モンスターぢぢい――ジャパン・江戸
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 22 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月03日〜02月06日
リプレイ公開日:2005年02月06日
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●オープニング
■サブタイトル
『第1話 超兵器ぢぢい現る』
●当世ジャパン冒険者模様
ジ・アースの世界は、結構物騒である。
比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。
「というわけで、今日も『仕事』が入ってるわよん☆」
と、明るい口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は、江戸から北西に一日ほど行った場所の村の村長、権兵衛さん(52)。依頼内容は、村で暴れている冒険者を止めること」
京子が言った。冒険者が村で暴れるというのは、ただ事ではない。
「実は先日、ある冒険者に山鬼退治を頼んだんだけど、それがなんか、村を巻き込んでの大立ち回りになっているらしいのよね。現在もその冒険者は、村を戦場に山鬼と戦闘中。家屋や畑に、相当の被害が出ているようだわ」
そこで京子が、人相書きを出した。年齢を感じさせる皺深い老人で、門構えの口ひげを生やしている。
「その冒険者、名前はジルマ・アンテップ。イギリス生まれの、ジャイアントのウィザードよ。黒いローブを着ているから、見たらすぐにわかると思うわ」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「とにかく、これ以上被害が拡大する前に、このじーさまを止めて山鬼を退治すること。事は急を要するわ。急ぎでお願い」
●リプレイ本文
モンスターぢぢい――ジャパン・江戸
●ジルマ・アンテップ――その生涯
イギリスではちょっと知られた変態――もとい、変人魔術師、ジルマ・アンテップ。
彼について多くを語ることは可能だが、あいにく誌面が圧倒的に足りない。
そこで今回は、ジャパンで起きた山鬼退治の話しをしよう。
もちろん、ジルマが解決した話しである。
*
ケーン。
どこかで、雉が鳴いていた。
「は、腹減った‥‥」
ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)が、村に到着するなり言った。道行きの食料を買い忘れたのだ。
「これは想像以上ね‥‥」
周囲を見回し、西方亜希奈(ea0332)が言う。
そこは、廃墟だった。破壊し尽くされた木造家屋が、寒風に吹きっ晒されている。人気は無く、あらかじめギルドに言われなければ、ここが問題の村であったことを認識することも出来なかっただろう。
‥‥ず‥‥ん。
「何か来るぞ」
狩野龍巳(ea2740)が、朱槍を構えて言う。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
引きつった声を上げて路地から出てきたのは、村人らしい農民だった。その後から、赤い肌の鬼が追ってくる。
「いけません!」
六道寺鋼丸(ea2794)が、六尺棒を構えて前に出た。村人と鬼の間を割るように、前に立つ。ちなみに龍巳の反応が悪かったのは、村人が男だったからである。
「ガアアアアアッ!!」
がぃん!!
鬼の金棒を、鋼丸が受けた。なんともすさまじい音がする。
――手ごわい!
鋼丸が間合いを空けようとしたとき。
「マジック・パ――――――――ンチ!!」
どベガンッ!!(4倍角)
黒い颶(ぐ)風が、横合いから鬼を殴り倒した。鬼は4メートルほど吹っ飛んで、家屋の壁に激突した。
「あぶないところじゃったな(イギリス語)」
かっと笑顔の歯を光らせて、その巨漢は言う。黒髪に青い目。門構えの黒い口ひげに、皺深い顔。そして、圧倒的な肉の量を誇る、ギリシャ彫刻のような体躯。レオーネの支援者の情報どおりの外見だった。
ジルマ・アンテップ。通称『超兵器ぢぢい』。受けた依頼は100パーセントこなし、そして依頼人が泣けるほどの破壊を撒き散らす人間災厄(ヒューマン・カラミティ)。依頼人は普通、地獄の釜の底を見て依頼をしに来るが、それが実はまだ上げ底だったことを認識させてくれる巨大生物災害(メガクリーチャー・ハザード)。
「予想が当たりましたね‥‥」
その姿を見た瞬間げんなりしたのは、白クレリックのララ・ルー(ea3118)である。同郷のこのジャイアントは、イギリスでも一部に有名であった。
「むっ! しまった(イギリス語)」
そう言うと、ジルマは呪文の詠唱を始めた。ちなみに通常詠唱である。
「《ブラックボール》!!」
ぼふんと、ジルマの頭上に黒い球体が浮く。かけられた魔法を吸収してしまう、アンチマジックボールである。
ジルマは、マントも付けていない破れ姿。この状態ならば、最速の行動と攻撃が出来る。さらにこの《ブラックボール》によって魔法を無効化してしまえば、もはや彼に恐いものは、嫁さんしか居ない。
――なるほどっ!
と手を打ったのはゴルドワであった。魔法が使えなくなるのが《ブラックボール》の弱点だが、最初から使うつもりが無ければまったく問題ない。理にかなったシフトである。
問題は、オーガ相手に魔法を警戒するのはどうかと小一時間説教したいところだが。
「ガアアアアアアッ!!」
ジルマが魔法を唱えている間に、鬼が起き上がって来た。ちなみに鼻から鼻血を吹いていた。
まったくの余談だが、赤鬼も殴られると青いあざが出来る。
ぶんっ! と、青だか赤だか分からない顔をした鬼が、金棒を振った。それは呪文詠唱で無防備になったジルマの、胴体にめり込んだ。
「ぃい痛いではないかっ!!(イギリス語)」
どべきいぃいいいいん!!
ジルマが鬼を蹴った。彼流に言うのならば、きっと『マジック・キック』であろう。鬼はもんどりうって別の家屋に叩きつけられ、半壊していた家を全壊せしめた。そしてジルマは、次の獲物を探しに、その場を去る。
――はっ!(×10)
約20秒ほど幽体離脱していた冒険者たちが、我に返った。
「こ、これは予想以上ね」
レオーネ・アズリアエル(ea3741)が、やや引いた物腰で言った。彼女は色々とジルマに関する噂を聞きこみ替え歌まで作っていたのだが、実物は当社比3倍ぐらいすごかった。
「めんどくさ‥‥放っておこうかなぁ‥‥」
不謹慎なことを考えているのは、天藤月乃(ea5011)である。まあ、ジルマが山鬼を殲滅したら、騒ぎは収まるだろう。そのころ村がどうなっているかは、分からないが。
「はてさて、戦況はどう見たら良いのだろう?」
天羽朽葉(ea7514)が、周囲を見回して言う。
赤鬼が一つ、青鬼が二つ、家屋の残骸の中に倒れている。だがこれだけの被害を出して、村人の被害が出ていないのは、はたして偶然かジルマの人徳か。
前者の可能性が高いなぁ‥‥(記録人メモ)。
「僕、追います!」
言ったのは、楠木麻(ea8087)である。ジルマは別の場所で山鬼と戦闘中であった。
「ここは私達に任せてください! ジルマさんはあそこの山にいる山鬼の王、『山鬼王(適当)』を倒してください!!(ジャパン語)」
「マジック・ヘッドロック!(イギリス語)」
あ、通じてない。
ボギンという音がして、ジルマは山鬼の首を腕力でへし折った。
「超兵器‥‥、これ程までのものとは思わなかったわ‥‥ていうか、人の話を聞きなさいよ!(ジャパン語)」
「マジック・スープレックス!!(イギリス語)」
昏倒勇花(ea9275)が説得を試みたが、ジルマには届いていないようだった。その間にジルマは、青い山鬼を一匹撃沈した。畑に大穴があいた。
それ以前に、ジルマはずっとイギリス語しか話していない。自然と、視線はイギリス人のララ・ルーに集まっていった。
いや、この間もジルマと冒険者は、山鬼と熱く戦っているんだけどね。
「わわわ、私はダメです!」
ララが、自動人形のようにぶんぶんと首を振った。出来れば係わり合いになりたくない相手である。それが証拠に、現代語万能を持っているレオーネは口をつぐんでいた。告死天使を自称する彼女も、「アレはだめ」状態であった。
「いや、ナントカしてくれ、マジで(大汗)」
龍巳が、山鬼と戦いながら言う。今、向こうで木が倒れた。多分ジルマの仕業だろう。
「《グラビティーキャノン》!!」
麻が、奮戦している。しかし山鬼は村の中に入り込んでいて、魔法の効果で家屋にも傷をつけている状態だ。
「むしろ帰ってもらったほうが良い気がする‥‥」
朽葉が、ぼそりと言う。《オーラソード》で山鬼を切り刻み、戦況は良好と言えよう。
鋼丸は離散している村人のケアに奔走していた。レオーネは戦技を駆使して戦っている。鎧の無い山鬼はよく切れた。
「無力な村民の安全の為に、山鬼と戦うのはわかるわ。でも、戦うなら村の外でやるのが道理。それが出来ないと言うのであれば、貴方は山鬼と同じよ! 違うと言うのであれば、今直ぐ村の外に出て山鬼と戦いなさい! 出ないというのであれば、この私が仲間と共に力ずくで貴方を取り押さえるわよ!(ジャパン語)」
「マジック・ローリングクレイドホールド(20周)!!(イギリス語)」
亜希奈の啖呵を、ジルマは大胆に無視した。単に理解できないだけなのだが。
「ワシが止める! 止めてみせる!!」
ゴルドワが吼えた。そしてジルマに組みかかった。
が。
「しまった! 飯を食っていない!!」
ゴルドワは今、自分が十全の状態ではないことを忘れていた。今のゴルドワは当社比1/3状態なので、ジルマに易々と振りほどかれてしまった。ジルマはイギリス語で「何をするんじゃ!!」と言っていた。
それを掴んだ男が居る。昏倒勇花である。《ホールド》した感触はほぼ互角。おそらく肉弾戦でこれほどの難敵は、そうそうめぐりあえるものでは無いだろう。はちきれそうな筋肉が互いに限界までパンプアップし、衣服を押し上げる。
「もうそこまででおやめなさい!(イギリス語)」
ララが言った。ジルマはやっと、そこで止まった。
気がつけば、村は完全に壊れている。
「終わった‥‥帰ろ‥‥」
月乃はいつもどおり、マイペースだった。
●結局
結局、ジルマは村に残った。山鬼を排除した村の再建のために、尽力するという。なかなか殊勝な心がけである。
だが、依頼的には失敗であった。結局、家屋の倒壊5、全損および半損12。逃げた家畜多数。畑一反が壊滅。そして飼い猫のトラが前足骨折という、散々たる有様であった。
いや、冒険者諸賢の努力は買う。しかし、ジルマという人物についての認識が甘かったと言えよう。
これを教訓に、次回こそ頑張ってほしいものである。
え、もう関わりたくない? そりゃごもっとも。
【おわり】