大日本昔話・傘地蔵――ジャパン・江戸
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月25日〜11月01日
リプレイ公開日:2004年11月03日
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●オープニング
●ジャパンの事情
極東の島国、ジャパン。
表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。
「今回の依頼人は、お地蔵様よ」
そう言って『さも当たり前のように』キセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
いや待て、そんな事は問題ではない。依頼人の話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。何事にも動じずマイペースを崩さないその姿勢には、一種の感動すら覚える。
「依頼内容は、奪われた仲間の地蔵を取り返してもらうこと。このお地蔵様、とある山の悪獣鎮護のために据えられたお地蔵さまらしいんだけど、それを誰かが、何かの目的でさらっていったらしいの、と、この手紙に書いてあるわ」
京子が、そう言って手紙を見せる。そこには達筆な文字で、事の次第が書かれていた。
手紙の内容を要約するとこうである。約300年前、ある土地に住んでいた化け物を偉いお坊さんが調伏した。そして6体の石地蔵を立てて、その化け物を封印したそうである。
その封印を、今、誰かが何らかの目的で破ろうとしているらしい。その誰かは、まず封印の要となっている石地蔵の一体をさらっていったそうだ。
誰がやったのかはわからないが、迷惑な話である。
「さらわれたお地蔵様は、頭に手ぬぐいを被っているそうよ。で、そのお地蔵さまを見つける手がかりなんだけど、これ」
というと、京子は地図を一枚取り出した。
「これは箱根の地図かしらね。そこに印がついてるでしょう。そこにあるらしいわ」
確かに、箱根山の地図らしき物が書かれている。そこに×印がついていた。山の中だ。
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「今回の依頼、誰が何をしようとしているかまでは探らなくてもいいわ。だって雲をつかむような話だも。でも、お地蔵さまは絶対に無事に連れて帰ってちょうだい。そうそう、依頼主に会う? そこに居るから」
そう言って、京子がふすまを開けた。そこには傘を被った傘地蔵が5体、横一線に並んでいた。冗談のような光景である。
「以上、よろし?」
京子が、にっこり笑って言った。
●リプレイ本文
大日本昔話・傘地蔵――ジャパン・江戸
●お地蔵様
一般に『お地蔵様』と言われているのは、『地蔵菩薩』のことである。菩薩のひとつで、釈迦の死後、56億7000万年後に『弥勒菩薩』が出現するまでの長い無仏の時代に、六道をまよう人々を教化し、そのすべてを解脱させるまで自身が仏になることを延期した菩薩とされる。別名『地蔵尊』ともいう。
『地蔵』は、サンスクリットの『クシティガルバ』の訳で、『大地の母胎』を意味し、さまざまなものを生みだす大地のような力を秘めた菩薩をあらわしていた。奈良時代に日本に伝来してからは、地蔵信仰は主に民間で広まり、子育て地蔵、延命地蔵など各種の現世利益と結びついた地蔵が作りだされ、道端などにも石像がまつられるようになった。行事も多く、とくに旧暦7月24日に子供たちが地蔵をまつる『地蔵盆』が代表的である。
地蔵が民間に受け入れられたのは、他の菩薩が天界にあって救済活動をおこなうのに対して、地蔵はみずから六道にあってそれをおこなうことが庶民の人気を得たからと思われる。地蔵像は古くは菩薩の姿をしていたが、のちに頭髪をそり、墨染めの法衣を着た僧の形であらわされることが多くなった。
その地蔵を、盗んだバカが居る。しかしそのいわれは、洒落にならない伝説を秘めていた。
今回、このさらわれた地蔵探しに駆り出されたのは、次の冒険者たち。
華仙教大国出身。ジャイアントの武道家、風月皇鬼(ea0023)。
活劇役者で、冒険者としての名は江戸に知れ渡る名声を持つ武道家。攻撃型の戦闘スタイルを持ち、戦闘に関して多少の脳みそは働くが、やはりそのほとんどは筋肉である。
ビザンチン帝国出身。パラのウィザード、エステラ・ナルセス(ea2387)。
旦那を探して早数千里。家に子供を残して連れ合いを探し続ける放浪のマザー・ウィザード。物腰柔らかくたおやかでそんなそぶりは見せないが、実はかなりのワル。今回は信心深く地蔵に旦那発見の祈願をするため参加。
ジャパン出身。人間の浪人、氷川玲(ea2988)。
接敵して、内懐から小柄による急所への一撃を得意技とする大工職人。過日の大蟹退治の依頼では、ふんどし一丁に小柄一本で<スタッキングポイントアタック>を蟹にかましていた、ある意味猛者。いや、その印象が強くて他の解説はいまいち面白くないかな、と思う筆者は三十六歳。
ジャパン出身。人間の浪人、伊東登志樹(ea4301)。
最強願望のある二天一流の武芸者。地力を着実に付け続け、技は少ないがいっぱしの戦闘能力を持っている。ただ素行がちんぴら風でずるい性質なのだが、それを行使するにはややおつむが足りていない。フランクのファルマとは恋人同士らしい。
フランク王国出身。エルフの女クレリック、ファルマ・ウーイック(ea5875)。
幸せな家庭を夢見る、献身的なエルフの聖女。伊東登志樹とは恋人という関係にあるそうであるが、世間の異種族婚に関する視線は冷たく、幸せな家庭を築けるかどうかは微妙なところである。
ジャパン出身。人間の志士、小坂部太吾(ea6354)。
身長177センチメートルで禿頭の、ある意味光り輝く容貌のおっさん志士。気は若いつもりだが着実に年齢を重ねており、語尾が「〜じゃ」になっているのは早くもオヤジ化が進んでいるものと思われる。グループ『維新組』所属、火の志士を名乗る。
ジャパン出身。人間の女志士、海上飛沫(ea6356)。
上品な顔立ちの女性志士。着やせするタイプだが、その実はかなりのものである。クールな知性派。グループ『維新組』所属、水の志士を名乗る。今回はアップル・パイ(ea7676)の一名の支援を受けて出陣。
ジャパン出身。ジャイアントの女志士、郷地馬子(ea6357)。
恋に恋するジャイアントの少女志士。しかし一見すると男性のようなので、この辺の改善は必要そうだ。かなり強い東国訛りで喋るため、時々意味がわからないこともしばしば。グループ『維新組』所属、土の志士を名乗る。風月皇鬼に熱いまなざしを送っているが、はたから見ると結構怖い。
ジャパン出身。パラの志士、凪風風小生(ea6358)。
パラ出身という変り種の志士。表裏の無い性格で好感が持てるが、やはり年齢が問題なのか子供っぽいところがある。グループ『維新組』所属、風の志士を名乗る。今回はレモン・パイ(ea7677)の一名の支援を受けて出陣。
ジャパン出身。人間の浪人、風月陽炎(ea6717)。
顔の右半分を赤い布で隠した、銀髪の浪人。陸奥流を着実に修得しており、地力もなかなかのもの。意地悪な性格のくせにお人好しで、わりとそれで損をしている部分もあるようだ。誤解を受けやすい性分だが本人はそういうスタイルを貫こうというつもりのようである。
以上12名。支援者がいずれもシフールなので、上空からの偵察や捜索などに期待が持てる。
一同はまず、情報収集から開始した。
●箱根九頭竜伝説
情報は、箱根神社にあった。
箱根神社は箱根町にある神社で、祭神はニニギノミコト(瓊瓊杵尊)、コノハナノサクヤビメ(木花之開耶姫)、ヒコホホデミノミコト(彦火火出見尊)である。この三柱の神を指して、箱根三所権現と称する。
社伝によれば、古くから箱根山の駒ヶ岳を神体山とする山岳信仰があったが、神聖暦757年に、この地で感得した万巻上人(まんがんしょうにん)が里宮を創建し、箱根三所権現と崇めたのが始まりという。
源徳家康はこれに対し、社領200石を寄進。現在その命令で修造がおこなわれている。箱根峠の整備により往来する庶民の信仰もあつめており、活気のある神社となっている。本殿には芦ノ湖畔の赤い鳥居からスギ木立の中につづく長い石段をのぼって至る。
8月1日の例祭の前日、7月31日夕刻には、『湖水祭』が行われる。芦ノ湖に住み人々を苦しめていた九頭竜を、万巻上人が調伏して帰依させたという伝承にちなむ神事である。
「九頭竜がいかなる化け物かはわかりませんが、狙いはこれだと思います」
エステラ・ナルセスが言う。
この伝説は、箱根ではわりと有名で、先にも書いたが祭りにもなっている。地蔵はその鎮護を司っていたと思われ、一つ欠けていても問題があるわけだ。
もっとも、伝説とはある意味まゆつばである。本当に九頭竜なる化け物がいるのかどうかもわからないし、伝説が本当かどうかもわからない。ただの迷信ということもありえる。
「いずれにせよ行くしかないか」
風月皇鬼が言った。迷信かもしれないが、本当の事だった場合洒落にならない。
「箱根の地図はお京さんからもらった。山に詳しい人にも色々聞き込んでいる。×印の場所は、澤があるそうだ」
皇鬼が箱根山の該当地点の絵図を広げる。それとお地蔵様から提供されたという地図を付き合わせると、確かに山間いの澤の途中にあるように見える。
「さすがは皇鬼さまだべさ」
郷地馬子が、熱いまなざしを皇鬼に送っている。
「とにかく手がかりはこの地図と×印しかない。早めに行くしかないだろう」
氷川玲が言い、冒険者たちが席を立った。
●箱根山
箱根山は、『天下の嶮』と呼ばれる東海道随一の難所である。だから体力的に貧弱なファルマ・ウーイックなどには、かなりきつい道程になった。荷物は伊東登志樹が持ってあげているが、それでもかなりきつそうである。
「ファルマ、大丈夫か?」
「大丈夫です」
登志樹の言葉に、気丈にファルマが答える。しかし尋常じゃない汗のかき方で、疲労も色濃かった。
「予定通り、二手に分かれよう」
登志樹が言う。捜索範囲は広い。手分けしなければ、とても追いつかない。
一斑はエステラ・ナルセス、氷川玲、小坂部太吾、海上飛沫、郷地馬子、そして支援のアップル・パイの6名。二班は風月皇鬼、伊東登志樹、ファルマ・ウーイック、凪風風小生、風月陽炎、そして支援のレモン・パイの、6名となった。馬子は皇鬼と分かれて、気を落としたものだ。
探索は、順調に進んでいった。途中熊の襲撃があったが冒険者たちはそれを撃退し、まずまずの戦闘能力を発揮していた。
「何か聞こえるのう」
小坂部太吾が言う。確かに、山に妙な音が響いていた。きこりの斧の音のようにも聞こえるが、「ゴツ、ゴツ」と何か非常に硬いものを叩いているような音である。
「地藏様を叩いているんじゃないのですか?」
海上飛沫が言う。その言葉に、一同は音の方向へと足を急がせた。アップルが二班の面々に知らせるため、飛んでゆく。
ほどなく、音ははっきりした打撃音となって冒険者たちに聞こえてくるようになっていた。
「ごめん。遅くなっちゃった」
凪風風小生が、二班ではいの一番に合流してきた。
「皇鬼、状況はどうなってます?」
風月陽炎も合流する。
「石地蔵をぶん殴って壊そうとしているようだ。もう近い。音がうるさいから、こちらには気づかないだろう。一気に攻めよう」
皇鬼が言う。
「それがいいな。勝負を分けるのは時間だ」
玲が言った。
一同は、さらに足を速めた。
●地蔵を盗んだモノ
青黒い肌の山鬼。それが地蔵を盗んだ犯人のようだった。他にも赤鬼や青鬼などが居る。それぞれが金棒を持っており、次々と地蔵に向かって打ち下ろしていた。破壊するつもりなのだろう。
「<アイスコフィン>!!」
海上飛沫が、精霊魔法を唱えた。地蔵が凍りに包まれ、金棒の打撃を受けても多少は持つようにする。
しかし、山鬼には存在が気取られた。山鬼は吼えると、冒険者たちに向かってくる。あまり脳みそを使った対応ではない。数で勝り腕でも遜色ない冒険者立ちは、ほぼ1分少々で3匹の山鬼を殲滅してのけた。最後まで生き残った黒鬼を倒したのは、陽炎の<カウンターアタック><ダブルアタックEX><ストライクEX>だった。
●戦い終わって
「しかし、なんで鬼たちが地蔵を盗んだのでしょうね?」
エステラが、疑問符を顔に浮かべながら言う。
実際の話、鬼がこんな益の無いことをする理由がわからない。伝説もまゆつば。むしろ鬼が『人間の』伝説を知っているのならば、それはそれで驚きである。
「まあ、その辺はおいおいわかるだろう。とりあえず地藏様を運ぶ荷台か何かを作らなきゃならんな」
大工仕事が好きな、玲が言う。そして枝葉を器用に組んで、輿のようなものを作った。今は<アイスコフィン>の影響があるので重量があるが、溶ければ運べない重さではない。
結局、多少の謎を残したまま、冒険者たちは無事に帰路についた。地蔵をお京に引渡し、礼金を受け取る。
そしてその晩、冒険者の家の前には、いくばくかの金品が置かれていた。その周囲には、丸い足跡のようなものがあった。
傘地蔵が、恩返しに来たのだろうか?
ともあれ地蔵たちは、芦ノ湖に帰ったらしい。
なんとも、珍妙な冒険であった。
【おわり】