【収穫祭】ただいま仮装中!

■ショートシナリオ


担当:宮本圭

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月03日〜11月08日

リプレイ公開日:2004年11月12日

●オープニング

 ノルマン王国の都パリ。この街ではいま、収穫祭の真っ最中だった。
 今年は港町ドレスタットの開港祭と時期が重なり、例年よりもさらに盛り上がりを見せているようだ。人々が活気づいていれば、自然とそこには金が集まる。金が集まれば、さらに人が集まる。人が集中すればますます金が‥‥それは多少なりとも商売の経験がある者ならば誰でも知っている基本、つまり摂理というものだ。要するに祭りは稼ぎ時なのである。
「祭りに間に合って助かった」
 だから男がそう呟いて僥倖を喜んだのも、いわば当然のこと。
 彼の属する傭兵団『鷲の翼』は稼ぎこそ悪くないが、飲む打つ買うの三拍子揃った荒くれ者がそろっている。宿代や食費などの最低限の生活費に加え、剣の研ぎ賃、馬の飼い葉代に酒代、時には娼館へくり出す団員たちへの小遣いなど、浪費にはとかく事欠かず、団の会計役を自負する彼の頭痛の種は尽きない。稼ぐ機会は多いにこしたことはないのだ。
「これで団の備蓄も、なんとか冬の蓄えに足りそうだ‥‥今年もよく稼いだな、うん」
「なんだ会計、祭りのときまで金の心配か? ケチケチと辛気臭い奴だな」
「後先考えず金を使う奴らばかりだからだ!」
 自分でもちょっと気にしていることを言われてとっさに振り返り、会計役はそのまま硬直した。
「‥‥団長。なんの冗談です、その格好は」
「似合うだろう?」
 にやりとふてぶてしい笑みを浮かべた団長の、無精髭の浮いた頬には白粉が塗りたくられていた。年増の娼婦も真っ青の毒々しい厚化粧が、むき出しのたくましい鎖骨まで続いている。農村の村娘といった風情のドレスの裾で、見苦しいすね毛が隠されているのが唯一の救いだろうか。
 立場上面と向かって罵倒するわけにもいかず、正直を美徳としている会計役はようやく感想をしぼり出した。
「‥‥似合いすぎて悪夢のようです」
「雇い主の意向で、会場警備の傭兵も全員仮装しろってこった。まあ強面の男どもが武装して目を光らせてたんじゃ、客も安心して楽しめねえからな。‥‥みんな向こうで衣装を選んでるから、お前さんもあとで見に行けよ」
 祭りに乗じてありついたのは、仮装パーティーの警備である。
 名前は忘れたが、主催者はそれなりに裕福な商人だそうだ。自分の屋敷の広い庭を一般に開放し、料理の給仕役や警備たちのほか、楽士や踊り子も呼んでいるようだ。入場費のほか、客に有料で衣装を貸し出すというのが商人らしいがめつさだが、かわりに衣装の種類は実に豊富らしい。だからこそ、男物の寸法のドレスなんてものまで見つかったのだろう。
「騎士の扮装なんてのもあったんだが、俺の柄じゃなくてよ。祭りなんだから、普段着られないもんを着たいじゃねェか」
「だからって化粧までしなくても‥‥」
「給仕の姉ちゃんが暇だったらしくて、面白がっていろいろ塗りたくってくれてなあ」
 冷静に考えよう。
 確かにこんな姿で会場を見張られていたら、別の意味で迫力がある。もし自分がパーティーに入り込んだ不届き者の立場なら、この女装を見た途端ばかばかしくなって河岸を変えようとするだろう‥‥きっとこれもゲオルグ団長の作戦なのだと、会計役はそう思い込もうとする。
「しかし、あれだな。女物の服ってのは、足元がスースーするんだなあ」
「‥‥スカートをめくらないでください! 団長の脚なんか見たくもありません」

 こんな人々が警備している仮装パーティ会場だが、さてさて、どうなることやら。

●今回の参加者

 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea2059 エリック・レニアートン(29歳・♂・バード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3079 グレイ・ロウ(36歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3844 アルテミシア・デュポア(34歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 ea3892 和紗 彼方(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4111 ミルフィーナ・ショコラータ(20歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5362 ロイド・クリストフ(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ミケイト・ニシーネ(ea0508)/ ウリエル・セグンド(ea1662)/ カルゼ・アルジス(ea3856

●リプレイ本文

 参加費を払って受付を抜けると、まずは衣装選びから始まる。
「騎士っつー柄じゃねえが‥‥俺は無難にこれか。ミカエルは決まったか?」
 グレイ・ロウ(ea3079)が声をかけると、衣装箱をがさがさ探るミカエル・テルセーロ(ea1674)はまだ悩んでいるようだ。そもそもパラであるミカエルは人間でいくと子供服の寸法で、そうなると衣装もやはり愛らしいものが多い。
「この天使の衣装なんか、お前に似合うと思うがなあ」
「いーえっ。この際ですから、うんと男らしい格好をしたいんです。逞しくて、格好よくて、迫力のある‥‥」
「‥‥迫力‥‥?」
 ミカエルに? とでも言いたげに青年が首をかしげるが、幸い当人は衣装選びに夢中で気づいていない。どうしたものかと頭をかいたグレイたちの背に、突然明るい声が投げかけられた。
「あれー? みんなまだ悩んでるの?」
「‥‥!!」
 すでに衣装を選んで着替え終えたらしい。和紗彼方(ea3892)はいつものジャパンの服ではなく、上はシャツにベスト、下はズボンという男っぽい服装だ。頭に巻いたバンダナや腰に佩いた曲刀もあいまって、女海賊といった風情である。
「結構似合うじゃねえか」
「えへへ、そう? 眼帯もつけちゃおうかなと思ったんだけど、さすがにやりすぎかと思って。それにこの刀、よくできてるけど、実は全然斬れないんだよ」
「すばらしいです、彼方さん」
「ありがと‥‥どうしたの?」
 ミカエルが彼方を見上げて目を輝かせており、彼方は思わず一歩退いた。グレイを見ると、彼は黙って首を振る。当のミカエルはといえば、すっかり彼方の衣装に受けた啓示の虜となっていた。
「海賊‥‥僕の求めるイメージにぴったりです!」

「シフール用の衣装もあるんですねえ‥‥あ、ちゃんと羽が出せるようになってます」
 『シフールの方はこちら』と木札のかかった箱を探っていたミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)に、パラの女性が呆れたように彼女の顔を見た。
「シフールの服とか靴は大概、同じシフールの職人が作ってるもんや。そんなことも知らんのかいな」
「あ、これ素敵! これにします」
 微妙に人の話を聞いていないミルフィーナが手にとったのは、白絹の下地に精緻な刺繍の施された丈の長いドレス。おそらく古着だろうが、それでも相当に高価なものだろう。
「さっき、同じ型の子供服が向こうにあったんですよ。ミケさん、お揃いにしませんか」
 うっ、とひるむ様子を見せた『ミケさん』。
「で‥‥でも高そうやんか。あかんあかん、贅沢は敵や」
「私が衣装代払うんですから、いいじゃないですか。ほら、早くしないと他の人に取られちゃいますよー」
「‥‥やれやれ、まだ始まってもいないのに騒がしいな」
 首を振りかけて、いや俺だってまだ二十八ではないかと思い出してロイド・クリストフ(ea5362)はなんとなく黙り込んだ。ひとり衣装の積まれた箱をがさがさと漁っていると、不意にその手がぴたりと止まる。
「‥‥なんだ、こりゃ?」

●パーティー本番
 そもそもの定義の話をすれば、祭りのばか騒ぎに乗じて、普段は絶対しないだろう服を身にまとうのが仮装ということになる。
「重い」
 たとえばそれが、陽光を受けてきらきらと光を散らすぶあつい錦のローブだったり。
「うざい」
 頭の上から垂らされた、風でひらひらと揺れる薄絹のヴェールだったり。
「歩きにくい!」
 ‥‥あるいはくるぶしまで届く長い裾の薄紅のドレスだったりするわけなのだが、そんな面倒な説明をしても、先程から衣装への文句に余念のないアルテミシア・デュポア(ea3844)にはおそらく通じまい。自分でその衣装を選んだはずだというつっこみも無効だろう。見るからに高価そうなスカートの裾をからげ、素足が見えるのも構わずのしのしとパーティーの会場内をねり歩く。
「いやいや眼福。ノルマンの女性は大胆でやすねえ」
「あいつぁイスパニア出身だって話だが」
 その光景に感心したふうの以心伝助(ea4744)の呟きに、さすがのグレイもノルマン女性を弁護せずにはいられず口を挟む。ワインの杯片手にうろうろするアルテミシアの挙動は、さながらドレスを着た冬眠前の熊のようだといったら本人に失礼だろうか。
「あ、飲んだ」
 まるで水でも飲み干すように、アルテミシアが杯のワインを軽々と空ける。ぷはー、とついた息が親父くさい酒くさい。
「イスパニアの娘はみんなああなんすかね」
「どこの国であれ、あれがその国の標準だと思わないほうがいいんじゃねえか?」
 ともあれ件の女性の顔色はすでにかなり酔いが回っていると見受けられ、ならば係わり合いにならないほうがよさそうだという点で意見が一致した。行き交う人の間を縫って、その場から離れる。
「‥‥お前の衣装、目立ってるぞ?」
「なんでも他所の国じゃ、ちょうどこの時期にこういうお祭りをやってるらしいと小耳に挟みやして」
 伝助の衣装は、マントにかぼちゃのかぶりもの。その『他所の国』の代表的なモンスターの格好であるらしい。もっとも飲み食いに不自由なので、今はかぶりものを脱いで小脇に抱えている。一方のグレイが黒を基調にした騎士風の礼装のためか、ミスマッチなことこの上ない。これも仮装パーティーの醍醐味だろうか。
「‥‥と」
 会場の隅にふと目を留め、林檎をかじりながら歩いていたグレイはふと歩を止めた。
「どうしやした?」
「あー、悪い。ちょっと野暮用だ」
「‥‥ああ、なるほど。じゃああっしはその辺をぶらぶらしてるっすから、どうぞごゆっくり」
 厠は確か向こうでやんすよ、と去り際に言われて、グレイは大人げなくも、かぼちゃ頭にかじりかけの林檎をぶつけてやった。

 さて、実はもうひとり、パンプキンヘッドの仮装をしている者がいる。
「かなちゃん、ミカエル。こっちの野菜のフリッターもいけるよ」
「どれどれ。‥‥あ、本当ですね。美味しい」
「これ、どこのテーブルにあったの?」
 差し出された皿からつまんだ料理は、衣をつけて揚げただけなのにどこか甘みがある。素朴な疑問を抱いた彼方の問いに、かぼちゃのかぶりものを帽子のようにかぶった少年が、どことも知れない方向を指さした。
「あそこの、楽士さんのいるあたりかな。意外と穴場みたいだから、まだあると思うよ。でもやっぱり人気あるのは肉だよね」
「さっきの子鹿のローストの香草詰め、すっごく美味しかったです」
 テーブルに腰かけ、おそろいの衣装を着たパラの皿から料理をもらっているミルフィーナが言う。
「うんうん、あれも美味しかったよねえ」
「向こうには林檎の冷菓がありましたよ。わざわざ魔法使いを雇って、氷の魔法で冷やして作ったんですって。ひんやりしててとっても美味しかったですけど、きっと普通に食べたら高いんでしょうねえ」
「へえ。そうだミルフィーナ、あれ食べた? あっちのテーブルで面白いスープがあったんだ。月道ものの唐辛子っていうのを使ってるとかで、スープが真っ赤ですっごく辛くて‥‥でもけっこう人気みたいなんだよね。それから」
 めったに食べられないめずらしい料理で、食いしん坊ふたりはやたらと生き生きしている。
「あーもう、そんなにいっぺんに言われてもわかんないよー。美味しければなんでもいいじゃない」
 彼らの情報交換にまず最初に彼方が音をあげ、少年が帽子のようにかぶっていたかぼちゃ頭がずるりとずれた。
 急に視界をさえぎられよろけた少年を支えようとして、ミカエルまで自分の服の裾を踏んづけて一緒にふらふらしていた。あわやかぼちゃ頭の下敷きになりかけたミカエルを、後ろから彼方がしっかと支える。
「あ、すいません」
「もう、危ないなあ。その服、寸法合ってないんじゃない?」
「これが海賊の衣装の中で一番小さかったんですよね‥‥」
 格好そのものは彼方とそう変わらないが、なにぶんパラの寸法のこと。ズボンといい上着といい丈が余りまくって、海賊というよりは頼りない船乗り見習いという印象だ。ズボンが落ちないように腰まわりに詰め物をしていることもあってシルエットはころころと丸く、いつもより二割増し小動物な印象である。
「でもこういうの、なんか楽しいよね、ウリエル。ガブも一緒に来られたらよかった‥‥かな? ウリエル?」
 顔を上げると、さっきまで隣にいたはずのミカエルの連れが姿を消していた。
 寡黙なくせに実は食いしん坊な青年が、パンプキンヘッドとミルフィーナのおすすめ料理を探すべく人だらけの場内へと旅立ったのだと気づくのは、この一瞬後である。

「探し人かね、お若い方」
「まあな」
「相手の名前は?」
「わかんねえ」
 ぶっきらぼうなグレイの言いように、ジプシーの女占い師は薄い布のヴェールの向こうでかすかに目を細めたようだ。
「名前のわからぬ相手をお探しか。さぞ訳ありと見える」
「‥‥あんたは俺の事情の詮索じゃなくて、占いが仕事だろう」
「ほほほ。ろくに事情も知らずして占いができるもんかね」
 言葉遣いは古めかしいが、ころころと笑う声は意外と若いのかもしれない。憮然とした顔のグレイは占い師の前にどっかと腰をおろして、ヴェールの下を見通してやろうというようにねめつけた。
「‥‥探さなきゃならねえ気がするんだ」
「ほう?」
「相手がどこかで待ってるような気がする」
「面妖なことをいう」
「だけどそいつがどこにいるかすら、俺にはわからねえ‥‥」
「だから柄にもなく占いにすがってみるか。ほほ、想いの猛きこと。若い若い」
 からかいの気配が伝わってきて、グレイはかちんと来て思わず席を立った。その背に静かな声が投げかけられる。
「おぬしに占いは必要あるまいよ、お若いの」
「‥‥?」
「見つかるか否か他人に問うことではなく、見つけるべく行動することこそが肝要。たとえばおぬしがお相手と死ぬまで巡り合えぬという卦が出たとして、おぬしはそれでは納得すまい? むしろ占いの結果を覆したいと願うのではないか」
 振り返ると、占い師は優雅な仕草でグレイに手を振った。
「これは占いではなく、迷える者に道を指し示すにすぎぬ。見料は結構だよ」

「あまりの美しさにめまいがするよ‥‥いっそこのまま気絶したほうが楽かもしれない」
「こういう所じゃ笑いをとったもん勝ちだろ」
 頭痛をなだめる仕草でこめかみをもみほぐしつつエリック・レニアートン(ea2059)が嘆息しても、ゲオルグ団長はちっとも応えた様子がない。背をそらして、村娘のドレスの襟ぐりからのぞく立派な胸板をアピールする。
「‥‥今なんだか心底団員の人たちに同情した」
「お前の格好もなかなか面白いと思うぞ」
「その仮装が平気な人に言われても嬉しくないんだけど‥‥」
 大げさに肩をすくめたエリックは、ジャパンの着物と袴、そしてその上に陣羽織。異国の装束というのは仮装の格好のネタなのか、エリックが思っていたよりもずっと種類が豊富であった。もっともその中には、かの地に詳しい者が首をかしげるような代物も少なくなかったわけだが。
「そこのすね毛」
 その団長に向かってびし、と指をさしたのはアルテミシアである。
「なってないわよなってないわ色々っ。私をご覧なさいっドレスってのはこのように可憐に着るべきなのよ!」
「‥‥可憐?」
 ロイドの小さな声に、ぐりんと後ろを向くアルテミシア。
「うるさいわよそこの馬神っ。人に文句をつける暇があったらさっさと私にクリスティーヌを授けなさい!」
「もう中身の判断がつかんほど酔ってるのか‥‥」
 もう苦笑するしかないロイドはしかし、馬のかぶりものに首から下は何故か白の正装という珍妙な格好で、確かに馬神呼ばわりされても仕方ない‥‥わけではないと思うのだが、酔っ払いに正常な判断を期待しても仕方ない気がしなくもない。
「遊ぶならとことんまで、女装するなら徹底的にっ。でかい図体でも綺麗になれるのよっ」
「綺麗になるためというより、本人は受け狙いでやってると思いやすが‥‥なんというか」
「恵まれた体格の無駄遣いだよね‥‥」
 伝助とエリック、互いに恵まれているとは言いがたい体格の持ち主同士で頷きあうのも、彼女には聞こえていないらしい。
「とりあえずすね毛は剃らないと話にならないわ」
 ゲオルグを指さしたアルテミシアの指はもはやふらふらと焦点が定まっていないのに、目だけはなぜかすわっている。
「剃るわよ」
 うっ、とその場にいたほとんどの者が引いたが、言われた当人はぽりぽりと頭をかいた。
「俺は別に構わんが‥‥剃ったところでずっとそのままってもんでもなし」
「いやいやいやいや頼んますそれだけは勘弁っす!」
 確かこちらには服の下に下着を着ける習慣はなかったはずだと思い出した伝助が、その場でスカートをまくろうとしたゲオルグを全力で押しとどめる。その後ろでエリックがかがみこんでいるのは、うっかり光景を想像して頭痛が本格化したらしい。
「残念。意外と一歩進んだ世界に目覚めるかもしれんのになあ」
「ロイドさんも煽るのはやめてほしいんすけど」
「ていうか危ないんじゃないの? 彼女」
 エリックの言うとおり、アルテミシアは(おそらくすね毛を剃るのに使う気なのだろう)ダガー片手に酔いがまわってへべれけ状態、立っているだけでゆらゆらと上半身が泳いでいる。当の警護役のゲオルグがいるからいいものの、本来なら危険人物としてとっくに取り押さえられてしかるべきだろう。
「仕方ねえな」
 ひょいとその手から刃物を取り上げて、ロイドはアルテミシアの体を抱えあげた。彼女の服装が豪華な姫君風なのもあいまって、その光景はさながら物語の中の絵のようだ。‥‥ロイドが馬でさえなければだが。
「馬神ー、さっさとくりすてぃーぬよこせー」
「わかったわかった」
 酔っ払いの繰言にいいかげんに相槌をうって、アルテミシアを抱えたロイドが、彼女を着替えさせてくれる者を探しに行く。呆れた様子でそれを見送って、ゲオルグは隣のエリックに問うてみた。
「坊主。冒険者ってのは、皆ああなのか?」
「あれを冒険者の標準だと思わないでほしいんだけど‥‥」
 どこかで聞いたような応酬をしていると、どやどやと足音も騒がしく東洋風の衣装の男が近づいてきた。エリックにも見覚えのある、『鷲の翼』団員だ。
「すいません、団長」
「なんだ?」
「実はさっき、会場内でその、迷子を保護したんですが‥‥」
「ああ、なら親の名前聞いてやんな。今頃親を探して泣いてるだろ」
「いや、それが親じゃなくて、唐辛子のスープを探してるんだって言うんですよ」
 ――収穫祭も、いよいよ終わろうとしている。