喧嘩するほど‥‥。

■ショートシナリオ


担当:宮本圭

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月11日〜10月18日

リプレイ公開日:2004年10月19日

●オープニング

 いつもと変わらないある日のこと。
 小雨ふりしきる街角に突然すさまじい音が轟き渡り、民家の軒先で雨をしのいでいた野良猫を飛び上がらせた。
 音の源は路地裏のようだ。なんだなんだと物見高い人々が表に出てくる中、ふたつの人影がもみ合いながら、まろび出るようにして表通りへ飛び出してきた。勢いあまって転げまわったふたりぶんの体重が、酒場の店先に立てかけてあった『本日のおすすめ』の看板をあとかたもなく粉砕する。
「いつも俺の邪魔ばっかりしやがって!」
「そっちこそ‥‥!」
 片方が蹴りを見舞えば、もう片方は頭突きを食らわせる。拳が頬に入ったら、お返しとばかりに相手の膝がみぞおちにめりこむ。雨の中、泥まみれのままで、拮抗したふたりはなおも取っ組み合っていた。
「いや! もうやめてよ、ふたりとも!」
 泣き声混じりの少女の悲鳴は、乱闘の騒ぎにかき消されて当人たちにはまったく聞こえていない。不謹慎な子供が、声も高らかにその様子をはやし立てた。
「決闘だ、決闘だ! またルイとアレクシのふたりだぞ‥‥!」

「‥‥はあ、それで、喧嘩の当人たちは」
「雨の中で暴れまわったおかげで、どっちも今は風邪で寝込んでるわ。二人とも顔をぱんぱんに腫らしてね!」
 話を聞いてぽかんと口を開けたギルドの係員を前に、ため息をついて少女は首を振る。
「ルイもアレクシも、いつもそうなの。片方が女の子の誰かを気にしはじめると、もう片方が先手を打って、その子にちょっかいを出し始めるわけ。どっちも見た目はけっこういい線行ってるから、女の子のほうは悪い気もしないし、すぐ仲良くなるわ。そうすると当然、乗り遅れたほうは面白くないじゃない? それで喧嘩」
「ほほう。それはまた‥‥二人は好みが似てるんですかね?」
「私の見立てでは」
 ずいと少女は身を乗り出し、勢いに圧されて係員はつい椅子ごと体を引いてしまった。
「ふたりとも本当は、その子のことなんて大して好きじゃないんだと思うのよ。気になるのはただの好奇心。だって喧嘩のほとぼりが冷めると、嘘みたいにその女の子に見向きもしなくなるんだもの。そうしてまた別の子を気にし出すわけ。
 結局ルイもアレクシもお互いにすごく対抗意識を持ってるから、なんとか怒らせてやろう、なんとか注意を自分に向けてやろうと必死になってて、女の子のことは単なるダシなんだと思うわ。子供よね、男って」
「‥‥はあ」
「そんな張り合いに付き合わされる私たちのほうが、いい面の皮だと思わない?」
「あなたもええと‥‥その、彼らに迫られた?」
「幸いにして、答えはノンよ。でも友達にはそういう子が何人もいるし、私たち、いつまでも彼らのくだらない意地の張り合いに巻き込まれてるのはごめんなの。だから」
 机の真ん中に鎮座ましましている、大きな麻袋を指さす。
「あのお金で、冒険者のみなさんに依頼をしたいの。ルイとアレクシが仲良くできるようにしてちょうだい」
 街の女の子たちやご近所の皆さんでなけなしのカンパを募ったのか、袋の中は銅貨や銀貨などの小銭でぎっしりになっている。
 係員が仕方なく頷くと、少女は踏み台がわりにしていた椅子からよいしょと降りた。まだ小さいとはいえ、まず視線を合わせて話をしたいらしい。歳を聞くと九歳だというが、天晴れな生意気さである。

 くだんの二人、交易商の息子ルイと靴職人の息子アレクシは、どちらも今年で十歳。最近の子供は侮れないと、係員は思った。

●今回の参加者

 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea3079 グレイ・ロウ(36歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3674 源真 霧矢(34歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3856 カルゼ・アルジス(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4111 ミルフィーナ・ショコラータ(20歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea5193 シャミ・パナンド(27歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「私って、子育てしたことないのよねぇん」
 子供の扱いなんて、自信ないわぁ。独特の舌足らずな口調でエリー・エル(ea5970)が言ったのを耳聡く聞きつけてか、横を歩いていたグレイ・ロウ(ea3079)が肩をそびやかした。
「そりゃ全員同じだろ。みんな、まだ子育てなんて歳じゃねぇもんな」
「もっちろんよぅ。私なんて、まだ十七歳だものぉ」
 きゃっ、などとはしゃいでみせるエリーに、見たままのことを言ったのに何故こうも喜ばれるのだろうとグレイは眉間を寄せる。それは彼女の実年齢が見たままではないからなのだが、報告には関係ない事なのでここではあえて省こう。
 ともかく皆、見た限りでは、十歳の子供を育てた経験がありそうな面子とは思えない。
「‥‥それはともかく、この辺りのはずだろ? その坊主の片割れの家は」
「だと思うですけど」
 話を振られたシャミ・パナンド(ea5193)が、きょろきょろと通りを見回しながら答える。つい先刻昼を知らせる教会の鐘が鳴ったばかりで、人通りは比較的少ない。ちょうど昼食どきなのだろう。
「お話だとルイ様は、交易商の息子さんのはずですよね?」
「らしいわねぇん。国内で商売してるって話だったけどぉ」
 交易商。簡単に言えば、その土地で安い特産品を買い付け、それを高く売れる場所まで運んで利益を得る商売である。問題のルイという子供の家は比較的羽振りがいいものの、必要な元手も儲けも莫大な月道貿易に手を広げるほどではないという。言うなれば小金持ちといったところか。
「お風邪を召されてるというお話ですし、おうちにいらっしゃると思うですけど‥‥」
 言いながらシャミは周囲を見渡して、あれかな? と自信なさそうに一方向を指さした。石造りで簡素な見た目の家の立ち並ぶ中、洒落た赤い屋根がいかにも目立っている。

●喧嘩の原因
「ルイの事?」
「せや。わいら、その子についてちっとばかり調べとってな」
 体の具合がいいようなら、よければ話してくれへんか? と、薄い笑みを浮かべたまま源真霧矢(ea3674)は問う。問題の少年のもうひとり、アレクシは、霧矢のジャパンの装束をめずらしげに見返して、ふうん、とだけ言った。
 靴職人のおかみさんはいかにも肝っ玉母さんといった風貌で、たぶん社交的な人なのだろう。騒ぎばかり起こしている息子のためにご近所の皆さんで冒険者を呼んだことも、すでに聞き及んでいたらしい。快く家へと上げてくれたが、アレクシのほうは知らない大人が四人もまとめて見舞いに訪れたのだから、戸惑わないはずはない。
「風邪は別に、もうほとんど治ってるけど」
「ま、それは後でもいいじゃない。お見舞いに市場で果物買ってきたんだけど、食べる?」
 どうやら口が重そうなのを嗅ぎ取って、ガブリエル・プリメーラ(ea1671)が手荷物から林檎を取り出し‥‥そのままアレクシに手渡そうとして、カルゼ・アルジス(ea3856)に止められた。
「ガブリエル。さすがに病人に林檎一個丸ごと手渡しっていうのは‥‥」
「わ、わかってるわよ。えーと‥‥まず切らなくちゃね!」
 言いながら、しかし口ばかりで林檎を前にしばし動きを止めるガブリエル。
「‥‥ガブリエルはん。ナイフがないなら、わいの小柄貸すけど」
「あの、私やりますよ?」
 さすがに見かねて、ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)が林檎を引き受けると、ガブリエルは明らかにほっとした様子で息をついた。生来器用なほうではあるが、ここ何年かこういうことは人に任せきりな彼女である。

 思ったよりもお元気そうでよかったです、というシャミの言葉に、どうも、とすこし目をすがめてルイは頭を下げた。歳のわりに大人びた仕草に、メンバーの中では比較的年長であるグレイとエリーがそっと視線を見交わす。なかなか手ごわそうだ。
 先の喧嘩でついたものか、頬にある消えかけた痣がまだなまなましい。
「ええと」
 落ち着いた雰囲気に気圧されて、ユリア・ミフィーラル(ea6337)は一瞬、切り出すべき言葉を選んだ。
「単刀直入に聞いちゃうけど、ルイさんは、アレクシさんのこと嫌い?」
 いきなり核心から入られてぎょっとしたグレイやシャミらを他所に、ユリアは平然といつも通りの表情だ。細かい駆け引きや機微には疎いほうなのかもしれない。
「本当に突然ですね‥‥」
「だってあたし、回りくどいのって苦手だし‥‥ね、どうなのかな」
 やや癖のある黒髪を揺らし尋ねるユリアに、ルイは肩をすくめた。
「嫌いも何も、向こうが俺の邪魔をするんですよ」
「邪魔?」
「向こうはどうか知りませんけど、俺はちゃんと本気で‥‥」
 言いかけて、ルイは喋りすぎたことに気づいてか顔をしかめる。口を閉ざした少年の頭上から、すかさずエリーの言葉が追いうちをかけた。
「ルイ君、無理して話すことはないわよぉん。私達、あくまでルイ君の手助けをするために来たんだものぉん。なんていうかぁ、子供の喧嘩に親が出るのって、みっともないものねぇん?」
 言葉こそやさしげだが聞き方によっては嫌味まじりにも聞こえることに、科白の主は気づいているのかいないのか。ルイがむっとした顔を向けてもにこにこと明るい笑みを浮かべたままのエリーは、さすが年の功‥‥いやいや。彼女の年齢はあくまで、報告には無関係な事柄である。
「‥‥ともかく、話すことなんてありませんよ」
「でも、喧嘩をしてる時は楽しいですか? 周囲に迷惑をかける事が、楽しいですか‥‥?」
 悲しげなシャミの問いかけに、ルイは口を尖らせた。
「別に楽しいから喧嘩するわけじゃないですよ。向こうだって悪いんだ」
「え? アレクシ君が悪いって、何が?」
「そんなこと貴方がたにどうして言わなくちゃいけないんですか!」
 すかさず突っ込んだユリアに言い返す。だんだん紛糾してきた会話の輪の中で、それまで沈黙を守っていたグレイが、火の色の頭をかき回しながら、あー、と咳払いした。
「あのよ。間違ってたら悪いんだが」
「‥‥何です?」
 もう不機嫌を隠そうともせず、まだ何かあるのかと言わんばかりにルイが聞き返した。全員の視線に注視される中でなおも髪をかき混ぜて、いかにも言いにくそうにグレイは口を開いた。
「もしかしてよ、お前、本命で好きな女の子がいるんじゃねーか?」

●喧嘩の真相
「じゃあ何? そもそもの最初は、その『本命の女の子』の気を引くために、ふたりともちょうど同じ時期に女の子たちにちょっかいを出しはじめて」
「そのうち二人とも、相手が自分と同じ子を好きなことに気づいたのね」
「つまりそれがきっかけになって、お互いに対抗心を燃やして」
「次々にあんな騒ぎを起こしてたってわけ」
「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、これほどとは思わなかったわ! 男って、なんでそんなに頭が悪いのかしら!」
 途中経過を報告するために集まった酒場のテーブルで、呆れてものも言えないといった様子の依頼人の少女にはガブリエルも同意見である。子供だからと言って特別に侮る理由は彼女にはないが、だからといって甘やかす理由も同様にない。
「まあ‥‥本命には声をかけづらいっちゅうんは、なんか純情て感じで可愛らしい気もするけど」
 しかしダシにされた他の少女たちはかなわないだろうと、霧矢も暗に同意した。ついでに、
「女っちゅうのは怖い生き物やしなあ」
 いやに実感のこもった呟きをうっかり洩らして、周囲の女性陣に睨まれる。
「どっちも心底では、相手のことが嫌いってわけじゃないと思うんだよね。色恋絡みだから、こんな風にこんがらがっちゃってるけど‥‥どちらかというと似た者同士なんだから、仲良くさせることは十分可能だと思う」
 色恋‥‥カルゼがなにげなく口にした表現に、冒険者たちは一瞬、確か自分たちは十歳の男の子ふたりの話をしていたはずではと遠い眼をしてしまう。別に幼いから恋をしてはいけないという法はないが、いや、しかし。
 気を取り直したシャミがかるく咳払いして、皆の顔を見回す。
「じゃ、やっぱり例の方法で行くですか?」
「そうだね。ね、女の子たちは皆、あたしたちを雇ったことは知ってるんだよね?」
 ユリアに水を向けられ、少女は軽く目を瞬かせた。
「‥‥そうよ。ダシにされた子たちも、何か協力できることがあったら遠慮なく言ってねって。どうするの?」
「だからね‥‥」
 ひそひそと話し合いをはじめた冒険者たちを他所に、ミルフィーナがふと、ウィザードの少年の袖を引いた。
「カルゼさん」
「ん?」
「よくわからないんですけど、女の子がダシにされてたって、お料理に使うんでしょうか?」
「どうだろうねー。痴話喧嘩は犬も食わないって、よく言うけどね」
「はあ‥‥?」

●喧嘩の顛末
 朝方の冴えた空気の中息を切らしてアレクシが走る。
 目的地は、いつも町内の子供らで遊び場にしているひらけた空き地。空き家になって久しいあばら家の、その庭だった。握りしめた羊皮紙の切れ端が、手の汗を吸ってしわくちゃになっている。なにかを探して周囲を見渡した視線が、今は見たくない顔とばったりと合った。
「‥‥アレクシ」
 いけ好かないルイの顔がこちらを見てしかめられ、アレクシも顔をゆがめ目をそむける。
「いちゃもんつけるなら後にしてくれよな。今忙しいんだ」
「そっちこそ‥‥」
 言いかけたルイが、アレクシの手の中の紙屑に目を止める。見れば、ルイのほうも同じくらいの大きさの紙片を手にしていた。
「‥‥お前にもそれが来たのか」
「お前も?」
 『リリーが何者かにさらわれた』という報せを、彼女の友達の女の子から受けたのはつい先刻。残された書付けを頼りに、ふたりともここまでやって来た。両方に同じ内容の報せが来たということは、メモの主は両方に来てほしかったということなのだろう。
「‥‥お前がこの字を読めるとは思わなかったけどな」
「父ちゃんに読んでもらったんだよ! それより、次の『ヒント』ってどこだよ」
 ルイに指摘されて顔を赤くしながら、アレクシは周囲を見回す。このメモによれば、リリーの居所の手がかりがこの空き地にあるはずなのだ。
「あれ‥‥」
 二階建てよりも背の高い木のほぼてっぺんに、小さな紙片がはたはたと揺れていた。見れば木の麓にはどういうわけか、束になったロープが置いてある。
「ふざけやがって!」
「待てよ。ロープがあるんだから、命綱に使わせてもらおう。落ちたらただじゃ済まない」
 すぐさま木にとりつこうとしたアレクシをルイが止める。言われてみれば確かにもっともで、渋々とアレクシはロープを取り上げた。自分の体に巻きつけようとして、またルイが手を伸ばしてくる。
「そんな結び方じゃすぐほどける。こう結ぶんだ」
 普段ならはねつけたろうが、場合が場合である。おとなしく結んでもらい、アレクシはするすると登っていく。
「ある程度登ったら、適当なところにロープを結んでおくんだ。落ちても大丈夫なように」
 アレクシは身軽で、運動神経もいい。言われたとおりにしながら、少しずつ確実に木を登っていった。その様子を見守るルイの拳にも、力がこもる。
 ‥‥やがてアレクシが問題のメモを取って、するすると猿のように降りてきたとき、さらわれたはずの当のリリーに出迎えられ少年達は顎をかくんと下げることになるのだが。

「あなたたちが喧嘩してると、すっごく周囲に迷惑なのよね。わかってる?」
 依頼人の少女――リリーの言葉に、返す言葉もないというようにふたりはうつむいてしまった。
「つまりキミたちはふたりとも、このリリーちゃんのことが好きなわけなんだよね?」
 相変わらず率直なリリーの指摘に、ふたりの少年は顔を赤くした。ひらひらと彼らの目の前を飛び交いながら、ミルフィーナが諭すようにその顔をのぞきこむ。
「先ほどの様子を見ていますと、おふたりは息がぴったりって感じがします。仲良しさんって感じでしたよ」
「いっそ、何かゲームで競えばいいと思うんだよね」
 やれやれと首を振って、カルゼが言った。
「お互い得意分野が違いそうだから、交互にルールを指定してさ」
「それで勝ったほうが私をものにするっていうの? 冗談じゃないわ! 私だって選ぶ権利はあるのよ」
 リリーが憤慨したように食ってかかり、さすがのカルゼも少しばかり怯む。
「いや、そうじゃなくて、もっとこう、お互いを磨くっていう意味でさ」
「決めたわ」
 カルゼの弁明には耳を貸さず、少女はぴっと彼らに指を突きつけた。
「とりあえず貴方達、迷惑をかけた子たちに謝ってらっしゃい! すべてはそれからよ。あの子達が許すっていうまで、私はどっちとも口を聞くつもりはないから、そのつもりでいてちょうだい」
「‥‥やっぱり女は怖い生き物やなあ」
 うんうんと頷いた霧矢の呟きは、幸い誰にも聞こえなかったらしい。

「‥‥これで一件落着ってことなのかな?」
 依頼が終了したあとは、ギルドへ報告をしなければならない。冒険者ギルドへの帰路をたどりつつ、ユリアはちいさくため息をつくと、ガブリエルがそうねと小さく笑う。
「ま、これからはあの子達次第ってことじゃないかしら? どちらが相手の心を射止めるかはともかくね」
「しかし‥‥ませたガキどもだっつーか、なんつーか」
 自分の子供のころは果たしてあんな風だっただろうかと思いを馳せつつ、やや年寄りじみたことをグレイが口にした。
「そうねぇん」
 頷きながら、エリーはふと東の方向を見て眩しげに目を細めた。遠く遠く、肉の眼ではとうてい見ることのかなわない外つ国を、その双眸にとらえようとするように。それに気づいてか、シャミが首をかしげて神聖騎士に問いかける。
「エリー様。どうかしたですか」
「うぅん。私の息子は今ごろ、どんな風に育ってるのかなぁん、なぁんて」
「え? エリー様って、確かお歳は」
「‥‥いやねぇん、言ったじゃなぁい。十七歳よう」
 何度も繰り返すが、エリーの年齢は報告にまったく関係ない事象であるため、できれば突っ込んだ言及は差し控えたい。うっかり素朴な疑問を投げかけてしまったシャミが、なぜ急にエリー様は不機嫌になってしまったのでしょう、としばらく首をひねっていたことだけを記し、本依頼の報告をここに締めくくるものとする。