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■ショートシナリオ


担当:宮本圭

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや易

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月07日〜12月15日

リプレイ公開日:2004年12月15日

●オープニング

「なあ、本当のことを言おう」
 伸ばしっぱなしで不ぞろいな長さの髪をばりばりとかき回しながら、『鷲の翼』傭兵団団長ゲオルグは言った。
「そりゃいつもお前のことを、金に細かいだのケチケチしてるだのと言いはするが、俺は実は会計役どのを結構信頼してる。金を出すべきときは出し、出さざるべきときは出さない。お前が団の金をしっかり管理してくれているからこそ、団員の連中も飢え死にせずに済んでるんだ。普段は照れくさくてこんなこと言えやしねえが、感謝してるんだぜ、まったく」
「そいつはどうも」
「だから俺にはちゃんとわかってる」
 傭兵団会計役の男の相槌がなぜかおざなりであることも気にせず、団長はさらに言葉を継ぐ。
「普段台所事情が苦しい苦しいと言っちゃいるが、それは奴らに無駄遣いさせないためのちょっとした嘘にすぎないってことを‥‥俺にだけは正直に話して欲しいんだ。本当はちゃんともしもの時のために、充分な蓄えをどこかに隠してくれてるんだろ?」
「‥‥要約すると『金貸してくれ』?」
「そのとおりッ」
 次の瞬間、重い銅の燭台が、団長の顔面めがけて思いきり振り下ろされた。

「も、も、もしや、そのままその燭台で、団長さんを撲殺‥‥」
「まさか」
 冒険者ギルド、受付の一角。会計役は悠然と腕を組んだまま、受付嬢の恐ろしい推測を鼻で笑い飛ばした。
「殺したりするわけがないでしょう。あれでも一応は団長ですからね」
「そそそそそうですよねっ。私ったら、失礼なことを」
「これでも傭兵ですから、手加減はちゃんと心得てますよ」
 ははは、とにこやかに笑う会計役に追従して、受付嬢もひきつった笑みを浮かべる。表面上はなごやかな笑い声がひとしきり流れたあと、なぜか訪れた微妙な沈黙の中で殺伐とした呟きが落ちた。
「‥‥一撃で殺すなんて、そんなもったいない」
「そ、それで」
 聞かなかったことにしようと心に決めて、受付嬢は無理やり話題をそらした。
「ええと、本日はどのようなご依頼に‥‥」
「それなのですが」
 会計役は身を乗り出した。
「実は俺、団の用事で遣いに出かけることになりまして」
「あら」
「本当は団長が行くはずだったんですが、燭台で殴りつけたおかげで顔に大きな痣ができちまったのでね。あのみっともない顔で団長だなんて名乗られたら恥ずかしくて仕方ないので、代わりに俺が行くことにしたんです」
「は‥‥はあ」
 ゲオルグ団長をその『みっともない顔』にしたのは、会計役本人であるはずなのだが‥‥あんまりな言いように受付嬢は口ごもるが、当人は涼しい顔で話を続ける。
「しかしそうなると後のことが心配だ。団長だけじゃなく、うちの団は浪費家ばかりが揃っていやがりましてね。俺が目を光らせてないと、際限なく食うわ呑むわ、無駄な買い物はするわ、博打に行くわ女は買うわ‥‥おっと」
 受付嬢の視線に気づいた会計役は、失礼、と咳払いをした。
「‥‥つまり俺の留守中に蓄えを守る奴が欲しいんですよ。放っておいたら、帰ったときには全員飢え死に寸前なんてことにもなりかねない‥‥そうだな、切り詰めれば切り詰めるほどいい。連中だってそろそろ倹約を覚えていい頃だ。いつもよりも出費が浮けば、そのぶんの金額を冒険者連中に報酬としてお支払いしましょう。どうです?」
「悪いお話ではないと思いますけど‥‥大丈夫ですか? 先ほどのお話ですと、財政、苦しいんじゃありません?」
「誰がそんなこと言いました?」
「え? だって」
 ありもしない蓄えを出せと言われて頭に来て、あまつさえ団長の顔を殴りつけさえしたのではないか。訝る受付嬢に対して、会計役はにこやかに微笑を向けた。
「お嬢さん。秘密の貯蓄のひとつやふたつ作れないで、会計役は名乗れませんよ」

●今回の参加者

 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea1685 皇 荊姫(17歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea2059 エリック・レニアートン(29歳・♂・バード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3079 グレイ・ロウ(36歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea3674 源真 霧矢(34歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6332 アヴィルカ・レジィ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7814 サトリィン・オーナス(43歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 そこへ足を踏み入れるなり、うっ、と誰からともなく声があがった。
「‥‥男くさい」
 口元と鼻を覆いながらサトリィン・オーナス(ea7814)が呟く。それはもう男所帯なのだから仕方ないのだが、これからしばらくここで過ごす身としてはだからといって見過ごせない。
 あまり空気を入れ替えないのか埃の匂いと、サトリィン曰く『男くさい』匂いが混じっている。汚れ物であろう衣類はおそらく最初は部屋の隅に慎ましく数着だけ脱ぎっぱなしにされていたのだろうが、今では部屋の一割ほどを占める山の連なりになっていた。誰のものとも知れない下穿きをつまみ上げ、一度ここに来たことのあるエリック・レニアートン(ea2059)が顔をしかめる。
「この間ちゃんと掃除したのに」
 しかし『この間』というのは少なくとも二ヶ月は前で、身の周りに無頓着な男連中が部屋を荒野にするには充分な時間だ。留守にしている会計役は生来比較的まめな性格らしく、先に覗いた彼の個室はそこそこ片付いていたが、彼ひとりでこの下宿ぜんぶに目を行き届かせるのはまず無理な話だろう。そもそも彼は会計であって掃除夫ではないのだ。
「これもきっと無駄遣いの一因なのでしょうね‥‥」
 ため息混じりの皇荊姫(ea1685)の類推はおおむね当たっている。
 滅多に服を洗わないからそのうち着る服がなくなる。裸で過ごすわけにもいかないので新しい服を買う。でも掃除をしないからちょっとしたことですぐ汚す。そしてまた‥‥考えただけでめまいがしそうな悪循環にサトリィンは首を振った。
「先生‥‥この生活が無事に終えられますように‥‥」
 十字架を手に祈る彼女につき合って荊姫もエリックもそれぞれ祈ったあと(何しろそうでもしないと掃除する気力が失せそうだ)早速皆で仕事を始めることにした。

「えー、まず家賃‥‥あと馬の飼い葉代、それに修理に出してる武具の修理費。会計役さんによると、これは削れないそうです」
 ミカエル・テルセーロ(ea1674)が読み上げる内容を書きとめながら、アヴィルカ・レジィ(ea6332)は感情の窺い知れぬ面を上げて少年を見た。
「逆に言えば‥‥他はどれだけ削ってもいいということ?」
「だと思います‥‥たぶん」
 それはつまり諸雑費はもちろん炊き出しや暖房に使う薪の費用も‥‥食費すらも?
 ――容赦はしなくていい、舐められたら終わりだ。猛獣をしつける要領でやりなさい。
 出発間際の会計役の凄味を帯びた助言を思い出し、ミカエルもアヴィルカもその場にいた冒険者ら全員がなんとなく黙る。言うことを聞かず浪費に走る団員たち(団長含む)に、よほど鬱憤がたまっていたのだろうか。
「か、会計役さんはああ言いましたけど、とりあえずは無駄遣いをやめさせる方向でいきましょうねっ」
「そうだな‥‥集団で餓死されるというのも後味が悪いし」
 とんでもない科白をさらりと吐いて、アヴィルカは再び目の前の羊皮紙に目を落とした。
「‥‥まず買出しが問題か。団員でないとわからないものもあるだろうし‥‥」
「でも市場って、いろんなものがあるから誘惑がたくさんですよね」
「何人かついていったほうがいい‥‥かな。ところで」
 書き物を続けているアヴィルカは紙の上から視線を動かさぬまま、ミカエルに声をかける。
「どうしてそんな髪形なのか、聞いたほうがいい?」
「‥‥‥‥」
 やわらかそうな金髪をなぜか可愛らしい色の飾り紐でふたつに括ったミカエルの外見は、パラ特有の幼さを残す顔立ちもあってどう見ても女の子のそれだ。嫌な顔をしたミカエルに、エルフの少女は、
「‥‥特に興味はないんだけど、みんな気になってるみたいだから聞いてみた」
 とのたまった。

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「‥‥あの靴は俺に似合うと思わねえか?」
「あんなあ」
 市場のまんなかでため息。ものほしげな目で革職人の出している出店から若い団員をひきはがし、源真霧矢(ea3674)は食材関係が出ているはずの方向に向け歩き出した。
 買出しに出たはいいものの、いみじくもミカエルが言ったとおり市場には誘惑がたくさんだ。
「確か玄関のあたりに、似たような靴が埃かぶっとったで。誰のか知らんけど」
 ちゃんと手入れすればあれも充分履けるはずだと、言外に告げる。団員の抗議は、眇めた目でじっと見返してやった。
「大体、今日は最低限の金しか持ってきてへんで。夕メシが塩気抜きでええんなら構わんけどな」
 猛烈な勢いで台所の掃除を済ませたエリックに、塩が切れているからと頼まれていた。塩は内地では値が張ることが多く、下手に安物を買うと、砂や虫の死骸の混じったスープを飲むはめになる。さすがにそれは願い下げなのか、団員が黙り込んだ。
 そもそも金があるから使うのだ。アヴィルカや霧矢の提案で、買い物には必要最低限の予算だけを持ち出すことにしていた。会計役から預かった金はじゅうぶんな額ではあるが、節約すればしただけ報酬も増えるので無駄遣いはしないに越したことはない。
「せっかく口うるさい会計役どのがいねえってのに‥‥」
「あれこれ世話焼いてくれてるうちが華やで。見捨てられたら、全員あっという間に貧乏のどん底や。お前ら皆、せんでもええ無駄遣いが多すぎるんや、実際。今の靴なんかいい例や」
 なあ? とアヴィルカを見ると、茫洋とした表情の少女は、さあ‥‥と首を振った。
「どの程度からが浪費なのか、あまりよくわからないから」
「‥‥‥‥」

「床を磨けば、心がさわやかになると申します」
 荊姫のおごそかな科白は明らかに場違いだったが、それに異を唱えようとする者はいなかった。
「逆を言うならば、住む家が荒れていれば心もおのずと荒むということです。家を磨くことはすなわち心を磨くこと‥‥すばらしいと思いませんか。それにそのような題目を抜きにしても、このように散らかっていては、大事なものを探すときなかなか見つからないでしょう?」
 ぐうの音も出ないとはまさしくこのことだろうか。
「私も家事に関してはほぼ素人ですが、皆様と一緒に協力し合えばきっと楽しいと思います。力をあわせて家を綺麗にしましょうね。‥‥あ、もう動けますよ」
 神聖魔法コアギュレイトの効果時間がいつのまにか終わっていたらしい。逃げ出そうとした形のまま固まっていた傭兵ふたりがその場にばたりと倒れこんだ。あやういバランスでずっと立っていたので、腰に来たようだ。
「自分で散らかしたものは、自分で片付ける。わかるわよね?」
「雑巾も箒もちゃんと用意いたしました。あとは掃除するばかりです」
 魔法をかけた張本人は、もちろんサトリィンと荊姫以外にありえない。箒を片手に、もはや動く気力すらない団員たちに向けにこりと笑む。
「節約の一環として、断食というのも考えたのですが‥‥やはり素人の方がいきなり食を断つのは難しいかと思いまして。いろいろ考えた結果、私にできそうなのはこれと結論したのです」
「食べることも生きる楽しみのひとつだものね。まあ、まずは掃除よ」
 今の状態では、食べることすら(主にスペースの問題で)難しい。腕まくりをして近づいてくる僧侶とクレリックから逃げる場所はもはや、傭兵たちには残されていなかった。片付けなかった報い、かもしれない。
「綺麗にして、会計役さんが帰ってきたときびっくりさせましょうねー」
 にこにこ笑顔のミカエルの頭はやっぱりなぜか女の子結びだ。いったい何の罰ゲームなのだろうか。

 物陰から狙いを定め引き絞った矢を放つと、手ごたえがあった。そっと立ち上がり慎重に近づく。同行していた団員たちも、がさがさと枝葉をかきわけてそちらのほうへ接近した。
 獲物の野兎はシルバー・ストーム(ea3651)の矢に見事に射抜かれ、地面に縫いとめられている。
「今晩の夕飯に追加ですね」
 呟くと、シルバーはひとまず矢を引き抜いて回収する。仕掛けた罠にかかったぶんも考えると、とりあえず今夜の食事のメインぐらいにはなりそうだ。もう冬なので獲物はさほど豊富とはいえず、明日のぶんまでは確保できないのが残念といえば残念だが。
「鹿でもいれば、一、二頭仕留めれば充分なんですが‥‥」
 もとより趣味程度の腕前である。大物を狙うには難しい。
 節約計画の一環として、シルバーは団長に団員の何人かを借りて、手近な狩場を見つけ狩りに出かけていた。自給自足できれば食費をそれだけ減らせるのと、家にこもってだらだらするよりは発散になるだろうという配慮である。
「おーし。そろそろ帰らねぇと、夕メシに間にあわねえな」
 グレイ・ロウ(ea3079)の言うとおり、そろそろ日は傾き始めている。早めに戻らないと、帰ったときにはもう真っ暗ということにもなりかねない。もちろん日が落ちてからでも夕飯を食べられないことはないが、その場合蝋燭代が余分にかかる‥‥節約というのも、やってみると意外と大変だ。
「グレイさん。釣りのほうはいかがでした?」
「ああ駄目だ駄目。さっぱり釣れねえ。やっぱり俺は狩りのほうが向いてるぜ」
 そう言って首を振るグレイは、狩りは多少できるが釣りのほうは素人だ。小川を見つけて小一時間ほどやってみたものの、釣果はさっぱり。団員たちのほうも似たり寄ったりである。
「糸をたらしたままじっとしてるってのが性に合わねえのかもなあ」
「肉ばかりでも飽きるので、魚料理もいいかと思ったのですが‥‥」
 釣れないものは仕方ありませんねと肩をすくめて、シルバーは獲物の入った麻袋を愛馬の背に積んだ。頭のうしろを掻きながら、グレイは即席の釣り道具をしまいこむ。
「とにかく、さっさと帰るか」
「いえ、その前に少し薪を拾わないと。買うとけっこういい値がしますから」
「‥‥そうか」
 なかなかそこまでは気が回らないグレイは、どちらかというと傭兵たちに近い性分なのだろう。

「‥‥よく痣だけで済んだよね」
「つうかあいつに殴られたとき本当に死んだと思ったぞ俺は」
 ああ痛えと、エリックに答える団長ゲオルグの顔面には青黒い痣が残っている。治りかけなのだろう、痣にはところどころ赤く腫れた部分も混じり、顔の上に一層不気味な模様を作っていた。
 団長の特権なのか、階下があわただしい中、彼はひとり自室にこもって寝ていたらしい。食事の時間を告げると、ようやく階段を下りてきた。怠惰そのものの生活態度を思ってか、霧矢が渋面を作る。
「殴られても文句言えへんわそんなん。会計はんがひとりで苦労しとるのに、団長はん自ら金貸せなんて言うて」
「はは。悪い悪い」
 あまり誠意の感じられない口調のまま席につく。食事の席はすでに盛況で、エリックの作った夕飯は好評である。野兎のソテーの肉はシルバーが獲ってきたもの、香草はアヴィルカがどこからか見つけてきたものと、できる限り出費は抑えていた。
「顔に余計なものがなければ、貫禄が出て男前になると思うわよ?」
 サトリィンの言葉に団長はにやりと笑って、無精ひげでざらつく顎をなでる。
「剃ると男前が上がって女が騒いで困るんで、このままにしてるんだ」
「口説くならよそでやったほうがいいと思うんだけど‥‥」
 嘆息したエリックが運んできた食事をテーブルに置くと、先に食事に手をつけていたグレイが口を動かしながら尋ねた。
「つうか、ここの連中には恋人とかいねえのか?」
「ここにいるのは冬の間だけだからなあ」
 ソテーを切り分けながら、ゲオルグが答えた。
「ノルマンが平和になって、ここんとこ戦もご無沙汰だしな。十数人からなる傭兵団の働き口はそうはねえんだ。うちは団員のバラ売りもしてるが、それだと稼ぎもたかが知れてるし‥‥春になったらここを引き払って、また根無し草よ」
 この地を離れる身なのだから、恋人など作ってもいずれ別れることになる。傭兵たちはそれを分かっているから、土地に未練を残さないようにしているのだと、団長は言う。
「はあ‥‥傭兵さんというのも、結構大変なんですねえ」
「おう。だから女遊びぐらいはお目こぼししてほしいもんなんだがなあ」
「え、えーと、でもそれとこれとは話が別なのでは‥‥」
「男なんだから溜まるもんはしょうがねえだろうが」
 知らず赤裸々な方向に話を運ばれ、あげく猥談すれすれの物言いにミカエルが顔を赤くして下を向く。下品な発言を聞かなかったことにしようと全員がそ知らぬ顔で食事を続け、ゲオルグはふとエリックの袖を引いた。
「薄めてない酒はねえのか?」
 やっぱり気づかれていたか‥‥世話の焼ける大人だと言わんばかりの顔で、エリックはもう一度露骨にため息をついてみせた。

 その二日後、馬を駆って会計役が無事所用から戻ってきた。
 見違えるように片付いた下宿の中にまず感心し、それから蝋燭や薪などの消耗品を見たあと、預けていた金の残り具合を見た。そのあと節約のために何をしたのかを冒険者らに尋ね、しばし考えたあと、自室にこもってしまった。
 小一時間ほどで計算を終え、冒険者らに支払われた金額は、ひとりにつき金貨一枚と銀貨二枚。食材を自前で賄ったことと、無駄遣いのたぐいをできる限り抑えたのが効いたようだ。
「別に厳しくせんでも、これだけ出費を抑えられたんや。参考になったか?」
「もっとビシビシ節約させてもよかったのに」
 会計役の意外な言葉に、霧矢はちょっと目を丸くする。もっとも続いて言われた科白は、言われてみれば非常に納得のいくものではあったのだが。
「冒険者が俺よりも厳しく節約させればさせるほど、帰ってきたとき俺が有難がられるだろう?」
 傭兵団『鷲の翼』の台所事情は、こういう男によって支えられている。