●リプレイ本文
骨足りてますか――ジャパン・江戸
●アンデッドの巣窟
アンデッドは、わりと世間の皆さんに知られた存在である。
まだ葬礼が土葬と火葬の半分半分のジャパンでは、土葬にした人間が起き上がってくることがたまにある。だから葬礼には、死人が起き上がってこないように棺おけに封じたり石を抱かせたりする。
ただ今回のような場合だと、誰かが意図して怪骨を用意した可能性が高い。つまり、何らかの遺跡とかそういうものの可能性が高いのだ。
――何かが出ればめっけもの。
そんな淡い期待を抱いて、冒険者達はその魔窟に潜る。そして成功する者もいれば、失敗してアンデッドの仲間入りする者もいる。
はたして、今回の鉱山に挑戦する冒険者達はどうであろうか? 今回の探索に赴くのは、次の者たち。
西方亜希奈(ea0332)、十七歳。ジャパン出身の人間の浪人。
抜群のプロポーションを衣服に押し込んだ、女浪人。剣士としては充分な腕を持っているが、人間としては自意識過剰がちょっと過ぎるようである。女らしい女であることに不満を持つのは、現世男社会に対する憤懣か。
屠遠(ea1318)、十四歳。華仙教大国出身の人間の僧侶。
長い髪で片目を隠した、謎の女僧侶。口数はあるが自己完結した口調のため、会話は成り立ちにくいたち。人見知りする性格だが、一度好きになった人や物には異常な執着を見せる。死体を動かすことに、あまり抵抗が無い。
孫陸(ea2391)、二十一歳。華仙教大国出身の人間の武道家。
無理無茶無謀無策と一通り揃っていて、さらに戦闘快楽癖のある典型的なバトルマニア。権力をかさに着るやつが大嫌いで、自身は武芸を極めた先に何があるのかを求めている、求道者でもある。
ララ・ルー(ea3118)、外見年齢十七歳。イギリス王国出身のエルフのクレリック。
ぼけぼけっとした外見に似合わず、へヴィーな過去を持つ女クレリック。人々の救いの為に身を投げ出す献身的なその姿は、慈愛の神の宗徒にふさわしい。今回の一件に関しては、アンデッドを葬りたいという欲求から参加。殲滅を目指す。
夜枝月奏(ea4319)、二十一歳。ジャパン出身の志士。
自称『紅き焔の志士』。二重人格らしいのだが、詳細はよくわからない。普段はクールだが、いざという時に熱血漢な人格が出るようだ。目的のために手段は選ばないタチだが、非情に徹しきれないのは損な性格である。ちょっと考え方がじじむさい。
鴨乃鞠絵(ea4445)、十歳。ジャパン出身の人間の忍者。
『鞠絵ちゃん時空』というぁゃιぃ雰囲気を持ったくノ一。十歳という年齢なのにいやに艶っぽく、考え方も年寄りくさい。気分屋で天邪鬼だが、彼女なりに思うところはあるらしく、勝利への貢献にはやぶさかではない。西方亜希奈と仲良しらしい。
潤美夏(ea8214)、外見年齢十八歳。華仙教大国出身のドワーフのファイター。
口ひげをたくわえた女戦士。物怖じしない毒舌家で、育ちのような顔立ちからは想像出来ないような台詞が口からぽんぽん出る。実際の話し『舌禍のプリンセス』という状態なのだが、実戦で実力を伸ばそうという前向きな姿勢が、その辺のフォローになっているようだ。
本多風露(ea8650)、二十一歳。ジャパン出身の人間の浪人。
巫女姿の女浪人。おおらかな性格でいつも落ち着き払っており、物事に動じるということが少ない。お茶好きで他人と茶談話するのを好み、今回も仕事が終われば茶会を開きたいと考えている。流派は夢想流小太刀二刀。
小野織部(ea8689)、三十七歳。ジャパン出身の浪人。
旧『深き森』メンバーの浪人。目的のためならば手段を選ばない、真実実行の人。口やかましいタイプで、仕官とはなかなか縁が無い。もっとも当人は気にしていないようだが。ただ年齢を感じるのか、若い者と張り合いたがるくせがある。
鬼堂剛堅(ea8693)、三十五歳。ジャパン出身のジャイアントの浪人。
英雄を目指す、最強願望ありありの浪人。何かにつけ偉そうで鼻持ちならない人物ではあるが、志はどこまでも高い。武道大会に出場して、名を挙げたいと思っている。
以上10名。はたして結果はいかに?
●坑道
怪骨の襲撃は、入ってすぐだった。
がしゃん! と音がして、骨で出来た人型が崩れる。
「いきなりな挨拶ぢゃな」
鬼堂剛堅が、両手十手を構えて言った。骨は、パーティー一行が坑道に入るなり襲って来たのだ。
「外まで出てこなくて幸いだわ」
西方亜希奈が、骨の頭を蹴り飛ばしながら言う。
「亜希奈姉さま、そのようなことをすると祟られますの」
くすくすと、いつもの『鞠絵ちゃん時空』を発しながら鴨乃鞠絵が言う。
「‥‥お宝発見‥‥いえーい‥‥」
屠遠が、怪骨の身に着けていた装飾品を検分している。見たところ金で出来ており、勾玉などもあるようだ。歴史に詳しい者ならば垂涎ものの発見であるが、あいにく冒険者にそういう知的探究心で固まっているヤツはあまりいない。
「怪骨ハ死人よりは殴りやすい相手で助かるよ。怪骨なら死人みたく殴って腐汁で汚れる心配がないからな」
孫陸が、骨の持っていた剣を調べながら言う。青銅製の直刀で、やけに古いこしらえだった。
かきかきかきん!
骨の一体が、再び動き出した。一同が構えるが、骨は動く気配が無い。
「‥‥やっぱり‥‥気持ち悪いよね‥‥? 死体を動かすって‥‥」
遠が言う。《クリエイトアンデット》で、再び骨を動かしたのだ。
一行の探索は、骨という戦力を徐々に増しつつ進行していった。
●未知の洞窟へ
3階層に渡る坑道の掃除は、一昼夜に及んだ。倒した怪骨は10体以上。そのほとんどが何らかの装飾品を装備しており、それなりの金銭的収穫を、冒険者は得ていた。
魔力と油が尽きるころ、一端捜索は打ち切りとなった。アンデッドは休まないが、人間には休憩が必要である。
「‥‥‥‥」
『むー』という感じで、ララ・ルーが遠によって甦らせられた怪骨を、不満そうに見ている。彼女はアンデッドが大嫌いなのだ。
「休んだほうがいいですよ」
夜枝月奏が、ララに向かって言った。それに、ララが拗ねるようなしぐさをして横になる。奏自身も、今日は《フレイムエリベイション》で出す二つ目の人格を正面に出しすぎて魔力は尽きていた。
潤美夏は、すでに寝息を立てている。本多風露も同じだ。小野織部は見張りを買って出た。まだ若いものには負けんという気概がにじみ出ている。
翌日、何事も無く夜が明けた。
一同は探索を再開した。昨日回った坑道をざっと回って新たな怪骨が出ていないのを確認し、そして問題の4層目に突入した。
未知の洞窟は、石で出来ていた。天井部分の岩が砕けていて、そこを鉱夫たちが掘り当てたのだ。土砂の下敷きになってじたばたしている怪骨を一匹葬り、まずは南北に続いている通路に降り立つ。
北か南か相談して、まず構造上出口があると思われる南を目指した。長い廊下を行くと、やがて岩壁にぶち当たる。
「これは、壊せんな」
織部が言った。どのような意図があったかわからないが、出口がふさがれている。一行はやむなく、北へと進路を取った。
北側も、長い廊下になっていた。そして、石の扉に行き当たる。扉は半分壊れていて、そこから怪骨が出てきていたらしい。
一同は用心しながら、扉をくぐった。
内部は、夜光石によってほの白く照らされていた。夜目が利く者ならば、明かりがいらないぐらいにだ。玄室の東西南北には白虎、朱雀、青龍、玄武の絵が描かれていて、中央の石棺を睨んでいた。
「お墓?」
「どうやらそうですの」
亜希奈の問いに、鞠絵が答えた。
「どんな人のお墓なんだろう‥‥」
遠が、うろんな表情で言う。
「まあ、怪骨が守っていたのはこの墓のようだな。これは間違いなさそうだ」
陸が言った。松明に油平、穀物にその他様々な副葬品。だが、価値あるものはあまりありそうにない。もっとも、考古学上では大変貴重な資料ばかりであるが。
「あれは‥‥」
ララが石棺の上を指差す。そこに、何か青いもやのようなものがあった。
『我が眠りを妨げるものは何者ぞ』
どんと、重圧さえ感じるような太い声が玄室を震わせた。奏が、呪文の詠唱を始める。このような場所に出るのは、アンデッドと相場が決まっている。
「待って」
美夏が、それを止めた。そのもやが、何かの形を取り始めたからだ。
それは、人間の姿を取り安定した。耳の横で髪を結わえた、弥生風の服装だった。
『我が眠りを妨げるものは何者ぞ』
亡霊が、再び言った。
「私は本多風露。冒険者です。あなたは何者ですか?」
『我はイヌコイヒコ。東国の王だった男だ』
かつて邪馬台国という国が西国にあったころ、東国には豪族という者たちが居た。彼らは時折邪馬台国に仇成す化け物と称され、討伐という名を借りた侵略行為が行われた。
イヌコイヒコは、そんな氏族の王だったそうである。
「つまりここは、古墳の中なのか‥‥」
織部がつぶやく。
「ここには何か武器などは無いか」
あくまで尊大に、剛堅が言った。
『貴様ら、わが神剣ハザルギノツルギが目当てか! あれは渡さぬ! 我が氏族を守る神剣だ! 去れ! さもなくば、その命奪ってくれよう!!』
一同は迷った。盗掘が目的ではないが、怨霊を放置してゆくのは依頼主に親切ではない。しかし今の装備と魔法では、負けはしないが怨霊を倒すのは難しい。
「考えるまでも無い。やるだけじゃ」
剛堅が言った。彼は強くなるためにここに居るのである。敵を前に、怯みも悩みもしない。
なし崩し的に、戦いが始まった。
●探索結果
戦闘には、勝利した。副葬品は、かなりの量になった。
で、問題の神剣ハザルギについてだが――。
「なにコレ。青銅の剣に金鍍金(めっき)がしてあるだけじゃない」
亜希奈が、現物を見て言う。
その剣は、石棺の中にあった。ただすごく腐食していて、実用に耐えるものには見えない。
ちなみに、金メッキ自体は古くから行われていた。金を水銀に溶かしアマルガム化させてメッキしたい物に塗り、火で焙るのである。水銀は蒸発して、金だけが残るというわけだ。ちなみに水銀蒸気は猛毒なので、まねをしてはいけない。
金銭的にそれなりの収穫はあったが『歴史的発見!』以外はそんなにたいした収穫にはならなかった。特に『神剣』と聞いて色めきたった者はがっくりである。ま、世の中そんなに甘くないということだろう。
ともあれ、依頼は無事に終了した。まあ、収穫はあったと言っていいだろう。一同は傷を癒し休憩を取り、江戸へと戻っていった。
鉱夫たちに感謝されたことは、言うまでも無い。
【おわり】