大日本昔話『牛鬼』――ジャパン・江戸
|
■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 95 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月15日〜02月22日
リプレイ公開日:2005年02月24日
|
●オープニング
●当世ジャパン冒険者模様
ジ・アースの世界は、結構物騒である。
比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。
「というわけで、今日も『仕事』が入ってるわよん☆」
と、明るい口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は、北のきこりの村の村長さん。牛頭鬼が出たらしく、一人死んでるようだわ。曰く、鋸の刃を研いでいたら『何をしとるんじゃ』と物影から聞かれて、『鬼刃を研いでおる。鬼刃は鬼を斬る刃じゃ』と応えたら、去っていったそうよ。あ、鬼刃ってのは、ノコギリの一番手前の太い刃のことね。そんなことが数度あって、ある夜鋸が無い時に‥‥って話し」
タン!
京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「依頼内容は、この牛頭鬼を退治すること。牛頭鬼は、頭は悪いけど強力な化け物よ。充分備えて対処してちょうだい」
●リプレイ本文
大日本昔話『牛鬼』――ジャパン・江戸
●牛鬼
牛頭鬼――ミノタウロスは、西洋ではギリシャ神話に出てくる牛頭人身の怪物である。伝説ではクレタ島のミノス王の王妃パシファエと、海神ポセイドンがミノス王に送った供犠用の見事な雄牛との子供とある。
ミノス王がこの雄牛を犠牲としてささげなかったため、怒ったポセイドンは、パシファエが雄牛に恋するよう仕向け、その交わりからミノタウロスが生まれたいう。
ミノス王は、建築家にして発明家のダイダロスに命じて建造させた、脱出不可能な迷宮にミノタウロスを幽閉し、毎年アテネから貢ぎ物としておくられてくる14人の少年少女を餌としてあたえていた。
アテネの英雄テセウスは、この怪物を退治しようと、自分からすすんで貢ぎ物のひとりとなった。ミノス王の娘アリアドネは、クレタ島に到着したテセウスの姿をみてたちまち恋におち、彼が迷宮の中でまよわないように麻糸の玉をわたした。テセウスは麻糸の端を迷宮の入口の戸にむすびつけ、奥へすすんでいった。迷宮の奥でミノタウロスを発見したテセウスは、この怪物を退治し、それから麻糸をたどって犠牲の少年少女たちをつれて、迷宮からの脱出に成功したとある。
ジャパンにも牛頭鬼、あるいは牛鬼として名前を知られており、東国には民話にいくつもの出現例が見て取れる。
ミノタウロスは戦斧の使い手で、モンスターとしてはかなり強力な部類に入る。油断のならない相手である。
その剣呑な化け物と、高村綺羅(ea5694)は森林でチェイスをしていた。《疾走の術》を用いている限り追いつかれることは無いが、綺羅に有効な攻め手は無い。それ以上に、真正面から戦(や)りあったらおそらく命が無い。
仲間の元までこの化け物を誘導し、全員でかかって仕留める。綺羅の役目はその斥候であり、目標をおびき寄せるためのエサだ。誰かに強制されたわけではない。自分から買って出たのである。
件の襲撃事件があった場所から足跡などの痕跡を辿り、牛鬼の元へたどり着くのには、それほどの苦労をしなかった。ただ捜索は広範囲に及ぶので、重武装の者たちを疲労させないために『待ち伏せ』という手段を取るのが良いだろうと判断したのは綺羅である。
――そろそろ術が切れる。
連続して術をかけているので、精魂のほうが先に尽きそうであった。それというのも牛鬼のほうがあっさり綺羅を見失うためで、誘導するには『着かれず離さず』という状態を維持しなければならなかったからである。つまり、牛鬼の移動速度と脳みそに合わせなければならないのだ。これは、言うは易いが実行するとなるとかなり難しい。
やがて、がくん、と綺羅の移動速度が落ちた。《疾走の術》が切れたのだ。精魂尽き果て、あとは体力に頼るしかない。綺羅は跳躍して樹上に退避すると、一息ついた。
――あと‥‥五丁(500メートル)ほどかな。
綺羅が思う。歩けば5、6分の距離が、今日ばかりはいやに遠い。
がん!
急に、樹が揺れた。下を見ると、追いついてきた牛鬼が、綺羅の休んでいる木を切り倒そうとしている。
ピュ―――――――――――――――ッ!
綺羅は合図の指笛を吹き、近場の木に飛びついた。
●激突! 冒険者vs牛鬼
ピュ―――――――――――――――ッ!
「合図です!」
ルーラス・エルミナス(ea0282)が、顔を上げた。そして息吹を行い、気を練る。オーラ魔法の《オーラパワー》である。まず自分の刀に付与し、さらにアーウィン・ラグレス(ea0780)、緋室叡璽(ea1289)、阿武隈森(ea2657)、馬籠瑰琿(ea4352)の武具に《オーラパワー》を付与した。そして止めとばかりに、自分に《オーラエリベイション》を唱える。
「合図が遠すぎます‥‥少し距離を詰めましょう」
森のほうに一歩も二歩も引かれながら、叡璽が言う。
「出るなら全員で出ようや」
阿武隈が、六角棒を振って言った。
「作戦が絶対ってワケじゃねぇだろ? 仲間がヤバイんだ。臨機応変でいいと思うぜ」
「あたしゃどっちでもいいよ」
瑰琿が言う。
「戦(や)りあうことに変わりは無いんだ。案内さえしてくれれば、仕留めてみせるさ」
頼もしい台詞を、瑰琿が言った。
「行きましょう」
神有鳥春歌(ea1257)が、弓を取りながら言う。
「援護します。綺羅さんが危ないなら、なおさら!!」
満場一致で、冒険者一行は森へと分け入った。
阿武隈が水先案内を行い、一同は森の中へと分け入った。森は魔物。迷ったら、どちらにせよ命取りである。
‥‥ガン、ガン、ガン! ガン!! ガン!!!
何か固い物を叩く音がする。一同がそちらに向かうと、一目で牛鬼と分かる化け物が、ブナの木を切り倒そうとしていた。
――!!
その樹上には、綺羅がしがみついていた。疲労の色が濃く、顔色が悪い。
「綺羅!」
叡璽が声を上げた。
「ぶも?」
牛鬼も、冒険者たちに気づいた。
先に動いたのは、アーウィン・ラグレスであった。フライングブルームで現場に急行して情報収集を行い、あまつさえ村娘まで口説いていたお気楽ぶりだったのだが、さすがに仲間の窮状を見て口数が減っている。
「あ・た・れ――――――――!!」
アーウィンが、先手必勝とばかりに十文字槍で《スマッシュ》を仕掛けた。牛鬼には、《チャージング》がある。恐れずに、間合いを詰めたほうが有利なのだ。
ガイン!
気合の入った十字槍は、その斧に受け止められた。
「やる!」
充分以上の、手練れの動きだった。一撃受けられただけで、その力が計り知れた。
腕前は、向こうが勝っている。
「ならば、手数で押すまで!」
叡璽が動いた。日本刀による斬撃が、二条舞った。
しかしそれを、牛鬼は余裕でかわした。残念ながら、叡璽の攻撃戦闘能力はかなり低い。想い人がおりそれを守りたいのなら、もっと地力を上げておくべきだろう。
「とっとと逝っちまいな!!」
阿武隈が仕掛けた。まずは弱らせて、それから必勝呪文《コアギュレイト》のコンボ狙い。攻撃力なら、阿武隈は問題なくある。
ごがん!!
具体的に、かなり痛そうな音が響いた。阿武隈の六角棒は、牛鬼の頭を殴り伏せていた。
「よぐも!」
牛鬼が、人語らしきものを発した。そして恐ろしい勢いで、斧を振り回す。
どがっ、と、それに捕らえられたのはルーラス・エルミナスだった。うめき声一つしか上げなかったが、かなりの打撃である。ルーラスがやむなく、支援者からもらっていたポーションを飲む。
「《アイスコフィン》!」
神有鳥春歌が、精霊魔法を唱えた。しかしまだ元気なためか、氷の棺は完成しなかった。そもそもは弓矢で援護をと思っていたのだが、早々に接近戦になったため援護のしようが無くなったのだ。
「これでも食らいな!」
馬籠瑰琿が、神酒『鬼毒酒』の入った瓢箪を叩きつけ、そして松明を押し付けた。酒は残念ながら燃え上がらなかったが、牛鬼に対し目潰しの効果はあったようだ。その後瑰琿が、《ダブルアタック》で牛鬼を刻み続けた。時折軽傷を与えるが、ほとんどはカスリ傷でしかない。焦れる戦闘であった。
最終的に、牛鬼との戦いは10分ほどにも及んだ。とにかくタフなのだ。防御を抜ける有効な打撃を与えられたのが、阿武隈とアーウィンしか居なかったというのもある。ルーラスが《チャージング》を試みたが、あっさり受けられた。戦技はもっと研究の余地があるだろう。
最後にキメたのは、綺羅の《スタンアタック》であった。牛鬼は気絶し、その首級を冒険者に与えたのである。
●戦い済んで
「派手にやられました」
ルーラスがへこんでいる。かなり気合を入れてきたのに、活躍らしい活躍が出来なかったからだ。
他の者も似たような感じだ。攻撃を当てた数が最も多い瑰琿でも、何やら不満顔である。まあ、50回ぐらい当てているのにほとんどダメージを与えられなかったのだから、面白くは無いだろう。これぐらいの化生になると、小柄では明らかに威力不足である。
アーウィンは、よく戦線を維持したほうだ。しかし《スマッシュ》は命中率が下がるので、受けられやすいという欠点も明らかになった。
春歌は、援護に飛び道具を使うと言うシフトが、完全に裏目に出ていた。混戦時は、味方に矢が当たるかもしれない。
叡璽は、もちろん地力が足りなさ過ぎる。いいように牛鬼に叩き伏せられ、《カウンターアタック》も決まらず、いいとこなしである。
阿武隈は、神聖魔法に対する力不足が挙げられるだろう。この強力な敵に対して、《高速詠唱》なしで魔法を使うのは自殺行為である。それが、後方だったとしてもだ。
綺羅は忍術に対する過信と、自分の体力を考慮に入れるべきであった。よくやったほうだが。
個々に反省点はあろう。だが、それも生きて居ればこそだ。少なくとも、この冒険者達は牛頭鬼を倒したのだ。それは誇っていい。
村では、冒険者の無事の帰りを村人が待っている。
冒険者達は、確かな戦果を手に、なんとか無事に帰還を果たしたのであった。
【おわり】