その猫をつかまえて

■ショートシナリオ


担当:宮本圭

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月31日〜04月05日

リプレイ公開日:2005年04月10日

●オープニング

「恋に落ちてしまったの‥‥」
 カウンターの向かいに座った依頼人の娘が開口一番そう言うと、受付嬢はまたかという顔をした。確か少し前にも似たようなことを言って、恋の話が聞きたいのですと依頼をねじこんできた娘がいなかっただろうか?
 ギルドは恋愛相談の場ではない。できればそういう悩みは当人同士なり友達同士なりで話し合って解決してもらいたいというのが、大人としては本音である。もちろん払うものさえ払ってもらえれば、ギルドとしてはどんな依頼だろうと歓迎なのだけど。
 しかしもちろん受付嬢は大人なので、そんな本音は露ほども見せず営業用の笑顔を振りまいた。
「申し訳ありませんが、もう少し詳しいことを教えていただければー‥‥」
 いい占い師を紹介しますよ、と同僚の記録係が言いそうな科白は賢明にも喉の奥にかろうじて飲み込んだ。依頼人の女性の身なりはなかなか小奇麗で、指には高そうな指輪が光っており、その膝の上では飼い猫らしい毛並みのいい猫が服にべったりと抜け毛をすりつけていた。これで上客だとわからないほうがどうかしている。繰り返すが受付嬢は大人なので、金回りのよさそうな依頼人をわざわざ怒らせて帰らせたりはしないのだ。
「ひと目見たそのときから、食事も満足に喉を通らないみたいで」
「はあ」
「ここのところ寝つきもあまりよくないのよ」
「あの、それで、ご依頼の内容は」
 詳しく聞きたいのは断じて恋の症状のことではないと思いつつ、大人なのでやんわりと話を遮った。
「まあそうね、いやだ私ったら。ですからね、これはもうこちらで相手を探していただくしかないと思って」
「ああ、そういうことですか。探し人のご依頼ですね」
 ようやく用件がはっきりして受付嬢は内心胸をなでおろしつつ、依頼書の作成の準備をしはじめる。
「じゃあまず、その方を見かけた場所や状況を教えてもらえませんか?」
「あれはお友達のお宅を訪問した帰り道でしたわ‥‥迎えの馬車に乗って家への道を戻る途中で、颯爽と歩くその姿を見て以来、そうきっとあれ以来恋のとりこに‥‥」
「それで」
 放っておくといつまでもその調子の気がして、受付嬢は急いで言葉を継いだ。
「その方の特徴なども教えていただければ」
「体は大きいほうじゃないかしら。凛とした面差しに、ぴんと立ったお髭がとても立派で‥‥」
「髭ですね。それから?」
「とってもきれいな黒い毛なんですのよ。耳の先から尻尾、きっと足の裏まで‥‥」
「‥‥ちょっと待ってください。尻尾?」
「尻尾ですわ」
 何かの冗談ではと思いつつ、受付嬢は一瞬息を止めて頭を回転させた。思い当たることがあってこわごわ視線をおろすと、依頼人の膝の上でちょうど首をもたげた猫とばっちり目が合う。
「‥‥つまりあの、恋をしているのはもしかしてそのお膝の上の‥‥?」
「ええ、そうですわ! かわいそうなマリリーナちゃんっ、こんなに恋やつれしてしまって‥‥待っておいでなさい、きっと冒険者の皆さんがあなたの恋人を連れてきてくださるわ!」

 手続きを無事済ませ、所定の金額を払って依頼人が立ち去ったあと、なぜか憂鬱そうに溜息を落とす受付嬢を目にとめて、通りがかった記録係が声をかける。
「おい、どうした? 元気がないな」
「はあ‥‥」
「腹が減ったのか? それなら今書類を提出してくるから、そのあとで飯でも一緒に」
「猫が‥‥」
「は?」
「猫にさえ春が来るんだから、私にもそろそろ来ていいはずよねえ‥‥」
「何の話だ」
「放っておいてちょうだい‥‥どうせ私は猫にさえ先を越される嫁き遅れよ‥‥」
「さっきから何を言ってるんだお前は」
 大人であるはずの受付嬢の傷心はひとまず放っておいて、猫探しである。

●今回の参加者

 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea3228 ショー・ルーベル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4111 ミルフィーナ・ショコラータ(20歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea4822 ユーディクス・ディエクエス(27歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4955 森島 晴(32歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5506 シュヴァーン・ツァーン(25歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea6405 シーナ・ローランズ(16歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 天気は快晴。
 見知らぬ家の庭先から往来へと枝を伸ばしている薄紅の花が、陽光を照り返してまぶしいぐらいだ。甘やかな芳香がこちらまで香ってくるようで、ショー・ルーベル(ea3228)は口元をほころばせた。
「桜かあ。もうそんな時期なのね」
 片手で日の光を遮りながら花を振り仰ぎ、感心したように言う森島晴(ea4955)。耳慣れぬ名称にちょっと戸惑った表情を見せて、ショーは不思議そうに聞き返す。
「桜‥‥ですか?」
「あら、知らない? ジャパンだとこの季節によく咲いてたんだけど」
「これはアーモンドの花ですよ」
 口を挟んだのは、エルフらしく植物に詳しいシュヴァーン・ツァーン(ea5506)だ。へえ‥‥ともう一度晴が枝を見上げる。
「やっぱり桜にしか見えないわ‥‥」
「花はよく似ているようですから。欧州にも一応桜はありますが、ほとんど見かけませんね」
「そうなんだ。でもそっくりねえ」
 そんな話をしている女性たちの髪を揺らす風からも、いつのまにか頬を切るような冷たさはなくなっている。冬の間は彩りのまるでなかった町並みにも、新芽が開いてずいぶん緑の割合が増えたようだ。
 くだんのアーモンドの花から、いくひらかの花弁が雪のように舞い落ちてくる。
「春ですね」
 ショーが目を細めて呟くと、ミカエル・テルセーロ(ea1674)やユーディクス・ディエクエス(ea4822)らが通りを渡ってやってくるのが見えた。近くの露店を回っていろいろと買い込んできたものか、ミカエルは何かの包みを抱えているようだ。
「皆さん、お待たせしましたー。すぐそこでユーディクスさんとお会いして」
「何を買ってきたんですか?」
「ええと、猫をじゃらす道具とか‥‥あと、これ」
 ミカエルが包みをほどいて取り出したのは、からからに乾燥させた植物らしきものだ。
「『バレリアン』っていう薬草の根を干したもので‥‥猫が好きな匂いがするんです。とりあえずあるだけ買ってきました」
「俺のほうは、依頼人から、マリリーナちゃんの身につけているものをお借りしてきました」
 ユーディクスのほうも同じく手にしていた包みの中から、赤い飾り紐を取り出す。どうでもいいが生真面目そうなユーディクスの口から、いくら依頼人がそう呼んでいるからといって『マリリーナちゃん』などという言葉が出てくるとなんだか違和感だ。
「できれば問題の猫の似顔絵も見てほしかったのですが‥‥」
 見ればその飾り紐をくるんでいたのはただの布ではなく、広げてみると、ユーディクスが描いたらしい絵が炭で描かれている。
「どうもその‥‥俺の腕前ではあまり似なかったようで」
 依頼主の話を聞きつつ、絵をマリリーナちゃんに見せながら描いたというのだが、すぐに飽きられてそっぽを向かれてしまったのだという。人間の目から見るとなかなか上手く描けているのだが、猫から見ればまた別の話なのだろう。話を聞いて、シュヴァーンが微苦笑して肩をすくめる。
「人も猫も、想い焦がれる気持ちにそう差はないということでありましょうか」
 もしかしたら、実物じゃなきゃ嫌よ、という意思表示なのかもしれない。
「でも、恋のせいで食事が喉を通らなくて痩せちゃうなんて、飼い主さんもきっと悲しいと思います〜」
 ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)が料理人らしい感想を述べる。
「僕もマリリーナさんのお気持ちはわかりますね‥‥」
 なぜかしみじみとイコン・シュターライゼン(ea7891)が呟いて、冒険者たちの視線が一斉に彼のほうを向いた。無意識の独白が注目を集めてしまったことに気づき、イコンは顔を赤らめて軽く咳払いをする。
「あー。それでは皆さん、そろそろ」
「うん。猫さんが見つかるといいね」
 シーナ・ローランズ(ea6405)がにこにこと言って、冒険者たちは各々問題の黒猫を探すため、何組かに分かれて方々へ散っていく。薄紅の春らしい花をつけたアーモンドの木を、集合のための目印と決めて。

●こんな猫知りませんか?
「黒い猫? ああ、知ってるよ」
 ユーディクスの見せた絵に視線を落としながら、初老の女性はそう言い、ユーディクスと晴は顔を見合わせた。
 聞き込みをはじめてすぐ、『ここに行ってみたらどう?』と紹介された一軒の大きな家。なんでも猫好きな女中がこの家に勤めているそうで、主人の目を盗んでこっそり野良猫に残り物をやったりしているらしい。そういうことならと早速訪ねてみたのだが。
「おばさん、本当に知ってるの?」
「頭から尻尾の先までまっくろい猫だろ? よくここに餌を食べに来てたからね」
 あまりにもあっさりと手がかりが見つかって、もう一度ユーディクスと顔を見合わせる晴。だがユーディクスのほうはもう少し慎重で、軽く咳払いしながら聞き直す。
「『食べに来ていた』とおっしゃいましたが‥‥ということは、最近はあまり?」
「そういえばここのところ姿を見ないねえ。どこか他にいい餌場でも見つけたか、それとも誰かに拾われたかしたのかねえ」
「ここのところって、どれぐらい?」
「もうひと月ぐらいは見かけてない気がするけど」
 老女中の答えに、ふたりは肩をすくめて軽く嘆息した。もしも今もよく顔を見せるのであれば、この近くで張り込んで捕まえるということもできたのだろうが、一ヶ月も見ていないというのではそれも少々望み薄だ。
 見かけた場合は冒険者ギルドにでも知らせてほしいとだけ頼んで、彼らがその場を辞去しようとすると、近くの繁みの中から二匹の猫が連れ立って這い出してきた。勝手知ったる様子で女中のほうを見上げ、甘えた様子でにゃあと鳴く。
「あらあらまあまあ。今日は彼女連れかい」
 途端に老女中は相好を崩して、残り物をやるために台所へ引っ込んでいく。人間相手よりもよほど嬉しそうだ。苦笑いしてその場を離れながら、晴は春よねえ‥‥と呟いた。
「晴さんも猫をお飼いだとか」
「外に連れ歩いたりはしてないけどね。友達がやっぱり猫を飼ってるんだけど、その子とお見合いさせたら一目惚れしちゃって」
 恋の季節というものなのだろうと、なんとなく溜息をしてしまう二人である。

「ここのようですが‥‥」
 ショーが力をこめて門を押すと、耳障りな音をさせて鉄がきしむ。その隙間からシーナがすいと中に入り込み、翅を揺らめかせながら周囲を見回した。
「ほんとに誰もいないねえ。大きなお家なのに」
 近所の人々に猫が集まる場所を聞いて回ったところ、この家を紹介されたシーナたちである。家といってもずいぶん以前に家主が商売に失敗して夜逃げし、ここ数年は誰も住んでいないという。屋内の様子まではわからないが、確かに庭は広々としており、日当たりもいい。好き放題生い茂った生垣で外からの人目も少なく、猫にとっては居心地がよさそうだ。
「問題の猫がここに出入りしているかどうかはわかりませんが‥‥少し痕跡を探してみましょう」
「痕跡って、どんな?」
「春ですから、あの‥‥」
 言いにくそうにショーは口ごもった。
「‥‥か、壁や石畳に、何か跡が残っているかもしれません」
「そうだね。野良猫は用心深いから、そうそう目の前に現れないだろうし」
 ショーが恥じらう内容も動物に親しいシーナにとってはなんでもないことのようで、シフールの娘はひらひらと優雅に蝶の翅を動かしながら庭を横切っていく。
 身をかがめて周囲の様子を探り、爪を研いだ跡などを見つけていると、ぱきりという音が耳に届いた。
「あっ」
 振り向くと、野良と思しき黒猫とばっちり目が合った。話に聞いていた通り、頭から尻尾まで全身真っ黒だ。うっかり落ちていた枝を踏みでもしたらしい。あわててシーナが荷物から包みを取り出し、保存食をちらつかせてちちちと鼠鳴きをしてみせる。
 黒猫は一瞬彼女たちの顔色を窺ったものの、さっと身を翻すと、開いたままだった門の隙間からさっと往来へ逃げていった。
「ああー、行っちゃった!」
 エチゴヤの保存食の内容は国や地方によってもまちまちだが、大抵はその名の通り保存のきく食品――干し肉、豆類、乾燥野菜、穀物などが主である。あまり猫が好みそうな食べ物はないので、無理もないのかもしれない。
「追いかけてください。飛んでいれば、見失わないかもしれませんから‥‥私は他の皆さんに知らせに行きます。早く!」

●その猫をつかまえて!
 露店立ち並ぶ通りの、行きかう人々の足元をすり抜ける。
 黒猫はそのまま路地裏へと入り込むと、積み上げてあった空の樽を一足飛びに飛び越えた。
「待ってください〜」
 それを追って飛びながらミルが声を上げる。飛んでいるという点ではミルのほうが有利なのだが、なにしろ向こうは素早い。テレパシーを使って説得を試みようとしているのだが、魔法を使うにはいったん静止して集中しなければならないし、そうしているうちに向こうが魔法の効果範囲から逃げてしまう。離れられては魔法が使えないので追いかける。
 そして追いかけられれば、動物は逃げるものだ。
「イコンさん、そちらに行きましたよ〜」
「はいっ」
 黒猫がひらりと飛び降りてきたその目前に、イコンはすかさず立ちはだかった。両者は対峙したままじっとにらみ合い、若き騎士がふさふさの襟飾りをぐっと構える。
 緊迫した一瞬。
 手からたらした襟飾りを誘うように小刻みに揺らすと、びくりと黒猫の体が反応した。
「そう、おいでおいで」
 低く身構えたまま、狙いを見定めるように尻を振る。金色の目は揺れる襟飾りの先端を狙って右へ、左へ。尻尾が倍ぐらいに膨らんでいて、それは猫が相当に興奮していることを示している。
 ‥‥追いかけられた末にこんなもので誘われては、興奮するのも無理はないではないか?
 黒い影が俊敏に地を蹴った。
「よし、捕まえ‥‥っ、あ痛たたたッ」
 じゃれついた猫を捕まえようとして、鋭い爪で引っかかれて悲鳴を上げる。おまけに飛び掛ってきたのは襟飾りに向かってではなく、それを操っていた手のほうだ。手の甲に容赦なくかぶりつかれ牙を突き立てられながら、後ろ足で何度も蹴立てられるのはなかなか痛い。
「イコンさ〜ん、そのまま捕まえててください〜」
 その声にはっとしてイコンが捕まえようと腕を動かすと、猫はしゃーっと鋭い声で噴いて前肢を振り上げた。
 ‥‥ミルがやっと追いついた時、黒猫は既に何処かへと逃げ去り、イコンの顔には赤い爪跡がくっきり残されていた、らしい。

 眼下ではさらさらと静かに川が流れている。
「来るでしょうか」
「来ると思いますよ」
 ミカエルの問いに、地べたに座したまま竪琴をひとつかき鳴らしてシュヴァーンが答える。
「それだけ逃げ回ったのなら、猫といえども喉が渇くはず。最近は日中暖かいですから、水べりに水を飲みに来たり涼みに来ることは充分ありえると思います」
「はあ」
 見れば、そんな話をしている間にも、野良らしい猫や犬が川べりでぴちゃぴちゃと水を舐めている。人通りがあまりないせいか、そのぶん犬猫がよく通りがかるらしい。ミカエルは困ったように身をよじる。
「‥‥早く来てもらわないと、僕ちょっと困ります‥‥」
 ミカエルの膝の上、腕の中、足元、とにかく周囲が猫だらけになっている。水を飲みに立ち寄った猫たちが、彼の持つバレリアンの匂いに誘われて寄ってきたらしい。ミカエルに体をすりつけごろごろと喉を鳴らしながら、猫たちはみな機嫌がいい。転がって腹がまるみえになっているものさえいる。
「猫、お好きなのでしょう?」
「ええまあ好きですけど」
 たわむれにその腹を撫で回しながら頷くが、このままでは猫に埋まってしまいそうだ。どうも分量を少し間違えて、バレリアンを買いこみすぎたらしい。この半分でもよかったかもしれない。
「あ」
 シュヴァーンが声を上げたのに気づいてそちらを向くと、黒い猫が優雅な足取りでこちらに歩いてくるところだった。確かになかなかの美男子‥‥のように見える。金色の目でミカエルのほうを窺うと、慎重な足取りで近づいてきた。一歩、二歩。
 確かめるように鼻をかすかに動かしている。
「ええと、確か」
 市場で買ってきた魚の干物があったはずだ。ミカエルが荷物を探ってそれを取り出すと、他の猫が一斉にそちらに飛びついてきた。何匹もの猫にのしかかられて倒れそうになる。黒猫は不思議そうにこちらを見て、用心深く歩を進める。飛びつかれた拍子に散らばったバレリアンの匂いを、鼻面を近づけてくんくんと嗅いだ。
「そろそろ頃合ですね」
 シュヴァーンが竪琴を傍らに立て掛け、呪文を唱える。
 スリープの魔法にかけられた黒猫はその場でごろんと横になり、やがて寝息を立て始めた。

●めでたし?
 捕まえた黒猫の姿を見て、マリリーナちゃんは依頼人の膝の上からすとんと降り立った。抱いていたショーもそっと黒猫を床に下ろしてやる。二匹はお互いの匂いを嗅ぎあい顔を近づけあうと、互いが気に入ったらしく頬のあたりを擦り合わせた。
「どうやら意中の方だったようですね」
 ほっとしたようにショーが言う。
「まあまあ、かわいらしい猫ちゃんねえ」
 依頼人のほうも黒猫のことを気に入ったようだ、二匹を抱き上げていとしそうにほお擦りする。というよりも、黒猫に一目惚れしたのはマリリーナちゃんだけではなくこの依頼人のほうもなのでは‥‥そんな気さえする冒険者たちである。
「ま、このぶんならそのうち子猫も増えるかもね」
 晴の言うとおり、黒猫が雄なのもすでに確認済みだ。
「もしよければ、これも記念に差し上げましょう」
 ユーディクスが取り出したのは、聞き込みに使った黒猫の絵だった。差し出された恋人同士へのささやかな贈り物を、マリリーナちゃんと黒猫はふんふんと匂いを嗅ぎまわり‥‥どうやら別の意味でいたくお気に召したようだ。二匹で仲良くその上でばりばり爪を研ぎ始めて、ユーディクスに複雑な顔をさせたという。