狂える炎龍――ジャパン・箱根

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 74 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月18日〜02月26日

リプレイ公開日:2005年02月25日

●オープニング

●当世ジャパン冒険者模様
 ジ・アースの世界は、結構物騒である。
 比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
 それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
 そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
 それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
 冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
 基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。

「というわけで、今日も『仕事』が入ってるわよん☆」
 と、明るい口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は『箱根山山岳会』とかいう‥‥『山を愛で山を愛する、山の山による山のための観光案内団体』というところよ」
 なにやら胡散臭い団体名が出てきたが、ここはスルーしておこう。
「依頼内容は、駒ケ岳に現れた炎龍を退治すること。確認情報で2匹。もしかしたらそれ以上居るかもしれないわ」
 炎龍というのは洋名サラマンダーといい、階級では中堅クラスに当たる炎の精霊である。火山地や炎に縁深い場所に現れることがあり、魔術師によって召喚されることもままある。
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「炎龍が制御不能になっているのなら、事は急を要するわ。炎の精霊なんて、破壊を撒き散らしてナンボみたいなところあるから、箱根の山林全体が危険地帯になるわね。もちろん、山火事やその他の二次被害も予想されるわ。出来るだけ早く、出来るだけ速やかに排除してちょうだい。以上、よろし?」

●今回の参加者

 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea1553 マリウス・ゲイル(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea2266 劉 紅鳳(34歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea2366 時雨 桜華(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2391 孫 陸(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4518 黄 由揮(37歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea6147 ティアラ・クライス(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea6388 野乃宮 霞月(38歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8257 久留間 兵庫(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9867 エリアル・ホワイト(22歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

竜 太猛(ea6321)/ シルマリア・ギーン(ea8786

●リプレイ本文

狂える炎龍――ジャパン・箱根

●精霊というもの
 神聖暦一〇〇〇年でのジ・アースにおける精霊の半分は、ジーザス教が排斥した土地神が無理やり分類されたものである(それは時に、悪魔にも分類された)。そしてもう半分は、シャーマニズムでいう八百万(やおよろず)の神のことだ。乱暴な分類だが、おおむね当たっている。
 もっとも、この多くは古い考え方である。
 一般に精霊とは、『元素』が意思を持ったものとされる。『意思ある力』という存在。地・水・火・風・陽・月の、六種の力に属する一種の生命体。それが精霊だ。
 今回の精霊――炎龍は洋名サラマンダーと言い、火系の精霊では中級の精霊である。その周囲の可燃物は燃え上がり、近寄るだけでかなりのダメージをこうむる。当然森林などに出ようものなら、火災によって森林資源の損失や、時には人的被害を発生させる。
 だから今回のような、深い森林に炎龍が出るという事件は、大災害の予兆でもあった。下手をすると、箱根山が噴火でもするのかもしれない。

 今回の探索に際し、冒険者達は班を編成し隊を二つに分けた。
 第一隊は、浪人の壬生天矢(ea0841)、同じく浪人の久留間兵庫(ea8257)、ドワーフファイターの黄由揮(ea4518)、武道家の孫陸(ea2391)、クレリックのエリアル・ホワイト(ea9867)という編成。もう一隊は、ナイトのマリウス・ゲイル(ea1553)、女武道家の劉紅鳳(ea2266)、浪人の時雨桜華(ea2366)、僧侶の野乃宮霞月(ea6388)、シフールウィザードのティアラ・クライス(ea6147)という編成である。なお、ティアラは上空から総合監視を行っている。そして記述順番が、そのまま隊列になっていると考えてもらいたい。
「ジャパンに着いた早々龍退治なんて。神社仏閣巡りをするつもりだったのに」
 とぼやいたのはエリアルである。まあ、起きてしまったことをどうのこうの言っても詮無いことだが、それもやむなしであろう。
「ここいらの水源は、主に地下水だそうだ。つまり温泉だな。芦ノ湖まで炎龍を誘導できれば有利に戦えるかもしれないが、そこまでの森は丸焼けになるな」
 霞月が、言わずもがなのことを言う。
 ちなみにパーティーは、依頼主の箱根山山岳会に道案内を頼んだのだが、途中までしかしてもらえなかった。山を愛する彼らも、炎龍はさすがに恐いらしい。
「ねえー、東に煙が見えるよー」
 上空から監視していたティアラが、降りてきて皆に言った。一同がそちらへと向かう。
 小一時間ほどで、周囲に煙と焦げ臭いにおいがたちこめはじめた。
「居た‥‥」
 マリウスがつぶやいた。
 彼の視線の先には、二匹の火トカゲが居た。全長は3メートルほど。ちょっとしたワニぐらいのサイズである。
 そしてその周囲を蹂躙するように、炎が埋め尽くしていた。あらゆる可燃物が燃えており、接近するだけでかなりの度胸が必要だった。
「射掛けてみる。それから突っ込むのが良かろう」
 由揮が、弓を取り出して言った。そして、矢をつがえる。
「ちょっと待って。準備するから」
 ティアラが呪文を詠唱し、それは発動した。地面から《クリスタルソード》が生えてきた。それを必要な人数分出すと、今度は《バーニングソード》の呪文を詠唱する。水晶の剣は、燃え上がった。
 そして最後に、《フレイムエリベイション》を前衛職の者全員に付与した。これでティアラは、魔力を使い切った。あとは、サンバでも踊って応援するぐらいしかできない。
「では」
 と、由揮が言った。
 ビン。
 矢が飛んだ。それは確かに、炎龍に当たった。
 しかし、たいして効いていないようだった。鉄弓の一撃が、である。
「吶喊ー!」
 ティアラが言った。何か変な踊りをしている。
 接近した者たちは、その熱気に圧倒された。服が、髪が、じりじりと燃えてくる。戦闘が終わるころには、全員アフロになっているだろう。
 まず仕掛けたのは、壬生天矢であった。
「これでも食らいな!」
 《スマッシュ》を用いた一撃。確かな手ごたえはあるが、どこまで効いているかはわからない。
 ――もう一歩、踏み込むか?
 天矢が、ナイフエッジな状況で判断を迫られていた。彼には奥義《スマッシュEX》がある。
 久留間兵庫は、天矢の反対側から炎龍の一匹に仕掛けた。燃えるクリスタルソードが、炎龍に突き刺さる。
 ――《シュライク》を使うべきかも知れない。
 思った以上に手ごたえがなく、兵庫は構えを切り替えた。
「吩(ふん)!!」
 孫陸が、牽制に渾身の《オーラショット》を放つ。それは炎龍の横腹を穿ち、確かにダメージを与えた。「これは効く」と見た陸は、ただちに第2撃の準備に入った。
 ズがん!!
 その瞬間だった。天矢と兵庫を巻き込んで、硬烈な爆発が炎龍を中心に発生したのだ。
 炎龍の精霊魔法《ファイヤーボム》であった。彼らは知らなかったが、炎龍は火系の魔法で傷つくことは無い。炎龍は広域攻撃呪文を、自分自身に向かってかけたのだ。これには天矢と兵庫もたまらない。魔法の為に接近していた陸も巻き込まれ、少なくないダメージをこうむった。無事だったのはエリアル・ホワイトと、矢を放って剣に持ち替えていた由揮だけだ。
「くっ、下がって体勢を整えるぞ!」
 天矢が言う。しかし、引くとなると、もう一班との連携が必要になってくる。
 そのころマリウスたちは、苦戦して――いると思いきや。こちらに向かってきていた。
 数瞬前に、時間はさかのぼる。
「固い!」
 クリスタルソードで斬り付けながら、マリウスは歯噛みしていた。彼はカウンター使いなのだが、今の装備では防備は紙のようなものである。肉を斬らせるのはいいが、下手をすると骨まで断たれるかもしれない。
 ――見た目は意外と可愛いんだけどねぇ‥‥言う事聞くんだったら飼ってやってもいいんだけどな。
 それはムリです姐さん、な思考をしているのは劉紅鳳である。《オーラパワー》をかけた拳で、炎龍を殴る、殴る、殴る。
 しかし、ダメージが行っているようには見えない。せいぜいかすり傷。武器が弱すぎるし、威力強化の戦技も無い彼女は、的を分散させることしかできなかった。
「意外とてこずるじゃん」
 時雨桜華が、剣を振るいながら言う。《スマッシュ》で精霊の体力を削るが、どこまでやればいいのか――先が見えない。
 しかし、終わりはあっさりと来た。
「《コアギュレイト》!」
 野乃宮霞月の魔法、《コアギュレイト》が、奇跡的に効いたのだ。炎龍は凝固し、こちらの必勝は揺るがなくなった。
 そこへ、先ほどの《ファイヤーボム》である。桜華たちは回復もそこそこに、救援に向かったのだ。

●死すべき精霊
「《コアギュレイト》!」
 がきんと、歯車に異物を噛んだように、炎龍はその動きを止めた。エリアルの《コアギュレイト》である。あとはタコ殴りだ。2匹の炎龍を仕留めるころには、全員ひどい火傷を負っていた。
「もっと早く《コアギュレイト》が効いていたら‥‥」
 エリアルが、《リカバー》でパーティーの傷を癒しながらつぶやいた。
「まあ、しょうがないって。あんな自爆技使われちゃぁな」
 桜華が、フォローするように言った。
 まあ実際、炎龍は強敵だった。《コアギュレイト》も序盤は効果なく、打撃をさんざん与えてやっと、凝固させることに成功したのである。
「しかし、なんで炎龍が出たのだろうな?」
 兵庫が言った。
「さてね。火山が噴火しなければいいんだけどね」
 霞月が言う。
 いずれにせよ、依頼は完了である。何かあれば、いずれ依頼が出るだろう。
 残り火を始末し、冒険者たちは帰路についた。
 駒ケ岳は、今日も燃えている。

【おわり】