温泉ののぞきプロ――ジャパン・箱根

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2004年11月01日

●オープニング

●ジャパンの事情
 極東の島国、ジャパン。
 表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
 ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
 この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
 箱根はその地勢学上、西国からの防衛の要衝となる。天下の嶮(けん)と呼ばれる箱根山を中心に、関所、陣、城砦が作られ、『駅』と呼ばれる飛脚や早馬を利用した情報伝達手段も確立した。現在の箱根駅伝はその名残である。
 その箱根は、小田原藩11万5千石の支配地で、東海と関東を隔てる境界にもなっている。源徳家康の被支配地の、西端というわけだ。
 藩主は、2代目大久保忠吉(おおくぼ・ただよし)。若干24歳ながらよく箱根を治める、賢主であった。
 とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。

「今回の依頼は、箱根の温泉組合から来てるわ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、最近箱根七湯を騒がせているのぞき魔を捕まえること」
 京子が言った。大真面目だった。
 芦之湯と早川沿いの湯本、塔之沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀は箱根七湯の名で知られている。とくに湯本は、唯一東海道沿いにあるため繁栄し、一夜泊まりの客は小田原宿や箱根宿をしのぐほどである。
 つまり温泉客の安全は、箱根温泉の重要な課題なのだ。
「のぞき魔だからと言って、なめてはかかれないわよ。そののぞき魔、変装や身代わり、果ては微塵隠れまで使うそうだから」
 忍者かよ(w
 集まった冒険者はそう思った。
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「今そののぞき魔は、塔之沢の温泉に出向いているらしいわ。温泉街の平和のために、必ず捕まえてちょうだい」

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0119 ユキネ・アムスティル(23歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0269 藤浦 圭織(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea2657 阿武隈 森(46歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3913 エンジュ・ファレス(20歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5979 大宗院 真莉(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5999 不動 金剛斎(34歳・♂・志士・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

温泉ののぞきプロ――ジャパン・箱根

●箱根温泉の歴史
 温泉の歴史は、意外と古い。
 箱根の出湯は、平安初期にはすでに確認されていた。初期の温泉は医療機関のひとつとして寺社が取り仕切っており、湯治場は寺社差配の重要な収入源として発展した。
 やがて温泉目当てに来る客を相手にする旅籠や娯楽施設が集まり、街道が出来てその開発は本格化した。
 神聖暦999年現在の、箱根七湯のことである。
 箱根は関所が設けられている軍事的拠点という地理的性格上、関所で順番待ちの足止めを食う者も多かった。箱根宿はそのような客を相手に発展し、やがて東海道の再三再四の移転・開削によって広く市域を広げることになった。箱根山、芦ノ湖といった景勝地にも恵まれ、箱根宿は一夜泊まりの数では近隣の宿場など問題にならないほどの集客力を擁することになった。
 そしていつからか、箱根は『小江戸』と呼ばれるほどの巨大な宿場となった。小田原藩11万5千石の、台所の中心となったわけである。
「きゃあ〜〜〜〜〜〜〜、ノゾキよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 だから、上記のような悲鳴が上がるような事態は、早急に収拾しなければならない。そのために地回りのヤクザから役人まで出張って犯人を捕まえようとしたのだが、相手が悪かった。なんと、件(くだん)の不埒者は忍者らしいというのである。
 だから餅は餅屋ということで、その捕縛は冒険者ギルドを通して冒険者の手で行われることになった。ご当地の地回りや役人の面目は丸つぶれだが、犯人が捕まらないよりはいい。温泉客の安全は、そのまま宿場のメンツにつながる。否が応でも、犯人は捕まえなければならなかった。
 逆を言えば、冒険者たちへの期待は異様に高い。捕まえられなかったら、半殺しの目に遭うかもしれない。地回りの連中は、それほど殺気立っていた。多分犯人に、そうとうコケにされたのだろう。

 今回、このイロモノなくせにやたらと深刻な依頼を受けたのは、次の冒険者たち。

 ジャパン出身。人間の忍者、大宗院透(ea0050)。
 西洋人とのハーフで、銀髪碧眼という目立つ外見の忍者。さらに人目を引かぬように女装しているのだが、あまり効果があるとは思えない。似合っているからなのだが。一見暗そうだが駄洒落を趣味にしている、ある意味狙っている13歳。
 イギリス王国出身。人間の女ウィザード、ユキネ・アムスティル(ea0119)。
 未発育な若干12歳の少女魔法使い。感情を表面に出さないポーカーフェイスで、学究の徒にはありがちの現実主義者。12歳の若さですでに過去を捨て去っており、その生い立ちが決して平穏な物ではなかったことが伺える。大きな赤いリボンと帽子が目印。
 ジャパン出身。人間の女志士、藤浦圭織(ea0269)。
 凛とした表情を見せる、教師を生業としている女志士。温泉好きで、箱根にはちょくちょく来ているようだ。感情が昂ぶると色々と激発しやすくなるが、極論を言えば女は感情の動物である。まあ、許容範囲と考えていいだろう。ただし怒りの<ファイヤーボム>が飛んでこなければだが。
 ジャパン出身。人間の僧侶、八幡伊佐治(ea2614)。
 大の酒嫌いだが女好きという、自他共に認める生臭坊主。その行動は合理的で実利を重んじる態度は立派だが、女の事ですべて瓦解してしまっているあたりが、いっそ潔いと筆者は思う。今回は囮役として、冒険者ギルドから“緋牡丹お京”こと烏丸京子の出陣を要請。快諾されたが手段のために目的を選んでいないような気がするのは私だけか。
 ジャパン出身。人間の忍者、阿武隈森(ea2657)。
 猪突猛進巨人僧兵。ジャイアントの膂力と六角棒の組み合わせはまさに凶器そのもの。粗暴な外見と体制派にひよらないその態度では、なかなか出世もおぼつかないだろうが、本人はあまり気にしていないようである。今回は、ひとつの奇策を胸に出陣。忍者の捕縛を目差す。
 ジャパン出身。人間の志士、山本建一(ea3891)。
 地味な名前の割りに、江戸ではすでに結構名の知られている冒険者。教師を生業にしており、持ち前の包容力で良い先生振りを発揮している。上品な顔立ちは生まれの良さか。奥ゆかしい人が好みなのだが、運命の出会いにはまだめぐり合っていない。
 ロシア王国出身。エルフの女クレリック、エンジュ・ファレス(ea3913)。
 一見お上品なお嬢様のような外見をしているが、頑固で融通が利かず、その行動は過激で目的のためには手段を選ばない側面がある。かなりえげつないことも時と場合によっては平気で行うあたり、怒らせたら怖い相手と言えよう。
 ジャパン出身。人間の女志士、荒神紗之(ea4660)。
 大の酒好きで戦闘マニア。男をからかうのが趣味で、いつも騒動の種。胸が小さいのを気にしているが、周囲はそれほどとは思っていないようである。もっとも気にするのは本人なのでその思惑を計る事は出来ないが。今回はノゾキ魔を廃人にするつもりで参戦。
 ジャパン出身。人間の女志士、大宗院真莉(ea5979)。
 生まれも育ちも武家で、侍の妻にして本人は志士と言う複雑な間柄。戦になれば、夫とは敵味方であるが、その時どうするかはなってみないとわからない。間に立って一番苦労するのは、おそらく子供だろう。聞いたような苗字だと思ったら、女装駄洒落忍者、大宗院透の義理の母だそうな。
 ジャパン出身。ジャイアントの志士、不動金剛斎(ea5999)。
 大仰な名前だが、それが威名として鳴り響くのはもう少し先だろう。今回は武士の魂である刀や鎧を温泉宿に預けて、温泉の周囲に潜伏する役目を担った。もちろん身軽にして敵を捕まえるつもりである。温泉を覗こうというつもりは、多分無い。きっと。

 以上、お京さんを含めて11名。今回は温泉宿をひとつ貸切りにして、覗きの犯人をおびき寄せる作戦に出た。囮となるのは女性陣。大人から幼女までレパートリーに富み、さらにはエルフまでいるという豪華メンバー。これで覗きにこない奴は居ないという、確信まで持てる構成だ。これははっきり言って燃える!
「僕は今! 猛烈に感動しているっ!!」
 八幡伊佐治くん、任務を忘れるなよ。

●待ち伏せ
「いいお湯ねぇ〜」
 エンジュ・ファレスが湯船に身を沈めながら言った。この時代、温水、つまり暖かい風呂を浴するという習慣は西洋に無いので、彼女にとっては新鮮である。最初はおっかなびっくりだったが、すぐに慣れた。
「う゛〜」
 奇妙なうめき声を上げているのは、ユキネ・アムスティルである。子供はわりと、風呂を嫌がる傾向がある。水を嫌うネコみたいなものだ。ユキネも囮に志願したはいいが、温水に浸かるというのにはなかなか慣れないようである。
「ああ〜、いい〜気持ち」
 藤浦圭織が、湯面から足を出してそれを撫でるようなしぐさをする。自分の身体にあまり自信は無いが、充分な艶っぽさだ。
「うぃ〜。温泉で一杯っての、一度やってみたかったんだよね〜」
 荒神紗之が、湯盆に載せた徳利を傾けながら言った。温泉での飲酒は、アルコールがよく回る。普段の半分で、すでにかなりいい気持ちになっていた。
「これが終わったら、透ちゃんも入れてあげたいわね」
 母親の顔で、大宗院真莉が言う。ちなみに『湯船に手ぬぐいを浸けないように』などの温泉の心得を、外国人に指導したのは彼女だ。
 一方、こちらは男性陣。
「おお〜、あれが“緋牡丹お京”の彫り物か〜」
 伊佐治が、露天風呂を見ながら言う。いや、見張っているのであるが、その視線はまったく外に向いていない。目は露天風呂の、湯煙の向こうに釘付けであった。これでは、何のための見張りなのか分からない。
 阿武隈森も、風呂を覗いていた。これは件の覗き野郎を安心させるための方策で、デバガメが現れたら一緒に行動し、その動きを阻害するつもりなのだ。
「‥‥私たちだけでも、真面目にやりましょう」
「そうだな。うん、そうだ」
 山本建一と不動金剛斎は、真面目に周囲を警戒していた。大宗院透が張った罠の位置は、頭に入っている。その予想される逃走経路に、透が<土遁の術>で潜んでいた。微塵隠れを効果的に使えるということは、おそらく相手は<高速詠唱>も使えるのだろう。先手を打たないと、確実に逃げられる。
 呪文使いが誰も<高速詠唱>を修得していないので、デバガメに<微塵隠れ>を使われるとこちらは魔法で固めることも捕縛することも、ダメージを与えることも出来ない。
 ただ、先手を取る事は容易そうだ。というのも、紗之の精霊魔法<ブレスセンサー>があるからである。予定外の呼吸が近づいてこれば、それは覗き魔以外に有り得ないのだ。
 湯浴みはのぼせないように朝、昼、晩と間を空けて行われ、男性陣はデバガメの登場を待った。そろそろ、エンジュが撒いた噂が芽を吹くころだ。

●デバガメ忍者登場
 2日目の夜。貸切にしてから5度目の風呂に入っている女性陣は、ついにその接近を感知した。
 一番に反応したのは、予定通り紗之だった。
(ひとつ新しい呼吸が近づいてくるよ)
 小声で、周囲の者に告げる。
「あら〜、『湯煙』がずいぶん濃いわねぇ」
 周囲に聞こえる声で、圭織が言った。その間にも、女性陣は手ぬぐいや浴衣を羽織り、得物を手にしている。
 ――チャーンス。
 圭織が、小声で呪文を唱え始めた。そして紗之の指し示す方向の立ち木に向かって、<ファイヤーボム>を放つ!
 ずが――――――――――――ん!!
 炎が上がり爆風が吹いて、細かいチリがぱらぱらと落ちてきた。手ごたえあり!
「馬鹿野郎――! 死ぬかと思ったじゃねーか!!」
 森が、半コゲになりながら出てきた。「あら?」と、圭織が表情に疑問符を浮かべる。
「なんだなんだ?」
 状況を掴めていないのは、伊佐治である。風呂場を監視するのに、夢中になっていたからだ。
「デバガメはどうしました!」
「姿が見えないぞ!」
 建一と金剛斎が、身を乗り出す。
「そこには居ないよ! どこか遠くへ、一瞬にして逃げやがった!」
 紗之が言う。彼女の<ブレスセンサー>から、忽然と呼吸がひとつ消えていた。おそらくは<微塵隠れ>であろう。ならば、デバガメ忍者はすでに、一丁(約100メートル)は逃げているはずである。
 女性陣は満足に服を着ている者はなく、男性陣も敵を捕捉できていない。これでは逃げられる。
 そう思った時。
「捕まえた‥‥」
 透が、いきなり現れた。ちょっと遠くで爆発音がした。多分<微塵隠れ>を使って移動してきたのだろう。
 男性陣が透の案内でその場所に向かうと、忍び装束の男が一人、縄でぐるぐる巻きにされていた。
 何が起きたのか整理するならば、<土遁の術>で潜伏していた透のところに、<高速詠唱><微塵隠れ>で逃げてきたデバガメ野郎が、やってきたのである。それを不意打ちの<スタンアタック>で昏倒させ、透も<微塵隠れ>を用いて知らせに来たのだ。結果は予想通り、ドンピシャであった。

 その後の事は、この紙面では書けない。ただ金剛斎が、「女って恐ぇえ〜」とつぶやいていたことだけ記しておこう。デバガメ忍者は、今後男としても忍びとしても、生きてゆく事は難しいであろうぐらいのメにあったわけである。

 かくて、事件は解決した。約一名怪我人が出たが、まあ、許容範囲ということにしておこう。一同は礼金を受け取り、無事に帰路についた。
「はぁ〜、お京さんの背中、良かったなぁ〜〜」
 伊佐治が何か呆けていたのは、後の話である。

【おわり】