は本当に居たらしい。どうやら、どさくさにまぎれて逃げたようだ。
用心棒も、確かに居たそうである。名前は霜月嘉兵衛。客だった武士が一人戦いを挑み、首を刎ねられて死んでいる。どうやら<ブラインドアタック>と<ポイントアタックEX>の使い手のようだ。居れば強敵だったかもしれない。
ともあれ、山賊を召し捕り村の平和を取り戻した冒険者達は、村人の歓待を受け温泉に入り、小田原藩に罪人を渡して帰路についたのだった。
兼定は偽物だったが少々の臨時収入を得て、一同は懐も暖かく解散したのである。
【おわり】