誰も寝てはならぬ

■ショートシナリオ


担当:宮本圭

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 96 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月11日〜02月18日

リプレイ公開日:2005年02月20日

●オープニング

「泥棒ですか」
「うむ、泥棒じゃ」
 ただの泥棒ではない‥‥カウンターの向こうで老人は立ち上がり、苦悩をあらわすべく芝居がかった仕草を見せた。ギルド員は座ったまま冷静にそれを見守った。しぶくポーズを決めたまま老人は大きく出た。
「わしの畑のかわいい作物を端から掠め取っていく、そりゃあにっくき泥棒どもじゃ!」
 そうでしょうとも、とギルド員は深くうなずいたが、どう聞いてもそれはつけたしだった。彼はそれなりにベテランのはずなのだが、あいにく接客に必要な演技力というものが決定的に欠如していた。それもそのはず、彼は本来は記録係であって、今日受付に座っているのは、急病で休んだ同僚の穴埋めに他ならない。
「今の季節だと、畑は葉ものが中心ですか」
「おお、そうじゃ。冬は虫がつきにくいからの。レタスやキャベツを育てやすいのじゃ。そういえばお前さん、いい体しとるのう。どうじゃ、うちの畑で働かんかね?」
「せっかくですが、今は依頼の話を。犯人にお心当たりは?」
「そりゃあ、オーガどもに決まっとる。わしゃあ見たんじゃ!」
 老人だけでなく、他の小作人らも、オーガや武装したゴブリンらが畑から逃げていく姿を見ているという。彼らは本来肉食だが、家畜小屋は始終人が出入りしているし、放牧している牛や馬たちにしても、牧羊犬や牧童がいるから、そうそうは盗み出せない。それで手薄な畑のほうに目をつけたのだろう。
 襲撃の時間帯はばらばらで、いつ出てくるかわからない。どこかの縄張りから最近流れてきたらしく、どこを根城にしているかも不確かだった。どうやら妙な知恵をつけているのが混じっているらしく、居場所を悟らせないよう定期的に移動しているらしい。
「一度人を雇ったんじゃがな。若造めが、肝心なときに居眠りしおって役に立たんかったわい」
「依頼を受ける冒険者には、そのようなことがないよう事前にきつく言っておきます」
 引き出しから羊皮紙を取り出して、依頼書を作るべくペン立てからペンを取りながら、ギルド員は言う。老人がまだぶつぶつと言っているのは、どうやらその居眠りした冒険者だか傭兵だかの愚痴らしい。
「大体根性が足りんわい。あの程度の広さで音を上げおって」
「広さ、というと」
 そういえば基本的なことを聞いていなかったと、ギルド員はもう一度目を上げた。
「お聞きしても? お持ちの畑というのは、具体的にどの程度の広さで?」
「あ? なんかお前さん勘違いしとらんかね。見張るのはうちの畑だけじゃあないぞ」
 嫌な予感がして、ギルド員は目をしばたたかせた。
「うちの畑だけが無事でどうする。村まるまるひとつ、全部の畑を見張るんじゃ。ゴブリンめら、最近は昼間にも出てきて堂々と野菜を奪っていきよる。いいか若いの、ぜーったいに奴らに村に一歩も踏み込ませないような、腕っこきの冒険者を頼むぞ、居眠りせんような真面目なのをな、おい、聞いとるのか?」

●今回の参加者

 ea0508 ミケイト・ニシーネ(31歳・♀・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea1662 ウリエル・セグンド(31歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea2206 レオンスート・ヴィルジナ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2924 レイジ・クロゾルム(37歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2938 ブルー・アンバー(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3674 源真 霧矢(34歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea4822 ユーディクス・ディエクエス(27歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

ラテリカ・ラートベル(ea1641)/ ミカエル・テルセーロ(ea1674)/ 紅峠 美鹿(ea8203

●リプレイ本文

 依頼のあった村は、馬でだいたいパリから二日ほど。到着は昼前だったが、すでに充分日は高く村の様子はちゃんと見渡せる。
「‥‥広い」
 まずそれが感想である。見張りの依頼というのはそれほどめずらしくないが、それは大概倉庫とか屋敷とか、ある程度限定された空間での話である。小さいとはいえ村ひとつ、おまけに農村だから畑も入れるとちょっとした広さだ。村の端から端までを全力疾走したりしようものなら、体力のない者は倒れてしまいかねない。
「‥‥この広さをこの人数で見張るのか」
「仕方ないじゃろうっ」
 やれやれと首を振るレイジ・クロゾルム(ea2924)の呟きを聞きとがめ、依頼人の老人がそちらに指をつきつけた。
「冒険者を雇う金にも限度があるんじゃ!」
「冬は少しでも節約せにゃ、あっという間に蓄えを食いつぶしてしまうわい」
「わしらに飢え死にせいと言うんか」
「これじゃから近頃の若い者は」
 どこから増殖したのかいつのまにか依頼人の後ろにわらわら固まっていた老人たちが、ここぞとばかりに冒険者たちに向けて次々文句をたれている。あんまりな言われようにレイジはむっとした顔を見せたが、彼がなにか言い返す前に源真霧矢(ea3674)が割り込んだ。
「まああれや。その冬の貴重な収入源を、オーガが掠め取っとるわけやな?」
「いかにもじゃ!」
「ほんならわいらもあんじょう気張らんと。なあ?」
 話を振られて、馬から荷を下ろしていたブルー・アンバー(ea2938)がそうですねと頷いた。
「村の皆さんが丹精こめて育てた作物を荒らすというのは、やはり許せません」
 生真面目なブルーの返答でようやくいくらか溜飲を下げたらしく、くれぐれも頼んだぞーなどと念を押しながら老人のみなさんが農具片手にあちこちに散っていく。集まってきた理由はたぶん、冒険者の物珍しさが半分、真面目に仕事のできる連中か確かめにきたのが半分というところなのだろう。まったくうかつに愚痴もこぼせない。
 今度こそやれやれと息をついた面々のもとへ、驢馬を村の厩につないできたウリエル・セグンド(ea1662)が戻ってくる。
「‥‥地図」
 ぼそりとのたまいつつ取り出したのは、ウリエルの知人であるラテリカが、依頼人の老人の話をもとに製作した村の地図だ。ミケイト・ニシーネ(ea0508)が背伸びして、その手元を覗き込む。
「あー、ラテリカはんの地図やな?」
「ではとりあえず、それを見ながら軽く一回りして、見張りの計画を練りましょうか」
「ほな爺さん、案内頼むで」
 こうして今回も仕事が始まるわけだ。

●寝てはならぬと思っても
 まず到着初日。
 これだけ広い範囲を普通に見張ろうと思ったら、まず今の倍の人員が必要だろう。しかし現実には冒険者は八人しかおらず、この人数でなんとかするより他にない。まあもちろん依頼人の要求も多少無茶はあるが、一度引き受けたものをやっぱり無理ですと断るわけにもいかないのだから。
 そこで罠をしかけようという案が出て、依頼人に目をむいて反対された。
「村の者が怪我するようなのは困るぞい」
「それは平気や。ひと目見れば罠やてわかるように仕掛けるつもりやし」
 提案したひとりであるミケイトがいう。話を聞く限りオーガたちは、つねに誰かしら人がいる厩舎や、牧羊犬が見張っている牧草地を避けている。つまり村人に危害を加えるのが目的ではなく、単に食べ物を求めているだけのようだ。
「‥‥牧羊犬すら避けるオーガって‥‥」
「別に怖がっているわけではなくて、騒がれるとまずいからでは?」
 ぼそりと落とされたアルフレッド・アーツ(ea2100)の意見に、ユーディクス・ディエクエス(ea4822)が注釈を入れる。
 牧羊犬は羊や牛を誘導するのと同時に、野犬などの不届き者から家畜を守るのも役目である。もちろんしょせん犬なのでオーガ族にとってたいした敵ではないが、発見され吠えられれば人は集まるし家畜は逃げるし面倒なことになるのは確かだ。
「つまり向こうには、危険や面倒事を避けるぐらいの知恵はあるのよ」
 レオンスート・ヴィルジナ(ea2206)の言葉に、レイジも頷く。
「同感だな。だからあからさまに危険だとわかるようなものがあれば、おそらく連中はそこには近づかない。逆を言えば、そうやって目につくところに罠をしかけて、わざとどこかに隙を作っておけば‥‥」
 おのずとそこに誘導できるはずだ、というのが、冒険者たちの見解である。
 愛馬を引きながら、ユーディクスが依頼人の老人にあらためて説明する。
「もちろん、この案には村の方の協力が必要です。誰かが誤って仕掛けにひっかからないとも限りませんし‥‥もしかしたら夜に罠が作動して、村の皆さんをお騒がせすることもあるかもしれません。ですから、あらかじめお断りしておきたいのです」
 ふうむ、と依頼人は顎を撫でた。
「‥‥ま、よかろ。見張るのはお前たちじゃからな。罠についてはわしから村の衆に言っておく」
「ありがとうございます」

 ひとまず日の落ちる前に仕掛けを済ませようということになった。中心になるのはミケイトやウリエルなどの、狩りの心得のある者たちだ。
「なんや、いつもと違って調子狂うわあ」
 鍋と食器で作った即席の鳴子にロープを結びながら、ミケイトが面白そうに呟くのも無理はない。狩猟罠といえば普通、野生動物の鋭い感覚にも気づかれないよう、設置場所にも偽装にも細心の注意を払う。こんな見晴らしのいい場所で、こんなあからさまに、こんな単純な罠を堂々と設置する機会というのはあまりない。
「仕掛けはこんなもんやな。あとは」
「やっぱり餌がないと、罠っぽくならないわよねえ」
 やってきたのはリョーカとレイジ。何やらふたりとも包みを抱えており、中を覗き込んだ途端皆がうっと顔をそむけた。
「‥‥くさい」
「素手で触るなよ」
 こともなげに言いながら布で口と鼻を覆い、手袋をつけたレイジが、その怪しげな物体をつまみあげる。なにかの葉を細切れにしたもののようだ。リョーカの籠の中身はどうやら干し肉ので、これを罠にしかける餌がわりにするつもりらしい。干し肉にぱらぱらと謎の葉をまぶす様子を見ながら、おそるおそるミケイトが口を出した。
「こ、これ、何や‥‥? レイジはん」
「心配しなくても匂いには害はない」
「に、匂い『には』?」
「もっと強烈な毒草があればよかったんだが‥‥まあなにぶん冬だからあまりえり好みできなくてな。仕方ないからこれだけ持ってきた。オーガに人間と同じ毒が効くかは知らないが、まあ、この匂いならオーガよけぐらいにはなるかもな‥‥?」
 実に手馴れた様子で毒草を扱っているレイジを見ながら、冒険者たちはさりげなく彼から一歩退いてしまっていた。もっとも干し肉(さすがに大きな町とは違って、生肉は手軽には手に入らない)を用意したリョーカだけは、ちょっとおこの匂いなんとかならないのー? と堂々とレイジに文句を言っている。

●明けて翌日、
 朝日が昇る。
「‥‥眠い‥‥」
 ふああ、と欠伸を噛み殺したブルーの目元がとろんとしている。
 『見せ用』の罠のないあたりを重点的に見張っていたのだが、昨晩はついにオーガたちが現れることはなかった。
 とはいえ油断して誰かのまぶたがくっつきそうになると、一体どう察知しているのか老人のみなさんが大挙して押し寄せてくるので仰天した。やれ眠気覚ましにカード遊びはどうだ、やれ夜食はどうだ、いやそれより肩をもんでやろうと、冒険者たちを眠らせまいとあの手この手を繰り出してくるのである。好意はありがたいが、見張りの邪魔なことこの上ない。一晩で三回ほど老人たちの襲撃を受け、眠気どころではなくなっている。狙ってやっているのだとすればあの老人たちは大したものだ。
「‥‥一体あのお爺さんたちは、いつ眠ってるんでしょう‥‥?」
「お年寄りはあまり眠らなくていいって言いますけど‥‥」
 飛ぶ軌道をこころなしかふらつかせながらアルフレッド。
「眠らせないのが、一番むごく耐え難い拷問だというが」
 眠気をまぎらわすために愛馬のブラッシングをしているレイジの目が、妙にすさんで見える。
「‥‥今俺は少し、その気持ちがわかったような気がする」

 というわけで、二日目。ここからが勝負だ。
「俺が寝そうになったら‥‥殴ってもらってかまわない‥‥」
 過激なウリエルの言葉にユーディクスは仰天したが、彼の様子が真剣なのを見て、何やら事情がありそうだと考えてひとまず了承した。
 とはいえユーディクス自身も、多少の夜更かしならともかく、一晩中一睡もしないというのは厳しい状況だ。馬に乗って畑を見回っているうち、ぱっか、ぱっか‥‥という単調な足音が眠気を誘ってうとうとしかけ、あやうく落馬しそうになった。おまけに鍬を持った依頼人の老人にそれを見咎められ、思い切り怒鳴られてしまった。その失敗を活かして、現在は馬を引いて徒歩である。
「ジャパンのお茶を飲むと、目が冴えるって話もあるけど‥‥この村じゃ手に入れるのは無理よねえ」
「そもそも月道ものではちょっと‥‥」
 ユーディクスが憂鬱そうに溜息をつき、
「出がけにミカエルが持たせてくれたんだが」
 とレイジが眠気覚ましのハーブを出すと、皆でそれを分けてことあるごとにその香りを吸い込む。
 しかしハーブの効果にも限度というものがある。確かに少しの間頭がすっきりする(ような気がする)が、しばらくするとまた眠気が戻ってきてしまうのだ。どんな薬草だろうと、まったく眠らずにいることはまず不可能である。
「寝たらあかん。今寝たら死ぬで‥‥!」
 きっと後ろから鍬で襲われて血の海や、というミケイトの冗談も、徹夜で妙な具合に冴えた頭には厳しい。
「中指の爪の付け根あたりに、中衝って眠気をとるツボがあるそうやけど」
 ふと思いついたように霧矢が言えば、見回りをしている冒険者たちが皆で『ツボ』をぐいぐい押したりしている。

 昼過ぎには馬がダウンした。
「‥‥考えてみたら、そりゃそうですね‥‥」
 アルフレッドも言うとおり、馬だって生き物だから睡眠は必要だ。馬は徹夜をしない。木や柵につながれていたときなどはいくらか眠っていたようだが、主人である冒険者たちにつきあってたびたび村を回ったりしていたので、睡眠はたぶん細切れだろう。馬の様子を見ていたリョーカが首を振った。
「これ以上人間の徹夜につき合わすのも可哀相だしねえ‥‥厩舎を借りて休ませましょ」

●いよいよ退治
 夕方暗くなり始めたころに、鍋と食器でつくった鳴子が音をたてた。一番近くにいたのは霧矢やアルフレッドである。
 『見せ用』でない本命の罠のほうは、見つかりにくいようにウリエルやミケイトがきちんと偽装した本式のものだ。ふたりが駆けつけると、張られたロープにひっかかったのかゴブリンが一体転んでもがいていた。その後ろには剣を持ったゴブリンや、オーガらしき大きな影もある。
 アルフレッドの指笛を聞きつけてほかの冒険者たちも駆けつけたころ、霧矢がようやくゴブリンを一体斬り伏せたところだった。馬はまだ回復していないので、もちろん徒歩だ。ゴブリンは腕は大したことはないが、ふたりで相手にするには数が多い。ある程度見張り場所を絞っていなかったら、みなの到着が間に合わずに大怪我をしていただろう。
 乱戦の中心にいる霧矢を巻き込まないよう注意を払って、まずはレイジのグラビティーキャノン。魔法の重力波に巻き込まれたゴブリンたちが吹き飛び、あるいは転倒する。向こうの体勢が崩れたのを見計らって、前衛組が霧矢の加勢に飛び込んだ。もっとも、騎乗戦闘用のランス以外に武器のないブルーだけはひとまず静観である。
 巨躯をのそりと動かし、オーガが振り回した腕をリョーカが跳んでかわす。同じように攻撃をかいくぐりながらユーディクスがハルバードを振り回し、刃がざっくりとオーガの腕に食い込んだ。明らかに小物とわかるゴブリンたちは、ミケイトやアルフレッドが飛び道具で援護している。
「‥‥邪魔だ」
 いつもの茫洋とした彼とは別人のように、笑顔で言ったウリエルの手がひらめくと、体にダーツの攻撃を受けたゴブリンらが悲鳴を上げる。どうやら眠気のあまり『切れた』らしい。
 レイジにアグラベイションをかけられて、急にオーガの動きがにぶくなる。そこへリョーカの剣が走り、血がぱっとはじけて地面を染めた。痛みのあまりか力任せに振り回された腕にこめかみを強打され、リョーカの長身がぐらりと揺らぐ。
 それ以上の追撃を許すまいとユーディクスがスマッシュを叩き込み、オーガは胴の半ばほどまでを断ち割られて倒れる。一番強くて大きいオーガを倒されて、他のゴブリンたちは散り散りに逃げていった。

 ふわああ、とひとつ、霧矢が伸びをする。
「何やまだ寝たりん気がするわ‥‥」
 とりあえず頭目と見られるオーガを倒したので、ひとまず一件落着と見ていいのだろう。何匹かは逃がしてしまったが、あれだけ徹底的に叩きのめされて、またあの村に姿を現すとは思えない。ゴブリンはそれほど勇敢な種族ではないのだ。
 退治の後始末が終わったあとはすでに夜だったので、とりあえずその夜は村に一泊して皆でぐっすり眠った。翌朝は馬もたっぷり睡眠をとって元気はつらつ、こうして皆で帰途についている。
「やっぱり、朝起きて夜寝るのが一番よねえ‥‥」
「まったくだ‥‥早く帰って、庭の手入れでもしたいものだな」
 そう言うリョーカもレイジも欠伸を噛み殺しており、まだ寝たりないという風情である。一方のアルフレッドは、見慣れない包みを抱えて満面の笑みを浮かべているミケイトに首をかしげた。
「ミケイトさん‥‥どうしたんです? それ‥‥」
「んー? これはなあ」
 包みを開くと、なんと大きなキャベツがまるごとひと玉。
「野菜分けてくれへんかって言ったらくれたんや。言ってみるもんやなあ」
 そんな仲間たちをよそに、ユーディクスは心地いい馬の揺れに身をまかせてうとうとしている。今度落馬しても、押し寄せる老人のみなさんも怒って飛んでくる依頼人もいはしないが、仲間たちに笑われてしまうことだけは間違いない。