百足(むかで)の巣――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 44 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月10日〜11月17日

リプレイ公開日:2004年11月18日

●オープニング

●ジャパンの事情
 極東の島国、ジャパン。
 表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
 ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
 この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
 とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
 そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。

「今回の依頼は、江戸大手の材木問屋から来てるわ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、江戸から東に三日ほど行った場所にある山に発見された、百足の巣の百足を駆除すること。ちなみにその百足は、長さが二間(約6メートル)もある大百足だから、ちょっと手ごわいわよ。数は片手ほどらしいけど、まとめて相手にするとかなり手ごわいわよ。ああ、虫が嫌いな人はやめておいたほうがいいわね」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「そこにはきこりの村があって、村に近すぎるのよ。問題の場所はまったく地形がわかっていないから、洞窟を手探りで探すことになると思うわ。とにかく安全第一でお願い。以上、よろし?」

●今回の参加者

 ea0238 玖珂 刃(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea0243 結城 紗耶香(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0247 結城 利彦(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0250 玖珂 麗奈(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3358 大鳳 士元(35歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea3913 エンジュ・ファレス(20歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

百足(むかで)の巣――ジャパン・江戸

●ジ・アース世界における巨大生物
 ジ・アースには、通常見られないような巨大生物が居る。
 例えば、今回の依頼に出てくる大百足もそうだ。百足といえば、普通は3寸(約10センチメートル)ほどしか無い多足の昆虫だが、南国に行くとその大きさは約1尺(約30センチメートル)ほどになり、そしてさらに南国へ行くと2尺ほど(約60センチメートル)ほどのものもあるという。
 しかしこれは、まだ常識の範囲内だ。大百足と呼ばれるものはそんなみみっちい単位をすっ飛ばして、約2間(6メートル)もある、硬い甲羅を持った文字通りの巨大甲虫である。
 どうしてこのような巨大生物が発生するかについてのメカニズムは、まったく解明されていない。西欧の魔術師などは何かの呪いではと言う者もいるし、ジャパンでも『蟲毒』という禍々しい呪法で妖怪を創る術があるという。砂漠には巨大な蠍(さそり)がおり、海には巨大なカニ(食可)もいる。凶悪な狩猟者という側面を持ちながら、一方では資源として重宝されているのが巨大生物の現状ではあるが、そう人間たちに都合の良いことばかりではない。彼らは一般人にとって、脅威には違いないのだから。

 今回、その大百足の退治を請け負ったのは、次の冒険者たち。

 ジャパン出身。人間の侍、玖珂刃(ea0238)。
 気風の良い江戸っ子的性格の持ち主で、自称『居合い斬り友の会会長』。しかし地力が足りてないので、目標を外すこともしばしば。まずは基本格闘術を修練すべきであろう。今回は親類縁者総出でこの依頼に参戦。
 ジャパン出身。人間の女志士、結城紗耶香(ea0243)。
 クールで口数の少ない、落ち着いた雰囲気の女性志士。必要な時以外ほとんど喋らないので影は薄いが、自己主張はそれなりにする。精霊魔法の使い手で、その行動は口数に似合わず意外と派手。玖珂刃とは許婚だそうである。
 ジャパン出身。人間の志士、結城利彦(ea0247)。
 おねぇちゃん大事の、シスコンの少年志士。姉である結城紗耶香が嫁ぐ事に猛反対しており、現在その相手の玖珂刃と、絶対的な対決姿勢を見せている。負けず嫌いで何かにつけ刃につっかかるが、うまいことあしらわれているのが現状である。
 ジャパン出身。人間の女志士、玖珂麗奈(ea0250)。
 結城利彦に猛烈アタック中の、少女志士。マッドアルケミストで、薬品調合が趣味というアブナイ性格。今回は百足の毒を目当てに参加。薬草とは取り扱いが違うから、あまり手を出さないほうが身のためだと思うのは筆者だけか。
 ジャパン出身。人間の志士、凪里麟太朗(ea2406)。
 複雑な家庭事情を持つ少年志士。まだ10歳なのに、ずいぶんしっかりした価値観を持っている。わりと無邪気で天真爛漫な性格で、物事はよい方に考える性質。ただ権力をかさに着る奴は大嫌いで、時には辛らつな言動もある。
 ジャパン出身。人間の僧兵、大鳳士元(ea3358)。
 常時般若湯(いわゆる酒)をかっ食らっている破戒坊主。無駄口が多く、軽口もよく叩くが、実は情に厚い優しい性格の裏返しだったりする。言うことはあくまで荒っぽいが。百足は、子供のころよくいじっていたらしい。
 ロシア王国出身。エルフの女クレリック、エンジュ・ファレス(ea3913)。
 大人びた容貌のわりには年若い、エルフの女性。信念が固く仲間意識が旺盛で、自分よりも仲間を侮辱されたことのほうが怒るタイプ。ただおいしいお菓子には目が無く、それでへろへろにされることもしばしば。今は京都の生八橋がお気に入り。

 以上7名。洞窟探査には、どうにか足りる人数であろう。
 一同は江戸で集められるだけの情報を集めると、仕掛けを色々買い込んで江戸を出立した。

●きこりの山
「問題の山は最近開削されたそうで、それまで人は入った事が無かったんだって。きこりが木を切っている最中にその百足は出てきたらしく、大きさは6メートルほど。色は黒で足は赤かったそうよ。洞窟の入り口は多分ひとつと言っているけど、ただ見つかっていないだけかもしれないね」
 エンジュ・ファレスが、今まで集めた情報を、仲間に披露した。他に情報があるとすれば、問題の洞窟は山肌にぽっかりと口をあけていて、道らしい道が無いことぐらいだ。
「予定通りやるか?」
 凪里麟太朗が言う。彼の言う『予定通り』とは、洞窟の入り口で火を焚いて、煙で百足をいぶり出す作戦の事である。内部不明の洞窟に進んで入る必要は無い。いぶり出して各個に殲滅すれば良い。他に出口が無ければ、それで事は足りるはずであった。
「俺ぁ、かまわねぇぜ。なんなら洞窟も崩しちまったっていいぐらいだ」
 大鳳士元が言った。もともとあまり考えるたちではない。思考より行動を好むタイプだからである。
「内部には、大きな呼吸が六つほどある」
 精霊魔法《ブレスセンサー》を唱えた結城紗耶香が、ぼそりと言った。呼吸探査の魔法は、精度はともかくこのような場合には役に立つ。
「よし、予定通りやろう。他に延焼しないように、注意を払ってな」
 玖珂刃が言う。一同は洞窟の入り口に藁束や薪束をしつらえ、そして鯨油をかけて火をつけた。もうもうたる煙があがって、それが洞窟へと流れ込んでゆく。炎の延焼具合は、麟太朗の《ファイヤーコントロール》で調整した。ほぼ意図した通りに、状況は進んでいると考えていい。
 しかし。
「呼吸が、奥へ引っ込んでゆく……」
 異変を感じ取ったのは、紗耶香であった。《ブレスセンサー》で感知した呼吸が、奥へと進んでゆくのだ。
「煙が内部に流れ込んでいる……どうやら他に風通しの良い『出口』があるようだな」
 士元が、編み笠を取り払って言った。
「周囲を警戒しよう。出口があるなら、煙が立っているはずだ」
 結城利彦が言う。
「そうね、としちゃん。変なところに出たら危ないものね」
 玖珂麗奈が、気安い砕けた口調で言った。
 予定外の事態に、冒険者一同はその場で作戦を組みなおした。入り口の火番に《ファイヤーコントロール》のできる麟太朗を残し、他の者で手分けして煙の出口を探したのだ。まあ、煙が入ってくれるのならば、出るところもあるはずである。それぐらいは想定すべき事であった。
「見つけた!」
 エンジュが、空を指差す。薄い煙が、空にたなびいていた。麟太朗を除く6名は、その煙のほうに向かっていった。
 カサカサカサ。
 何やら、落ち葉を踏む音がする。紗耶香が《ブレスセンサー》を再び唱えると、大きな呼吸が六つ、移動していた。それは煙の方向に違いない。おそらくは大百足である。
「見つけたぁ!」
 士元が吼えた。手斧を構えて、戦域に突入しようとする。
「待って! 今魔法を唱えるから」
 紗耶香がそう言って士元を止め、呪文を唱え始めた。呪文が完成すると、それは猛烈な暴風となった。枯葉が盛大に舞い上がり、視界を閉ざす。暴風が駆け抜けた後、一塊になっていた大百足はばらばらに飛び散っていた。それでも迫ってくる百足は迫ってくる。
「《アイスブリザード》!」
 麗奈が、呪文を唱えた。冷気の吹雪が、百足を襲った。
 紗耶香と麗奈は、交互に呪文を放っていった。百足は吹き散らされ凍らされ、甚大なダメージを受けていた。
 二人の魔力が尽きるころ、のそのそと百足は逃げ出した。それを刃と利彦、そして士元が叩く。
「念仏でも唱えな!」
 士元の手斧が、大百足の殻を砕く。刃も利彦も順調に戦果を上げ、怪我をしてもエンジュの癒しの力を得て毒にも打ち勝った。
 結局、終わってみれば衣服に傷が出来た程度の大勝利であった。
「みんな、まだかなー」
 麟太朗が、一人ぽつんとしてつぶやいた。そろそろ魔力が尽きるので、《ファイヤーコントロール》が出来なくなる。そうなると、ちょっとした火事ぐらいは起きるかもしれない。
 結局、他の皆が帰ってきたのはそpれから1時間後だった。燃え広がりかけていた火は、麗奈の最後の《アイスブリザード》で消化した。

●終わりに
 一同はきこりの村の村人から感謝の言葉とささやかなお礼を受けて、江戸に帰還した。ぐずぐずのぐだぐだになってしまったので百足の毒を取れなかった麗奈はやや消沈していたが、まあ、結果オーライである。またの機会が、多分あるだろう。
 冒険は尽きない。また来る日まで、いざさらば。

【おわり】