ハニワ兵を排除せよ!――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月29日〜07月06日

リプレイ公開日:2004年07月07日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。

 そんな中でも、学究の徒の活動はきちんと行われている。ジャパンに限らず、古墳などの遺跡調査は活発だ。古きを知り新しきを知る。それは重要な事である。
 しかし実際のところ、遺跡に関してはかなり乱暴な扱いを受けているのが現状である。冒険者という冒険者が、遺跡荒らしとなって内部に入り込み、墳墓を暴き副葬品などを持ち出している例が多々あるからだ。古代の技で作られた魔法の物品などを求める者は、決して少なくない。そして需要があれば供給が求められるのである。

「今回の仕事は、東国で見つかったある古墳の調査に協力することよ」
 冒険者ギルドの艶やかしい女番頭は、火のついたキセルをくゆらせながら、短くそう言った。
「江戸から東に3日ほど行った場所に、未探索の古墳が見つかったの。そしてある学問所の調査隊がそこに派遣されることになったんだけど、その探索に冒険者を駆り出す事になったのよね。理由は道中の警備と、遺跡内部に居る守護者の排除。未探索の古墳ともなると、何がいるか分からないからね」
 妖しく、女番頭が笑う。
「得られた副葬品はすべて学問所のものになるけど、報酬は結構いい額を預かっているわ。もちろん調査隊の人には、ケガひとつ負わせてはダメ。それと、この古墳の情報はもう流れる所には流れているから、妨害者、平たく言えば墓荒らしたちには注意して」
 タン!
 女番頭がキセルを火箱に叩いた。
「じゃ、よろしくね」
 女番頭が、笑いながら言った。

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0247 結城 利彦(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0366 藤原 雷太(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0740 李 欄華(27歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1040 ゲオルギー・アレクセーエフ(39歳・♂・ファイター・人間・ロシア王国)
 ea1050 岩倉 実篤(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1347 李 鈴華(19歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea2538 ヴァラス・ロフキシモ(31歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea3899 馬場 奈津(70歳・♀・志士・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文

●学術調査隊かく奮闘せり
 学問所の台所と言うのは、正直言って苦しい。
 寺や御公儀の学問所などとは違い、この時代の私塾とも言える学問所を取り巻く環境は、冷たいものだ。実質何がしかのパトロンを得なければ、発掘ひとつもままならない。パトロンというのは、金を出してくれる、いわゆるスポンサー――普通は商家――である。
 それも益が無いとなれば、すぐに打ち切られてしまう。パトロンにとって金を出すということは、ビジネスなのだ。宣伝という側面は強いが、それだけに広く響き渡るような『成果』を挙げなければならない。平たく言えば、自慢にもならないことに出す金は無い、というわけだ。

 さて、そういうわけで今回の発掘は、是が非でも成功させなければならない。墓を暴くというのは盗掘にも等しい行為ではあるが、大義名分で飯は食ってゆけないのである。何よりも成果を! 貧乏な学問所が生き残ってゆくには、成果を挙げ続けねばならないのだ。
 その学問所に、高給で雇われたのは次の10名。

 ジャパン出身。人間の浪人、月詠葵(ea0020)。
 ビザンチン帝国出身。人間のウィザード、デュラン・ハイアット(ea0042)。
 ジャパン出身。人間の志士、結城利彦(ea0247)。
 ジャパン出身。人間の志士、藤原雷太(ea0366)。
 華仙教大国出身。人間の女武道家、李欄華(ea0740)。
 ロシア王国出身。人間のファイター、ゲオルギー・アレクセーエフ(ea1040)。
 ジャパン出身。人間の浪人、岩倉実篤(ea1050)。
 華仙教大国出身。シフールの女武道家、李鈴華(ea1347)。
 ロシア王国出身。エルフのファイター、ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)。
 ジャパン出身。パラの女志士、馬場奈津(ea3899)。

 戦闘集団としては、ちょっとしたものである。
「目的の古墳は、邪馬台国に滅ぼされた豪士のものと思われます」
 汗を拭きながら、発掘機材を載せた大八車を引くロバを進めているのは、間宮吾平という学問所の頭取だ。三十がらみのうんちく好きで、道中ずっと喋りっぱなしであった。最初は興味深く聞いていた冒険者諸賢も、男のおしゃべりに付き合わされて多少げんなりしていた。
「ごたくはいいからよぉー、問題の古墳にはいつ着くんだよっ!」
 話が三巡ほどしたところでついに、ヴァラスがブチ切れた。あまり気長なほうではないのに、よく三日も持ったものである。
「あそこです」
 吾平が、指を刺す。が、一同には何がなんだか分からない。
 そこはブナ林の中で、立派なブナが何本も生えているだけだ。小高い場所には低木が生い茂り、一見して何がどうとは見て取れない。
 吾平は黙ってロバを進め、そしてある場所で止まった。そこには巨石がでんと居座り、積み重なっていた。
「これが、入り口です」
 吾平が言う。
 確かに、自然の森には似つかわしくないものである。何か意図されて運ばれたものであると、たやすく予想できる。
 しかし誰が、どうやって? 疑問は尽きない代物でもあった。
 吾平を首長とする学問所の面々は、すぐに行動を開始した。宿泊所を作り道具を整頓し、発掘の準備を進める。発掘自体は地味な作業なのだが、古代の古墳には『ハニワ』という守護者が居る場合が多い。これは素焼きの陶器のような材質で出来たゴーレムの一種で、弱いが生産性が高いらしく、古墳からは必ずといってもいいほど出土する。そして調査隊の面々の前に立ちふさがるのだ。
 吾平の話によると、この入り口を基点に木の枝葉のように古墳が左右に並んでいるらしい。冒険者一同にはただの森と山にしか見えないが、見識のある人にはまた見え方も違うのであろう。
「さて、我々も行動を開始しよう」
 デュランが言う。まずは魔法<ブレスセンサー>で周囲の気配を探る。古墳の内部に、すでに誰かが入っていれば、これですぐに分かる。
 幸い、まだこの遺跡には誰も入っていないようだった。数箇所で試したから、多分問題無いだろう。
 ゲオルギーは黒く染めた糸を、周囲に張り巡らせていた。誰かが引っかかったら、鳴子が鳴る仕掛けになっている。学問所の稼ぎを掠め取ろうと言う、墓荒らしを警戒してだ。
 今回の一件、古墳の発掘の完了と共に何者かの襲撃! ということが、十分考えられる。鈴華もシフールの特性を活かして、空から周囲の偵察だ。
「発掘は明日からですな」
 吾平が言う。今日は準備だけで、ほとんど終わってしまった。早くも夕日は山の稜線に沈みかけ、空は夜のその色を見せ始めている。
 一同は張り番を立て、明日の発掘に備えた。発掘のメインになるハニワ退治は、冒険者の役目だ。

●ハニワ兵との対決
 穴だけの眼窩の奥に殺意をみなぎらせ、その物体はカリカチュアのような腕を伸ばしてきた。ザム! ザム! と群れで進軍するその姿は、確かに兵(つわもの)である。
 赤土色の素焼きのゴーレム、ハニワであった。
「確かに数はあると聞いたが……」
 利彦がぼやく。ハニワは通路一杯にひしめき合っていて、まさに大群。
「スマーッシュ!」
 ぱりーん!
 利彦の日本刀が、ハニワを粉々に砕いた。これでいくつ倒したか。攻撃を受けるより、自分の疲労の方が深刻であった。
「でやっ!」
 ゲオルギーが三連発を決めた。しかしダガーなので、いま一つ打撃力に欠ける。戦士は重装備重防御力と割り切ったほうが、良い場合がある。魔法を使わないのであれば、無理に軽装にする必要もない。
「後学にはなるかもしれないが……これは手間取りそうだな」
 実篤が、さすがに辟易した声色で言う。なんにつけ動じる事の無い彼も、この数にはさすがに手を焼いていた。
「守りは薄くなるが、外の連中を呼んでこよう。この人数では、ハニワ相手でも問題が出そうだ」
 実篤の言葉で、一同は体勢を整えることになった。

 結局、一同が発掘調査をできるようになったのは、二日後だった。

●盗掘団襲撃
「すばらしい! これはすばらしい!」
 吾平は、発掘した墳墓を見て歓喜の声を上げた。かなり興奮している。
 全員でかかり100以上のハニワを粉砕して内部に入り込んだ発掘隊は、そこで一つの歴史的発見を見ることになった。
 石室は五つ。それぞれに石棺があり、厳重な封がされている。
 本調査は後日行うとして、今は副葬品などの鑑定が行われていた。
 副葬品の内容は、装身具に武具、護衛と思われる土偶に土器、絵の描かれた文献と、多岐に渡る。これはその時代の情報を得るのに役立つ、貴重な資料である。また副葬品の武具には、時には魔法のかかっているものもある。
「なあ、やっぱり居(お)るで」
 鈴華が、パーティーの面々に向かって言った。
「時々見えるんやけど、あたしらは見張られてるな」
「そういうのは倒すですよ」
 葵が言う。まだ10歳の少年である。
「まあ、来たら叩きのめしてあげようよ」
 余裕すら感じさせる物言いで言ったのは、欄華である。相手の数もわかっていないのだが、細かいことは気にしない主義だ。

 そして、その時は来た。
 カランカラン。
「来た」
 鳴子が鳴った。戦いの始まりである。
「私は調査団と発掘品が心配だ。ここは任せる」
 デュランが言う。
「総員、戦闘配置じゃ!」
 ずらりと手裏剣を並べて、老志士、奈津が言った。パラの老女で、御歳59歳である。年の功を買われて、指揮を執っている。
 盗賊団の人数は、20名ぐらいのようだった。ぐらいというのは、夜陰にまぎれてきたので総数がつかめなかったからである。
 先制したのは、盗賊団だった。矢を射掛けてきたのだ。ミサイルパーリングを持っていない面々は、いきなり怪我を負ってしまった。あわてて木陰に身を隠す。
「てめぇよくもやりやがったなぁっ!」
 口汚く言ったのはヴァラスである。ぷちぷちと、何かが切れる音がした、ような気がした。
「来るでぇ!」
 鈴華が言う。闇の中からわらわらと、いかにもな連中が湧き出してくる。
「ていてい!」
 ぺちぺちと、盗賊に向かって、鈴華が小さな拳を振る。あまり効いているようには見えない。
「やるです!」
 チン。
「ぐわあああああああっ!」
 葵の居合い――<ブラインドアタック>が一閃した。盗賊が悲鳴を上げて倒れる。
「食らえ!」
 ずどん!
 利彦の<スマッシュ>が、盗賊を叩き伏せた。日本刀は重量がある。一撃は重い。
「秘剣! 唐竹割り!!」
 雷太が、バーストアタックを放った。相手のかぶとを割り、頭に怪我を負わせた。
「鳥爪撃(ちょうそうげき)!」
 欄華の素早い蹴りが、盗賊を叩きのめす。
「ゲオルギーでもアレクでも好きに呼べ!!」
 盗賊に向かってそう吼えたのは、ゲオルギーであった。<ガード>で守りを固め、ダガーで相手を叩く。着実に相手にダメージを蓄積させ、有利に戦闘を運んでゆく。
「ふん!」
 チン。
 実篤が、<ブラインドアタック>を決めた。
「無益な殺生はいい。相手を戦闘不能にすれば十分だ」
 実篤が言う。
 盗賊団は予想外の冒険者の抵抗に、分断され各個撃破されていった。

●終わりに
「ありがとうございます」
 吾平が、一同に向かって言う。
 盗賊達は壊滅した。冒険者の活躍によって。
 逃げた盗賊たちも居たが、もう襲ってこようという気は起こさないだろう。それぐらい叩きのめした。
「あとは盗掘されないように、入り口をふさいでおくだけです。研究は江戸で行います。また機会があれば、よろしくお願いいたします」
 深々と、吾平が頭を下げた。

【おわり】