人質救出――ジャパン・江戸
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月28日〜11月04日
リプレイ公開日:2004年11月05日
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●オープニング
●ジャパンの事情
極東の島国、ジャパン。
表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。
「今回の依頼は、江戸のお役所から来てるわ」
そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、豚鬼に捕らえられているとある人物を救出すること。正体は明かせないけど、政府の高官が事件に巻き込まれて、豚鬼に捕らえられたらしいわ。豚鬼はある村を襲って占拠したんだけど、その人質の中にその人物が居るワケ。武家の人だから、一目見てわかると思うわ」
豚鬼というのは、豚の頭に人の体をした、ちょっと手ごわいオーガである。知恵も回り、それなりに難敵だ。
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「豚鬼の中には豚鬼戦士もいるらしいわ。敵の総勢は約15。村の地図はあるから、うまいこと助け出し村を開放してちょうだい」
【村について】
村には6箇所のポイントがあります。指定の無い場所は森林です。
A:入り口:村の入り口。村の周囲には高さ6mほどの垣根がある。
B:村長宅:右手奥にある大きな屋敷。
C:洞窟:村の奥がわ。緊急時の避難場所になっている洞窟で、食料や水の備蓄があるらしい。
D:畑:村の左手に開墾された畑。根菜などが植えられている。収穫期でもある。
E:住宅街:村人たちの家屋。3軒ほど。
F:広場:村中央。竹で組まれた檻があり、そこに村人たちが捕らえられている。
●リプレイ本文
人質救出――ジャパン・江戸
●人質の定義
ひと−じち【人質】
1.人身を目的物とする担保。約束履行の保証として相手方に引き渡された人。大名の妻子を人質にとる、あるいは質奉公をする類。西洋でも同様の習慣は古くから行われ、18世紀頃までは国際的にも条約実施の保障とされた。
2.身代金をとるなどのために不法に監禁された人。
――広辞苑第五版より抜粋
現代の日本でもっとも著名な辞典を引くと、こんな言葉が出てくる。人命を担保に何らかの見返りを求める行為を、『人質を取る』というわけだ。
だから今回の事件は、厳密には『人質事件』ということではないかもしれない。豚鬼が政府や奉行所などに何か要求を出したという話も無いし、具体的な要求も無い。ただ村人を竹檻で囲い、そしてむごい事だが、食料にしているだけ。そこには何の思想もイデオロギーも無く、ただただ本能に従う『行為』しかない。
しかし、確かに彼らは真実『人質』であった。食料となる人間を、他所へ逃がさないようにするための足かせ。大人に労働を強制し、収穫をむさぼるための『手段』。公儀に何も要求せずとも、その自治体に対して無体な要求をする行為そのものは、まさに『人質を取る』と考えていいだろう。
そしてその中に、件の人物、『政府の高官』が居るという話であった。
「私が見たのは、だいたいこんな感じです」
シフールのバード、ヴィヴィアン・アークエット(ea7742)が、森の中で顔を突き合わせている冒険者一同に言った。敵情視察のために、高空から村を調査してきたのである。その現状が、先ほど記した『現状』であった。
今回、この特別な任務に就いたのは、次の冒険者たち。
ジャパン出身、人間の侍、玖珂刃(ea0238)
自称『居合い斬り友の会会長』。江戸っ子的な気風の良い性格で、とにかく強くなりたいと思っている青年侍。自称の通り確かに居合い斬りは修得しているが、命中率は今ひとつなのがナンである。今回は妹の玖珂麗奈の1名の支援を受けて出陣。
ジャパン出身、人間の女志士、結城紗耶香(ea0243)。
クールで、どんなときも落ち着き払っている長髪美女。無口で必要なとき以外はほとんど喋らないのだが、それでは他の冒険者との意思疎通に問題があると思うのは筆者だけか。今回は弟の結城利彦の1名の支援を受けて出陣。
ジャパン出身、人間の女浪人、氷雨鳳(ea1057)。
プロポーションも良く流したような長髪は充分魅力的な部類に入るのだが、それでも言動や所作物腰で男と間違わられてしまう女教師。酒に弱いそうだが、酒に酔うとどうなるか聞いてみたいものである。
ジャパン出身、ジャイアントの志士、山王牙(ea1774)。
筆者のリプレイでは、かなりお馴染みと思われる巨人志士。かつては《チャーム》を食らって無力化されたりしたが、最近ではそういうポカはやらなくなった。今回は陽動の一翼を担うつもりで参加。豚鬼の殲滅を目指す。
イスパニア王国出身、ジャイアントのウィザード、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)。
体力至上主義のウィザード。おそらくウィザードとしては最強の膂力を持つが、そのツケは魔力の低さと魔法バリエーションの無さにモロに影響している。でも、彼はへこたれない。だって男の子だもん。
ジャパン出身、人間の女志士、空漸司影華(ea4183)。
『空漸司流暗殺剣』という我流を名乗る女志士。しかしまだ地力を鍛えている最中で、技らしい技を修得していない。精霊魔法も修得しておらず、今はただの戦士と変わらない。早く自分の道を見つけられると良いのだが。
ジャパン出身、人間の女志士、荒神紗之(ea4660)。
こちらも拙著の報告書ではお馴染みになっている破戒志士。酒好きで酒好きで酒好き。馬に4升も酒を下げているあたりその性格がうかがえる。これで趣味が男をからかうことなのだから、かなり始末の悪い小悪魔である。『悪魔』はジャパンに居ないが。
ジャパン出身、人間の忍者、神山明人(ea5209)。
クールな忍者。しかしその正体は、後宮(ハーレム)願望のある、ストイックな忍びのイメージからはかけ離れた人物。好みにはうるさく、美形が好きでそういう女性には声をかけまくっているとかいないとか。今回のように美女の多いパーティーだと嬉しい限りだろう。
ジャパン出身、ジャイアントの志士、不動金剛斎(ea5999)。
武士であることに誇りと矜持を持っている、巨人志士。圧巻の身長235センチは、馬が可愛そうである。武芸者としては地力もあり技もバランスよく会得していて、精霊魔法も有用なのを修得しているあたり、修行がよく出来ていると言えるだろう。
イギリス王国出身、シフールのバード、ヴィヴィアン・アークエット。
上品に見えるがシフールらしく好奇心旺盛で、何かにつけ首を突っ込みたがるのはご愛嬌。近接戦闘能力は皆無で、今回は《スリープ》などの月系精霊魔法で支援に徹する所存。実は、今回の作戦の成否を握っているのは彼女だったりする。
以上、12名。豚鬼相手のパーティーとしてはまずまずなところだろうか。
一行は手順を再確認すると、それぞれの配置へと散っていった。
●潜入
村の門扉は、冒険者たちが予想していた通り、固く閉じていた。
「じゃ、行ってくるね〜」
ヴィヴィアンがロープを持って、村の垣根に取り付いた。そしてそれを、柱に結わえ付ける。
「向こうの方は動いたみたいだねぇ」
村の入り口方向から、騒ぎの音が聞こえてきた。荒神紗之には、垣根内部の生物が動く気配まで感じ取れた。精霊魔法の《ブレスセンサー》である。
今回の作戦は、次のようなものだ。まず玖珂刃、結城利彦、結城紗耶香、空漸司影華が、旅人の扮装をして村の入り口に出現し、豚鬼の注意を引く。そして引きずり出した豚鬼を、別班の山王牙、ゴルドワ・バルバリオン、不動金剛斎、玖珂麗奈が締め出し、扉を閉じる。その間に、氷雨鳳、荒神紗之、神山明人、ヴィヴィアン・アークエットが村人を村の奥にある洞窟へと誘導し、救出して安全を確保する。あとは豚鬼を、総力を挙げて殲滅するだけだ。
最初の騒ぎで、より多くの豚鬼を引きずり出せるかが勝負どころである。騒ぎはでかい方がいい。そして紗之の感知したところでは、その作戦はおおむねうまく行っているようだった。
「7、8、9‥‥こんなところだろうね」
移動していった呼吸の数を数えながら、紗之が言う。ギルドの情報が確かならば、残る豚鬼は片手ほどの数のはずだ。
「では、俺から」
明人が、するすると縄を登ってゆく。さすがは忍者である。
続いて縄を登ったのは、鳳であった。
「拙者は剣を握っているほうが良いでござる‥‥」
任務のためとはいえ、盗賊と変わらないようなことをすることには、多少の抵抗があるようだ。武士は正々堂々戦ってナンボである。
続いて紗之が登り、ヴィヴィアンが見張りをしている中、三人は村の中へと降り立った。目指すは、村中央の竹牢である。
●陽動
そのころ、村の外では激しい闘いが繰り広げられていた。陽動二班が、豚鬼を奇襲したのだ。
「蹴散らします! 《ソードボンバー》!!」
どっふぉっ!!!
殺到してきた豚鬼が密集してきたところで、牙が剣圧を開放した。巨漢の豚鬼が、まとめて吹っ飛ぶ。
「くらえ! 《ヒートハンド》突っ張り!!」
力士を生業としているゴルドワ・バルバリオンが、手を魔法で赤熱化させて豚鬼を殴る。肉のこげる、いやなにおいがした。
「地を這い汝らが主の敵を討て! 我が名は金剛斎!!」
金剛斎が、《グラビティーキャノン》を放った。軸線上に居る豚鬼がまとめてなぎ倒された。
「『居合い斬り友の会』会長只今参上!」
刃が戦列に飛び出した。
「居合いの技、見せてやるぜ!」
チン! と、鍔鳴りがした。
だが、何も起きなかった。
「いかん、外れた」
決めろよ、おい(←ツッコミ)。
「《ストーム》!」
紗耶香が魔法の暴風を放って、刃を援護する。刃は地面に伏せ草を掴み、それに耐えた。豚鬼は面白いように吹き飛ばされた。
「敵なら容赦はしない‥‥女だと思って甘く見ない事ね!! 空漸司流暗殺剣の力‥‥受けてもらうわよ!!」
影華が、刀を振る。まだ基礎鍛錬の段階だが、当てるだけなら充分できた。
「まずい、扉が破られます」
扉を塞いでいた牙が、声に余裕を無くして言った。かなりの膂力を持つ者が、扉を内側から破壊しようとしている。牙は押さえ込むのをあきらめ、出鼻に一撃を与えることにした。
「《ソードボンバー》!」
がふぉっっと、剣圧が開放される。それは確かに、中に居た豚鬼に一撃を与えた。
「!?」
しかし、それに豚鬼は、あまり動じなかった。
「豚鬼戦士!!」
「こいつぁさっきまでの豚どもとは、一味違うぜぇ!」
意気軒昂なのは、金剛斎とゴルドワである。彼らは勇んで、豚鬼戦士に向かっていった。
●決戦
「《スリープ》!」
「《春花の術》!」
「《ウインドスラッシュ》!!」
潜入班は、次々と魔法を繰り出していた。それを受けている豚鬼は、あまり魔法の効果を被っていないようだった。
「拙者がやるでござる」
鳳が、剣に手をかけて前に出る。
見張りなどの雑魚豚鬼たちをことごとく眠らせ排除した潜入班の4人は、予定外の事態に遭遇していた。救出した村人の避難所にしようとしていた洞窟に、豚鬼が居たのである。それも3匹。そしてそのうちの一匹は、豚鬼戦士であった。
2匹の豚鬼は倒した。あとは豚鬼戦士である。これがまた強敵であった。
「ブヒヒヒヒヒン!!」
「でやっ!!」
棍棒で殴りかかってきた豚鬼戦士に対し、鳳は《カウンターアタック》《ブラインドアタック》で応戦した。不可視の強力な一撃が、豚鬼戦士に叩き込まれる。
「ブヒー!!」
豚鬼戦士が、悲鳴を上げた。胴を半ば断ち割られ、内臓を噴き出している。重傷である。
だが、鳳も一撃を受けていた。かなり痛そうだ。
「覚悟しな」
紗之が、剣を薙いだ。
豚鬼戦士は、それで死亡した。
●戦い済んで
「むう」
金剛斎が、うなった。
「どうした?」
ゴルドワが問う。
「馬が限界だ。悪いが、帰りは歩いてくれ」
そりゃぁ‥‥ジャイアント二人を乗せて走ったらなぁ‥‥。つぶれなかったのは奇跡だろう。
終わってみれば、負傷者もあまり多くは無い、奇跡的に楽な戦いだった。ちなみに門側の豚鬼戦士は、ゴルドワの《スープレックス》で撃沈された。この勝利は、入念に策を練った冒険者側の、策勝ちであろう。
「助かった、礼を言う」
人質の中に混じっていた武家が、冒険者たちに言った。
「願わくば、名前を聞かせてもらいたい」
鳳が言う。
「私は、柏木喜郎衛門。箱根関の改役だ」
箱根関所の改め役と言えば、江戸差配の中では確かに要職である。あたら簡単に失って良い人材ではない。
ともあれ、一同は無事に任務を果たし、帰路についた。この縁は、もしかしたら何かにつながるかもしれない。
冒険者には、次の冒険がまっている。
【おわり】