殺りますか?――ジャパン・江戸
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月24日〜10月31日
リプレイ公開日:2004年11月02日
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●オープニング
●ジャパンの事情
極東の島国、ジャパン。
表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。
「今回の依頼は、小納屋という呉服問屋から来てるわ」
そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、『松ヶ枝の六郎』という盗賊を捕らえること。この依頼に関した依頼が以前あって、そのときは家出したおれんという娘を探してくれという依頼だったわ。でもその時依頼を担当した冒険者は任務に失敗して、そして先日、おれんの遺体が大川に上がったそうよ。乱暴されて、ひどい死に様だったらしいわ」
お京が、ため息をつくように言う。
「おれんはこの六郎という盗賊から、何かを遊びでスリ取ったらしいのよね。私の見立てたところ、それは押し込みを働くための絵図面か何かだと思うわ。つまり、賊の『仕事』が迫っているということね」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「六郎は神田の『大野屋』という煮売り屋を盗人宿にしているらしいわ。あなたたちは手分けしてこの盗人宿に張り付き、六郎とその一味を捕らえること。小納屋さんは‥‥生死は問わないと言っていたけど、あたしは立場上『殺れ』とは言えないから、判断はあなたたちに任せるわ」
●リプレイ本文
殺りますか?――ジャパン・江戸
●超法規的な冒険者の存在
冒険者と死は、密接に関係している。
小鬼退治ひとつとってもそうだ。冒険者は『依頼』という題目を得て、小鬼を死滅させる権利を行使するわけだ。
その権利は誰が保障してくれるのかというと、それは人間を始めとするヒューマノイド社会である。小鬼をはじめとするさまざまな鬼種は、人間とは不倶戴天の敵。そういう共通認識が、小鬼の生命を奪うということを罪としない常識を生む。
しかしこれが、小鬼ではなく人だったら?
人が人を殺すということは、犯罪である。改めて言うまでも無い。ジャパンという国では公儀がそれを処断する権利を有し、それ以外の者は、その権利を有しない。そんなことを許せば社会の法と秩序が崩壊する。仇討ちは、犯罪なのだ。
だが、冒険者に『殺し』を依頼する者は、少なくない。
その多くは冒険者ギルドでふるいにかけられ、冒険者の店に依頼書として並ぶことはない。
しかしまれに、それに近い依頼が並ぶことがある。例えば山賊退治などの、野族を駆逐するような場合だ。
この場合、事後に役人が検分して事の次第を確認し、冒険者たちの罪は問わないのが慣例になっている。それは、本来役人たちの仕事であるが、役人の手が回らないから(あるいは手に余るから)冒険者に仕事が回っているからである。だからそのテの仕事の多くは、役所から回ってきているものだ。これはある意味、お墨付きみたいなものである。
では、今回の『松ヶ枝の六郎』の場合はどうだろう。
依頼人は公儀ではなく呉服問屋。相手は町盗賊で、その捕縛は町役人の役目である。もちろん冒険者に彼らを処断する権利など無く、殺せば罪に問われかねない。
つまりこの依頼は、冒険者ギルドで請け負うことのできる、ある意味ぎりぎりの依頼と言う事だ。ギルドでこの依頼を担当する烏丸京子が、「立場上『殺せ』とはいえないけど」と言っていた意味の真意は、ここにある。町人は仇討ちが認められていない。だから冒険者に頼るしかない。冒険者ならばあるいは、その本懐を遂げてくれるかもしれない。
破格の依頼料とそのボーナスは、それを期待してのことである。
その、限りなく灰色な依頼を受けたのは、次の者たち。
ジャパン出身。人間の侍、殊未那乖杜(ea0076)。
落ち着いた風貌の、気分屋の侍。記憶喪失なのだが氏素性ははっきりしており、現在も主君を持ち侍としてやっている。ざんばら髪の後ろだけを長く伸ばしていて、ちょっとだけ傾(かぶ)き者風。
ジャパン出身。人間の忍者、闇目幻十郎(ea0548)。
現実主義者で不動の忍び。冷酷冷徹な性分で、今回の事件に関しては『建前としては捕縛、ただし死んだらしょうがない』という態度。戦闘能力はあまり高くないので、がんばって忍んでいただきたい。
ジャパン出身。人間の浪人、壬生天矢(ea0841)。
こちらは真正の傾き浪人。クールを装うが真実熱血家。命をかけられるものを求めていて、そのために日々浪々の身を鍛えている。いずれ名のある主君に目通りかなうこともあろうが、そのとき傾き通せるかどうかが問題である。
ジャパン出身。人間の浪人、緋邑嵐天丸(ea0861)。
いたずら好きの少年剣士。物事についてはとにかく前向きで、あまり悩みを知らない。『悪人には成敗を』が信条で、今回も充分な題目を得てやる気満々。ただ殺人については否定的。鷹が欲しいらしい。
ジャパン出身。人間の浪人、秋村朱漸(ea3513)。
刹那主義で快楽主義者。今が楽しければそれで良く、それで今まで生きてきた。マゾでサドで戦闘マニア。用心棒をしているのは、人を斬る口実が欲しいから。冒険もその一環で、ようは血の雨を降らせたいだけらしい。
ジャパン出身。パラのくノ一、由加紀(ea3535)。
カエル好きでカエル好きでカエル好きなパラ忍者。当然得意忍法は<大ガマの術>。普段は薬売りをしているが、機会あらばガマを呼び出そうとする傾向あり。パラにそぐわない落ち着きぶりは特筆に価する。
華仙教大国出身。人間の武道家、神威空(ea5230)。
記憶喪失ながら、熱血漢の武道家。普段はクールだがいざというときその血が燃える。地力が足りてないが技は一通り覚えており、戦闘力に遜色は無い。青い鉢巻が目印。
以上、7名。盗人を捕縛するには、最低限の人数だろう。
一同は手はずを整えると、それぞれの役割を遂行するために江戸に散った。目指すは煮売り屋の盗人宿、『大野屋』である。
●情報収集
「え〜、薬。薬はいらんかえ。いたずらものは居りませんか、岩見銀山ころりころり」
由加紀が、生業の薬売りの扮装のまま、大野屋にやってきた。『岩見銀山ねずみとり薬』というのぼりを立てている。
朝から、紀はこの界隈で薬売りをしていた。外から大野屋を見張り、件の六郎が大野屋に居るかどうかを確認する。それが紀の目的だった。
礦ごろ、旅装束の集団が煮売り屋へ入っていった。顔は見えないが、身のこなしが町人とは違う。どちらかというと、物騒な手合いだ。
――来たかな。
紀が思った。
「煮卵くれ」
緋邑嵐天丸は、その大野屋に客として入り込んでいた。売り物を食べながら、中の間取りを目で探る。しかしついたてなどが立っていて、中の奥までは見通せない。さもありなん。凶状持ちが潜む場所なのだから、表から見える場所に堂々と六郎が居るはずは無いのだ。
煮売り屋の煮物の味は――はっきり言って普通である。まあ評判が上がって、人が集まるのも問題があるからだろう。
そこに、入り口からマタタビ姿の男たちが5人ほど入ってきた。店に入っても傘を取らず、そのまま奥へと消えてゆく。明らかに怪しかった。
だが、六郎という確証は得られていない。
闇目幻十郎は、<湖心の術>を使って裏手から忍び寄り、天井裏に潜んだ。内部を観察していると、人相の悪い人物が3人ほど暇をもてあましている。昼間から酒をあおり、一見してスジ者と見て取れた。
そこに、どかどかとマタタビ姿の男たちが入ってきた。そして、中に入って初めて傘を外す。
「てめぇら、何だれてやがる」
そう言ったのは、先頭の男だった。その顔には見覚えがある。手配書にあった顔、松ヶ枝の六郎である。
――総勢8名か。これは骨が折れるかもな。
幻十郎が思う。
ひとまず確証は取れた。あとは、皆でひっとらえるだけである。
●大捕り物
夜半すぎ。すでに大野屋ののれんはとっくに引いて、周囲は静まり返っていた。秋の虫が小さな合唱を奏でていて、月も出ている。風情がある風景だ。
「へっへっへ。皆殺しにしてやるぜ」
秋村朱漸が、悪人バリバリの風体で言う。血を見ずにはいられない性癖なのだ。
今回の捕り物、大野屋の前と後ろを冒険者たちが固める形となった。幻十郎の調べでは、特に他の出入り口は無いようである。
正面は殊未那乖杜、壬生天矢、緋邑嵐天丸、秋村朱漸が突っ込む。裏手は闇目幻十郎、由加紀、神威空が守る形になった。正面から追い込んで、挟撃しようという算段である。
「いくか‥‥」
乖杜が言い、刀を抜いた。それに倣って、天矢、嵐天丸、朱漸も刀を抜く。
ばん!
戸板を蹴破って中に踊りこんだのは、朱漸が先だった。
「血の雨降らしたらぁ!!」
中に入って、敵も味方も分からない状態でいきなり人に斬りつけた。「ぎゃっ」という男の声がして、その人物が倒れる。
中にはほのかに明かりがあり、そして黒装束の人間が何人か居た。いかにも「これから悪い仕事をします」という風体だった。
「夢想の太刀、白神ッ!」
嵐天丸が、いきなり剣撃を放った。<ソニックブーム>であった。内部はかなり混乱していて、誰に当たったのかもよくわからない。
「六郎はどこだ!!」
「腕がぁ! 俺の腕ぇ!」
「親分!」
「ええい、やっちまえ!!」
最後のが六郎だろう。
「そううまくはいかないよ」
微笑を浮かべながら、天矢が<スマッシュ>を放つ。骨を折る手ごたえがあって、一人が悲鳴をあげた。
乖杜の勢いもすごい。オーラ魔法で強化した武器を手に、すばやく手下どもを戦闘不能にしてゆく。手傷を負わせるだけで、手下どもはどんどん減っていった。
「に、逃げろ!」
ついに、六郎が逃げ出した。裏口へ。
しかし、今度はそこに空が居た。
「<オーラショット>!!」
白い気弾が、六郎を吹っ飛ばす。
「逃げられるなんて思うなよ」
空が言う。
びょん。
その脇を、大きな生物が跳ねて行った。紀の大ガマだ。
「‥‥‥‥(悦)」
恍惚とした表情をしながら、大ガマの活躍を紀が見ている。
ばかーん。
「‥‥超コロスッ!!!!」
表から侵攻して来た前衛陣が、ついに裏手にまで進んできた。激しいチャンバラが裏手で繰り広げられる。
盗人たちは、捕まれば死罪が決まっている。だから降伏するものはいなかった。一同は(約一名を除いて)いやになるほど血のにおいをかぐことになり、状況は酸鼻を極めた。
役人が騒ぎを聞きつけてやってくるころには、すべて決着がついていた。盗賊は全滅。六郎は大ガマに飲まれて、窒息死していた。悪党の末路としては、最悪の死に方だった。
●冒険者ギルドにて
「これ、小納屋さんから礼金よ」
金を包んだ紙を、冒険者たちは受け取った。小納屋がその本懐を遂げてくれたので、礼金を寄越したのである。
今回の事件、冒険者ギルドが中間に入って、依頼を受けた冒険者を保護する動きに出た。手間をかけてしまったことになるが、まあ、とりあえず勧善懲悪は果たせたので良しということだろう。ただ次もギルドが動いてくれるという保証は無い。
この事件は少しの間世間を騒がせたが、すぐに忘れ去られた。新たな事件は、次々と起きているのである。
悪人は、尽きることは無い。
【おわり】