ただいま宴会中!
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■ショートシナリオ
担当:宮本圭
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:05月08日〜05月13日
リプレイ公開日:2005年05月16日
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●オープニング
傭兵団『鷲の翼』団長、ゲオルグ・シュルツは道中ずっと不機嫌だった。病み上がりでまだ本調子ではないせいだろうとボリスは思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。隊列の後ろを歩く団員たちは、馬首を並べながらやくたいもない会話を交わしている。話題はもっぱら、これから向かう目的地――プロヴァン領についてだ。
「葡萄が名産なんだってな」
「ってことはワインが美味いんだろうなあ」
「そうかあ? 名物なんて言われてるものに限って、実際に飲み食いしてみるとがっかりするもんだぜ」
「馬鹿お前、プロヴァンのワインっていったらパリでもちょっとしたもんなんだぞ」
「それより、いい女がいるかなあ」
「素朴な田舎娘ってのも悪かないよな。都会の女は気が強くていけねえよ」
平時ならばこんな話題には団長が喜んで食いつくところなのだが、ゲオルグは鞍の上で手綱を握ったままむっつりと前を向いている。いよいよおかしい。ボリスは巧みに馬を操って歩調を速め、団長と鞍を並べるとことさらに声をひそめた。
「さっきからなに辛気臭い顔してるんです? 何か気に入らないことでもあるんですか」
「別に」
とりつくしまもない、とはこのことで、ボリスは呆れてとっさに二の句が継げなかった。
「‥‥子供じゃあるまいし、不満があるなら言わなくちゃわからないでしょう? 上がそんな態度だとね、下の連中に示しがつかないんですよ。困ります。うちの団は身の軽さと団結力が売りなんですから」
「初耳だな」
「たった今決めました」
細長く続く街道の先、まだはるか遠くのほうに町並みが見えてくる。領主の城を中心としたプロヴァンの街並みだ。領内で作られるワインは、あそこに集められノルマン各地へと送り出される。プロヴァンのワインが有名なのは味はもちろんだが、パリや近隣の領地との間にさして目立つ難所がないため、各地に輸送しやすかったという理由もあるのだろう。
「‥‥仕事を受ける前に、俺にひとことぐらい相談があったっていいだろう」
ぽつりと落とされた声が耳に届いてきて、やはりそれが理由かとボリスは溜息をついた。
「相談しようにもあなたは倒れてたでしょう。大体、今までだって飛び込みの仕事なんかたくさんあったじゃないですか。先方が返事を急いでいたし、報酬もまあ悪くないし、団長がこの場にいれば頷くだろうと思ったんですよ」
「プロヴァンでの仕事だと知ってたら頷かなかった」
「あそこに別れた女でもいるんですか?」
「‥‥‥‥」
黙秘されてそれ以上問う気にもなれず、馬をそのまま歩かせる。先頭の二人の間に流れるぎくしゃくした空気を察知したものか、いつのまにか後ろの団員たちが静かになっていることに、ゲオルグもボリスも気づいていない。
依頼人はあとから追いついてきて、プロヴァンで合流する手はずになっていた。思ったよりも旅人や交易商の姿が目立ち、宿がとれるか心配したが、ゲオルグにいい宿があると案内された。やっぱりこの土地を知っているのだなと、ボリスは内心で確信する。
そして明けて翌朝、いきなり傭兵団宛てにワイン樽二十樽近くが届いて全員が仰天した。
「だ、誰から!? 代金は!」
「贈り物だからお金はいらないそうです。送り主の名前は理由あって言えないが、言わなくても伝わるはずだと」
配達人にそう言われても、ボリスにはさっぱり心当たりがなかった。依頼人かとも思ったが、こんな大荷物が届くなら事前に話があって然るべきだし、そもそも名前を隠す理由がない。断ろうにも、団員たちはすでに狂喜して酒樽を宿の中に運び込んでいる。気の早い者はもう樽を開けて飲み始めているようだ。
「かーっ、美味いっ。やっぱ本場は違うなあ。しかし、どうするよこれ」
「運ぶには馬車が要るし、ここで飲みきっちまうしかねえよな」
「酒盛りだな、酒盛り。ここはひとつ冒険者でも呼んで、ぱーっと盛り上がろうぜ」
「来るかあ? 冒険者が」
「ただ酒が飲めるって言えば、誰かしらが来るさ!」
思わぬ天からの贈り物に無邪気に喜ぶ団員たちは、ゲオルグがすぐ脇を横切って宿を出て行ったのに気づかなかった。すっかり軽くなった馬車に乗り込もうとした配達人を呼び止める。何か預かったものがあるはずだと言うと、その言葉を待っていたかのように配達人は手紙を差し出した。それと一緒に渡されたのは、白い花をつけた梨の枝。
「相変わらず、花がお好きでいらっしゃる‥‥」
軽い笑いの混じった呟きを、耳に留める者は誰もいなかった。
●リプレイ本文
到着したのは太陽は中天を過ぎ、暑くも寒くもないちょうどいい日和の昼下がりだった。宿の戸をくぐると同時に、冒険者たちはおおーっ、という野太い歓声と、建物を揺るがさんばかりの拍手に驚かされる。傭兵らはどうやら先にできあがっているらしく、出迎えた宿の主人が苦笑まじりに案内してくれた。
たいていの宿の例に洩れず、ここも二階が宿泊のための部屋、一階は簡単な酒場になっているようだ。いくつもの卓の立ち並ぶ酒場の一角を、上機嫌で顔を赤くした男どもが占領している。見覚えのあるヴェリタス・ディエクエス(ea4817)の顔を見つけて団員のひとりが立ち上がり、冒険者たちを自分たちの卓へと引っ張った。
「やー、この間は世話になったなっ。ご苦労さんご苦労さん」
「‥‥まあ、なんだ」
団長にこの世のものとも思えない物を飲ませた手前、ヴェリタスはその件に関しては沈黙を守ることにした。行きがけに義弟から預かった包みを取り出して、テーブルに広げる。
「この間の詫び、というわけでもないのだが‥‥手土産だ」
「‥‥なんだこれ」
「干物‥‥?」
「うわー、なんか気持ち悪ーい。なにこれ?」
包みの中身に眉根を寄せている傭兵たちと一緒になって、カルゼ・アルジス(ea3856)がそれを覗き込む。何かを干したものなのは間違いないが、乾燥して赤黒い塊の表面に、得体の知れない白いつぶつぶが浮いていた。
「魚と、蛸の干物‥‥だそうだ」
「た、蛸!?」
粒のように見えたのは蛸の足の吸盤だった。
一般的に、蛸はその不気味な外見からジーザス教圏ではまず食用とはされない。悪魔の使いだと言う者すらあるぐらいである。途端にぎゃーっと悲鳴を上げた傭兵が放り出し、蛸は不気味だが食べ物を粗末にはしたくないヴェリタスがそれを受け止め、カルゼが面白がって彼から逃げ回り、場は一時大混乱に陥った。
「フム。少々味見させてもらうアルよ」
積んである樽の蓋を開け、中のワインを柄杓ですくう。素焼きの杯に移し変えると、軽く揺らして色合いを確かめ、鼻先を近づけて香りを楽しみ、操群雷(ea7553)はそこに口をつけた。もちろん一気飲みするような無粋はせず、まずは軽く一口。
口の中に含んだまましばらく舌の上で転がし、操はその香りと味を堪能した。
「オオ‥‥この大切に育タ葡萄の凝縮されタ味。滑らかデ豊かナ渋ミ、口中に広ガル長ク嫌味のナイ余韻‥‥!!」
このまろやかサはソウ、喩エルならばマサに、貴婦人との優美ナ舞踊のごとくアル‥‥身をうち震わせ、未知の味と邂逅できた感動を詩心のままにほとばしらせる操の横で、マリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)がやはり杯を軽く傾けた。
「あら、おいしい」
‥‥身も蓋もない感想だが、要約すればそういうことである。
「こりゃプロヴァンでも上物中の上物ですよ。パリあたりじゃいい値で取引されるんじゃないかなあ」
「へえ?」
宿の主人の説明にマリは眉を上げたが、操のほうはこの葡萄酒を前にして何を肴とすべきか考え込んでいるようだ。じっと樽の前にたたずんでいた『華仙教厨士』は、おもむろにくわっと目を見開く。
「アレしかないアルね! 主人、厨房を借りるアルよ」
「は? ああ、まあ、今はまだかき入れ時前ですから別にいいですが」
「マリさんも手伝ってほしいアル」
「まあ、ただ飲むだけっていうのも芸がないしね」
●ただいま宴会中!
冒険者たちのぶんの杯が運ばれてきて、本日何度目かの歓声が上がった。たっぷりとワインを満たした水差しから、全員の杯に酒が注がれる。
つまみは手始めにまず木の実を塩で炒ったもの、カルゼが道々摘んできた香草の入ったサラダ。物足りなさそうな顔をした面々にマリは苦笑して、あとから他の料理がどんどん来るからとたしなめた。
ヴェリタスは一応、自分の手土産の蛸の干物を毒見してみせたのだが、
「どうよ?」
「‥‥あー、なんというか‥‥変わった味だ」
不味くはないが、ノルマンの既存の味にはあまりない食感なので言葉では表現しづらく、そのために傭兵たちも手をつけにくいようだ。魚の干物のほうは、マリに頼んで少し炙ってもらうことにした。
何はともあれ、冒険者たちを加えて酒宴の再開である。
「おいしいお酒ですね」
「本当、美味しい」
一口飲んで、セシリア・カータ(ea1643)とサーラ・カトレア(ea4078)が目を瞠った。なかなか飲めないような上物のワインの味に、カルゼなどはたちまち上機嫌になって一息に杯を干してしまった。
「あははは、おいしい〜っ。おかわり〜っ」
「カルゼさん、そんなに急がなくても、お酒はたくさんありますから‥‥」
シェアト・レフロージュ(ea3869)が心配そうに口を出すが、カルゼはどこ吹く風といった風情で自分で酒を注いでいる。
「だって〜、お酒おいしいんだもーん」
もうすでにほのかに朱に染まった顔をにこにこさせながら、くいとまた一口。行儀の悪いことに、自分の卓に戻りながら杯を傾けていたカルゼは、途中で椅子に足をひっかけて転びそうになった。何がおかしいのかけらけらと笑う少年を見て、シェアトやサーラはやや不安になる。
「わ、笑い上戸‥‥」
一方、レイ・コルレオーネ(ea4442)は目の前の杯を干したあと、にこにこ顔のまま――カルゼと違って、彼の場合はこれが地顔のようだ――見慣れない酒の器を取り出した。
「実は、ジャパンのお酒を持ってきたんですけど‥‥この際ですから、皆で味見してみません?」
珍しいものが飲めそうだと聞いて、あわてて自分のぶんの杯を空にする傭兵たち。ゲオルグとボリスを除くほとんどの団員が杯を差し出してきて、結局レイのどぶろくはコップ半分ずつぐらいしか行き渡らなかった。中には酔えば同じだと言わんばかりに、どぶろくにワインを混ぜて嵩を増し、気味の悪い飲み物を作っている者もいる。
葡萄酒とは違う独特の匂いに眉をひそめ、団員たちはレイと一緒に一、二の、三で口をつけた。
「うえーっ、なんだこりゃ」
「ジャパンじゃ皆こんなもん飲んでんのか!?」
「でも慣れれば結構‥‥」
初めて飲む味に騒ぐ者たちの中、酒を配った当のレイは妙に静かなままうつむいている。それに目を留めたヴェリタスが、レイの肩に手をかけて軽く揺すぶった。悪酔いしたのかと思ったようだ。
「おい、どうしたレイ」
心配したヴェリタスの襟首を、レイの手がおもむろに引っつかんだ。レイよりも一回り以上立派な体格の神聖騎士は、突然のことに一瞬対応を忘れて襟を締められ息を詰まらせる。
「‥‥あかんのか」
「は?」
「時代に逆らって生きてちゃあ、あかんのかあ〜ッ!!?」
襟首をつかんだまま、親の仇のごとくヴェリタスを前後左右に激しくがくがくと揺さぶる、その目がすわっていた。
飲んだくれの目であった。
離れた卓から完全に出来上がったレイの様子を見つめつつ、道義上彼を止めたほうがいいのか、いやしかしあれが自分たちに止められるのだろうかと、身を寄せ合ってセシリアたちは苦悩する。
「か、からみ上戸‥‥」
人生いろいろ、酒癖もいろいろ。ところでヴェリタスをそろそろ離してやらないと、揺さぶられすぎて吐きそうな様子だが。
シェアトの伴奏に乗ってサーラが踊って場を盛り上げ、拍手と口笛に応えられている頃、マリの作ったがちょうのワイン蒸、鶏肉のワイン煮がやって来た。料理の素人の作にしてはなかなかの味で、肉料理の好きな面々は先を争って皿の中身を取り分けている。材料を提供したひとりであるカルゼが、不思議そうに首をかしげた。
「あれぇ〜? 操大人の料理、まだなの〜?」
「そう、まだなの」
苦笑するマリの言うことには、操は『コノ料理、ジクリ時間カケテ燻すのが肝心アル!』とのことで、未だ厨房の竈の前に陣取っているという。もっとも燻している間も別のものを色々作ってはいるらしいが、華国料理にさほど詳しくないマリには、何を作っているのか判然としないようだ。
「ここはもういいって言ってくれたから、私も少し飲ませてもらおうと思って。コップ、私のぶんもあるかしら」
「あ、持ってきます」
立ち上がったシェアトが、新しい杯とワインを持って戻ってくる。マリは隅のほうでちびちびと飲んでいるゲオルグやヴェリタスを見つけたようで、既にその卓に腰を下ろしていた。成り行き上、シェアトもそこに座ることになる。
「どうぞ」
「ありがと。何よ、どうしたの? 男だけで固まって」
「おお、マリか。いや何、ゲオルグがなかなか白状しないんでな」
白状? と尋ね返すマリとシェアト。そいつだ‥‥とヴェリタスの指差した先には、素焼きの水差しに活けられた枝があった。枝がつけている清楚な白い花から、エルフの二人には、それが梨の花だと判ずることができる。
「こいつが花なんて飾る柄じゃなかろう。さては女性にもらったんじゃないかと聞いていたところだ」
「あら。意外と隅におけないのねえ、団長さん」
料理よりもいい酒の肴だと思ったのか、マリがやや意地の悪い笑みを浮かべる。マリさんたら‥‥と困ったように笑いながら、シェアトがゲオルグの杯に酒を注いだ。ああ悪いなと礼を言い酒杯をあおるゲオルグだが、マリのほうはお構いなしだ。
「聞いたわよー? プロヴァンに来たくなかったってごねたんですってね。あっちで会計役さんがこぼしてたわ」
「なに? それは聞き捨てならんぞ、ゲオルグ。団長の身でありながら部下を困らせるとは。ちょっとそこに座れ」
「もしかして酔ってるなお前‥‥」
赤い顔で膝詰め説教を迫ったヴェリタスに呆れて、ゲオルグが嘆息した。
「花を下さった方は確かに女性だが、色恋なんて間柄じゃない」
「下さった方、ですって。聞いた? ヴェリタス」
「なんだ、相手は身分の高いご婦人か? 俺でよければ相談に乗ってやっても」
「ところであの、お聞きしてもいいですか」
微妙に話を聞いていない二人の質問責めにさすがに少し気の毒になって、シェアトが口を挟んだ。
「『鷲の翼』って名前‥‥何か由来でもあるんですか?」
「ああ」
やっと話題が逸れてほっとしたようにゲオルグが息をつく。これさ、と示された手の中指に、指輪がはまっていた。高価な品かどうかはシェアトにはわからないが、無骨で素っ気ない意匠は、いかにも彼らしい品と言えた。相当古いものなのか刻印はかなり摩滅しているものの、刻まれた紋はどうやら――。
「鳥‥‥ですね」
「鷲だ。ずっと昔、ある人にいただいた。団の名前は、ここからつけたんだ」
指輪を見下ろすその目は名状しがたい光に満ちていて、ヴェリタスもマリもシェアトも思わず顔を見合わせた。なんと声をかけたものかと逡巡したそのとき、ゲオルグの背中めがけてどっかと何かがぶつかる。
「ゲッオた〜ん、飲んでるぅ〜?」
にゃはははー、と無邪気に笑いながら、ゲオルグの背にのしかかるのはカルゼだった。『ゲオたん』の無精髭も構わず後ろから首にかじりつき、ほとんどおぶさるような形で酒くさい息を吐く。
「んとねえ、今日は呼んでくれてありがとね〜。これ、酔い止めの薬草だからー、あげるう」
じゃあねえー、と言いたいことだけ言って去っていくカルゼを、卓にいた誰もが一瞬毒気を抜かれた表情で眺めていた。やがて誰からともなく苦笑が浮かんだ。
向こう側では、レイがでたらめに三味線をかき鳴らし声を張り上げて、引っ込め下手くそー、などと野次られている。
ようやく操が何枚もの皿を抱えて厨房から出てきた。その間にも酒場で繰り広げられる馬鹿騒ぎに常連客は遠慮して、酒場の主人が苦笑したという話である。机に突っ伏しているカルゼを覗き込んで、操は皿を置きながらぺしりと己の額を叩いた。
「アイヤー。私、チョト時間かけすぎたネ?」
「騒ぎ疲れたんですよ、きっと」
シェアトが目を細め、カルゼさんのぶんは別にとっておきましょうと笑う。何しろ華国料理を食べる機会などめったにないのだ。食べ逃したと分かれば、きっとカルゼは悔しがるに違いない。
メインの鳥の丸焼き(のように皆には見えた)は表面を金色に輝かせ、操がナイフを入れるとぱりぱりといい音を立てた。
「コレが春餅。野菜と一緒に鳥を包んで食スネ。タレはコレとコレ、好きな方付けるヨロシ」
武者修行と称しその実料理漫遊の旅をしているぐらいだから、操の料理の腕は折り紙つきだ。華国料理を珍しがって各々舌鼓を打っていると、酔いつぶれ床に突っ伏していたレイがゆらりと立ち上がった。
「負けません‥‥私は負けませんよ‥‥!」
ぱっと跳び上がりって椅子を蹴って、ダン! と卓の上に乗り上げる。何事かと振り向いた面々を前に、レイは堂々と仁王立ちしたまま派手にぶち上げた。
「決めました! 私はここに新流派を立ち上げます!!」
『な、なんだってー!?』
‥‥という反応はもちろん返ってはこず、もそもそと料理を口に運びながらレイを見守る冒険者たち。反応の薄さにくじけそうになりながらも、レイは口上を続ける。
「その名も『フォーティチュード』!!」
‥‥‥‥やはり反応は薄かった。
「‥‥使い手がひとりしかいないのならそれは『我流』でいいのではなかろうか?」
「どうでしょう。でも自称するのは自由だと思いますし‥‥あ、これ美味しいですね」
「ええと‥‥頑張ってください」
ヴェリタス、セシリア、サーラの言葉が耳に入り、レイは拳をぶんぶんと振り上げ卓の上で地団駄を踏んだ。
「これから、これからきっと増えるんです! 増えるんですったら〜!」
「レイさん、食べるトコロに足乗セル、行儀悪いアル。サッサと降りないと、レイさんの分も食ベテしまうアルよ」
操にも相手にされずあまつさえ注意までされて、酔いも手伝いますますむきになって両の拳を振り回すレイ・コルレオーネ三十六歳(でも外見は若い)。いつの時代も新しいことを始める者に、世間の目は冷たい。
「集え! いかなる孤独と困難にも屈しない、熱き魂を持つ不屈の闘士たちよ〜!!」
がんばれ、レイ。
負けるな、レイ。
でもやっぱり卓の上に立つのは埃が立つからやめたほうがいいと思うぞ、レイ。