【京都移動】東海道化物騒動――小鬼砦
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■ショートシナリオ
担当:三ノ字俊介
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 44 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月18日〜03月27日
リプレイ公開日:2005年03月26日
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●オープニング
●当世ジャパン冒険者模様
ジ・アースの世界は、結構物騒である。
比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。
「諸君! いま京都は大変な危機に陥っている! このことには家康公も心底、心を痛めておられるのだ‥‥いまこそ我らの志を無駄にはせず‥‥」
一人の武人が、熱弁を振るっている。自分の演説に酔っているようにも見えるが、昨年以来京都の治安は思わしくなく、そこで急遽人材の派遣が決まったのだ。
「ああ、あれかい? 何でも、京都へ向かう有意の者たちを集めているんだって」
その武士を見ながら、冒険者ギルドの番頭、“緋牡丹お京”こと烏丸京子は言った。艶やかしい黒髪の美女で、キセルを片手に冒険者たちを見ている。
「あのお侍様の名は『清河八郎』って方。どうやら京都の危機に、神皇様をお助けに参ろうと、そういう話みたいね」
後ろで続いている檄の声を背負いながら、京子は興味を持った一同に声をかけると資料を手にし、たっぷりもったいをつけて言った。
「先年、家康様が京都より戻られたのは、ただ江戸の町を妖狐に襲われた、という理由だけじゃないらしくてね。風の噂じゃ、京都でも妖怪どもが大きな顔をしてるらしいんのよ」
そこで、清河の熱弁は一通り終わったようだった。改めて自分が人を集めていることを語り、一礼して去る武士に向けて、お京は意味深な流し目をくれている。
「話がずれたね。今は京都のほうも不穏で、新撰組や京都守護だけじゃ手が回らないってことらしいのよ。そこで、江戸から力の余っている浪人者や冒険者を集めて、京都の警備にあたらせたり、あっちでできたばかりのギルドの仕事を任せてみようという話になったのさ」
そこまで告げると、お京はにこりと微笑んで、依頼の内容を指差した。それには京都まで東海道を移動する商人や大道芸人、その他職人といった人たちの、キャラバンの護衛の仕事が書かれていた。
「一旗揚げようという気があるのなら、いい機会だよ。この話に一枚噛んで、上洛してみてらどうだい?」
●リプレイ本文
【京都移動】東海道化物騒動――小鬼砦
●その名は寺根津賛子
「をぉ√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄っほほほほほほほほほほほほほほほほ!! 道行きの安全は、この華麗にして流麗、月光の騎士、寺根津賛子(てらねつ・さんこ)にお任せなさいっ!」
死―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ん。
周囲に、絶望のような沈黙が満ちた。
「な、なんであなたがいるでつか‥‥‥‥」
津波の前に建った、砂の城のように崩壊しそうな自我を理性でかろうじて支えて、楠木麻(ea8087)が言った。彼女の目の前には、全身をこれ以上無いという重装備のフルプレートアーマーに身を包み、背中にドワーフの重戦士が使うようなバトルアックスを二本も背負っている(推定)人間がいる。顔は兜に隠れて見えない。
「をぉ√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄っほほほほほほほほほほほほほほほほ!! 小鬼砦を攻略するには少しばかり人数が足りないと言うので、烏丸京子が私を送り込んだというわけよ! まあ、大船に乗った気でいなさいっ!」
「ぶっ‥‥武士道とは‥‥」
絶句。はっきり言って何も言えない麻である。
とりあえず、一行は波乱含みのオープニングと共に、件の要害『小鬼砦』へ向けて出発した。
●実際の話
東海道は、かなり整備の進んだ、神聖暦一〇〇〇年においては世界でも有数の安全な街道である。
だが、『絶対に』安全などということは無い。山賊に鬼族、幻獣に精霊など、さまざまな不確定要素を持っている。山賊などはまだ、金や荷物を置いてゆけばいいが、オーガなどにつかまると頭からバリバリ食べられてしまう。不遇な運命を呪う間もなくあの世行きだ。
だから、旅をする人はできるだけ大人数のほうがいい。道行きで旅の連れを持つなとは言うが、最初から旅団を組んでいれば胡麻の蝿などにやられる心配も少ない。そして旅団ともなれば、金を出し合って冒険者を護衛に雇うことも出来るようになる。
今回の冒険者諸賢は、京都に行くついででそのような仕事を請けた者たちだ。ついでだからサービス価格になっている。
京都までは、馬で6日。彼らの担当は、先遣隊として街道を進み、障害を排除することである。
●小鬼砦
「あれが『小鬼砦』ですか‥‥」
アルピノの子供浪人、月詠葵(ea0020)が、『それ』を見上げて言った。
『小鬼砦』は、本当に砦のような様相を呈していた。街道から1日ほど離れた場所。そこは屹立する石灰岩の巨石が階段状に上へ伸びており、その岩肌に洞窟のようなものがいくつか口を開けている。各入り口へは木のつたを渡って行き来するらしく、緑も濃く立て篭もられると厄介そうだ。
こういうのを、自然の要害と言うのだろう。確かに、小鬼ぐらいは住み着いていそうである。
「隊商は4日遅れで来ますから、それまでにはここを掃除しなければなりませんね」
葵が言う。
「まあ、ゴブリン程度が相手なら敵じゃないな。無駄な抵抗だ」
バーク・ダンロック(ea7871)が、笑顔に余裕を浮かべて言った。
「まあ、余裕だろう」
雪守明(ea8428)が、不敵な声色で言い放つ。
「斬ってたたんで殲滅する。小鬼程度、今の我々なら相手にもならん」
堂々としたものである。
楠木礼子(ea9700)は、もうちょっと慎重だった。彼女は砦に接近すると馬から下り、偵察行動を行ったのだ。
「予想以上に敵が多いわね」
果たして、名前の通り砦には小鬼が居た。それも多数である。数はまあ、二桁後半はいっているだろう。
「まあ、鎧袖一触ってところかしらねぇ」
女武道家の紅千喜(eb0221)が、胸元を触りながら言った。
「をぉ√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄っほほほほほほほほほほほほほほほほ!! では皆の者、ついてきなさいっ!!」
賛子が、その場を仕切る。
麻は、それに理不尽なものを感じていた。
●小鬼砦攻略戦
「《オ−ラアルファ−》!!」
バーク・ダンロックのオーラ魔法が炸裂し、十数匹の小鬼がいっぺんに吹っ飛んだ。
「無駄無駄無駄ァ!」
バークが吼える。
月詠葵は、《ブラインドアタック》で確実に一匹一匹の小鬼を屠っていった。いっそ作業と言ったほうが良い。《ブラインドアタック》を見切れる小鬼など皆無に等しいからだ。
「《グラビティーキャノン》!!」
楠木麻は、魔法を連発していた。有象無象とも言える小鬼の群れを、範囲魔法で削ってゆく。
雪守明は、最初に突貫してもう姿が見えなくなっていた。今頃かなり奥深くまで切り込んでいるに違いあるまい。
「さて、死んでおくれ」
楠木礼子が、《ダブルアタック》で確実に小鬼を仕留めてゆく。こちらも効率は良い。
「吩っ!」
紅千喜は、《ストライク》《ダブルアタック》で一匹一匹の小鬼を確実に仕留めていった。両手が決まると、相手はほぼ瞬殺された。
ただそれらにもまして凄かったのは、寺根津賛子である。彼女はあの奇声を上げながら十数匹の小鬼と斬り合いを結んでいた。百数十の打撃を受けるが、まったくダメージを受けない。ガチガチの防備が、完璧に機能していた。
結局冒険者たちは、二日がかりで砦の小鬼を殲滅した。
族長クラスの小鬼も居たような気がするが、いまとなっては確かめようもない。
●京都見物
小鬼たちとの戦闘のあと、他の冒険者が攻略したしたらしい要害などを逐次確認しながら、一行は京都に入都した。
ちなみに『京都』という呼び名は江戸言葉で、本来は『平安京』と呼ばれるべき都市である。だが冒険者ギルドにおける表記の規定により(というより冒険者ギルドの発展の歴史が江戸発展の歴史そのものなので)、報告書における言葉の表記は、江戸言葉で統一させていただく。
ともあれ一行は、神聖暦八〇〇年ごろに興った呪術都市、京都の姿を目の当たりにすることとなった。
京都手前の烏山から俯瞰(ふかん)した京都は、整然と格子状に区画整理された計画都市である。四神、つまり朱雀・玄武・白狐・青龍に相応する『守護』を受ける土地に作られており、鬼門の方向には都を守るために陰陽寮が構えられている。ここには『陰陽師』という術者がおり、京都の守護を行っている。
京都は、梅の季節であった。一同は道々の茶屋で菓子に舌鼓を打ち、湯葉や丹生麺、他に京野菜と呼ばれる食材の料理を用いた料理で腹を満たし、そして京都の冒険者ギルドに報告へと向かった。
隊商の到着は、それから10日近く経ってからだった。せっかちな風小生はずいぶん胆を炒ったようだが、とりあえず仕事は最後までこなさなくてはならない。
もっとも非常時に備えるだけなので、問題なければ他の事を行っても良かった。だからその間に、彼らはギルドの依頼を受けたり観光をしたりと、暇をもてあますようなことは無かった。
そして、全ての引継ぎを行い、依頼は完了したのである。
とりあえず、新天地での彼らの活躍を、見守りたいと思う。
【おわり】