晴れた日には海賊を退治に

■ショートシナリオ


担当:宮本圭

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月14日〜06月20日

リプレイ公開日:2005年06月22日

●オープニング

 ドレスタットの海戦祭は今年も無事終わりを迎え、祭り見物の観光客たちも少しずつ減り始めた。
 今回の海戦祭最大の賓客であったユトレヒト候国の領主、ソルゲストル・ユトレヒト侯爵の御座船を無事送り出したあとも、ラズロは多忙をきわめていた。
 ドレスタット港の船の取り締まりが、ラズロの今の仕事だった。特に祭り前後の時期は船の出入りが活発になるので、客船にまぎれこんだ密航者や、不審な貨物をこっそり船に積んでいる不届きな商人も多い。一隻一隻念入りに調査する彼のやり口にしびれを切らし、早く出航させろとせっついてくる船もあるのだが、ラズロは一向に取り合わなかった。そんな文句に気を取られて手を抜けば、後で面倒事になったとき責任を取らねばならないのは彼自身なのだ。
「少しはこちらの身にもなってほしいもんだがね、まったく。はい、どうぞ」
 だから多忙ゆえに少々不機嫌になったとしても、誰も彼を責めはしないのだが、差し出した出航許可の書面をまだ若そうな船長が受け取ろうとしないのを見て、ラズロは少々反省した。いかんな、こんな無愛想なことでは。
「失礼。ここのところ忙しくて苛々しておりましてな。愛想がなくて申し訳ない」
「え? ああ、いいえ、お察しいたします」
 一瞬戸惑った様子で、どうやら船長はなにか別のことで屈託があると見た。ラズロは自分が署名した書面に、もう一度素早く目を落とす。ユトレヒト候国の商船だった。
「あのう、ラズロ殿はなんでも、領主のエイリーク様とお親しいとか」
「ええ、まあ」
 親しいというより、単に古くからの部下だから多少気安い口が聞けるだけなのだが、そこから話すと長い。
「ではエイリーク様にお願いすることはできないでしょうか。実は‥‥」
 ユトレヒト候国までの航路に、海賊が出るらしい。
「ああ‥‥この時期はそれもありましたなあ」
 そう。祭りの前後にはドレスタットに出入りする船が増えるから、それを目当てに狙う海賊が出没するのは自然なことだ。
 ドレスタットまでの航海途中、この船長の船もやはり襲われそうになった。積荷に被害を出さずにどうにか逃げ切ることができたのだが、悪いことにその後、雇った護衛の大半が病気にかかってしまったのだ。彼らに出した食事が傷んでいたらしい。
「一度逃がした獲物がまた鼻先を通るとなれば、向こうはきっと死に物狂いで追ってくるでしょう。商船ごときに逃げられて、海賊の面子を汚されたと思っているに違いありませんから。かといって護衛が治るのを待っていたら、定期市に間に合いません」
 ユトレヒト候国では、毎年侯爵の帰国にあわせて定期市が開かれる。かの国で物流が一番活発になる時期である。それを見越して定期市で売れそうな品をドレスタットでも仕入れたのだろうし、間に合わなければ大損、下手をすれば船員の給金すら払えまい。
「力になってやりたいのはやまやまだが‥‥しかし、海戦騎士団も今の時期は忙しいんですよ」
 祭りの時期に海賊が増えることを見越せないエイリークではない。そもそも彼自身の出自が海賊なのだから。騎士団の多くは今も多分近海の海賊征伐に精を出しているはずだが、この船長の言っている海賊船がもう退治されたかまではさすがにわからない‥‥その言葉にがっくり肩を落とした船長へ、ラズロはためしに提案してみた。
「そうですな、冒険者ギルドに行かれてはいかがです? 護衛が雇えるかもしれません。それに私、ギルドマスターのシールケル殿とはまんざら知らぬ仲でもありませんのでな。私の名を出せば、悪いようにはなさらんと思いますよ」
 もしここにシールケルがいれば勝手なことを言うなと渋い顔をしたかもしれないが、依頼人を紹介したのだから感謝されこそすれ文句を言われる筋合いなどないはずだと、ラズロはわりと本気で思っている。

●今回の参加者

 ea3053 ジャスパー・レニアートン(29歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea4331 李 飛(36歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5460 ギアリュート・レーゲン(35歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea5947 ニュイ・ブランシュ(18歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0370 レンティス・シルハーノ(33歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0660 鷹杜 紗綾(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2005 劉 星慧(34歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

ジュエル・ハンター(ea3690)/ 時奈 瑠兎(eb1617)/ 神哭月 凛(eb1987

●リプレイ本文

 出航前に、まずは航路の確認。船長に頼んで地図を広げてもらい、ニュイ・ブランシュ(ea5947)はそれを横から覗き込んだ。長く使い込まれたらしい地図には、あちこちに書き込みがなされ非常に見づらい。解説を求めてニュイが船長を見ると、苦笑とともに地図の一点を指さしてくれた。
「ドレスタットが、ここです。ユトレヒトはここ」
 ユトレヒト候国は、ドレスタットの北東に位置しているらしい。同じように地図を見せてもらっていたレンティス・シルハーノ(eb0370)が、眉根を寄せて首を傾げた。
「どうやって行くんだ、これ?」
 ユトレヒトだと示されたのは、陸地のやや奥まったあたりである。北の半島を回り込めば海路でも行けないことはないがずいぶん遠回りになるし、どのみち船を下りてからはしばらく陸路になるだろう。若い船長の指先が、もう一度ドレスタットに戻りながら説明する。
「河を使うんですよ」
 言われてみれば、なるほど、ユトレヒト方面からドレスタット内海へと流れ込んでいる河がある。つまり今回は、この河を遡ってユトレヒトまで行くことになるわけだ。てっきり海に出られると思って楽しみにしていたギアリュート・レーゲン(ea5460)が、がっかりしたように溜息をつく。
「‥‥言われてみれば、海に出るとは依頼書にはひとことも書かれていなかったな」
「川にいるのに『海賊』とはこれいかに」
 李飛(ea4331)が言うと、カノン・リュフトヒェン(ea9689)がこともなげに肩をすくめた。
「おそらく、海戦祭に乗じてこちらの方面まで出張っているのだろう」
 普段は別の海域を縄張りにしているに違いない。依頼主のラズロも言っていたことだが、祭りの前後は船の出入りが活発になる。特にユトレヒト方面からは、賓客として国主である侯爵が訪れるぐらいだからなおさらだろう。海賊にとってはいい稼ぎ時、わざわざ縄張りから出張してくるだけの価値はあるというわけだ。わずかに眉を上げながら、ギアリュートがさらに問う。
「じゃあ、そいつらがどこをアジトにしているかは」
「残念ながらわかりませんねえ」
 船長の言葉に、誰からともなく嘆息がもれる。

●いざ出航!
 錨が上げられ、無数の櫂が動き出すと、港に停泊していた船はゆっくりと動き出した。レンティスは陸に向かってまだ熱心に手を振っている。どうやら見送りに来た女性たち、特に同族の女性に向けてらしいが、当の彼女はあまりにも熱烈なレンティスのアピールに、顔を赤くしてそっぽを向いていた。
「本当に、この子乗せててもいいの?」
 愛猫の嫦娥を抱えながら鷹杜紗綾(eb0660)が問うと、仕事の手を休めながら水夫がもちろんと頷いた。
「猫を飼ってる船も多いんだぜ、お嬢ちゃん。船倉にゃあよく鼠が出るからな」
 今回の航路は約二日と短いが、長い船旅では、鼠に食料を食い荒らされたりしたら船員の生命に関わる。それを防ぐために船内で猫を飼っている船は決して少なくないし、猫嫌いの水夫というのもめったにいない。
「やった! よかったね、嫦娥」
「船から落っこちないように気をつけてやれよ。さすがにそこまでは面倒見切れん」
「あ、そうだ。それで思い出したけど、甲板で滑らないようにするいい方法とか、知らない?」
 聞くともなく甲板に出てその会話を聞いていたジャスパー・レニアートン(ea3053)が、いくらなんでもそんな調子のいい話が‥‥と口を出すより早く、水夫が『あるぜ』と頷いた。あるのか?
「靴を脱いで裸足になるんだよ。やっぱり靴だとどうしても踏ん張りがきかねえからな」
「‥‥それだけ?」
「おう」
 落胆の表情を見せる紗綾は、どうやらもっと凄い秘伝というか、船乗りだけができる技のようなものを期待していたらしい。耳だけがそちらに向いていたジャスパーのほうも、やはりそんな都合のいい話はないかと、ほっとしたようながっかりしたような表情を見せている。

 日が傾き始めたころ、船はようやく河口から河を遡りはじめた。
 昼過ぎの出発から特に何事もなく、午後の見張りに割り当てられたカノンや飛は、夜間の見張り役として甲板に出てきたレンティスとニュイにあとをまかせて船室に下りていった。やがて太陽が彼方の地平に沈み始めればそれは夜のはじまるしるしで、昼間あれほど甲板を行きかっていた水夫たちの姿もまばらになってくる。
「‥‥平和だ」
 呟きながらレンティス、自前の釣り糸をたらしながらこきこきと首を回す。昼は船の上だけあって湿気の多い汗ばむほどの陽気だったが、こうして日が落ちてしまえば河を渡ってくる風はすこし冷たいぐらいだ。船の端から周囲を見渡していたニュイが、転ばないように気をつけながらレンティスのほうに近づいてきた。
「レンティス。釣れてるか?」
「さっぱり釣れねえなあ」
 ぴくりとも動かない竿を見ながらレンティスは欠伸を噛み殺した。眠気を紛らわすために始めたはずだがこうも釣れないと、糸がゆらゆらと左右に触れるさまはかえって眠気を誘う。釣りの腕には少々自信があったつもりだが、夜ともなると多少勝手が違う。
 明かりといえば舳先のほうにかけられたランタンと、あとは夜の見張りとして配置された水夫たちの持つ各々の灯ぐらいのものだ。暗闇の中下を覗き込めば、水面は真っ黒く不気味にうねっていた。海ほどの深さではないにしろ、落ちたらただではすまないのは明らかだった。
「来るかねえ」
「海賊がこの船を見落とすほど、この河は広くない。‥‥はずだ」
 特に今は、明かりを掲げているから見つかりやすいはずだ。かといって火を消せば夜闇でろくに進むことはできないのだから、結局はこうして皆で周囲を哨戒しながら進むしかない。
「‥‥ん」
「どうした?」
 エルフの少年がふと黙ったのに気づいてレンティスが声をかける。あれ、とニュイの指さした先には、なるほど確かに小さな明かりが見えた。街の灯ではないことは、その灯が照らし出す揺れる水面でわかる。
「おいでなすったか?」
「こっちに来る。レンティス、皆に知らせに」
 行け、と皆まで言うよりも早く、レンティスは釣り糸をさっさと引き上げて船室へ向かって走る。火の魔法で先制攻撃しようかとも思ったのだが、ニュイの魔法の腕ではまだあの距離には届かない。どうすべきかと逡巡していると、ひゅんと空気を切る音が鋭く耳元を裂き、一本の矢が甲板に突き立った。
「撃ってきた!」
 まだ魔法の射程には届かない。レンティスを通して敵の出現が漕座に伝わったのか、櫂を漕ぐ速度がにわかに上がり、甲板が大きく揺れた。足を滑らせそうになったニュイがとっさに手近なものにしがみつく。船室でくつろいでいたらしいほかの冒険者たちが、手に手に得物を持って上がってきた。
「どこだ!?」
「あそこ」
 また撃ってきた。人に当たりはしなかったものの、先ほどよりもたくさんの矢が降ってきて、甲板の上は一気に大騒ぎになった。互いの距離はあまり縮まっていないが、大きく引き離してもいない。短剣を抜き払いながらカノンが舌打ちし、手近な水夫を呼び止める。
「速度を落としてくれ。接近して一気に叩く」
「いいのか?」
「こちらには弓使いがいない。この距離だと却って不利になる」
 冷静な彼女の言葉に、ギアリュートも頷く。
「それにこの速度はそう長くはもたない。今は風も弱いし、漕ぎ手にばてられて船が止まりでもしたら、それこそ向こうの弓のいい的になっちまう」
 速度を落とした商船に、海賊船がしだいに近づいてくる。
 暗い視界では、飛の掲げた旗もよくは見えなかったようだ。自分たちの船を巻き込まない程度の間合いを見計らって、ニュイのファイヤーボムが炸裂し、向こうの海賊船から悲鳴が上がった。
 船の外装は木製、さらに浸水を防ぐために油やタールが塗られているから、特に火気に弱い。向こうにとっては幸運なことに、船体に火が燃え移りはしなかったようだが、火の魔法使いがいるということは海賊たちに動揺を与えたようだ。
「よし。もう一度」
「いや、もう少し待て。今は近すぎる」
 万が一、こちらに燃え移ったりしたらまずい‥‥と、ジャスパーがニュイを制止する。魔法を使えば消火は難しくないだろうが、できるだけ魔力は戦闘のためにとっておいたほうがいいはずだ。

●決戦!
 浅い場所に乗り上げかけたのか、一瞬船が激しく鳴動する。
 船体に鉤のついたロープが引っ掛けられて、それを伝って次々と海賊たちが乗り込んできた。迎え撃つのはカノン、ギアリュート、飛などの前衛組。少し遅れて、履物を脱ぎ捨て裸足になった紗綾も後に続いた。
 剣で打ちかかってきた海賊を素早くかわし、劉星慧(eb2005)は素早く刃を走らせた。二本の刃が敵の肌をかすめ、甲板に鮮やかな色の血が落ちる。さらに次の相手を見つけ、そちらへ駆け寄ろうとして。
 血で濡れた甲板に足を滑らせた。
「あ!?」
 船上戦ともなれば甲板が滑りやすいのはギルドなどでも聞いていたはずだが、星慧は特にそれらしき対策を講じていない。とたんにひっくり返ったかと思うと、悪いことにまた船に衝撃が走って甲板が傾いた。星慧の体はそのまま水しぶきと血で湿った甲板をいっさんに滑っていき、やがて激しい水音が聞こえてきた。河に落ちたらしい。
「飛!」
「む。仕方あるまい」
 軽装だったようだから沈んでしまうことはないと思うが、さりとて彼女に泳法の心得があるとも飛は聞いていない。拮抗していた目の前の敵を押し返しみぞおちに拳を叩き込むと、海賊は軽々と宙を吹っ飛びそのまま河面へと落下した。それを顧みることすらせず、飛は素早く上着を脱ぎ捨て、救助のためにそのまま水面に飛び込む。
「うわ‥‥今人が空飛んだよ、おい」
 ジャイアントらしいあまりの怪力に一瞬呆気にとられたギアリュートだったが、すぐに我に返り相手の剣をかわす。同じようについ足を滑らせそうになるが、今のところどうにか踏みとどまれていた。攻撃をかわし続けるギアリュートに海賊がむきになったところを、横合いから軽々と紗綾が切り伏せる。
「‥‥動きやすそうだな、紗綾」
「裸足だと踏ん張りやすいんだよ」
 まったくの受け売りではあるが。
 ロープを伝ってさらに上がってきた海賊に、カノンが間髪いれず斬りつける。さらにジャスパーにウォーターボムを見舞われて、また船からひとり落ちていく。船乗りというのは存外泳げない者が多いから、助かるかどうかは運任せだろう。まだロープを伝ってくる者がいるのを認め、カノンはナイフでロープを切る。またいくつもの悲鳴が上がり、何度目かの水柱が上がった。
「ニュイ」
 カノンが軽く手を挙げると、ニュイはその意図を了解したらしい。途端に海賊船から爆発が起こった。先ほどと同じファイヤーボムの魔法だが、今度はどこかに引火したらしく、甲板の上からは炎の柱が上がっている。
 自分たちの船が燃えているのを目にした海賊たちが、降伏を申し出てくるまではそうかからなかった。

●定期市
「‥‥金貨五十枚!? 高っ」
 とても払えない。まけてくれよとすがるような目で頼んでみたが、出店の主人はにっこりと首を振る。もちろん、横に。なおも食い下がろうとしたが、ちょうどそのとき身なりのいい客がやってきて、ギアリュートは往来へとぽいと放り出された。少し間があって、レンティスも。
「金がないって、世知辛え‥‥」
 ユトレヒトの定期市といえば、さまざまな土地から珍しいものが流れ込んでくるという。ギアリュートとレンティスは何か目新しい武器がないかと市場を捜し歩き、実際いくつか珍しい武器を見つけはしたのだが、これがまた珍しいだけあって軒並み高い。とても彼らの財政状態が許すような値段ではなく、自分たちの財布の軽さがせつない今日このごろである。
 降伏してきた海賊たちを縛り上げて船倉に押し込んだあとは、特に緊急事態に出くわすこともなくユトレヒトまで到着できた。海賊をユトレヒトの番所まで送り届けたものの、特に報奨金などもなかったので、冒険者らがもらえるのはいつも通りギルドの報酬のみということになるのだろう。世の中、そう甘くはない。
「あ、いたいた。何か掘り出し物、見つかった?」
 人通りの中から彼らを見つけた紗綾が彼らを見つけて、手を振りながら近づいてきた。
「全然駄目。もー、俺らみてえな貧乏人は眼中になしって感じ?」
「あはは、残念だったねえ」
 冗談っぽく答えたレンティスの科白に紗綾が笑う。彼女自身は友人や愛馬への土産を探して市を見て回っていたのだが、こちらは売っているものが多すぎて決められなかったのだという。こういう大規模な市では、やはり装飾品とか、あるいは食べ物とか、ある程度何を買うか決めておかないと迷子になってしまいそうだ。
「で、これからみんなで何か名物でも食べに行かないかって言ってたところ」
 紗綾の話のあとを引き継いで、ジャスパーが微笑する。それもいいなと頷きかけたギアリュートの腕を、紗綾が素早く取った。
「もちろん、あたしのぶんはギアリュートが払ってくれるんだよね?」
「おいおい」
「お、それもいいなあ。ユトレヒトって何が美味いんだっけ?」
 レンティスが思案する仕草を見せると、ニュイが、全部食ってみればわかる、と大真面目な口調でのたまった。
「おいおい」
 こともなげに言ったニュイに目をやって、奢らないからなとギアリュートは釘を刺した。そうか、と頷いたエルフの少年の顔が、こころなしか残念そうに見えるのは気のせいだろうか?
 こうして冒険者たちは二日間、おもに食の方面でユトレヒトを堪能した。ちょうど桃の丁度いい季節だったのか、それを使った菓子が特に好評だったようだ。満腹のおなかを抱えて、またドレスタットへと船で戻ることになる。