熊鬼退治――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月02日〜01月09日

リプレイ公開日:2005年01月12日

●オープニング

●ジャパンの事情
 極東の島国、ジャパン。
 表面上は神皇家の統治する封建君主国家だが、その実は超多数の封建領主が乱立し、派閥を作り互いにけん制しあっているプレ戦国時代国家である。
 ジャパンを統一するのは誰か? と問われれば、江戸の源徳、京都の平織、長崎の藤豊あたりが濃厚だろうと答えられる。それ以外の領主たちは、月道を含めた地政学上、いろいろと不利だ。奥州には大国があるが、これもぱっとしない。というより、手を出すタイミングを逸して状況を静観しているような感じである。
 この微妙な緊張をはらんだ十数年の平和の間に、個々の勢力は着実に力を付け、戦争準備を行ってきた。いまや状況は膨らみきった風船のようなもので、何かひと刺激あれば簡単に激発してしまうだろう。それが火山の噴火なのか隕石の激突なのかはわからない。ただ何かの拍子に『それ』が起きたとき、事態は風雲急を告げる、ということになるはずであった。
 とは言っても、そんなことは庶民たちにはあまり関係無い。市民たちは日々の生活に追われており、ちゃんと三度の食事を取るのも大変である。
 そして様々な揉め事は、冒険者ギルドに持ち込まれるのだ。

「今回の依頼は、江戸東のとある村から来てるわ」
 そう言ってキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼内容は、熊鬼(バグベア)の群れの殲滅。その村の近くに洞窟があるんだけど、そこの小鬼を駆逐して熊鬼の家族が住み着いたみたい」
 熊鬼といえば、初心者冒険者にはちょっと荷が重い鬼(オーガ)である。まともにやりあうと、怪我は必須な手合いだ。それが家族単位で来たとなると、闘士クラスの敵が居る可能性がある。はっきり言って、一般人には手におえない。
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「洞窟は、小鬼が住み着いていたんで未探査ということよ。目撃証言によると、高度な武装をした熊鬼が6匹以上。見張りもいるだろうし、当然村や周辺区域を脅かす行為を行うつもりだと思うわ。その場所までは猟師が案内するから、その後を受け持ってちょうだい。以上、よろし?」

●今回の参加者

 ea0238 玖珂 刃(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea0243 結城 紗耶香(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0984 平島 仁風(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4352 馬籠 瑰琿(47歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4419 桐澤 流(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4762 アルマ・カサンドラ(64歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea7873 朝基 狂馬(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

熊鬼退治――ジャパン・江戸

●熊鬼についてちょいと
 熊鬼。
 あまり聞かない『鬼』である。洋名バグベア。個々の強さは、手練れの冒険者と同じぐらい。好戦的だが臆病で、まあ、ばったり出くわしたら戦うか逃げるかの、ほぼどちらかである。
 姿形は、猪の頭をした熊である。膂力はたいしたもので、一撃はかなり痛い。人間をよく襲い、冒険者などから手に入れた鎧や武器を装備していることもある。
 今回の依頼は、この熊鬼の集団(おそらく家族)の殲滅である。撃退ではない。殲滅だ。
 熊鬼もこれぐらいの集団になると、1匹ぐらい戦闘力に抜きん出たヤツが居る。リーダー格のこいつは、通称『闘士』と呼ばれる。
 さらに上には『族長』とか居るのだが、闘士の場合は中ボス程度と考えるといいだろう。
 問題は、その強さだ。
 熊鬼闘士とガチでやりあったヤツは、さすがに少ない。一騎打ちなどやろうものなら、ボコボコにされてサラダのようにおいしくバリバリ食われてしまうだろう。
 ただ、オーガ種一般に言えることだが、魔法にはそれなりに弱いらしい。だから攻略法は、そこにあるはずだった。

●見張り退治
「この先の林を抜けると、例の洞窟になるだよ」
 傘吉という猟師は、かなりビビリながら冒険者達を案内してくれた。
「じゃ、手はずどおりに」
 と言ったのは、自称、『居合い斬り友の会会長』の玖珂刃(ea0238)である。韋駄天の草履を装備して、逃げる気満々であった。つまり、見張りが居たら姿を見せて、おびき寄せようというのである。
「よっこらせっと」
 刃は弓矢を持つと、無造作に洞窟へと近づいていった。洞窟の前には予定通り、胴丸鎧を付けた熊鬼の見張りがおり、殴られたら痛いではすまなそうな六尺棒を持っていた。
「ガフ?」
 堂々と出てきた刃に一瞬頓狂な顔を見せた熊鬼だったが。
 ぷす。
 刃が放った矢が刺さると、「ブモー!!」と叫んで、熊鬼は刃に向かって駆け出した。見事に釣られた形になる。
「紗耶香! 刀!」
「はい!」
 結城紗耶香(ea0243)が、預かっていた刃の刀を彼に投げ渡す。そして自身は、呪文の詠唱に入った。
 ずざざざざっ!
 下生えをかきわけて勢い込んできた熊鬼は、待ち伏せしていた冒険者のど真ん中に出てきて――転んだ。
「かかりましたね」
 島津影虎(ea3210)が言う。彼は斥候として状況を探り、ついでに罠をしかけておいたのだ。足を引っ掛け転ばせる程度のものだが、これが戦闘にはよく効く。
「ほれ、食らいな!」
 平島仁風(ea0984)が、《ダブルアタック》でいきなり痛撃を与えた。
「新年そうそう景気が悪いな」
 馬籠瑰琿(ea4352)が、倒れている熊鬼にさらに一撃を与えた。続いて桐澤流(ea4419)も剣を振り下ろす。その一撃は、熊鬼の肩をざっくりと割った。熊鬼が悲鳴を上げる。
 アルマ・カサンドラ(ea4762)は、先ほどから詠唱していた呪文を開放した。《コアギュレイト》が、熊鬼の動きを止めた。
 リフィーティア・レリス(ea4927)が魔法を開放した。《サンレーザー》が熊鬼の背を焼くが、熊鬼は悲鳴も上げられない。
 朝基狂馬(ea7873)は、すさまじい喜悦の声を上げながら熊鬼を斬りつけていた。刀を持つと、性格が変わるのである。残忍にして冷酷。敵には回したくない。
「お前に恨みは無いが‥‥これも仕事だ。悪く思うなよ‥‥」
 天風誠志郎(ea8191)が、最後に熊鬼にとどめを刺した。

●いぶり出し作戦
 熊鬼については、煙でいぶり出して出てきたところを各個撃破することになっていた。薪や藁を入り口に置き唐辛子を混ぜる。あとは鯨油をかけて火をつけるだけである。
「周りには、特に出口らしいものは見当たりませんね」
 先ほどとはまったく違う雰囲気の、朝基狂馬が落ち着いた口調で言った。
「火を着けよう」
 玖珂刃が言い、火が着けられた。煙がもうもうと昇り、洞窟の中に流れ込んでゆく。洞窟は無風状態らしく、扇いでやらないと中になかなか煙が入ってゆかなかった。交代で扇ぎ役をかわりながら、熊鬼が出てくるのを待つ。
「おらおら熊鬼さん達よぅ、さっさと出て来ねぇと燻し肉にしちまうぞー!」
 平島仁風が言った。
 ブモー。
 洞窟の中から、なにやら声が響いてくる。
「来る」
 結城紗耶香が、魔法を唱える準備に入った。
「まずはお任せあれ」
 島津影虎が、余裕の笑みを浮かべて言う。
 どすどすどすどす。
 重い足音が響いてきた。それが出口に出ようとした瞬間、何かにつまづいて転んだ。
 影虎が張った、罠であった。足を引っ掛ける程度のものでも、こういう時はよく効く。
「おるぁ死ねっ!」
 仁風が、いつになくやる気になっている。別に相手が弱いとかではなく、松の内の依頼などさっさと終わらせたいからだ。
「ふぅ、新年早々、難儀な事で‥‥」
 馬籠瑰琿が、ひょうたんを傾けて刀に酒しぶきをかけた。そばにはアルマ・カサンドラが控えている。すでに状況は動いており、冒険者たちのほぼ思う通りに進んでいた。出口から出てくる熊鬼を取り囲み、一匹一匹確実に仕留めてゆく。いぶり出し作戦はうまく行くかどうか半々といったところなのだが、とりあえず今回は成功しているみたいだ。アルマは《コアギュレイト》で確実に熊鬼の動きを止めている。固められた熊鬼などただの木偶(でく)である。狂馬は人が変わったように、凶暴に戦っていた。語る事はあまり無い。
「《サンレーザー》!」
 リフィーティア・レリスが、魔法を放った。それは熊鬼の体皮を焼き、嫌なにおいをさせた。効いている。
「くたばんな、このデカブツ!!」
 桐澤流が、《オーラパワー》で威力を強化した刀で切りつける。確かな手ごたえがあったが、刀が刃こぼれしないかとひやひやものだった。こういう時は、《バーストアタック》を修得しておくと良いだろう。
 ブモ――――――――――――ッ!!
 ひときわ大きな、熊鬼の声がした。
「本命が来るぞ!!」
 天風誠志郎が言った瞬間、煙の中からひときわ大きな熊鬼が吶喊してきた。
「うおっ!」
 ガキッ!!
 熊鬼の棍棒を、誠志郎は奇跡的に受けることができた。ただ突進力を相殺することは出来ず、両足が地面に溝を掘って3メートルほどずり下がった。
「強いぞ! 気をつけろ!」
 アルマとリフィーティア、狂馬と紗耶香が呪文の詠唱に入る。熊鬼闘士が周囲を睥睨し、目標に定めたのは紗耶香だった。
「まず!」
 刃がとっさに、身体を入れる。剣で棍棒を受けようとして――受け損ねた。
 ばきん!
 刃の身体が吹っ飛んだ。あばらが2本ほど逝った感じだ。これほどの痛撃を受けたのは、冒険稼業をやっていて初めてだった。
「燃えろ、燃えろ、燃えろォォォ!! 《マグナブロー》!!」
 ごふぁっと地面から炎が噴き上がり、熊鬼を包み込む。しかし、それぐらいで熊鬼は死なない。
「《ウインドスラッシュ》!」
「《コアギュレイト》!」
「《サンレーザー》!」
 攻撃魔法が、連続して叩き込まれた。《コアギュレイト》が決まれば勝ったも同然だが、熊鬼は耐呪した。むしろ痛みに震え、しゃにむに攻撃してくる。こうなると、あとは息の根を絶つしかない。
「あたしたちは、一斉に死点を狙う!」
 瑰琿が叫んだ。年長で熟練であれば、指揮は任せてもいいだろう。
「頭! 心臓! わき腹! いっせいにいくよ!」
「「「応!!」」」
 瑰琿の指揮の通りに、一同が組織的に熊鬼の急所を狙う。
 ずばっ、ずびゅっ!
 肉を穿つ死音が、いくつも響いた。
 どずん‥‥。
 熊鬼闘士は、やっとで斃れた。
 強敵だった。

●終われば宴会
 冒険者一行はなんとか任務を果たし、無事に帰路についた。村では祝いの宴が催され、熊鬼退治の武勇談をせがまれた。
 ちなみに瑰琿はその日、5升ほど酒を飲んだらしい。
 熊鬼が着ていた武具については、残念ながら目ぼしいものは見つけられなかった。値がつかないと言ったほうが正しいかもしれない。もう少し装備の良い熊鬼なら、あるいは結果が違っていたかもしれない。
 いずれにせよ、松の内早々の血なまぐさい事件は終わった。後は長屋に帰って、ゆっくりコタツでみかんするも良いだろう。
 一件落着。

【おわり】