●リプレイ本文
●隔絶された村
「こっちだ」
冒険者一行10名は、行商人に案内されて、依頼人の村へと向かっていた。
「酷い道だ」
ジークフリート・ヴルツベルク(ea5130)は、馬の足を気遣いながら、馬を前に進めた。馬では1頭がやっと、徒歩でも二人だと肩がぶつかる。その程度の道幅しかない。
「隔絶された村という感じ、ですね」
セイロム・デイバック(ea5564)も整備されていない道の状態に馬の足を心配する。
「これも村の防御手段の一つだね。馬で突入されるのは十分に防げる。多くの村も似たりよったりだよ。こっちもジャパンも。でも、ここまでのは少ないかな」
音無影音(ea8586)も同様。
「歩いて行く分には影響ない」
半身白(ea9457)やティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)には影響はない。
「誘拐した美少女を運ぶのも大変だろう」
イシス・シン(ea6389)はこの道でどうやって運ぶのか興味を覚えた。
「太い棒に手足を結び付けて‥‥ってわけないよな」
飛天龍(eb0010)は思わず、猟師が獲物を担いで運ぶイメージを思い浮かべてしまった。
「きっと縄で縛って馬で牽いていく。付近まで人買が待っていて、そこからどこか大きな町に連れていく。その先の買い手も決まっているだろう」
アルジャスラード・フォーディガール(ea9248)は、敵の用意を整えたと思っていた。
「人買は護衛も多く連れているから、合流する前になんとかしないと」
事件があった日からの日数を考えると、明日あたりには人買が来る。
「今回の山賊たちは教会の儀式で使うワインに薬を仕込んだのだって、儀式の日取りを知っていたからだ。そして段取りも十分にしてあった。村に入る行商人は幾人かいるが、全員が知っているわけじゃない。誰かが山賊に脅されたかも」
案内人の話が終わる頃、ようやく村についた。村の外には槍に刺された髑髏があって物々しい。威嚇だろうが、髑髏は本物だ。
村の入り口を二人の男が村を守っていた。完全武装といった出で立ちで、緊張感を感じさせる。案内人と言葉を交わして、村の中に冒険者たちを入れた。
「隔絶された村と言っても、別にしけた感じじゃないな」
ノルマンらしからぬ雰囲気がある。家の作りも古代ローマ風らしい。どことなく、閉鎖感を感じる。息苦しさのような。
「連中の隠れ家は、森の中にあります。こちらも薬の影響で動ける者がまだ少なくて」
神経系の薬らしく、命そのものには別状ない。しかし、身体から抜けるには時間がかかる。捕まえた美少女も今頃はまだ完全に動ける状態ではない。
「ワインを少ししか飲まなかった者が辛うじて動けます。数人しかおらず、村の守りと隠れ家の見張りをしています」
多分、奪回できるだけの人数が回復する頃には、山賊は移動してしまっているだろう。そのため冒険者に依頼したということだった。
目撃された山賊の数は5人、村から娘たちを担いで運び出したから力だけは強いらしい。見張りが一人ぐらいいるだろうけど。せいぜい6人。多くても10人はいない。
正面から戦えば、敵ではないだろう。
「さっそく、隠れ家に向かおう。山賊が人買いを連れてくる前に」
「場所は分かっているから、時間的には短時間で済みそうやわ」
ティファルは疲れていたが、捕まった少女たちの身を案じて休憩は終わった後に回した。
「それじゃ予定どおりに」
陽動班と突入班に別れて行動する。
陽動班が山賊を煽っておびき出して、その間手薄になった隠れ家に突入班が入って捕らえられた美少女を救い出す。
「奴らが守りに徹して美少女が人質にされたら、私たちの負けだ」
陽動班は飛、白、セイロム、アルジャスラードの4人。
●陽動班
「宜しくお願いします、皆さん。全員無事に帰りましょう。…お嬢様達もね」
セイロムが残り3人を見回した。
「村人が見ていた範囲だと、武装はほとんど分からない」
薬を仕込んで動けない状態で、運び出すだけだったから武器はほとんど見せていない。連中も村の危険性は十分に考えているはずだ。薬使ったのだって戦って勝てないだけでなく、怪我をさせれば商品価値が落ちることも考えているだろう。
「馬車は使えないものの力自慢がいる」
「力は強くたって当たらなければ問題ないさ」
飛はギリギリで回避して敵の突出を狙うつもりだった。
「隠れ家と言っても村の外にある避難小屋だ」
冬の積雪時期のために村まで帰れない時に使う小屋で、燃料も保存食も用意してある。夏は狩猟の時に使う。
「人けはある」
小屋では寒さのために暖を取っている。煙突からの煙は中に人がいることの証だ。
「天気は雪になりそうだ」
雪が降れば、飛の動きは格段に制限されてしまう。その前に始末したい。もっとも足元にはすでに雪が積もっているが。
「偵察に行ってくる」
「私も」
飛と白が小屋に向かう。飛は上空から、白は忍び歩きと匍匐前進で。
その間にセイロムとアルジャスラードは山賊が出て来やすい位置に移動する。
●突入班
突入班はジークフリート、瑞希楠葉(eb0692)、ティファル、音無、マミ・キスリング(ea7468)、イシスの6人。
突入班は陽動班とは別ルートから小屋に接近する。
攻撃の算段にはいる。
「寒いから表には見張りはいないだろう」
10名の冒険者と案内の一人は完全防寒状態でここまでやってきた。偵察にいった者たちは動きやすいように防寒着を脱いでいったが、帰ってくるまでにはかなり冷えていることだろう。小屋の連中に見つからないように焚き火もできないので寒くても我慢してもらうしかない。
「陽動班が敵をおびき出すことに成功するかどうかで」
その後の戦い方も異なってくる。
「陽動班だけで山賊を殲滅できれば、こっちは楽だけど」
「そういえば、このあたりに遺跡か何かあるかな?」
「遺跡はないが」
「いや、冒険者がうろうろするには理由があるだろう。遺跡の探索とか、それがないところに冒険者の姿があるとすると」
「奪回に来たと思う」
「陽動班の連中、巧く引き離してくれればいいけど」
「できるだけ静かに近づいて、美少女達を確保してから応援に駆けつけるしかない」
「それにしたって」
「見張りを倒さないと」
「人質の首筋にナイフを突きつけられる前に」
深刻さは感じていた。
●挑発
「私の名はセイロム・デイバックです。真っ向から勝負していただきたい、『正々堂々』とね」
陽動班の4人は小屋の前まで来ていた。
飛と白の調査で、正面から向かう道には罠らしき罠はなかった。たぶん、もうすぐここから出る準備を始めていたのかも知れないし、あるいは見つからなかったのかも。
「どなた?」
小屋の扉が開くと、そこから顔を出したのはまだあどけない顔をした少女だった。
「あの、あなたは?」
「あら変。勝負を申し込んでおいて『あなたは?』ですって」
山賊には思えない少女の存在によって、セイロムは出端を挫かれた。山賊というと悪いイメージを浮かべる。しかし、目の前にいるのは、美少女にはいるだろう。
「山賊だって知ってやってきた冒険者でしょう。きっとあの村の依頼を受けて」
斬撃は少女の方から襲ってきた。セイロムは辛うじて日本刀を合わせる。油断させるために左腕で持っていたため、反応が遅れた。
「冒険者が来たか。あと一日遅ければ会わずに済んだのに」
「こいつはわたしが始末するからお前たちは娘たちを見張っていな。あんな隔絶させた村から解放してやるんだ。冒険者なんかに邪魔されたくないよ」
「ああ、こっちは見張っている。軽く始末してこい。そろそろお客さんの来る時間だ」
「まかしておきな」
小屋の中から別の男の声がした。セイロムが確認する間もなく、再び斬撃が襲ってくる。
「強い!」
「そっちこそ本気だしたら? 雇われた冒険者がそんなやわな腕のわけないだろう」
そういいざまに、セイロムの左腕から鮮血が吹き出す。
「では、本気でやらせていただきますよ」
やむなく、右手に持ちかえる。
「そうこなくちゃ面白くないわよ」
白は背後に忍び寄っている。
「一人だけか、もうようちょっと引き出せるかと思ったけど」
飛が突入班に陽動作戦が始まった合図を送る。
セイロムの分が悪そうなので、アルジャスラードも加勢する。
「へぇ、もう一人いたんだ。後ろの一人も出てきたら?」
白の存在にも気づいていた。陽動は成功だったかも、こいつが一番強いはず。
「不安定な雪の上でテコンドーがどれだけ効果あるかな」
3対1になっても、まだ余裕の言葉。
しかし、十分小屋から離れた時に、小屋の方で大きな音がした。
●突入!
「陽動班は一人しか引っ張れなかったらしい」
ジークフリートたちは小屋の入り口とは反対側に回っていた。窓の二つ。たぶん別々の部屋だろうが、そこから3人づつ一気に突入して5人の美少女の安全を確保する。小屋の間取りを考えるなら、どちらかの部屋にはいるだろう。入り口にはおいておかないだろうから。
右側はジークフリートを先頭にイシスとティファルが続く、左側は、マミ、音無、瑞希の順。
「ジークフリート、中の美少女が心配か」
「う〜ん、音無が暴走して美少女まで切ってしまうんじゃないかと」
「そういえば、人が切れると喜んでいたとか」
「マミと瑞希が何とかしてくれはる」
「だといいが」
同じ事は、マミと瑞希も考えていた。危険そうなのは山賊よりも、音無じゃないかと。
「暴走したら?」
「人質に怪我を負わせる前に止めよう」
「え? なに?」
マミと瑞希の会話が音無にも聞こえる。
「人質が怪我させられる前に確保しようって言ったの」
「大丈夫、山賊はみんな切っちゃうから」
完全に窓が閉まっていては、ブレスセンサーも効果がない。
「どっちが当たりか分からないが」
ジークフリートが突入する。オーラパワーで強化した攻撃で鎧戸の閉まった窓をぶち破って、その勢いのまま室内に飛び込む。
「表だけじゃなかったか」
ジークフリートの飛び込んだ部屋には、男が二人得物を構えて待っていた。陽動だということは分かっていたようだ。
「これも想定のうち」
イシスも部屋に入ってきて、2対2の戦いが始まる。
「こんなせまい室内じゃ、うちの魔法で支援できんわ」
ティファルはとりあえず、隣の部屋の様子を窺うことにした。
オーラボディとオーラシールドで完全防備したマミが突入し、窓の近くにいた一人ともつれ込むようにして倒れる。次に突入した音無が目的の美少女たちを見つけた。
「いや、人殺し!」
美少女は音無の殺気に恐怖して、恐慌状態に陥る。
「助けにきたのに」
小屋の入り口にいたもう一人が部屋に入ってきた。斧を短く構えている。
「狭い室内じゃ、そんな大物よりもこっちの方が有利なんだよ」
音無はショートソードでスタンアタックをかける。しかし、斧で受けられてしまった。
「使い方次第だ。大きい分攻撃の邪魔をすることができるんだよ」
そのまま押し返される。力では相手の方が上だ。
その間に、瑞希が美少女を宥めて突入してきた窓から表に逃がす。部屋の中では戦いに巻き込まれる可能性が高い。
「強い!」
3対1の優勢にも係わらず、雪の足場によってほぼ膠着状態になっていた。それを打開したのは突入班が美少女を確保したことだった。
「お前たちの獲物は解放した」
セイロムは出血で、左腕の感覚がほとんどなくなっていた。
「セイロム、下がって応急手当てしろ」
アルジャスラードがセイロムを庇って前に出る。あいにくポーションをもっていない。止血だけでもしておかなければ。
「ちぇ。あの役立たずども」
少女は吐き捨てるようにいうと、白とアルジャスラードに向かって斬撃を放って牽制すると、小屋に向かって走り出した。
「待て」
白が追いかけると、すかさず斬撃が襲ってくる。リーチは相手の方が長いので避けるだけでも厳しい。
「手間かけさせやがって」
ジークフリートが肩で息をしながら、床に血まみれで倒れた男の頭を蹴り飛ばした。
「こっちもどうにか」
イシスもどうにか、相手を切り伏せた。最後には懐に飛び込んでダガーを喉元に突き刺した。
「隣は?」
しかし室内にティファルの姿はない。
「取り敢えず隣を加勢しよう」
マミは、倒れた状態のまま、得物を使えないで殴り合いを強いられていた。オーラボディの効果で多少の攻撃は大丈夫なものの、分のいい戦いではない。
音無も相手の力を攻略できずにいる。相手は技能よりも単純に力で押してくるだけに、けっこう攻略しづらい。その時、男の背後からイシスとジークフリートが現れた。男がそちらに気を取られている隙に、懐に入り込み、喉元にショートソードを突っ込みかき回わす。鮮血が吹き上がり、その血を追いかけるように男が床に倒れる。数回痙攣すると、そのまま動かなくなる。
最後の一人はマミの上に馬乗りになったが、それは逆に自分の背後を晒すことになった。ジークフリートの渾身の力を込めたロングソードが男の後頭部から切り込んでそのまま首を切り飛ばす。
「大丈夫?」
音無が、マミに手を貸して助け起こした。
「少女たちは瑞希が表に避難させたよ」
表? 陽動の連中が敵を始末していれば問題ないか。
「きゃ!」
「なにすんねん」
瑞希の悲鳴とティファルの怒鳴り声が聞こえてきた。
「まだ敵がいた」
4人が小屋の入り口から外に出た。
「瑞希!」
相手一人。少女をかばった瑞希が、雪の上に倒れていた。
「小屋の中は全滅か。まったく、本当に役に立たない奴ら」
血まみれの4人を見て察したようだ。
「そいつ強いぞ、気をつけろ!」
「このまま5人引き連れていくのも、無理っぽいから。引き上げるわ。死にたいなら追ってきな」
そのまま背後を見せて逃走する。
「なんやて! 電撃ビリビリや〜。覚悟しいや〜。」
ティファルがライトニングサンダーボルトを使う。しかし、効果は弱かったようだ。
「けっこう、強敵だったな」
一人逃げられたが、4人始末したし、捕まった美少女5人は奪還したから十分成功と言えるだろう。