ユニコーンを救え!――ジャパン・箱根

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 45 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月04日〜03月11日

リプレイ公開日:2005年03月13日

●オープニング

●当世ジャパン冒険者模様
 ジ・アースの世界は、結構物騒である。
 比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
 それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
 そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
 それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
 冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
 基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。

「今回は、ちょっと難物な仕事が入っているわ」
 と、ひさしぶりに真面目な口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は、小田原藩藩主大久保忠義さま。依頼内容は、一角馬――つまりユニコーンを保護することよ」
 ユニコーン。この幻獣の名を聞いたものは結構多いだろう。聖なる癒しの力を持つ、清らかな乙女にしか心を開かない聖獣。一つの国に100匹とはおらず、その角は癒しの力を持つため数万両で取引されるという。まさに、シャ○なんざ目ではない、人によってはものすごい金づるだ。
「一角馬は、鞍掛山の猟師が発見して、現在一人が追跡中で一人が報告に来たってワケ。猟師の話だと、この一角馬を狙った冒険者のような集団が居るらしくて、おそらくそのテの物品の、密売組織が絡んでいると思われるわ」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「今回はモンスターの保護と同時に、その密売組織の活動を阻止することも含まれるわ。要所は捕まえるときと、鞍掛山から下ろすために護送するとき。このときに、きっと相手は襲撃を仕掛けてくるはず。必ず撃退して、一角馬を連れてきてちょうだい。以上、よろし?」

●今回の参加者

 ea0119 ユキネ・アムスティル(23歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0221 エレオノール・ブラキリア(22歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2517 秋月 雨雀(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3741 レオーネ・アズリアエル(37歳・♀・侍・人間・エジプト)
 ea4522 九印 雪人(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6195 南天 桃(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6926 烈牙 飛叡(35歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb0406 瓜生 勇(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

久遠院 雪夜(ea0563

●リプレイ本文

ユニコーンを救え!――ジャパン・箱根

●対人戦闘の心得
 人間にとって一番の強敵は何だろうか? オーガ? ドラゴン? それとも精霊?
 答えは、『人間』である。
 こと、人間ほど敵に回して厄介な相手は居ない。個々の力はどうということは無いが、人間(この場合エルフやドワーフなども含む)が合力して事態に当たった場合、それは地上最強の幻獣、ドラゴンさえ打ち倒すほどの力を発揮する。およそこの地上において、汎ヒューマノイドを凌駕する生物は、おそらく居るまい。
 確かに、個々の力は脆弱の極みと言ってもよい。しかし人間が力を合わせるとき、その力は足し算ではなく掛け算で、そして時には乗数倍の勢いで増してゆく。見掛けがまったくアテに出来ないのだ。
 だから今回の依頼――ユニコーンの保護とその搬送――は、不確定要素の多い危険な任務と言えた。相手は同じ冒険者。おそらくは何らかの練達者であり、そしてなにより、危険な『人間の群れ』である。

●ユニコーン追跡
 ユニコーンの追跡自体は、ほとんど手間無く済んだ。先に事件を知らせてきた猟師はユニコーンを追っている猟師とあらかじめ打ち合わせており、追跡用の目印を残していたからである。水先案内を買って出た猟師は、折れた木の枝や草の痕を効率よく見つけ、目標との距離を詰めてゆく。探索から二日ほどでその距離は埋まり、冒険者たちは無事にユニコーンの姿を捕捉した。
 ここからが、冒険者の領分である。
 冒険者達は巻き添えになる事を避けるために、安全そうなユニコーンの搬送ルートを聞くと猟師達をとりあえず帰した。そして、ユニコーンとの交渉に臨んだのである。
 ユニコーンが人語を解するかどうかは分からない。だから話が通じな場合、今回のメンバーでは九印雪人(ea4522)の持つ《オーラテレパス》のみが、唯一の交渉手段となる。しかし清らかな乙女にしか心を開かないというユニコーン相手に、男が交渉相手ではいささか以上に不安だ。
 もっとも、それは杞憂に終わる。
『人よ、私に用があるようだな』
 一同の耳に、確かに声が響いた。馬の口から人語は発せられないから、おそらくは何らかの魔法的な効果であろう。
「私はユキネ。私たちは貴方を保護する為にきたの。信じてもらえないかもしれないけど、私たちは敵じゃないし、貴方が危険なの。それだけは信じてほしいの。私たちと協力して一緒に来てほしいの」
 ユキネ・アムスティル(ea0119)が、ユニコーンに向かって言った。
「あなたに危害は与えないわ」
 エレオノール・ブラキリア(ea0221)が口を開いた。
「安全な場所まで案内したいだけ。危険な密猟者が居るから、あなたを保護しに来たのです」
「ユニコーン‥‥私は、貴方が心を開くような存在ではない。でも、これだけはわかって欲しい‥‥私達は、貴方を守りたいの。このままでは、密猟団にいつ襲われるかわからないのよ」
 エレオノールの言葉の後を継いで、レオーネ・アズリアエル(ea3741)が言った。病弱な自分を顧みて、ある種の期待が心の中で頭をもたげてくるのが分かる。しかし、それを実現するには、このユニコーンの角を折らなければならない。それでは意味が無い。
「私たちは〜、ユニコーンさんを守りに来たですよ〜」
 明るく、どこまでも明るく、南天桃(ea6195)が言った。人の善意が事象を変革するのならば、この笑顔である、というような笑顔であった。
「ユニコーンさんは、にんじん食べるのかな?」
 楠木麻(ea8087)が、かご一杯のニンジンを差し出しながら言う。
『乙女よ、気遣いは無用だ』
 好意的な雰囲気で言葉が返ってきた。馬の苦笑というものを、麻は初めて見た。
「あ、あのっ! 触ってもよろしいでしょうか!」
 瓜生勇(eb0406)が言った。ユニコーンは否とは言わなかった。おそるおそる触れてみる。ユニコーンの体温は暖かく、幻獣と言われるイメージとは程遠い現実感を感じさせた。
 霧島小夜(ea8703)は、我関せずとばかりに周囲に気を配っている。『清らかなる乙女』である自信が無いためか、やや臆病になっているようだ。
 ――まぁ、向こうも仕事だろうが此方も仕事。戦う他無いか。
 やけに悟ったようなことを、思い考える。自分たちが強ければ、敵も強い。今回がそういう仕事だということを、しっかり認識しているのである。
 女性陣による説得というか交渉というか、まあそういうものについては、どうやら成功のようだった。元々ユニコーンが女に対しだだ甘というのもあるが、猟師の手配から発見・確保まで、まずは順調な滑り出しと言えよう。
 あとは、箱根まで連れてゆくだけである。

●その名は寺根津賛子
 冒険者達は、先の8名のほかに秋月雨雀(ea2517)と烈牙飛叡(ea6926)を加え、ユニコーンを中心とした円陣を組んで山中の移動を開始した。最速で行けば二日で帰れる行程だが、追跡者をまくためにあえて通り道を変えてゆく。待ち伏せは御免である。
 もっとも、今回重装備で臨んだ雨雀は、歩くだけでひーこら言っているような状況だ。精進が足りないと言えるだろう。
 だが、襲撃はやはり来た。レオーネは箱根の地理に明るい冒険者仲間から地の利を得ていたが、向こうにも土地に明るい者が居たらしい。
「をぉ√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄っほほほほほほほほほほほほほほほほ!! うまく撒いたつもりででしょうが、そのようなことは天が許しても地が許しても人が許しても、この寺根津賛子(てらねつ・さんこ)が許しませんことよ!!」
 途中から奇妙な怪鳥音になった笑い声をあげながら、全身にプレートアーマーを着込み両手にバトルアックスを持っている、推定人間(女性)らしいものが、進路上に現れた。ちなみに顔は面頬に隠れて見えない。
 これはちょっと意外な、出現方法である。冒険者たちが予想していたのは、もうちょっとこう、姑息な出現の仕方であった。
 寺根津賛子の口上は続く。
「美しいユニコーン‥‥それはこの高貴で美しく清らかな乙女であるこのワ・タ・シこそが相応しい! お前たちのような愚鈍で愚昧な冒険者風情がユニコーンをかどわかそうなどなどとは笑止千万! さあ、美しい私の攻撃を受けて、露と消えなさい!!」
 フルプレート&ダブルバトルアックスが言い切った。
 沈黙。
 誰も、突っ込めなかった。何かこう、おそろしく場違いで勘違いしている『物体』が目の前にあるような気がしたからだ。乙女と呼ばれる人種は、普通フルプレートにバトルアックス(しかも両手)を持って、やる気満々の態で冒険者に挑んではこない。
「あー」
 完全に毒気を抜かれたような声で、飛叡が何かを言いかけた。彼もまた今回はやる気満々だったのだが、完全に置いてけぼりを食ったような気がしていた。
「あんた、一人?」
 飛叡が、確認するように聞く。
「をぉ√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄っほほほほほほほほほほほほほほほほ!! このか弱き乙女が、一人で冒険者の前に立てるわけがありませんことよ! さあ我が騎士たち、この悪人ども(ぉ)を倒してしまいなさい!!」
 言わんでもええことを、賛子は言った。それに、きちんと隠れていた他の冒険者たちが、げんなりした表情で出てくる。せめて不意打ちをするつもりだったらしい。
 戦闘は、賛子のイニシアチブで開始された。

●激闘! 対冒険者戦闘
 結論から言うと、冒険者たちはユニコーンを守りきった。
 ユキネ・アムスティルは、接近してくる相手に対し、《ウォーターボム》や《アイスブリザード》を放って近寄らせなかった。
 エレオノール・ブラキリアは《スリープ》や《チャーム》で敵の一角を無力化し、後衛として十分な戦果を挙げた。
 秋月雨雀は《バキュームフィールド》で敵の接近を阻み、そして敵の魔術師を《サイレンス》で黙らせた。
 レオーネ・アズリアエルと九印雪人は寺根津賛子と対決したが、相手の侵攻を阻止するにとどまった。相手の防備が固すぎたのだ。
 南天桃は、戦闘よりも相手の捕獲行動の阻止に奔走させられた。弓矢に網、色々な攻撃を仕掛けてくる。
 烈牙飛叡は、敵の前衛と互角の戦いを繰り広げた。先に参ったのは、からくも敵だった。戦闘マニアの飛叡には、充分堪能出来る戦闘だった。
 楠木麻は、魔法での援護に腐心した。《ウォールホール》や《グラビティーキャノン》などの魔法を用い、敵の後列を削ってゆく。
 霧島小夜は、魔法の攻撃を受けながら相手の魔法使いに接敵し、《スタンアタック》で無力化した。相当のダメージがあったが、それはユニコーンが回復してくれた。少し嬉しい。
 瓜生勇は、桃の援護についた。目だった働きは無かったが、援護役としては十分な働きを見せた。
 仲間も(特に賛子と対峙した者は)少なくないダメージを受けたが、結局勝敗はユニコーンが決めた。回復役としてユニコーンが力を使ってくれたお陰で、パーティーは唯一の不安材料だったパーティの耐久力を、大幅にカバーしてもらえたのである。
 まあつまるところ、賛子の元に行くのが嫌だったのだろう。ユニコーンとしては。
「おぉおぼえてなさいっ!! この次会うときが、あなたたちの最後よっ!!」
 賛子は、ありきたりな捨て台詞を残して去っていった。

●箱根まで
「強かった‥‥」
 賛子と対峙した雪人が、率直な感想を言った。文章にしてしまえば簡素にまとまってしまうが、戦闘は実に5分以上に渡って繰り広げられたのである。読者諸賢には、全力疾走を5分間やった時のような状況を想像してもらえばいいだろう。
 ともあれ、最大の障害は排除した。あとはユニコーンをつれて行くだけである。
 そして無事、ユニコーンは小田原藩に手渡された。最終的には、安全な土地に放されることになるらしい。
 冒険者たちは報酬と、すこしばかりの喜びを胸に、帰路についたのだった。

【おわり】