リーグ・オブ・オーガ――ジャパン・京都

■ショートシナリオ


担当:三ノ字俊介

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 44 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月08日〜05月15日

リプレイ公開日:2005年05月17日

●オープニング

●平安の都
 京都は京都盆地の中央に位置し、南北約5.3キロメートル、東西約4.5キロメートルの長方形。中央部を南流していた鴨川は、河川流路の改修の結果、都の東辺に移動し、西をながれる桂川とともに重要な水上交通路となった。
 北部中央には南北約1.4キロメートル、東西約1.2キロメートルの政庁や官庁をあつめた大内裏があり、その南面中央が朱雀門で、そこから南に、はば85メートルの朱雀大路が都の南端の羅城門までのびている。大内裏の中央東よりに神皇の御所である内裏があり、公事や儀式をおこなう正殿の紫宸(ししん)殿をはじめ、神皇の日常の居所だった清涼殿などの建物がならんでいた。
 京都は、朱雀大路を中心として南北に走る9本の大路、東西にはしる11本の大路によって碁盤の目のように区画されている。中央を南北に走る朱雀大路で左京と右京にわかれたが、西側の右京は桂川の湿地で沼沢が多く、現在ややさびれぎみである。

「はじめまして。烏丸節子(からすま・せつこ)と申します」
 楚々とした仕草で、その女性は冒険者諸賢に対し、丁寧に頭を下げた。
「東者(あずまもの)で至らぬところもありますが、姉の薦めもあり、この京都で冒険者ギルドの番頭を勤めさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします」
 やけにきっちりした仕草で、節子は言った。姉は、聞けば東国でやはり冒険者ギルドの番頭をしているという。名前は烏丸京子。聞いたことがあるかもしれない。
「本日お集まりいただいたのは、ほかでもありません。いささか難儀な事件が起こっております」
 と、まじめな口調で、節子は切り出した。

 話はこうである。
 小鬼や茶鬼が徒党を組むのはよくあることだが、今回は山鬼や茶鬼戦士といった強敵どころが、なんと『冒険者狩り』を行っているらしい。民家を襲うのはもちろん、それを助けに来た冒険者も狩っている。そして装備を得たり金品・食料を強奪したりするのだ。
 人間は、化け物に襲われると冒険者を募る。その事情まできちんと知っているかどうかは分からないが、いずれにせよ放ってはおけない。

「鬼族は茶鬼や山鬼などの、戦士級の使い手が5〜6匹ほど。かなりの練度で冒険者にも引けは取らないと聞きます。用心してかかってください」

●今回の参加者

 ea4173 十六夜 桜花(28歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7278 架神 ひじり(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9867 エリアル・ホワイト(22歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb0855 光翼 詩杏(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1484 鷹見沢 桐(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

リーグ・オブ・オーガ――ジャパン・京都

●徒党を組む
 基本的に、ヒューマノイドは群れで行動する生物である。
 人間にせよ鬼種にせよ、その原則は変わらない。社会を作り階級を作り、コミュニティにおける役割を担う。アリやハチのような社会性昆虫ほど厳格ではないが、確かに『組織』というものを構築し運営するわけである。
 その目的は何かというと、生存率の向上というものに他ならない。安全と言い換えてもいい。つまり生物として繁栄するために作るもの。それが『群れ』である。
 群れる事は本能的なもので、あまりロジカルなものではない。一匹狼を気取り個体としての行動を優先させる者もいるが、それは基本的に例外で、通常の生物はなんとなく群れるものである。そのほうが安心できるのだ。
 社会性の強いジャパン人には、そういう人間がわりと多い。たとえば浪人者は役を得て仕官し、階級社会の歯車に収まることを常に考えている。つまるところ役人ではあるが、このような階級の者が数多く居る風土は、ジャパン人特有のものだ。
 そして、今回の事件である。
 群れ社会は時に、多種族との共存、あるいは共生という関係を生み出すことがある。現在のジ・アースに見られる、汎ヒューマノイドの共存関係がそうである。人間以外に、エルフ・ドワーフ・ジャイアントといった異種族が、ごった煮になって生活している。これは通常の群れ社会に見られない特徴で、ある意味かなり特異なものと考えてくれていい。
 そして、鬼種にも同じ事が言える。ゴブリンの中にはホブゴブリンが共に生活しており、互いに役割を担い合って共生しているのだ。
 今回の事件は、それが生み出したある種の特異点と考えていいだろう。依頼の発効の時にも書いた通り、汎ヒューマノイドにおける群れ社会の構造と冒険者派遣に関する『事情』を知って鬼種が行動を起こしているとは考えにくいが、いずれにせよ一つの可能性が生まれてしまった。
 つまり、鬼種が冒険者のような常設戦闘集団を編成するという可能性だ。
 冒険者は読者諸賢が認知している通り、まあいうなればであるが、『荒事専門の何でも屋』である。これはある意味『兵力』と考えて良く、冒険者を雇うということは兵を募ることとほぼ同義語である。
 鬼種に経済観念が発生していることは確認が取れていないので今はこれだけの説明にとどめるが、つまり鬼種が代価(おそらく食料などの物品であろう)と引き換えに、腕っ節の強い鬼種を集めて兵団を組織する。そういう概念が彼らに生まれたら、鬼種にとって冒険者が脅威であることと同じぐらい、汎ヒューマノイドにとって脅威的な事態なのだ。
 つまり見かけ以上に、この依頼は由々しき事態なのである。

●鬼狩り部隊
 烏丸節子からの事情説明を受けた冒険者たちは、状況の緊迫度合いを図りかねた。事大主義とも思える節子の説明に納得の行きかねる部分もあり、しかし本当のことなら空恐ろしいことであることも理解できた。なんと言っても、鬼種は汎ヒューマノイドに比べ繁殖力がある。無尽蔵に近い個体数が、冒険者を組織するということを覚えて種の繁栄を加速させれば、おそらくジ・アースの主権は彼らのものになるだろう。
「災いの芽と禍根は、早めに断ったほうがいいでしょうね」
 と納得顔で言ったのは、女侍の十六夜桜花(ea4173)である。節子の説明を聞いて、なにやら思うところあるようだった。なんと言っても彼女は主君持ちの侍である。社会の危機は、主家や自らの君主に対する脅威になる。
「そうは言っても今回自分らに出来るのは、かの冒険者狩りをやっている鬼たちの殲滅しか無いわけですが」
 飄々とそう言ってのけたのは、浪人者の神田雄司(ea6476)であった。酒盃を傾けての作戦会議ではあるが、本人は充分セーブしている。のんべえというわけではないので、飲みすぎにはいつも注意しているわけだ。
「むぐ……ほーひふなは、ははひふへほほほほー」
 架神ひじり(ea7278)が、口いっぱいに食い物をほおばりながら言う。
「『そう言うな、わしらが立たねば話にならんじゃろう』と言っているのだと思います」
 そのひじりのフォローをしたのは、エリアル・ホワイト(ea9867)であった。最近殺伐とした依頼ばかり入っているので、ちょっとブルーになっているようである。
「あたしに言わせりゃ、雑魚がいくら集まっても意味無いと思うけどね」
 浪人者の光翼詩杏(eb0855)が、小太刀をもてあそびながら言った。鬼種など鼻にもかけていない様子だった。
「神皇様の御足元を汚す鬼である以上、残らず討ち滅ぼすまで」
 女志士の、鷹見沢桐(eb1484)が言った。
「多少の策は労さねばならぬとは思うが、断固、たたき伏せるのみだ」
 桐が、決意を込めて言った。

    *

 冒険者たちは、即日に出立した。襲撃を受けた村を回り、鬼たちの情報を集める。結果、この冒険者狩り部隊の鬼の構成は、茶鬼が4匹に山鬼が2匹ということだった。いずれも戦士級の腕前で、3パーティーほどが壊滅の憂き目に遭ったらしい。
「やつらが完全に味を占める前に、決定的な打撃を与えないと‥‥」
 桐が言う。実際問題として、鬼種に『学習』されてはたまったものではない。
「鬼の潜伏場所は、あの山ぢゃな」
 目の前の、名も無き山を指してひじりが言う。さまざまな証言や鬼の足跡などを得ての判断だ。
 エリアルの提案で村に緊急呼び出し用の呼子を残しておき、冒険者たちは山に入った。
「基本的に各個撃破でいきましょう」
 雄司が言った。
「私も同感だ。相手の力量は、我々よりやや優勢だと思われる」
 桐が同意する。まあ、三つものパーティーがただ殲滅されたとは考えにくいし、戦士級の鬼種が強いのは確かだからだ。また鬼種にはクレリックのような回復役が居ない分、突進力と撃破力はある。全員が戦闘要員だからである。
「あたしゃあまり気にする必要は無いと思うんだけどねぇ‥‥」
 詩杏が、相変わらず小太刀をもてあそびながら言った。
「油断は禁物ですよ、詩杏様。仮にも三つの戦隊を壊滅させているわけですから」
 たしなめるように、桜花が言う。それに、おどけたように詩杏が首をすくめた。
 探索は、長引きそうだった。

●ガチ
 戦闘は、不覚にも鬼種の不意打ちで始まった。探査魔法の欠如、監視技能の不足。様々な要因はあったが、一番の失敗は全員が「先に見つけられる」と思っていた油断からだった。
 ――ぬかった!
 最初にそう思ったのは、鷹見沢桐である。彼女は囮役を買って出ていたため、他の者よりも先行していた。目論見どおり敵をおびき寄せる役には立ったが、罠を踏み抜いたことは致命的であった。土の中から出る鬼たち。待ち伏せを受けた桐は、あっという間に囲まれた。
 ――持久戦に持ち込めば!
 桐が防戦体勢を取る。《バックアタック》を修得している彼女には、基本的に死角は無い。しかし手持ちの武器が弓だけでは、本当に防戦しかできない。
 結果、他の冒険者が追いついてくるまでに、桐は少々負傷することになった。

    *

「おらっ!」
 《ダブルアタック》《ポイントアタック》のあわせ技で、武者鎧を着た茶鬼戦士を光翼詩杏が倒した。《ポイントアタック》の前には、武装の良価などほぼ関係ない。ただ打撃力が少ないため、時間が経つ間に詩杏はかなりのダメージをこうむった。
「神よ! 聖なる母よ! 癒しの奇蹟を!」
 エリアル・ホワイトが、回復呪文《リカバー》を唱える。しかし、全体がかなりのダメージをうけているので、治療が追いついていない。
 ――知恵もないのに良く使うっ!
 十六夜桜花が、心の中で悪態をつきながら剣を振るった。《バーストアタックEX》で、鎧ごと相手を叩き斬る。この鎧というものが難物で、今回冒険者たちは持久戦でも苦闘を余儀なくされた。鬼たちは倒した冒険者の武具を装備しており、そのため《ポイントアタック》や《バーストアタック》などでなければ、ほとんどダメージを与えられなかったのだ。
 ――雨宮組の名にかけて殲滅す!
 神田雄司が、太刀を居合い抜きにする。《ブラインドアタック》である。鬼種はあまり目が良くないので、この手の攻撃はよく当たった。が、防具のほとんど無い雄司には、かなりギリギリの戦いを強いられることになった。おそらく一撃受ければ、彼の戦闘能力は半減する。
「いいかげんにするのぢゃ!」
 架神ひじりが、《バーニングソード》をかけた剣で《スマッシュ》を敢行する。防具が固ければ、それを上回る打撃を与えれば良い。理屈ではそうだが、実際に行うとなると結構難しいものだ。受けられればそれまで。そして、大振りの一撃は受けられやすかった。
 そして、致命の時はついにやってきた。
「!」
 ごがっ!!
 詩杏が、山鬼戦士の大振りの一撃を食らった。口から血を吐いて、ぶっ倒れる。
「ぐ‥‥」
 目の前の風景がゆがんでいた。耳鳴りがする。戦域の音が、やけに遠くに聞こえる。
 そのとき、背に圧迫感があった。山鬼が、押さえつけるように詩杏の背を踏んだのだ。
 ばくっ!
 その後頭部に、山鬼の棍棒が落ちた。その一撃で、詩杏は動かなくなった。
「《コアギュレイト》!」
 ガキリと、石を噛んだ歯車のように山鬼の動きが止まる。そこを雄司が、太刀で攻撃する。山鬼は絶命した。
「詩杏さん!」
 エリアルが詩杏に駆け寄るが、すでに詩杏は事切れていた。

 その後、エリアルの《コアギュレイト》でなんとか敵の一角を崩し、冒険者たちは一匹の茶鬼戦士を残して敵の殲滅に成功した。
 詩杏は村人の紹介で、近くの山にいるという高僧を頼り、魔法によってなんとか生還を果たした。
 依頼は一応成功である。しかし、後にいくつかの課題を残すことになった。
 その話は、別の機会にしよう。

【おわり】