大日本昔話――いたずらキツネ

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 45 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月02日〜02月07日

リプレイ公開日:2005年02月11日

●オープニング

●当世ジャパン冒険者模様
 ジ・アースの世界は、結構物騒である。
 比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
 それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
 そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
 それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
 冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
 基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。

「というわけで、今日も『仕事』が入ってるわよん☆」
 と、明るい口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は、善巧寺というお寺の和尚さん。依頼内容は、ご本尊に化けてしまったいたずらキツネを捕まえて、こらしめること。このキツネ、人を化かしたりしてたいそう近所に迷惑をかけていたらしいんだけど、今度は寺のご本尊に化けてしまったらしいのよね。今ご本尊は二つあって、どちらかが偽者なんだけど、間違って本物に傷を付けたりしちゃ問題あるしで、手を出しあぐんでいるのよ。もちろん本尊は移動禁止だし、本堂の中にあるから乱暴な手段も取れないわ。どうにかしてキツネが化けている方を見分けて懲らしめてやってちょうだい」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「以上、よろし?」

●今回の参加者

 ea0238 玖珂 刃(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea0243 結城 紗耶香(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0366 藤原 雷太(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0691 高川 恵(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1181 アキ・ルーンワース(27歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3571 焔雷 紅梓朗(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4233 蒼月 惠(24歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)

●サポート参加者

結城 利彦(ea0247)/ 玖珂 麗奈(ea0250

●リプレイ本文

大日本昔話――いたずらキツネ

●善巧寺
 善巧寺(ぜんこうじ)のご本尊は、弥勒菩薩(みろくぼさつ)である。
 弥勒菩薩は大乗仏教の菩薩の一人で、釈迦の委嘱を受けてその入滅後、五六億七〇〇〇万年後に仏としてこの世に生まれるとされる救済者だ。サンスクリット語ではマイトレーヤといい、意訳では慈悲の慈をとって慈氏菩薩と言われる。釈迦の不在をおぎなうので補処(ふしょ)の菩薩ともよばれる。この世に下生(げしょう)するまでは兜率(とそつ)天の内院に住して、不断に衆生のために説法しているという。
 西欧人が『アルカイック・スマイル』と称した笑顔を見せる、趺坐(ふざ)した仏像である。
「よろしくお願いいたします。ですがくれぐれも、ご本尊に失礼の無いように‥‥」
 寺の住職である、国仁(こくじん)という名の坊主が言った。場所は本堂ではなく、狐に話を聞かれないように和尚の部屋である。
「あのぉ〜、いちおうぅ〜、落書きさせてもらいたいんですがぁ〜」
 ぷち。
 蒼月惠(ea4233)の言葉に、国仁がいきなりキレた。
「そんな罰当たりな! そもそもこのご本尊は‥‥」
 坊さんが本気で説教モードに入ると長いので、この場はスルーしておく。
 ともあれ、冷水による水拭きや煙によるいぶりだしなどの手段は、完全に却下された。とにかく手を触れてはならない汚してもならない、ということらしい。
 この時点で、惠をはじめ、潤美夏(ea8214)、風月明日菜(ea8212)、藤原雷太(ea0366)らの『冷水で洗う』『くすぐる』などの手段や、凪里麟太朗(ea2406)の『煙でいぶす』などの、本尊や本堂をどうにかする手段は封殺された。
「さてどうしようか‥‥」
 一同が考える。
 ま、別に用意していた手段はそれだけでは無いんだけどね。

●狐と人間の化かしあい 1
「ここの菩薩様は、稲荷寿司を置いておくと夜中に食べるんじゃ。そして米粒を三粒、口の周りに付けておくのじゃ(棒読み)」
「なあるほどう、それは珍しい菩薩様だなぁ(棒読み)」
 国仁和尚と焔雷紅梓朗(ea3571)が、本堂で碁を指しながら、当人たちは立派に演技しているつもりで言った。
 しかし、台詞回しはかなり不自然である。ほとんど棒読みであった。演技の訓練などした事も無い二人である。まあ、やむなしであろう。
 ――これで、明日の朝には正体が判明してるって寸法だぜ!
 確信を持ちながら、紅梓朗が心の中で思う。

    *

 さてその晩、稲荷寿司は本堂の中に置かれた。
 そして翌日。
「ありゃ、参ったぜ」
 紅梓朗が言う。
 本堂に添えられた稲荷寿司は、確かに無くなっていた。
 そしてご本尊にも飯粒が付いていた。
 両方に。
 二つの本尊の口には、両方とも飯粒が三粒づつ付いていたのである。
 どうやらこの狐、一筋縄ではいかないようであった。

●狐と人間の化かしあい 2
 翌日。
 高川恵(ea0691)は、一計を案じていた。
 ――和尚様には、あまりしゃべらないでもらいましょう。
 というわけで、今度は本堂の外。廊下で和尚様と雑談しているというシチュエーションである。
「ご本尊が二つ! このお寺には、以前も同じような事件があったそうですね」
 という恵の言葉に、和尚は「うむ」と短く答えた。あらかじめ、あまり話さないように申し含んでおいたのだ。
「そのときは、本物のご本尊が真夜中に歌を歌い始めて本物が判明したと聞きますが、本当ですか?」
「うむ」
 和尚がうなずく。
「どんな歌ですか?」
 恵が問うた。
「万葉和歌じゃ」
 あらかじめ用意していた答えを、和尚が言った。
「それは聞いてみたいですね」
 云々。細工は流々、仕上げをごろうじろ。

    *

 さてその晩。
 ――そろそろ真夜中ですね。
 狐の歌を聞くために、恵は本堂脇の廊下に詰めていた。
 そして。
『わがつまは――いたく恋ひらし――呑む水に影(かご)さへ見えて――よに忘られず――』
 ――来た!
 恵が、はやる気持ちを抑えて思った。ちなみに詠まれた詩は、万葉集でもかなり有名どころの『防人(さきもり)の歌』である。
「どうやら、本物のご本尊がお歌いになっているようですね」
 と、用意していたセリフを言いながら、恵は本堂に入った。
「‥‥‥‥‥‥」
 ところが本堂に入ったとたん、歌が聞こえなくなったのである。それどころか、こんな書面が本堂の座布に置かれていたのだ。
『ひっかからないよん☆ ご苦労様』
 ――ばっ、ばっ。
 ぷちんと、何かがキレる音がした。
「馬鹿にしてぇ〜〜〜〜〜!!」
 ご本尊をぶった斬りかけた恵を、一同が止めにかかった。

●一応、貴重品です
「やはり実力行使しか無いのではないか?」
 女ドワーフ戦士美夏が、ヒゲをいじくりながら言う。
「大きな音を出すって言うのはどーですかー♪」
 明日菜が言った。どれぐらいの音なのかは分からないが、かなり破壊的な音量になることだろう。
 藤原雷太は、じっと本尊をにらんでいた。にらめっこのつもりだ。
 しかしその程度で正体が露見するほど、相手は甘くない。
 ――煙でいぶせば一発なのに。
 家庭内シゴキ(ドメスティック・バイオレンス)から逃げてきたという凪里麟太朗が思う。しかし本堂全部に充満させる煙などを発したら、本堂は臭くて二度と使用できまい。
「やれやれ、ずいぶん階段を登らされたな」
「やっとついたか」
 そこに、二人の冒険者がやってきた。見送りに手間取って来るのが遅くなった、玖珂刃(ea0238)と結城紗耶香(ea0243)である。
 かくかくしかじか。
 今までの状況と状態を、かいつまんで説明する。
「それなら簡単なことだ」
 と、紗耶香が言う。そして呪文を唱え完成させた。
「ふむ‥‥本堂へ行こう」
 紗耶香はそう言うと、無造作に本堂へと向かった。そして入るなり、「右の本尊が偽者だ」と言ったのである。
「なぜ分かるのじゃ?」
 和尚の問いに、紗耶香は答えた。
「ご本尊は木仏と聞いている。しかし右の菩薩像は息をしている。木仏は息などしない」
 精霊魔法には、生物の呼吸を探査する《ブレスセンサー》という魔法がある。紗耶香はさっき、それを唱えたのである。
 ぴょん!
 右の仏像の頭に、とがった黄色い耳が現れた。
『ちくしょうバレちまった!!』
 さすがに精霊魔法による探査は想定していなかったのであろう。化け狐は、その正体を現した。
「あ、待て!!」
 自称『居合い斬り友の会会長』である刃が言う。キツネははしっこく本堂を逃げ回ると、障子を破って外に逃げていった。
 ――コーン。
 キツネの、鳴き声が聞こえる。
 一応、事件は解決したようである。
「ありゃ、もう終わりかよ」
 刃が、拍子抜けしたように言った。

●その後
 その後、善巧寺のご本尊はちゃんと奉られ、現在は息災にしているという。
 ただ、化け狐は懲りていないだろうから、きっとまた何かするだろう。
 ――この次は、絶対にだます!!
 冒険者の中の数名は、妙な気迫を持って家路へとついた。

【おわり】