追いかけて恋の花

■ショートシナリオ


担当:宮本圭

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや易

成功報酬:3 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月12日〜08月19日

リプレイ公開日:2005年08月23日

●オープニング

 遠くで鐘が鳴っている。そうあれは教会の鐘の音。それはときには寄る辺ないもののしるべともなり、また別のときには幸福の報せにも、あるいは祝福のしるしともされる。あら、では、今鳴り響いているあの音は、果たして一体どれなのかしら。いいえもちろん、祝福に決まっているのだわ!
「神様‥‥ようやくあの方に巡り会えるのですね。今日という日を感謝します」
 活気のあるプロヴァンの城下町、その大通りのど真ん中でうっとりと自分の世界に浸っているマリーを、通行人が危険物を見る目で避けて歩いていった。前を見ていなかったらしい猫背の男がどすんとマリーにぶつかり、それでようやく通行の邪魔であることに気づいて一歩脇へ退く。
 パリで見かけたその方の足跡をたどり時には見失い、あるいは人の手も借りながら追って幾星霜(誇張表現)。ずっとずっと、苦しいほどにお慕い申し上げたあの方に、ようやく再会することができるのだ。
「そう‥‥星のごとくきらめく瞳、かぐわしき花の香りのするあの方に‥‥」
 ‥‥思い出の中の面影は、決して短くはない月日の間にわりとかなり美化されていた。
 問題の『あの方』の部下のひとりがもしこの表現を耳にしたならばきっと『今すぐ目の医者にかかったほうがいい。いやそれよりも先に頭の医者だ』と辛辣な科白を吐いたことだろうが、幸か不幸か、マリーはまだ彼らと面識がない。
「お話では、あの方はこの宿にお泊りになっているって‥‥」
 ああ、なんと言って話しかければいいのかしら。言葉に詰まったりしてしまったらどうしよう。満足に自己紹介もできない、つまらない女だと思われてしまったら‥‥いっそ失神でもできれば、わたくしのことをかよわい、病弱な、守ってやるべき手弱女とでも思ってくださるかしら?
「いいえ、気弱になってはだめよマリー。万一お話できなかったとしても、こうして想いの丈をしたためた手紙を」
 手紙を――。
「ない!」
 そのことに気づいた瞬間、慎みも恥じらいもかなぐり捨てて力いっぱい叫んでしまう。あまりの声に驚いたのか、先ほどマリーにぶつかってきた猫背の男が、懐から何かを取り落とした。それは布で厳重にくるんだ、見覚えのある包みで。
「それは、わたくしの!」
 マリーが叫ぶと、男はあわてて包みを拾い上げた。暇にあかせて書いた手紙は、もはや手紙というよりちょっとした書物なみの分量だ。厳重な包み方で金目の物と勘違いしたのかもしれない。包みを小脇に抱えて、男は脱兎の勢いで逃げていく。
「ど、泥棒――! だ、だ、誰か、捕まえて――!!」

「どうしました? 団長」
「なんかスリが出たみたいだな。最近多いらしいぜ、物騒だな」
「ではせいぜい懐中物に注意するとしましょう。それよりも、もう教会の鐘が鳴りましたよ。さっさと行かないと、護衛が隊商に置いていかれたりしたらいい笑いものです。しばらくここを離れるんですから、忘れ物などありませんね?」
「わかったわかった。今行くって」

●今回の参加者

 ea1045 ミラファ・エリアス(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2848 紅 茜(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3844 アルテミシア・デュポア(34歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4111 ミルフィーナ・ショコラータ(20歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea5362 ロイド・クリストフ(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea8898 ラファエル・クアルト(30歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

 ノルマンの気候は比較的過ごしやすいといわれているが、それでも八月の盛りともなればやはりそれなりに暑い。ましてプロヴァンは商業都市、行商や交易商人、それ目当ての客で常から賑わっており、こうして人通りの激しい場所に立っていると、何もしていなくても熱気で自然と汗ばんでくる。
 そして本日、天気は快晴。
「手紙、ねえ」
 冷えたワインの杯を傾けながら、アルテミシア・デュポア(ea3844)が呟く。
 依頼人のマリーと大通りで落ち合って、まず冒険者らが提案したのは日陰に避難することであった。手紙を追いかけるのが仕事内容だが、すった犯人の特徴や盗まれた場所などを彼女から聞き出さないことには追いようがない。
 ギルドから聞いていた目印を探すのに手間取ったために合流できた頃にはお互い汗だくで、このうえ立ち話して日焼けまでしたくないと、とりあえず手近に見かけた酒場に駆け込んだ。依頼を受けた冒険者たちの半数は、妙齢の女性であった。
 頼んだ飲み物も喉を通らない様子で、マリーがそっと溜息を聞かせた。
「はい‥‥私の想いのたけを綴った、あの方への大事な手紙です」
「書き直せばいいってもんでもないわよね‥‥気持ちをこめたものだし」
「ええ。私たちでちゃんと取り戻しますから、ね。必ず」
 顔を手で扇ぎながらラファエル・クアルト(ea8898)が言い、シェアト・レフロージュ(ea3869)も微笑しつつも額に滲んできた汗を拭いている。
「えーと‥‥それで、盗んだ人の特徴とか、覚えてますか〜?」
 ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111)が問うと、マリーは頷く。
「男の方にしては背が低くて‥‥猫背ぎみだったせいもありますけど、私とそう変わらないぐらいだったと思います。顔は‥‥」
「わわ、ちょ、ちょっと待ってくださいです」
 ラテリカ・ラートベル(ea1641)が慌てて荷物から書くものを探す。その間に紅茜(ea2848)が、盗まれた手紙がどんな形なのか尋ねてみた。すでに中身を開封されて、捨てられている可能性もあるからだ。
「このぐらいの大きさで」
 指先で四角形を描いて、大体の大きさを卓上に示すマリー。
「厚さはこれぐらいなんですが」
 紙束にしては明らかに尋常でない厚みを教えられ、一瞬うっと声をなくす冒険者たち。
「すごいですねー。そんなにたくさん書くの、大変だったんじゃないでしょうか〜?」
「スリの人も重くてびっくりしただろうね‥‥」
 ひそひそとミルと茜が互いにずれた意見を交わしあい、ミラファ・エリアス(ea1045)が興味深そうに身を乗り出した。
「マリーさんの想う方って、きっととても素敵な方なんでしょうね」
「ええ、それはもう」
 途端にマリーが頬を染めて、胸中の面影に想いを馳せた。
「星のごとく輝く瞳、男らしいお顔、薔薇のごときあの方の‥‥ああ」
 あっちの世界から戻ってこないマリーを見ながら、アルテミシアは友人のロイド・クリストフ(ea5362)とひそひそ囁き合う。
「‥‥王子様系ってやつ?」
「人の恋路に興味はねえが‥‥そんな男が実在するんなら、見てみてえ気もするな」
 まあきっと、俺の知った奴じゃあねぇんだろうが‥‥と呟くロイド。本当のことを知っているミルもシェアトも話したものかどうかけっこう悩んでいるようだが、まああえて今話さなくてもと沈黙を守ることにしたようだ。
「恋する女の子って、お強いのですねえ」
 先ほど言われた特徴を書きとめながら、ラテリカはマリーが元気を出してくれたことを無邪気に喜んでいる。

 同じように日陰を求めた客が増えてますます蒸してきた酒場を出て、シェアトの提案で今度は宿に向かった。冒険者らの宿泊場所ではなく、当初マリーが突撃をかけようとしていた宿屋、彼女の想い人の逗留する宿である。冒険者らが手紙を探す間、彼女にはどこかで待機してもらわねばならない。落ち着いてもらうには、そこが一番いいだろう。
「あれ? えーと」
 宿の一階で彼女らを見つけて、見覚えのある男がシェアトやアルテミシアに声をかける。傭兵団の者だとすぐに判じて、シェアトは軽く会釈してみせた。
「お久しぶりです。団長さん、おいでですか?」
「ああ、うちの団長なら」
 若い団員は頭をかいた。アルテミシアは相手が誰だったかまだ思い出せず、首をひねっている。
「今ボリスさんと一緒に、パリまで行く隊商の護衛に出かけてる。ついでにパリでいくつか用を済ませるって言ってたし、まだ当分戻らないと思うんだが‥‥急ぎかい?」
「すれ違いですか‥‥」
 あまり楽しくない記憶を思い出したのか、ミラファがやり切れない溜息をついた。困ったような笑みを浮かべたシェアトが、時間がないので簡単に端折って説明する。
「実は、団長さんに用があるのはこの方なんですが‥‥これから仕事なので、この宿でちょっと待っていただこうかと」
「は?」
 団長と縁があるとは到底思えない小娘に目をやって、男は素っ頓狂な声を聞かせた。マリーは目を輝かせて彼に詰め寄る。
「あの方の部下でいらっしゃるんですねっ? あの方は普段はどんな方なんですか? パリからはいつ戻られるんですか? 危険はないんですか? あの方のお好きな食べ物は? ご趣味は?」
「お、おい、何だこいつ!?」

●追いかけて恋の花
 マリーに宿に待機してもらうことにして、さてまずは聞き込みである。効率を考えて、二、三人ずつに分かれることにした。昼を過ぎて太陽はいくぶん傾いたものの暑さは相変わらずで、人の波の中を歩きながら茜はしきりに汗を拭いている。
「今日はやけに暑いよね‥‥」
「本当に。草木のためにも、少し雨でも降ってくれたらいいんですけど‥‥あ、すみません。ちょっとよろしいですか?」
 やはり暑さで顔を真っ赤にしたミラファが、ようやく到着した衛視の詰所に声をかける。
「このあたりで、スリが出ると聞いたんですが」
「ああ‥‥毎年この時期は多いんだよねえ」
 衛視の徽章をつけた中年の男が、面倒そうな顔をして奥から出てきた。ミルが首を傾げる。
「多いって‥‥毎年のことなんですか〜?」
「ほら、普段は外套や上着の下に財布を忍ばせてる人も、夏は皆薄着になるだろ? どこに持ってるかわかりやすいから、連中にとっては懐中物を狙うのが楽になるわけだな。で、何盗まれたの?」
「ええと」
 簡単に経緯を話し、マリーから聞いた犯人の特徴を教えると、衛視はふうんと相槌を打った。
「猫背の男ね。最近話をよく聞くよ。なんでも、ちょっと身なりのいい女の子なんかをよく狙うって」
「え? え? ホント? それで、どういう奴なの? どの辺に出るかわかる?」
 いきなり当たりを引いたと確信した茜が意気込んで身を乗り出すと、男は困った顔を見せた。
「そこまではねえ‥‥わりと最近だしね、そいつが出るようになったのは。まあいろんな人に姿を見られてるってことは、あまり腕はよくないんだろうね。手練のスリにかかると、盗まれたことにもしばらく気づかないぐらいだから」
 ひとまず礼を言って詰め所を出ると、ミルがテレパシーでシェアトやラテリカに今の話を伝えた。今回のメンバーにはバードが三人もいて、しかも三人とも以前から何度か依頼で顔を合わせているため、このあたりの連絡は気安いものだ。

「ミルさんのお話だと、犯人さんはこの街でたびたび盗みを働いてるみたいです」
「なるほどねえ‥‥常習犯ってやつね」
 念話でその話を聞いたラテリカは、友人のラファエルと一緒に、マリーが手紙を盗まれた近辺を歩き回っていた。つまり彼女の想い人の逗留していた宿、今はマリー本人が待っている宿のすぐ近くである。
「ミルちゃん、空から探すって言ってたけど、どうだったって?」
「見つからなかったみたいです。この街、結構広いですし」
 シフールの飛行能力を活かして空からの哨戒を実行したミルだったが、街は結構広いし、犯人に関しても、猫背で小柄という以外特に特徴も聞き出せなかった。それに今日の暑さの中をずっと飛んでいたら参ってしまう。
「ああいう奴らにも縄張りがあるって話だから、そう広い範囲を探す必要はないと思うわ。スリに限らず盗人連中なら、盗品をどこかに横流ししてるはずだけど‥‥」
 そういう危ない店のたぐいは、誰かの紹介でもない限り出入りできないのが普通だ。
「ラテリカも前にプロヴァンに来たことがあるですけど、泥棒さんに知り合いはいないですねえ」
 というわけで駄目で元々と声をかけた柄の悪そうな男は、話をしてみたら単に人相の悪いだけの普通の人で、人を見かけで判断してはいけないとふたりで猛省したりもした。やはり何のコネもない身で、よく知らない街の暗部に踏み込むのは無理がある。
「ま、この線は諦めましょ。そうなると、そいつがどこへ逃げたのかが問題よね」
「マリーさんのお話だと」
 背が低いので爪先立ちになり、ラテリカが精一杯に伸ばした首を巡らせる。
「教会が見えるほうに逃げて行ったって言ってましたから、あっちですね」
 ちょっと聞いてみましょ、と言いながら、ラファエルが周囲を見回した。
「ごめんなさい。聞きたいことがあるんだけど」
 暇そうにしていた出店の主人は、声をかけた彼をちらと見て、不機嫌そうに目を逸らした。急にせわしく手を動かしながら、忙しいんだから何も買わないんならあっちへ行ってくれ、と言う。
「でも、さっきは」
「さっさと行っとくれ。客が逃げちまう」
「行きましょ、ラテリカちゃん」
 詰め寄ろうとしたラテリカも、ラファエルに促されてようやく気づく。ラファエルはハーフエルフなのだ。
 冒険者ともなると気にしていない者がほとんどなので忘れがちだが、ハーフエルフは元々差別を受けやすい種族だ。異種族婚の結果である種だということ、そしてきっかけがあれば狂化するという危険性のために、口も聞きたくないという人は決して珍しくない。耳さえ隠してしまえば人間と外見はそう変わらないので、人前ではそうしているハーフエルフも多かった。
 手を引かれて出店から離れ、通りを渡って、先ほどの宿の前、石組みの壁際へと落ち着く。
「あの」
「そんな顔しないの。でも次はラテリカちゃんが声かけてね」
 笑いながら、ラファエルは軽く肩をすくめた。

●手紙の行方
 男は、ぱっと見た限りではなんの特徴もなかった。
 つまり群集の中にいたら、埋没してしまって区別などまずつかない。しいて言うなら男にしては小柄だが、同時にそれは人ごみの中を逃げやすいということでもある。男にとってそこは強みだった。
「おっ」
 いつものように通りを歩いていると、金髪のエルフの娘が目を引いた。
 待ち合わせでもしているのだろうか。行きかう人々を前にしながら、建物の前に立っていた。夏らしく軽装だが身なりはそう悪くなく、面差しもどこか品の良さを感じさせた。良家の令嬢か何かなのかもしれない。夕方になってだいぶ厳しさを減じた陽光を浴びながら、ぼんやりと突っ立っている。
 事情は知らないが、どうやらいいカモだ。
 男は何気ない調子で彼女のほうへと近づいた。財布らしき包みは腰に無防備に提げられている。娘は陽の光を楽しむように、じっと目を閉じていた。立ったまま寝ているのかもしれない。そっと財布に手を伸ばし‥‥。
 ぴん、と何かに引っ張られた。
「あら」
 ぱちりと娘――ミラファが目を開ける。
 一見しただけではわからなかったが男のすった財布は紐つきで、きちんとミラファの腰のあたりに結わえてあった。昼間の話から考え合わせ、囮を出せば引っかかるかもしれないという作戦はどうやら図に当たったようだ。
「ちっ」
「おいおい、物騒な」
 紐を切ろうと刃物を取り出した男の背後から、ロイドが声をかける。反射的に走らせた刃を、騎士の男は易々とかわした。やっと人の波を抜け出してきた茜が、男のほうへと飛び出す。
 鞭のようなしなやかな蹴りが伸び、衝撃で男がナイフを取り落とす。続く下段蹴りで体勢を崩した男の腕を、ロイドがつかんで後ろ手にして拘束した。男はまだ往生際悪くもがいている。
「ええい、おとなしくお縄にかかれぃ!」
 取り押さえるのに協力しながら、茜はのりのりだ。
「ついこの間、女の子からものを盗んだだろ? 中身は紙束だったはずだが、あれはどうした」
「あ、あれは」
 ぎりぎりと腕を締められ男は悲鳴を上げる。
「ほ、本なら、出すところに出せばいい金になるかもと思って」
 梱包を開けても手紙の内容がわからなかったということは、このスリは字が読めないのだろう。書物のたぐいは皆基本的に手書きということもあって、結構貴重品である。もっとも盗品としては珍しいから、なかなか売却できないうちにこうして捕まるはめになったようだ。 
「まあ‥‥本と勘違いしても無理ないよね」
 マリーが示した厚みを思い出して、茜が首を振る。
 保管場所に案内させて手紙を無事取り戻したあと、そのまま昼間ミラファたちが訪れた詰所に男を突き出して、さあこれで万事解決とばかりに冒険者たちはマリーの待つ宿へと戻っていった、のだが‥‥。

●手紙の顛末
「なんとかしてくれよ」
 団員たちは心底困っているようだった。
「あの娘、団長が帰るまでここで待つって聞かねえんだ。いつになるか分からないって言っても、構いませんの一点張りで」
 ここ、とは当然、彼らの宿、という意味だ。マリーはすでに手続きを済ませ宿代も前金で支払って、すでに長期滞在の構えらしい。にこにこと宿の食事を片付けるマリーを見ながら、彼女をここに連れてきた張本人であるシェアトが軽く首を傾げる。
「やっぱり逆効果だったでしょうか‥‥」
「じゃあこれ、直接渡します?」
 取り戻した手紙をミラファが見せると、それを受け取りながらマリーが頬を染める。
「はい。あの方ににお渡しして、そうしてその場で返事をお聞きしたいです。まだ何とも言えませんけど」
 この分厚さだと、流して読むだけでも結構な時間を食いそうだ。アルテミシアなどは『あの方』に半ば同情している。
「文通から始めるのもいいかしら‥‥なんて」
 きゃっ、とはじらうマリーを前に、冒険者たちは顔を見合わせる。『あの方』のことを知る何人かが、マリーは実際に本人に会っても、果たして同じことが言えるだろうか‥‥とそればかりを心配している。
「恋する乙女は、お強いのですねえ」
 何も知らないラテリカだけは、感動の眼差しでマリーを見つめていた。