ちょっと難物な山鬼退治――ジャパン・江戸
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月20日〜10月27日
リプレイ公開日:2004年10月26日
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●オープニング
●ジャパンの事情
極東の島国、ジャパン。
表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。
「今回の依頼は、江戸大手の材木問屋から来てるわ」
そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、きこりの村の山に居座った山鬼を排除すること。江戸から東に三日ぐらいのところにある村でね、まあ、鬼たちの領分と近いから、そういうこともあると思うわ。ただ鬼は村の近くまで寄っては来るけど、今のところ襲ってくる気配は無いみたい。ただ村の様子を、じっと見ているそうよ。それと、小鬼たちと戦っているところが目撃されたりしたわ。さすがというか、山鬼はそれを一蹴したようだけど」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「山鬼が何を考えているかわからないけど、危険な生き物には違いないわ。必ず倒してちょうだい」
●リプレイ本文
ちょっと難物な山鬼退治――ジャパン・江戸
●鬼族
鬼種(オーガ族)というのは、人間たちヒューマノイドとは、不倶戴天の敵同士という間柄である。過去から多くの確執と諍いを繰り返し、もはやその関係の修復は不可能と言って良い。冒険者ギルドに持ち込まれるトラブルの多くはこの鬼種関係の問題で、畑や家畜、もしくは人間そのものが襲われる事がほとんどだ。これはジャパンに限ったことではなく、ジ・アース全体でのことと考えて良い。
世界には、鬼を娶ったり鬼に嫁いだりしたという物語も数多くある。ジャパンにも前例は多くあり、平安の陰陽師たちなどは数多くの鬼を使役したことで有名だ。現在も京都の八瀬には、鬼の一族を標榜する家系があるという。それほど、鬼というのは危険でありながら身近な存在なのだ。
だから今回の『鬼』、山鬼出現の問題も、そう深いいわれのある問題とは思えなかった。実のところ、かなり俗っぽい理由であろうと冒険者たちは推測していた。つまり今回の山鬼は、何らかの大事なお宝を守って山に居座っているのだ、と。
そんな推測を立てながら件のきこりの村に向かったのは、次の冒険者たち。
ジャパン出身。人間の女浪人、西方亜希奈(ea0332)。
江戸では実力者に数えられる代書人。別に代書人として有名なのではなく冒険者としてだが。女であることにコンプレックスを抱いており、男が自分を見る視線が気になる、発達した16歳。
ジャパン出身。人間の志士、藤原雷太(ea0366)。
一見ボンボン風ながら、押さえる所はキチンと押さえている言語学者。といっても語学は浅く会話も外国語ではイギリス語しか修得していないので、現実は厳しいかも。技は多彩だが地力不足なのが玉に瑕。
フランク王国出身。人間のナイト、アキラ・ミカガミ(ea3200)。
『オレより強いヤツに会いに行く』を地で行くフランクナイト。前にも書いたような気がするが、女性に決闘を申し込まれて負けたらおムコに行ってしまうのだろうか? それはなってみないと分からないが。
ジャパン出身。人間の浪人、星不埒(ea4035)。
額に十字傷のある傾き浪人。世界旅行を夢見る両替商で、今日も元気に金勘定している。しかし浪費癖があるのか、なかなか月道代も貯まらないのが現実でだ。もっとも当人は冒険者として振舞うのが気に入っているようで、わりと冒険にも乗り気である。
ジャパン出身。人間のくノ一、鴨乃鞠絵(ea4445)。
若干10歳で、すでに不気味を通り越して超然とした雰囲気(オーラ)を身にまとった、知る人ぞ知るくノ一。気分屋で天邪鬼で、年寄り臭い考え方をするのは個人の自由だが、その『鞠絵ちゃん時空』に他人を巻き込むのは勘弁である。
ジャパン出身。人間の忍者、七杜風雅(ea4458)。
音楽を奏でるのが好きな軽業師。生業と本業との一致振りは好感が持てるが、やはり忍者。目的のためなら手段を選ばないあたりその素性をうかがわせる。任務遂行を第一と考え、慎重かつ確実に事を成すその仕事ぶりは特筆物である。
ロシア王国出身。エルフのナイト、ミハイル・ベルベイン(ea6216)。
本当に自分を必要としている者を探している放浪のナイト。ロシア王国から大変な旅だっただろう。差別されることが嫌いなのは、エルフと言う生まれに原因があるかもしれない。荒っぽい言動とは裏腹に、実は優しい好青年。
以上、7名。一個の先頭集団としては、結構面白い編成だろう。幅もあり応用も利く。山鬼の一匹や二匹ならば、まずもって問題あるまい。
一同は馬を駆り、あるいは徒歩で、問題の村へと向かった。
●証言その○
「オラが木を切っていたら、茂みの向こうさでっけぇ人影があってよ、よくよく見たら頭さ2本の角さあったべな。いや、オラ腰抜かしてよ、そこから這って逃げたべ」
以上、ジャイアントのきこり、吾作さんの証言である。
かのような山鬼の目撃例は、この他4件。いずれもこちらの様子をじっと見ていたとのことで、人間と見れば野菜か何かのようにバリバリ食べてしまう山鬼とは、何やら違う雰囲気である。
そもそも山鬼とは何なのか? というと、鬼種では代表的な種族ということになる。一般に『鬼』と言えばたいてい山鬼を指すもので、赤鬼青鬼の二種類がおり、身長は2メートル20〜30センチぐらい。筋骨たくましく、金棒を得物にしている、というのが定番だ。
「何か変な感じねぇ‥‥」
そういって小首を傾げたのは、西方亜希奈である。粗暴で危険な山鬼のイメージとは、ちょっと雰囲気が違ったからだ。
「何かを守っているんじゃないかな。例えばお宝とか」
アキラ・ミカガミが言った。
「その線は薄いだろう」
ミハイル・ベルベインが言う。
「出現位置を地図にしてもらったんだが、あまり規則性は見当たらない。うろうろしているといった方が正解のような気がする。ただ、山鬼がいいヤツなのか悪いヤツなのか、調べてみる価値はあるな」
ミハイルが言った。
一方、こちらは山の中である。藤原雷太と星不埒、鴨乃鞠絵と七杜風雅は、先行して山鬼の偵察を行っていた。
ミハイルの読みが当たっているのならば、山鬼は村の周囲に居るはずである。と言っても探す範囲はわりと広く、獣道に沿って行くぐらいのことしかできない。
逆を言えば、山鬼の行動範囲も限定される。山鬼だって歩いているのである。獣道を使ったほうが便利なはずだ。
「見つけましたの」
鞠絵が、地面を指差しながら言った。それは、裸足らしきヒューマノイドの足跡だった。大きさから見て、山鬼だろう。
「さって、何が出るでござろう?」
不埒が、楽しそうに言う。
「笑い事じゃないでござる。山鬼が何を考えているかも分からないというのに」
とがめるように、雷太が言った。通すべき筋目はきっちり通す。それが雷太の信条である。そのせいで、上の人間からはずいぶんとうるさがられているが。
「皆を呼んでくる」
短くそういうと、風雅は一気に樹上に駆け上がった。枝鳴りの音がするところを見ると、どうやら枝伝いに村へ向かっているらしい。音が鳴るあたりまだまだ未熟だが、今はこれでいいだろう。
亜希奈とアキラ、そしてミハイルが合流したのは、それから2時間ほどした後だった。
●こんにちは、山鬼です
獣道を伝うように、一同は四半日ほどを追跡に費やした。やがてカーン、カーンと、木を切る斧の音が聞こえてきた。
「人里に近づいているのかしら‥‥」
亜希奈が、表情に疑問符を浮かべながら言う。
「人間に用があるようでござるな」
不埒が言った。なるほど、確かにそんなそぶりは見える。
「オーガ(山鬼)は、粗暴だが中には人間と親しくなりたい者も居ると聞く。故郷(くに)の話だから、ジャパンで通じるかどうかわからんが‥‥」
ミハイルが、その博識ぶりを披露した。かじった程度のモンスター知識だが、それでも有ると無いとではかなり違う。
「静かにするですの」
鞠絵、鋭く言った。一同が、一斉に行動をやめる。
ピピピピ‥‥チチチチ‥‥。
鳥の鳴き声が、静かな森の中に響く。
――ガッ! ガガッ!
――グオオオオオオオッ!!
何かが打ち合わされる音――戦闘音と、野太い吼え声が響いた。わりと近い。
「‥‥‥‥っ!」
風雅の姿が、樹上に消える。続いて鞠絵が。残りの者たちは戦闘体勢をとり、物音に耳をそばだてている。
――グアアアッ!
――グオオオオッ!!
吼え声は、二種類あるようだった。言い争うように、何かを言い合っている。
ザン。
鞠絵が、木の上から降りてきた。
「鬼が二匹、争っていますの」
鞠絵が言った、と思ったら。
バキバキバキズザザザザザ――っ!!
二匹の大きな人型の物体が、もつれ合うように獣道に飛び出してきた。一匹は、赤銅色の肌をした二本角の赤鬼。もう一匹は、青銅色の肌をした一本角の青鬼である。獣の皮の腰巻に金棒と言う出で立ちは共通だが、攻めているのは青鬼のほうだった。
ゴン!
もつれ合った鬼達は、獣道の脇の太いブナの木にぶつかった。そのショックで、赤鬼は気絶してしまったようだ。
「二匹居るなんて、聞いてないでござる」
雷太がぼやく。目撃例はいずれも赤鬼のもので、青鬼の話は聞いていない。
ぎろり。
青鬼が、冒険者たちを見た。そして、金棒を握りなおす。やる気満々である。
「しっかた無いわねぇ〜」
亜希奈が、面倒くさそうに言う。
一対一ならば、山鬼は互角以上の難敵だっただろう。だがこちらは、パーティーを組んでいるのである。
機能するパーティーの攻撃力は、その力を数倍に引き上げてくれる。そして頭に血が上った鬼の攻撃力など、その力には遠く及ばない。
青鬼は魔法や忍術、そして剣技で撃砕され、ほとんど瞬殺された。
●山鬼のガワラ
ガワラ、とその鬼は『名乗った』。
つまり、人語を話したのである。カタコトではあるが。
「オレのオヤジ、ジャイアント。ヘンクツで、ホラアナぐらししてた」
その一言で、事情はおおむね把握できた。そして育ての親を天命で失ったガワラは、一人でさびしく暮らしていたらしい。
だが、人のぬくもりを知ったガワラに、その孤独は辛いものだった。ゆえにガワラは、なんとか近くに居た村人と接触を持とうと、村の周囲に出没していたという。
「オレ、ガセキをとめようとした。でも、アタマうって、きがついたらおまえたちいた。ガセキしんでた」
先の青鬼は、ガセキという名前らしい。ガセキは以前から依頼の村を快く思っていなかったらしく、今日ついに襲撃しようとしたそうだ。それを、ガワラは一生懸命止めようとしたそうである。
「どうやら、無害な鬼のようね」
亜希奈が言った。
「そうでござるなぁ。しかしどうしたものか。依頼は山鬼の排除でござる」
不埒が困ったように言う。
「それならもう済んでおりますの」
鞠絵が言って、指を指した。そこにはガセキの死体がある。確かに、山鬼は『排除』した。
「こういうのはどうかな? 『悪い鬼と戦って村を守った、赤鬼ガワラ君』と、村に紹介するのさ」
アキラが言った。なるほど、それは妙案である。
そして、それは実行された。
●その後
『赤鬼ガワラの村』という呼び名は、その近隣では少々知られた呼び名になった。冒険者たちが喧伝したのもあるが、鬼が人間とよろしくやってるということで注目を集めたのである。ガワラはよく働き、村を守りよく村の平和と発展に貢献した。
冒険者達は意義のある仕事をしたと言う満足感を得て、村を後にしたのである。
【おわり】