泥棒を追い詰めろ!

■ショートシナリオ


担当:宮本圭

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月14日〜06月21日

リプレイ公開日:2004年06月22日

●オープニング

「よう。あんたら、暇そうだな」
 いつものように冒険者たちがテーブルにつくと同時に、酒場の主人が声をかけてきた。
 ちらりと一瞥しただけで『暇そう』とは失礼な。確かに暇だけど。
 ぼやきながらも立ち上がりカウンターに向かうと、主人は商売用の笑顔のまま身を乗り出してくる。
「手が空いてるんなら、ちいと頼まれてほしいことがあってな。ああ、もちろん、出すものは出す」
 人差し指と親指で輪を作って『カネ』のサインをちらつかされて、冒険者としても話を聞かざるを得ない。相手が聞く体勢になったことに満足して、酒場の主人は満足そうに口角を吊り上げて話を続ける。
「パリ市街の市場で俺の知り合いが商売をやってるんだがな。どうも最近、市場でおかしなことが起こるんだそうだ」
 朝方仕入れてきたばかりの果物が、ちょっと目を離した隙に大量に減っていたり、店先に並べておいた野菜が、いつのまにかごちゃごちゃに引っ掻き回されていたり。
 とりわけ被害がひどかったのが肉屋で、開店準備中、隣の店の主人とちょっと話し込んでいる隙に、切り分けて軒先に吊るしておいた豚一頭ぶん、まるまる盗まれてしまったらしい。
「どうも最近、街にゴブリンどもが紛れ込んでるらしいんだなあ。たまにあるんだよ、そういう事が。ただの泥棒なら警邏の兵士にでも頼めばいいんだが、ゴブリンとなるとそうもいかん」
 市場の泥棒といえば、大体は人ごみにまぎれて盗みを働くのが普通だ。だが今回の一連の騒ぎは、いずれも店を開ける早朝や、暗くなって店を閉める頃に起こっている。ゴブリンはたいていの場合、人ごみを嫌うものだ。そのゴブリンたちが犯人とみて、おそらく間違いないだろう。
「なに、ちょいと懲らしめてやって街の外に追い出してくれりゃあいいんだ。奴らときたら、揃って人間さまをなめていやがるからな‥‥どうよ。ひとつ、引き受けちゃくれねえかい?」

●今回の参加者

 ea1550 エリベル・フルウルド(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea1621 エゴイスト・プラチナム(30歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1738 ティタニア・ヘーベラスト(28歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1822 メリル・マーナ(30歳・♀・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ea2206 レオンスート・ヴィルジナ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2917 ニーナ・スィルキー(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3120 ロックフェラー・シュターゼン(40歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3301 オーギュスト・ミュラ(30歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 夕飯の買い物の時間帯なのだろうか。ノルマン王国首都・パリの市場は大いに賑わっている。買い物籠を手にした奥様連中はもちろん、食材を仕入れに来た料理人らしき姿もあった。そればかりか、交易目的らしき商人が、あちらこちらを検分する姿もちらほらと見えている。
 そんな中、冒険者たちは人の波の中、どうにか流されぬよう立っている。
『うわあ。人がいっぱいだー』
『あまりキョロキョロするでないわ』
 めずらしげに周囲を見回すニーナ・スィルキー(ea2917)の後頭部を、メリル・マーナ(ea1822)が軽く小突く。
『あた。ひどいよメリル』
『物見遊山に来たわけではなかろう。わしらは盗人どもを成敗するために雇われたのじゃからな』
 ノルマンの公用語であるゲルマン語を話せないニーナのため、メリルも彼女にあわせて故郷ビザンチンの言葉を使っている。年下の娘の指摘に、ニーナは口を尖らせた。
『わかってるよ。でも、風の精霊とはお話できなかったし』
 ニーナのステインエアーワードは、空気と会話をする魔法である。ただしこの呪文で会話ができるのは、室内などのよどんだ場所の空気に限られる。市場のような人通りの頻繁な場所では効果が見込めないのだ。
 上品な面差しに不似合いな子供めいた仕草に、メリルは少し肩をすくめる。
『‥‥ま、わしもおぬしもまだ駆け出しじゃからな』
 ウィザードとして魔法を学んだ以上、自分の使う呪文の効果に関して知識を得ていて然るべきだが、今更それを咎めても仕方あるまい。これから先冒険を重ねていくうちに、ニーナも己の使う魔法についてより一層の理解を深めていくだろう。もちろん、それまで生き残っていられればの話ではあるが。

「‥‥だからぁ、ね? こうやって頼んでるじゃなーい」
 人の波の向こうから聞き覚えのある声を認めて、メリルはそちらに顔を向けた。
 レオンスート・ヴィルジナ(ea2206)だ。愛用と見えるクルスソードを腰に帯びている。神聖魔法の聖印ともなるこの剣を持てる者は限られており、その中でもっとも代表的なのが、彼のように神聖騎士と呼ばれるひとびとである。
「このリョーカ様が、直々に一肌脱いでやろうって言ってるのよぉ?」
 ‥‥もっとも、節々に女性的な言い回しを含む彼のゲルマン語ののうさんくささは、教会の威光篤きクルスソードをもってしても消しようがなかったのだが。
「どうした? レオンスート」
「あん、聞いてよメリルぅ。ていうか、リョーカって呼んでって言ったでしょぉ?」
 二メートル近い偉丈夫に口を尖らされ、メリルはもう一度肩をすくめた。
「‥‥では、リョーカ。何をもめているのじゃ」
「この肉屋のオジサマに、お肉をいただこうと思ったの」
「肉はウチの商売もんだ。タダじゃやれねえな」
 そう言った肉屋の店主も、対峙するリョーカに負けず劣らず筋骨隆々としていた。
「何も新鮮なのをくれって言ってるわけじゃないのよ。程よく傷みかけて、生臭いイイ匂いのする生肉でいいの。ゴブリンを捕まえて躾けるのに、どーしても必要なのよ」
「ンなこと言ったってよ‥‥あんたからも何か言ってくれよ」
「?」
 顔を向けられたニーナはゲルマン語による会話内容がわからず、ただにこにこしている。こりゃだめだと即座に判じて、店主は苦々しい顔でリョーカに顔を戻した。
 神聖騎士の青年は笑顔のままずいと顔を突き出した。
「どうせ売り物にならないんだし、人助けよ、ひ・と・だ・す・け」
「むむ」
 刹那の間腕組みして考え込み、店主はやれやれと言うように首を振った。
「‥‥ちっと待ってな。包んでくらあ」

 ニーナさんたちの調査によれば‥‥と、エゴイスト・プラチナム(ea1621)は言う。
「ゴブリンたちは、店の人の目を盗んで店先のものを奪っていくようです」
「どんなに気をつけたって、店の支度中、片付け中はお忙しいでしょうからね」
 うなずいたのはティタニア・ヘーベラスト(ea1738)。
「酒場の主人も言っていたことだが」
 それに言葉を継いだのは、ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)だ。モンスターについて幾許かの知識を持つ彼は、ゴブリンについてもひととおりのことは知っている。
「ゴブリンは人ごみを嫌う。明るい昼間に活動するのもあまり好まない。つまり俺達は朝か、もしくは太陽の翳ってくる夕方を警戒すればいいわけだ」
「すくなくとも、徒に街の方を巻き込むようなことは避けられそうですね」
 ナイトであるティタニアらしい言い草に、エゴイストがわずかに笑んだ。
「ええ。市場が混雑する時間帯であれば人ごみで追跡も困難ですし、むやみに戦闘を挑むわけにもいきません。この点では確かに助かります」
「次にどの店が狙われそうか、目星はついているのか?」
「そうですね」
 ロックフェラーの問いに、ウィザードは少し考え込む仕草を見せた。
「ゴブリンが好むのは特に生肉。野菜や果物関係も盗まれてはいますが、それは近辺の肉屋が警戒を強めてからの話です。いわば肉のかわりでしょうね」
「それなら、例の作戦で大丈夫でしょうか」
 ティタニアの言葉に、ロックフェラーとエゴイスト、ふたりの男性は頷いた。
「粗漏はないと思います」
「早速取り掛かろう」

●泥棒を追い詰めろ
「‥‥来ませんね」
 夕闇迫る暗がりの中で、オーギュスト・ミュラ(ea3301)はそっとため息をついた。
 ゴブリンをおびき出すため、半地下の貯蔵庫を一棟借り受けていた。広さはさほどでもない。空の木箱の陰からそうっと中の様子を窺うと、貯蔵庫の床の真ん中に、肉屋からもらった肉の塊一個が、でんと鎮座ましましている。
「‥‥どうなんでしょう、この状況」
 はっきり言って不自然このうえない。
 作戦はこうだ。まず、リョーカが肉に縄をくくりつけ、適当に町の中をひきずり回す。傷みかけのお肉の匂いが地面にそこそこ染み付いたところで、埃っぽくなった肉を貯蔵庫に置いておく。
「ええと、それから」
 エゴイストやニーナと打ち合わせた内容をさらに思い出そうとしたとき、カチカチという音が耳に届く。屋根の上にいるエゴイストの合図の音だ。あわてて周囲を見回すと、目深にフードをかぶったいくつかの人影が地面を這っている。鼻先を石畳にこすりつけんばかりにしているのは、もしかして匂いを嗅いでいるのだろうか。
「本当に来ましたね‥‥」
 作戦を立案した者には悪いが、意外な思いを隠しきれないオーギュスト。現実主義者な彼にとって、こんな手にひっかかるゴブリンの頭の悪さはちょっと信じがたい。

 先頭にいたローブ姿の人影が顔を上げて、貯蔵庫の肉を発見したようだ。後ろにいる仲間に、奇妙な声でなにかを告げる。
 肉だ、肉だ。そんなふうに言っているのだろうか、小さな人影はこぞって肉の周囲に集まっている。しげしげと見つめ、周囲を見回して、おそるおそる手を伸ばし。
「今じゃ!」
 手が触れた瞬間、彼らの頭上にばさりと何かが降ってくる。
 網だ。つまり罠だ。仕掛けた張本人のメリルは、すでに貯蔵庫の箱の中から這い出そうとしていた。謀られたことを知った彼等の頭から、フードが落ちた。醜い小鬼の顔があらわになる。
「成敗してくれるわっ」
 矢をつがえ、短弓の弦を引く。放たれた矢は狙いたがわず、ゴブリンの肩に突き立った。さらに怒りの声が高くなり、網のくびきを逃れようともがく。
 続いてニーナのライトニングサンダーボルトが、まとめてゴブリンたちを焼いた。ゴブリンの一体が丸焦げになって倒れ、ついに網が引きちぎられる。
「逃がしませんっ」
 弾丸のように飛び出したゴブリンの進路を、オーギュストとティタニアがふさぐ。
 ゴブリンのローブの奥から、錆びた短剣が走る。ティタニアのジャイアントソードがそれを受け止めた。間髪いれずオーギュストが、その頭を盾で殴りつける。
 吹っ飛んだゴブリンの心臓にメリルの矢がまたひとつ突き立った。
 後衛組のメリルもニーナも比較的武装が薄い。与し易いと見てとったか、ティタニアたちを迂回して別のゴブリンがニーナたちへ向かう。
 まずい、と思ったとき、ロックフェラーが立ちはだかった。
 二メートルあまりの長槍を軽々操って、戦士はゴブリンに打ちかかる。石突でしたたかに打たれて悲鳴を上げ、小鬼は短剣を振り回した。だが当然、間合いはロックフェラーのほうが広い。
 元よりゴブリンは、質よりは量で恐れられる種族だ。街に入り込んだゴブリンが、それほど多数であるはずもない。そして頭もさほどよくないから、奇襲に弱い。
 彼らが貯蔵庫から一掃されるまで、そう時間はかからなかった。

「‥‥どうやら、これで全部のようですね」
 あちこちに倒れ伏したゴブリンを見ながら、エゴイストがつぶやく。建物から出てこないか屋根の上で見張っていた彼には、結局出番がなかった。まあ、それでいいのだろう。
「残りがいるという可能性は?」
「まずないだろうな。こいつらは街中で目立つのを嫌うから」
 ロックフェラーのあっさりとした答えに、ティタニアが胸を撫で下ろす。
「では、これで依頼は達成ということですね?」
「ふむ。初仕事にしては上出来じゃな」
「いーえ」
 メリルの言葉をを遮って、リョーカは首を振った。何か重大な見落としでもあったのかと、一瞬、皆が表情を緊張させる。
「この貯蔵庫はあとで市場の皆にお返しするんだもの。ひとまず、ゴブリンの屍を始末して、掃除をしなくっちゃダメよ」
 返り血や死体で、戦闘のあともなまなましい貯蔵庫を、放っておくわけにはいかないでしょ。
 大真面目な顔でリョーカが言うと、他の仲間はやれやれと肩をすくめたのだった。