大日本昔話:吸血姫玉呪紗 1――江戸

■シリーズシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 3 C

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月22日〜04月30日

リプレイ公開日:2005年05月01日

●オープニング

●当世ジャパン冒険者模様
 ジ・アースの世界は、結構物騒である。
 比較的治安の取れたジャパンでも、その傾向は強い。人間が何かするよりも、ゴブリンやコボルド、オーガと言った鬼種による事件が、後を絶たないからだ。
 それに対し、君主達は一応の警戒網を敷いている。しかし機能しているとは言いがたく、今日もそれら鬼種を含めた、様々な化け物による事件が減ることは無い。
 そんな君主たちが歯噛みしている所で、出番になるのが『冒険者』である。雇われ者で無頼の輩。政道にまつろわぬ彼らは、金で様々な問題を解決する。汚れ仕事も進んで引き受け、様々な揉め事も解決してくれる。縦割り社会構造を持つ役人には出来ない、事態に即応した対処が可能な遊撃部隊ということだ。
 それを束ねるのが、『冒険者ギルド』という組織である。
 冒険者ギルドの役目は、仕事引き受けの窓口、仕事の斡旋、報酬の支払い、報告書の開示などが主に挙げられる。大きな仕事や疑わしい仕事は独自の諜報機関を用いて裏を取り、怪しい仕事は撥(は)ねるのだ。
 基本的に、咎を受けるような仕事は引き受けない。仇討ちの助勢を行うことはあるが、暗殺などの依頼は原則として受けないのが不文律である。報酬の支払いは確実なので、冒険者としても安心して仕事を受けられるというものだ。

「今日は、ちょーっと難儀な仕事が入っているわ」
 と、いつになくまじめな口調で言いキセルをくゆらせたのは、冒険者ギルドの女番頭、“緋牡丹お京”こと、烏丸京子(からすま・きょうこ)である。漆を流したような黒髪が艶やかしい妙齢の女性で、背中には二つ名の由来となる牡丹の彫り物があるという話だ。
 京子がキセルを吸いつけ、ひと息吐いた。紫煙が空気に溶けてゆく。
「依頼人は、江戸の役所。依頼内容は、江戸から東に三日ほど行った場所にある百合(もまえ)村を調査すること。話によると百合村は壊滅して、今じゃ死人の巣になっているらしいわ。原因は不明。でもあそこには古墳がいくつもあって、かなり剣呑な魔物が封じられているという話よ」
 タン!
 京子が、キセルで火箱を叩いた。火球が、灰の中に転がる。
「ともあれ、最優先事項は百合村の死人の殲滅。そして周囲の古墳を調査して、事の原因を突き止め、問題があれば排除することよ。用心してかかってちょうだい」

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0707 林 瑛(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1244 バズ・バジェット(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3582 ゴルドワ・バルバリオン(41歳・♂・ウィザード・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6321 竜 太猛(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8535 ハロウ・ウィン(14歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

御神楽 紅水(ea0009

●リプレイ本文

大日本昔話:吸血姫玉呪紗 1――江戸

●百合(もまえ)村の怪
 自治体が一つ消滅する――。
 現代の日本ではあまり考えられないことだが、実は中世17世紀ごろからのヨーロッパでは、そのような例がいくつも確認できる。さらに過去にさかのぼれば、グロス単位でそういう話が見つかるだろう。
 主な原因は、疫病と戦争。ほんの数十人しか居ない自治体一つなど、この手の災害が降りかかれば一発だ。
 最近では、アメリカがベトナムでそのような皆殺しをしたことがある。兵士の手によるものだったり、気化爆弾によるものだったり。
 悪意があるにせよ無いにせよ、結果は同じである。地図から町が一つ、消滅するのだ。
 そこで、今回の百合村の件である。
 百合村はきこりの村で、主な産業は木材と農耕。22戸66名の小さな村だ。自治体としての規模は普通で、このぐらいの村なら近在にいくらでもある。
 百合村が他の村と違うところは、その周囲に遺跡が多数あることだ。
 知っている人は知っているが、江戸から北に行ったところ――つまり現在の群馬県のあたりには、多数の遺跡がある。地方の土豪のものというのが大半で、遺跡を公園化した場所まであるという数の多さだ。
 だから、神聖暦1000年の百合村のあたりは、冒険者が盗掘によく来る場所でもある。
 ただ、遺跡にはお宝ばかりが眠っているとは限らない。中にはとんでもないモノが眠っていることもあるのだ。『ソレ』を引き当てた者は、まさに運が無かったとしか言いようが無いだろう。
 触らぬ神に祟り無し。しかし欲深で業深き人間に、そのような格言が意味を成したことはあまりに少ない。

「予想以上にひでぇや」
 刀に付いた腐肉を振り払いながら、巴渓(ea0167)が言った。
 百合村の状況は、悲惨の一語に尽きた。赤子から老人まで、ことごとくすべて死人憑きに変えられている。その徹底振りには、怨念さえ感じられた。人間に対するまったき悪意が、その村で具現化していた。
 冒険者たちは百合村に来るまで、相当数の死人憑きや怨霊と戦っていた。休む間などほとんど無かった。体力はともかく精神力が先に尽き、行軍を留めて回復に努めなければならないほどであった。それほど、敵が多く周囲に流出していたのである。後から聞いた話だが、百合村周囲の村でも死人憑きが出たようで、対応に当たった侍集団などにも被害は出たようだ。
 そうしてたどり着いた百合村は、まさに死の町であった。家畜の牛が食い殺され、上半身だけになった死人憑きが這いずり回り、腐臭と血臭が周囲にただよっている。生きているものの気配は、無い。
「ちょっとてこずるかもね」
 林瑛(ea0707)が、この旅でもう何度目になるか分からない《オーラパワー》を発動させながら言う。その視線の向こうには、死人の集団が見える。
「《クリスタルソード》!」
 バズ・バジェット(ea1244)も魔法を唱えた。すでに、延べ10本以上の水晶剣を出していた。敵には通常の攻撃が効かない怨霊も混じっている。
「死人に相応しい場所に送ってやろう! 人の親切は素直に受けるのだ!!」
 ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)が、やる気満々の態で言った。《ヒートハンド》の張り手で打撃を与えるが、肉を焼く臭いに、胸がむかむかくる。
「昔の物への興味は尽きないが‥‥これは御免こうむる」
 大なぎなたを振るいながら、雪切刀也(ea6228)がつぶやいた。打撃力に期待しての武器のチョイスであったが、持久戦となるとさすがに大振り物はきついものがある。《スマッシュ》と併せてほぼ一撃で致命打を与えているのだが、死人は痛みを感じないからだ。
「一体何が起こったというのじゃ。悲惨なものじゃな」
 竜太猛(ea6321)が、念仏を唱えながら龍叱爪を振るう。オーラ魔法と戦技を駆使しての戦いだが、早晩息切れを起こすのは明らかだった。数が圧倒的に多すぎ、そして相手はやたらめったらとタフなのだ。
「魔法使うよ。当たらないように気をつけてね♪」
 ハロウ・ウィン(ea8535)が、《グラビティーキャノン》で死人憑きをなぎ倒す。緋月柚那(ea6601)も供養の念仏を唱えながら、味方の傷を癒しつづけた。この二人は子供なので、パーティーでも優先的に守られている。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 トマス・ウェスト(ea8714)が、何事かを考えている。そして、一人の死体を指差した。
「あれだ、あれを無傷で捕まえてくれたまえ」
 トマスの指差した先には、皮鎧を着た西洋風の男が居た。ただし死人だが。
 ただの猟師などではなさそうだった。皮鎧に背嚢を背負い、腰には短剣の鞘らしきものを帯びている。剣は、無い。
「《コアギュレイト》を使ったほうが早いじゃろう?」
 柚那が、きょとんとした表情をして言った。
「ならば《コアギュレイト》するので、ダメージを与えてくれたまえ」
 えらそうに、あくまでえらそうに、トマスは言った。尊大というかなんというか、勝手なやつである。

 二刻ほど過ぎて、死人と怨霊の殲滅は完了した。
 その死人にとどめを刺したのは、トマスの《ピュアリファイ》だった。
 やっぱり勝手なやつだった。

●探索の手
「冒険者か」
 雪切刀也が言った。今は、件の西洋人死体を調べているところである。ちなみに画面に表示するとモザイクものなので、教育上の問題から緋月柚那とハロウ・ウィンはちょっと離れた場所にいる。
「手がかりじゃな、これは」
 石碑を、紙の上から木炭でこすって写し取ったらしい碑文を見て、ゴルドワ・バルバリオンが言った。さすが、腐ってるが魔法使いである。
「どれどれ‥‥華国語じゃないか」
 巴渓が言った。
「『悪しき女妖、玉呪紗(たまずさ)ここに封ず。そは人血をすすりし悪(あ)し魂。一〇〇〇年の後に消え去るもの也‥‥』。つまり、1000年封じ込める『何かの方法』で人間の血をすする化け物を封じ込めた塚か古墳があって、その碑文を写し取ったらしわ」
「それで、1000年たったら消滅するはずの妖怪を、叩き起こしたバカが居たというわけじゃな」
 林瑛の解説を、竜太猛が受けた。
「血をすする妖怪‥‥ヴァンパイアでしょうか‥‥」
 バズ・バジェットが言う。
「まったくわからんな!」
 胸をそらしながら、トマス・ウェストが言った。別に、自慢できることではない。

 結局、古墳探索は次の機会に、ということになった。一同は死体を一軒の家に集め、火をかけた。荼毘にふせば、少しは死人も落ち着いてくれるかもしれない。最終的には村を完全に焼尽せしめることにはなるだろうが、とりあえずベースキャンプになる家屋なども必要である。
 ――必ず何かが起こる。
 確信めいたものを、一同は感じていた。

【つづく】