人食い樹の山――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 19 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月08日〜12月16日

リプレイ公開日:2004年12月22日

●オープニング

●ジャパンの事情
 極東の島国、ジャパン。
 表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
 ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
 この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
 とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
 そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。

「今回の依頼は、江戸大手の材木問屋から来てるわ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、森で見つかった人喰い樹を倒すこと。場所は、江戸から東へ3日ほど行った所。森の中に居るそうよ。当然火気厳禁。森を燃やしちゃったら、元も子も無いからね。案内は当地の猟師がしてくれるらしいわ。材木問屋からの仕事だから、払いはいいわよ?」
 人食い樹と言えば木霊(トレント)に似た植物モンスターで、近寄った動物を片っ端から食ってしまう食肉植物である。かなり強い。 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「期間は8日間。以上、よろしくね」

●今回の参加者

 ea0247 結城 利彦(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0250 玖珂 麗奈(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea2266 劉 紅鳳(34歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea2366 時雨 桜華(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2452 レティエル・レティーシャ(24歳・♀・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea2988 氷川 玲(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5989 シャクティ・シッダールタ(29歳・♀・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea8257 久留間 兵庫(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「今回の相手は人喰樹か。‥‥微妙に硬い敵と縁があるのは‥‥まあ、気のせいだろうな」
 苦笑いを浮かべながら、結城利彦(ea0247)が人喰樹の巣食う山林にむかう。
 山林を切り開くためには人喰樹を退治しなければいけないため、必要な道具を背負い袋の中に放り込み地図を頼りに進んでいく。
「丸々樹一本がモンスターですからね。‥‥倒すのに苦労しそうです」
 材木問屋で人喰樹の情報を集め、闇目幻十郎(ea0548)がボソリと呟いた。
 人喰樹の防御力はかなり高いため、戦闘中はある程度の機敏さが要求される。
「一体とはいえ相手の領域で、しかも弱点を突けないってのはきついな」
 依頼主から詳しい話を聞いたため、久留間兵庫(ea8257)が疲れた様子で溜息をつく。
 人喰樹は移動する事が出来ないため、それが弱点とも言えるのだが、近づくものを攻撃してくる習性があるため、簡単に勝てる相手ではないようだ。
「とりあえず戦ってみないと分からないだろ? ‥‥あたしは強くなりたいんだ。どんな奴とも戦ってみないとね」
 後学のために人喰樹に興味を持ち、劉紅鳳(ea2266)が拳をギュッと握り締める。
 他の冒険者と共に人喰樹と戦い倒す事で、自分の戦い方を見直し糧とするため、いつも以上に気合が入っているようだ。
「やれやれ‥‥汗臭いのは似合わないんだがねぇ‥‥」
 火の入ってないキセルを弄び、壬生天矢(ea0841)が大斧を肩に担ぐ。
「依頼主の話じゃ、あの辺りの樹は日の当たってない部分が他と比べて脆いらしい。人喰樹にもこれと同じ弱点があるといいんだが‥‥」
 険しい表情を浮かべながら、兵庫が依頼主の言葉を思い出す。
「それじゃ、毒は‥‥持ってるわけ無いか、ちぇっ」
 兵庫の話に耳を傾け、玖珂麗奈(ea0250)が残念そうに溜息をつく。
「毒なんかあったらシャレにならん。あんなデカイ奴を相手にしなくてはならないからな」
 そして兵庫は人喰樹を睨みつけ、素早く刀を抜くのであった。

「‥‥では皆様、魔物調伏と参りましょうか」
 人喰樹の本体を攻撃する仲間達を援護するため、シャクティ・シッダールタ(ea5989)が棍棒を握り締める。
「それじゃ、試してみるか」
 人喰樹は近づくものを攻撃するため、紅鳳が兎などの小動物を放って出方を待つ。
 野に放たれた兎達は何も知らずに辺りを走り、人喰樹の根で串刺しにされて息絶える。
「‥‥意外と攻撃範囲は広そうだな」
 一瞬にして兎が仕留められたため、幻十郎が人喰樹の攻撃範囲を特定した。
「兎さんが‥‥可哀想‥‥」
 悲しげな表情を浮かべながら、レティエル・レティーシャ(ea2452)が亡くなった兎達に同情する。
「‥‥仕方ないさ。こうでもしなきゃ、ああなっていたのは俺達だ」
 落ち込むレティエルを慰め、兵庫がボソリと呟いた。
「この様子じゃ、かなり苦戦しそうな雰囲気ね。‥‥分かったわ。私が敵をひきつける!」
 アイスブリザードを使って人喰樹の動きを鈍らせ、麗奈がウォーターボムを撃ち込んだ。
 人喰樹は麗奈の攻撃から逃れるため兎の骸を放り投げ、次々と根っこが地面の中へと潜っていく。
「我が一撃、仏罰と知りなさい!」
 人喰樹の動きが鈍ったところで金棒を振り下ろし、シャクティが地面から伸びた根を避ける。
「どんな敵にでもこの拳一つで向かっていきたいってのが、本音だけどね‥‥。今はそうも言ってられないか」
 人喰樹の根が脇腹をかすってバランかを崩し、紅鳳が険しい表情を浮かべて斧を力任せに振り下ろす。
「多少の怪我は覚悟しないと駄目かもな」
 仲間達と連携を取りながら、兵庫が人食樹の根を斬りつける。
 なるべく単独行動にならないように気をつけているが、人食樹の攻撃は容赦なく兵庫の身体を傷つけていく。
「きゃあ!?」
 人食樹の根によって身に纏っていた服が切り裂かれ、レティエルが悲鳴を上げて尻餅をついた。
「レティエルさんを人質にするつもりですね。そうはさせませんよ!」
 怪我を覚悟で囮になり、幻十郎が手斧を振るう。
「もう大丈夫よ? ‥‥怪我はない?」
 レティエルに肩を貸し、麗奈が人喰根の射程範囲から離れる。
「えっと‥‥その‥‥胸が‥‥」
 恥かしそうに頬を染め、レティエルが胸を押さえて呟いた。
「‥‥胸が?」
 心配した様子でレティエルを見つめ、麗奈が胸に怪我をしていないか確かめる。
「ドキドキしています」
 麗奈の顔をジィッと見つめ、レティエルがニコリと微笑んだ。
「ご、ごめんなさい。は、早く人喰樹を倒しましょう」
 レティエルの口から意外な言葉が出たため、麗奈が苦笑いを浮かべて再び人喰樹の退治にむかう。
「とにかく傷を癒しましょう。そんな身体じゃ、うまく戦えないでしょうし‥‥」
 秘蔵の活命丹を使ってレティエル達の傷を癒し、シャクティが金棒を構えて人喰樹を威嚇する。
「せめて根っこだけでも始末しないとな」
 次々と伸びてきた根を切断し、紅鳳が脇腹を押さえて横に飛ぶ。
「努力はするさ。なるべくな」
 首に絡みついてきた根っこを払い、兵庫が汗を拭って日本刀を振り下ろす。
 兵庫達のおかげでほとんどの根は駆除出来たが、本体は全くと言っていいほど無傷のため、これからが大変そうである。
「ここで諦めたら負けですものね」
 露出した胸元をマントで隠し、レティエルがシューティングPAとダブルシューティングを組み合わせると人喰樹の本体を狙い撃つ。
 それと同時に人喰樹が悲鳴にも似た音を上げ、怒り狂った様子でレティエルを襲う。
「かなり効果があったようですね。そろそろ本体を潰しましょうか」
 手斧を握り締めてレティエルの前に立ち、幻十郎が次々と人喰樹の根を切り落とす。
「それじゃ、ちょっと試してみようかしら」
 弓矢の先端に毒を塗りつけ、麗奈が人喰樹めがけて放つ。
 人喰樹は苦しみのあまり地面に根を叩きつけ、麗奈を集中して狙っていく。
「皆様、わたくしの技量では余り癒す事が出来ませんの‥‥。くれぐれも、無理をなさらないで下さいまし」
 仲間達が必要以上に無茶をしたため、シャクティが心配した様子で声をかける。
「それは分かっているんだけどね。そこまで余裕がないだけさ」
 そして紅鳳は苦笑いを浮かべながら、人喰樹めがけて自らの拳を放つのだった。

「そろそろ俺達の出番だな」
 仲間達にバーニングソードを付与し、利彦が人喰樹の本体を狙ってスマッシュを放つ。
 人喰樹の身体から大量の体液が飛び散り、辺りには樹特有の独特なニオイが漂った。
「怪我をしたくなければ退きなっ」
 不敵な笑みを浮かべながら仲間達にむかって声をかけ、天矢がソードボンバーを放って本体を傷つける。
「欝だ‥‥。相手の腹の中にいるみたいでよぉ‥‥」
 憂鬱な表情を浮かべて小柄を握り、時雨桜華(ea2366)が人喰樹の根元を攻撃した。
 ほとんどの根は仲間達によって破壊されているが、残った根が桜華を狙い次々と伸びていく。
「さぁ、行くぞ、玲。遅れを取るなよ。鬼道衆が2人も揃ってるんだ。無様な真似は出来ないぜ」
 大斧を構えて人喰樹を睨みつけ、天矢が氷川玲(ea2988)にむかって声をかける。
「材木にも薪にもならしな、こんなもんは。さっさと土に返りやがれ!」
 大斧を背中に担いで天矢と連携をとりながら、玲が霞刀を振り回し枝や根を相手にした。
「みんなで集中して根元を狙うか。さすがに化け物だって根元から折られたら死ぬだろ?」
 同じ場所ばかり狙い、利彦が何度もスマッシュを放つ。
「だぁぁ、この化けもんがぁ!!」
 得物を小柄から斬馬刀に持ち替え、桜華が人食樹めがけて必殺の一撃を叩き込む。
 人喰樹は何度も同じ場所を攻撃され、今にも倒れそうになっている。
「もうそろそろか。‥‥気を抜くなよ」
 天矢に危険が及ばないようにソードボンバーを放ち、玲が襲い掛かってくる枝を霞刀で斬り落とす。
「当たり前だっ! ここで手加減なんて出来るかよ!」
 ダブルアタックとスマッシュEXとバーストアタックを組み合わせ、桜華が人喰樹の根元めがけて一撃を放つ。
 人喰樹はグラグラと揺れるとドシンと倒れ、まわりの根っこも糸の切れた人形のようにしてパタパタと落ちていく。
「やっぱ、俺に斧は似合わねぇ‥‥」
 馬に預けておいた刀を愛おし気に腰へおさめ、天矢がケラケラと笑い出す。
「‥‥終わったな。後はコイツを始末するだけだ」
 そして玲は切り株を掘り起こし、風呂敷に包んで溜息をついた。
 二度と人喰樹が現れないように願いつつ‥‥。


(代筆:ゆうきつかさ)