犬鬼の洞窟――ジャパン・江戸

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月30日〜07月07日

リプレイ公開日:2004年07月08日

●オープニング

 ジャパンの東国『江戸』。
 源徳家康の統治する、実質の日本の主都である。政治色の強い都市で、帝の都(みやこ)である『京都』よりも精力的な都市だ。
 だがそんなことよりも、人々の関心はその日の生活に向いていた。なにぶん、人間は食わなくてはならない。平民の暮らしはあまり裕福とは言えず、毎日ちゃんとご飯を食べるのも大変だ。
 そして、化け物の襲撃はもっと深刻だった。

「犬鬼が出たという話なんだけど‥‥」
 冒険者ギルドの女番頭が、紙に書かれた依頼表を見ながらキセルをくゆらせた。絵になっている。
「江戸からさらに東に三日ほどの村。林業を営んでいる村で、林で犬鬼が見かけられたって話なのよね。ただ見かけたというだけで、本当に犬鬼が住んでいるかどうか分からないみたい。依頼内容は、調査および犬鬼がいた場合その殲滅、とあるわ」
 女番頭が、冒険者たちを見る。犬鬼とは洋名コボルドという、オーガの中では弱い部類に入る鬼だ。なんてことの無い強さなのだが毒を使うので、脅威というよりは嫌がらせのようなヤツである。
「めずらしく成功報酬が書かれているわ。犬鬼の首級ひとつに付き、1分銀支払うそうよ」
 タン。
 女番頭が、キセルで火箱を叩いた。1分銀とは1シルバーの、日本における単位である。
「重点探索場所は、山の中にある洞穴の中。中がどうなっているかは、わからないそうよ」
 そして、冒険者に顔を向ける?
「どうする? やる?」
 女番頭が、冒険者たちに問うた。

●今回の参加者

 ea0243 結城 紗耶香(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0416 漸 皇燕(37歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1808 朝比奈 隆史(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1856 美芳野 ひなた(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea2517 秋月 雨雀(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2557 南天 輝(44歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3842 方凪 将弥(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●コボルド探索
 コボルドの捜索は、広範囲に渡った。
 江戸から東に三日ほど。その村は林業を営む村で、川辺にハシケがいくつも浮いている。ここで切り出した材木をいかだに組み、下流の町へ流すわけだ。
 林の中で見られたコボルドは、猟師の話によると2匹ほど。ただし群れともなると、10数匹は居るはずである。
 今回この依頼を受けたのは、次の冒険者たち。

 ジャパン出身。人間の女志士、結城紗耶香(ea0243)。
 華仙教大国出身。人間の武道家、漸皇燕(ea0416)。
 ジャパン出身。人間のくノ一、美芳野ひなた(ea1856)。
 華仙教大国出身。人間の武道家、羽雪嶺(ea2478)。
 ジャパン出身。人間の志士、秋月雨雀(ea2517)。
 ジャパン出身。人間の浪人、南天輝(ea2557)。
 ジャパン出身。人間の志士、月代憐慈(ea2630)。
 ジャパン出身。パラの忍者、九十九嵐童(ea3220)。
 ジャパン出身。人間の浪人、方凪将弥(ea3842)。

 以上9名。直前で欠員が1名出ているが、任務は続行された。

 こけっ。
「ふえええええん」
 顔面から地面に突っ込んで情けない声を上げたのは、美芳野ひなたである。くノ一のくせに方向音痴、そして何も無い所でよく転ぶ。これで忍者が務まったら、世の中の忍者からは総突っ込みが入るだろう。
「犬鬼の数は、20ほどだろう」
 パラの忍者、九十九嵐童が、その職能を活かして言う。地面の、足跡などの状態を見たのだ。
 コボルドが潜んでいると思われる件の洞窟は、村人の話によるとこの先の、さらに山奥にあるそうだ。コボルドの足跡は、そこへ向かっていた。数的にはちょっと多いかもしれない。一人頭2匹の勘定だが、ひなたは戦力外と見たほうがいいだろう。本人も認めている。
「‥‥外に犬鬼が出ていたほうが、対応は楽そうだな‥‥」
 嵐童がつぶやく。狭い洞内では、戦うほうも色々と制限を受ける。志士と言う魔法使いが居るのなら、フォーメーションを組んで広い場所を戦場にしたほうが良い場合もある。
 いずれにせよ、時と場合と状況による。コボルドの存在は確信できた。あとはどうやって殲滅するかだ。

●コボルドの洞窟
「いた‥‥」
 結城紗耶香が、つぶやいた。
 確認するまでも無く、洞窟の前には2匹のコボルドがいた。見張りがいると言うことは、中にもいると言うことである。
 まずこの見張りを処分しなければならないが、それには多少の工夫が必要だ。
「見張りは想定していなかったな‥‥」
 南天輝がつぶやく。悲鳴でも上げられたら、面倒だ。
「俺がやりましょう」
 秋月雨雀が言う。彼は精霊魔法の<サイレンス>が使える。一匹黙らせてしまえば、後はなんとかなりそうであった。
 嵐童とひなたは早速、忍び足で洞窟の背後側に回った。洞窟は切り立った小丘の下にあり、飛び降りれば不意を打てそうだった。
 呪文の詠唱――発動! コボルドの一匹が、急に喉を押さえる。声が出なくなったのだ。
「やっ!」
「はっ!」
 トトン。
 嵐童とひなたのスタンアタックで、魔法にかかっていない方のコボルドが昏倒した。そしてパニックになった声の出ないコボルドを、一同が魔法や剣技で葬る。最後に昏倒したコボルドにとどめを刺し、それで見張りは完全に処分された。
「<ブレスセンサー>を試すわ」
 紗耶香が言う。呪文詠唱――発動。結果は、内部に16匹いると言うことが分かった。
「ほとんど全部じゃないのか?」
 漸皇燕が言った。予想より多く、そして予定と違い外には出ている気配が無い。取りこぼしもごく少数と思われた。見張りを含めて18匹。嵐童の見たてとも、おおむね符号する。
 一同は協議し、当初予定していたパーティーの分割案を捨てた。16匹も敵がいるなら、下手に戦力を分割して戦うより一点集中のほうが良い。たいした敵ではないが、毒を受けるのは御免である。
 一行は隊列を組み、案内の猟師を置いて内部に入っていった。

●戦闘――コボルド
 鍾乳洞は通路が曲がりくねっていて、方向感覚を失いそうだった。石筍や鍾乳石が垂れ下がり、一種幻想的な雰囲気をかもし出しているが、その物陰に何か潜んではいまいかと、冒険者たちの神経を削ってくれる。
 入り口をまっすぐ進んでゆくと、ホールのような場所に出た。獣脂を焼く臭いがする。洞内には赤々と燃える焚き火があり、そこには5匹ほどのコボルドが居た。
「わん、わんわん!(コボルド語)」
「わんわんわんわん!(コボルド語)」
 何か騒いではいるが、内容は聞き取れない。焼けた獲物の取り合いでもしているのだろう。こちらのほうには、まったく気づく様子が無かった。
 ここまでバカだと、叩きのめしがいがある。
「さて‥‥俺としてはお前らに一切恨みはない。杖の下に回る犬を打つ気もねぇ。ってことで大人しくしてくれねぇか?‥‥って犬に論語か」
 月代憐慈が軽口を叩いた。どうせコボルドには理解はされていないだろう。
 ただ、殺気というか、戦う意思は汲み取ったようだ。コボルドたちは手に武器を持つと、黄色い牙を剥いて襲い掛かってきた。
「始めるか‥‥死合いをな!
 方凪将弥が、剣を抜く。そして猛然とコボルドたちに襲い掛かった。総力戦になるのは予定より早かったが、コボルドは一匹たりとも通さないつもりでいた。
「爆虎掌(ばっこしょう)!」
 ずどん!
 羽雪嶺の奥義が、コボルドを粉砕する。コボルドは口から血を吐いて、地面をのた打ち回った。長くはあるまい。
「<ウインドスラッシュ>!」
 紗耶香の魔法が、コボルドを切り裂いた。コボルドは胸から血を吹いて斃れた。
 最初の2匹が倒された時点で、ほとんど勝負はついてしまった。臆病なコボルドは我先に逃げ始め、そして奥へと走ってゆく。
『ふむ‥‥観光気分で東夷くんだりまで来て依頼か‥‥まあ‥‥こういうのもありではあるか‥‥失敗しても我が国に被害が出るわけでもないからな‥‥(華国語)』
『それ、翻訳したら面白そうだね(華国語)』
 国際問題になりそうな発言をしているのは、皇燕と雪嶺である。お互い華国人なので、他のものには何を言っているかはわからない。ちなみに『東夷』というのは、日本の蔑称である。
「おにいちゃん、奥に通路があるよ」
 ひなたが言う。誰に向かって言ったのかはわからないが、無邪気なものである。
「よーし月代行って来い――一人で」
 雨雀が明るく言う。状況わかってんのかこいつ、みたいな言い方だ。
「なんで俺一人でいかなきゃならん」
 憐慈が、それに反発する。まあ、冗談なのだが。
「先に行くぞ」
 輝が剣に手をかけたまま、通路を進んだ。
「待て。向こうが来ないのがおかしい」
 嵐童が言う。
「紗耶香どの、先ほどの精霊魔法を試してもらえるか?」
 嵐童の要請を受けて、紗耶香が<ブレスセンサー>を使う。
「通路の向こうで息を潜めている」
 紗耶香が言う。具体的には、待ち伏せをしているということだ。
「少しは知恵があるようだな」
 将弥が言った。
「どうする?」
 将弥が一同に問うた。
「突破しよう」
 年長でこのパーティーのリーダー格の、輝が言う。
「待っていても益は無い。向こうが持久戦に出たのならば、突破するのみだ。また奥に逃げ道があると面倒である。一同に選択肢は無いのだ。
 パーティーのメンバーは再び隊列を組み、内部へ侵攻していった。

●戦い済んで
 結局、コボルドは18匹居た。しめて1両8分の成功報酬である。毒を受けたものも居たが、大事に至らずに済んだ。
 かくて、冒険者達は村人の感謝の言葉と治療、そして酒宴を受けて、江戸へと帰路についたのである。
 以後、その洞窟は『犬鬼の洞窟』と呼称されることになり、厳重に封じられることになった。
 そして、冒険者たちの旅は続く――。

【おわり】