お嬢様事件簿〜弟を助けて
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■ショートシナリオ
担当:宮崎螢
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月15日〜01月20日
リプレイ公開日:2005年01月20日
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●オープニング
パリの路地を、冒険者風の若い男と子供っぽい女の子の二人が歩いていた。
「みゃう。‥‥かっこいい騎士様見つからないね」
金の髪に着いた雪を払いつつ。女の子は口を開いた。
「お嬢様。パリは広うございますから。もうすぐ夜ですよ。宿を取りましょう」
麻のマントを脱いで掛け、男は急かす。
「うーんエフデ。おんぶ〜」
エフデと呼ばれた男は、苦笑いしつつ背負うと道を急ぐ。
「あ、ここにいたの?」
女の子は、宿の卓に座る黒い装束の、仮面の吟遊詩人を見つけた。
「ねー。何か面白い話はないの?」
「お嬢様。お屋敷に呼び寄せている訳ではありませんよ」
窘める若い男にウインクしつつ、
「お望みと有れば‥‥」
吟遊詩人は意味深な笑みを浮かべて銀の竪琴をポロリ。街の噂を語り始めた。
パリの片隅に、ミルカという画家がいた。画家だった亡き父の跡を継いだというミルカは、若干12歳ながら将来を期待されているという。病気の母と幼い弟を養う、気丈な少女であった。
そんなミルカにある日、事件が起こった。大事な絵筆が折れてしまった‥‥正確には、折られてしまったのだ。
「姉ちゃん、ごめ‥‥オレ、片付けてやろうと思っ‥‥」
犯人は、ミルカの弟であるディム。勿論わざとではなく、不幸な偶然が重なった上の結果であったが、とはいえ、絵筆が折れてしまったのは、事実。
衝撃と動揺と‥‥哀しみと。ミルカはつい、弟に手を挙げてしまった。
「これは父さんの形見なのに‥‥ディムのバカっ!」
パン、と頬を叩かれた事より、気丈な姉がこぼした涙に驚いたらしい。
「オレ、オレ‥‥オレが絶対、元通りにしてやるから!」
ディムは言って、家から飛び出して行った。
「あ‥‥ディムっ?!」
慌てたのは、一時の衝動が去って我に返ったミルカだった。急いで弟を探すが、見つからない‥‥焦りが募る中、ミルカはようやく目撃情報を手に入れる事が出来た。ディムが、近くの森に向かったらしい、と。
「森の奥に、絵筆の元になる樹があるって。いたずらっ子が言ったの。何も知らない弟は、それを真に受けて‥‥。だからきっと、ディムはその樹の所に‥‥」
息せき切って冒険者ギルドに駆け込んだミルカは、一生懸命に事情を話した。
「でも、最近、森から狼の遠吠えが聞こえるっていうし、そうでなくても、この寒さの中で迷ったりケガしたりしたら‥‥」
そうして、震えながら、ミルカは依頼したのだった。
「お願い、ディムを見つけて、連れ戻して!」
「ですが、貧しい家庭でお金がありません。侠気のある冒険者達は、別の事件で大童。とある者の命を救うために出払って居ります」
「いつ! まだ間に合うの?」
吟遊詩人はにこりと笑い。
「ええ。間に合いますとも。つい今し方の事ですから」
立ち上がる女の子を制し、
「だめです。ご身分をお考え下さい」
袖を掴んで離さない。
「じゃあ‥‥お家に帰んない」
困ったような顔をした若い男は、
「では、お嬢様の代わりに助けて差し上げる冒険者を雇いましょう。良いですね」
女の子は渋々ながらこくりと頷いた。
●リプレイ本文
●事前準備
「捜索隊は飛行班と地上班に分かれてディムさんの捜索を行いましょう。それから‥‥お嬢様達の見張り兼護衛に誰か残って下さいな」
「はい。それは私が引き受けますわ」
森に向かった少年の探索‥‥集まった者達の顔を見回したシャミー・フロイス(ea8250)に頷いたのは、フレア・レミクリス(ea4989)だった。
「既に手は打ってあります、もう直ぐここにいらっしゃるはずです」
フレアの言う通り、御付を従えたお嬢様はほどなくして現れた。ここ‥‥これからシャミー達が向かう森の入り口に近い、宿屋に。
そして、時同じくして悪戯っ子やミルカも姿を見せた。
「ごめんなさい。私もどうしてもじっとしていられなくて‥‥」
「いいのですよ。ここで私達と一緒に待ちましょう」
「ねぇエフデ。やっぱり私も行きたいわ。これって、いつもお話に聞いてる冒険なんでしょ?」
「お嬢様‥‥」
瞳をキラキラさせる少女に、エフデという名の御付の男は顔を引きつらせた。とはいうものの、直ぐに咎めず言葉を探したのは、どう宥めたものか思案したからだろう。
「では、お嬢様は指揮官と情報交換を担当していただく形で参加はイカガデショウカ?」
代わりに発言したのは、シモーヌ・ペドロ(ea9617)だった。
「もしかしたら、お子様が自力で戻ってくるかもしれませんしネ? 二重遭難して新しい依頼デスとか私達も疲労で三重遭難可能性アリデス」
自分達は冒険者だから夜の森の探索も可能だが、お嬢様に森に行軍せよというのは死に行くのと同義語だと、シモーヌは分かっている。
「このお嬢さんの言う通りですよ、お嬢様」
ホッとしたエフデが、シモーヌに感謝の眼差しを向けた。よく見ればちょっとカッコいいかも‥‥思わず顔を赤くするシモーヌだったりして。
「もう一つ、大事な役目を頼みたい」
と、ウォルフガング・ネベレスカ(ea4795)がお嬢様をひたと見つめ、続けた。
「俺達の代わりに、少年の無事を祈っていてくれ」
ウォルフガングはそのまま瞳を移し、
「お前はディムが戻ってきた時、真っ先に詫びれるよう、待機しておけ」
悪戯っ子にもそう、言い置いた。
「オレ、こんな事になるなんて‥‥」
「分かってます。嘘をついたのは悪いことです‥‥ですが、責任を全て背負い込む事はありませんわ」
フレイは俯いた子供の頭をそっと撫でた。
「ウォルフガングさんの言う通り、ここを動かないで、そして、ちゃんと謝る事‥‥それがあなたへの罰であり償いです」
二人の説得を受け、お嬢様達は口を噤んだ。ウォルフガングとフレイの真摯な眼差しが、それ以上の反論を封じたのだ。
「それから‥‥」
そして、ウォルフガングはミルカに何事かを頼み込んだ。
「正義感の強い問題児達のことは皆に任せて、作戦決行まで森の事でも調べてみよう」
その頃、ファルス・ベネディクティン(ea4433)は貴重な時間を無駄にしない為、森について情報を集めていた。
「筆を作る木は実際には、ないのか‥‥少々厄介だな」
結局、悪戯っ子のデマカセ‥‥とすれば、見つけられなかったディムの足取りを追うのは難しくなるかもしれない。
「やはり時間との勝負だな」
ファルスは表情を引き締めると、仲間達の下に足早に向かった‥‥その手に、簡易地図を持って。
「皆様、いってらっしゃいませ」
そうして、ファルス達はフレイ達に見送られ、森へと足を踏み入れたのだった。
●捜索大作戦
「お願い空よ、どうか泣き出さないで」
空を見上げ、ルーチェ・アルクシエル(ea7159)は祈るように呪文を唱えた。冷たい雨‥‥いや、雪がディムや皆の上に降り注がないように。ウェザーコントロールの魔法で晴間を呼び込んだのだ。雲の布団の切れ端から差し込む月の光が、森の上に降り注いだ。
そのまま休む事無く、ルーチェはフライングブルームを広げ。
「でも、早く探さなくっちゃ‥‥真っ暗になっちゃう」
降りてくる夜と競争するように空へと飛び立った。
「ディムさぁぁぁん、いらっしゃいますか?」
同じく飛行班であるシャミーもまた、羽を羽ばたかせると、声を限りに名を呼んだ。
「そう遠くに行ってないといいんだけど‥‥」
ディムがこの方向から森に入ったのは、間違いない‥‥もしこの声が届いたら応えて欲しいと、心から願いながら。
「土地勘も無い人が1人で森に入るのは無謀よね‥‥。ともかく、早く助けてあげないと」
地上では、フィーナ・アクトラス(ea9909)がファルスとシモーヌと共に探していた。
「探す側が探される側になってたら意味が無いから、それには気を付けないとね」
ウォルフガング達ともいざという時の合図等を決めておいて、はぐれない様に気を付けながら。
「あ〜‥‥ま、おめでたいお嬢やら悪戯坊主が大人しくしてるうちに片付けちまうか」
商売道具である三味線を手に、やる気なさげにブツブツ言っているのは、ウォルフガングと組んでいるアリア・プラート(eb0102)だ。
「ったく、大分暗くなってきちまったってのによぉ」
探索は専らウォルフガングに任せているアリアは、それでも灯りをかざしながら、その道行きを照らし続けた。
「とにかく、やるしかない」
その灯りと月明かりを頼りにしつつ、ウォルフガングはデティクトライフフォースを小まめに掛け続けた。
「あぁっ、大人しく待ってるなんて性に合わないわ‥‥やっぱり私が行かなくっちゃだと思うの」
宿屋では、お嬢様が何度目かのセリフを口にしていた。悪戯っ子の方もやはり気掛かりのようで、しきりと外を気にしている。
「ですが、もう外は暗くなっておりますし、寒いですし‥‥」
「なら、ディムって子だって危ないじゃない!」
お嬢様の言葉にビクッと身を震わせるミルカ。その顔はひどく青ざめている。
「お嬢様」
フレアは視線でお嬢様に知らせると、気分を変えるように微笑んだ。
「それにしても、お嬢様の髪はキレイですね。私も髪には自信があるのですが、お嬢様には負けてしまいますわ」
「そっ、そうかしら?」
ふわふわした金色の髪にそっと触れたフレアに、満更でもなさそうなお嬢様。
「はい。少しいじらせていただいても良いですか? ミルカさんも、髪型を変えてみましょうか」
そんな風にフレアは今回も、お嬢様を宥め‥‥視界の端でエフデがホッと息を吐くのが見えた。
「大丈夫です、皆がきっとディムくんを無事に見つけてくれますわ」
お嬢様の髪にクシを入れながら、フレアは待つ者達に優しく言い聞かせた。
●目標発見
「‥‥っ!?」
探索を始めてから暫し。ミミクリーの魔法で黒犬になろうとしていたクリスティア・アイゼット(ea1720)は、相方のターニャ・ブローディア(ea3110)を振り仰いだ。
「うん、あの木々の隙間から漏れ出てる灯り‥‥あれがそうだよ、きっと」
ランタンを掲げたターニャは遠い‥‥微かな灯りを見て取り、背中の羽を羽ばたかせながら、合図の笛を吹き鳴らした。
答えるように、ウォルフガングのオカリナが暗い森に響いた。
否、響いたのはそれだけではない‥‥狼と思しき唸り声もまた、空気を震わせた。
「囲まれかけてる‥‥っ!?」
気付き、思わず舌打ちするウォルフガング。同じく気付いたファルス達もまた、地の雪に足を取られかけながら、ひたすらに目的地を目指した。
その場所に真っ先にたどり着いたのは黒犬‥‥に変化したクリスティアだった。
そして、見た。
(‥‥ダメっ!?)
襲われる子供‥‥クリスティアは咄嗟に腕を伸ばした。伸ばされた腕はあやまたず、今正に子供の喉笛を噛み切らんとした狼を突いた。ギャンっ、と一声鳴いて弾き飛ばされる、狼。
「お願いだから、あっちに行って!」
丁度同じ頃、やはり気付いたルーチェがフライングブルームで下降‥‥駆けつけていた。
狼達を威嚇するよう、追い払うよう、牽制する。決して、戦いたいわけでも倒したいわけでもないから。
「そこまででアリマス!」
その足元に刺さる矢‥‥シモーヌだ。次々と駆けつける冒険者達に、狼達も浮き足立った。
「‥‥アリア、頼む!」
「あいよ、っと」
そうして、ウォルフガングの求めに応じて、アリアが三味線をかき鳴らした。それはメロディー‥‥空腹を忘れ、高ぶった戦いの熱狂を鎮める呪歌だ。
狼も冒険者も次第に、冷静に近づいて行った。
「ん〜、ほら、帰った帰った」
獣は獲物を捕るときと我が身を護るとき以外、戦いを好まない。狼達を追い払うのは簡単であり‥‥かくして、戦いは終わった。
「大丈夫‥‥もう大丈夫、だから」
安堵の中、シャミーは目を見開いたままの少年を安心させるように、しっかりと頷いてやった。
「‥‥あ」
恐怖で止まっていた時間は、一つ身震いした事で動き出したようだった。
「お姉さんが、探していましたよ、早く帰りましょう」
「‥‥まだ、見つかって、ない、から」
血の気の失せた顔で、震える身体で、それでも、ディムはイヤイヤする風に首を振った。
「いや‥‥絵筆の木は、ないんだ。あれば一緒に探してやるのだが」
「ない‥‥?」
呆然ともらした少年をファルスは痛ましげに見つめ。
「とにかく、これで少しでも寒さを凌いだ方が良いわ」
「そうです、すっかり冷え切ってますよ」
フィーナとシャミーはいたわる様に言うと、冷えてしまったディムの身体を毛布でくるんだ。
「自分が壊してしまった物を自分で直したいって言う気持ちは分からなくもないけど‥‥だからと言って無茶をするのは良くないわ。あなたのお姉さんも心配してるんだし」
「そうだよ。もし君に何かあったら、お姉さんは悲しむんだよ。これ以上更に彼女に寂しい思いをさせる気?」
フィーナだけでなくターニャもまた、優しく叱るように言い聞かせた。
「それに絵筆は君が代わりを探しているように替えが利くけど、君という人間は替えが利かないこの世でたった一つのものなんだよ」
「でも、俺‥‥どんな顔して‥‥」
「筆の話は、こいつとこいつの姉貴の問題じゃん」
そんな中、自分達がどうこう言う問題ではない、そう考えていたアリアは「お仕事しゅうりょお〜」とばかりにさっさと歩き出した。
「さっさと帰って寝よ寝よ」
一つ大あくびをして。
「これが姉さんの気持ちだ」
そんな背中に苦笑し、ウォルフガングはディムに差し出した。ミルカに書いて貰った、手紙を。
「‥‥姉ちゃん」
布に木炭で描かれた絵。込められた想いは、ターニャ達の言葉を裏付けてくれて。
「帰ろう、ほら」
ウォルフガングは、ようやく頷いたディムの小さな身体を、その背に背負った。アリアの後を追い、帰る‥‥ディムをミルカの元に届ける為に。
そんな冒険者達の姿を、月は優しく見守っていた。
●仲直り
「お帰りなさい‥‥お疲れ様でした」
「早く中に入って、温まって」
寒さに震えながら宿にたどり着いた一行を迎えたのは、フレイやお嬢様の満面の笑顔だった。
「ディムごめんな、俺‥‥」
「‥‥うん。もういい、よ」
ウォルフガングの背から降りたディムは、悪戯っ子に答えてから、駆け寄ってきたミルカに告げた。
「ごめん、姉ちゃん。俺‥‥代わりの筆、見つけられなかった」
「そんな‥‥そんなの、いいんだよ」
抱きしめようとしたミルカはその言葉にタイミングを逸してしまったらしい‥‥困ったような沈黙が、落ちた。
「一言だけ、いいかな?」
そんな二人を見やって、ファルスは口を開いた。ディムはもう、ミルカの気持ちを知っている。だから、口を出すのは野暮かもしれない‥‥でも、一つだけ伝えたい事があったから。
「つい、カッとなって言ってしまう事はしょうがないかもしれない‥‥でも形見に命はないけど‥‥君達は命を捨てるところだったかもしれないんだよ‥‥二人とも自分のしたことをよく考えてほしいな」
ディムだけではない、ミルカにも反省を促すファルス。事は、命に関わったのだ。失ってしまっていたら、どんなに後悔しても、二度と取り返しがつかなくなっていたのだから。
「うん。私‥‥絵筆なんかより、ディムの方が大事だよ。無事でいてくれて良かった」
背中押されたように、ミルカは今度こそギュっと弟を抱きしめた。
「ごめんね、ディム‥‥」
「ううっ、姉ちゃん姉ちゃん、うわぁぁぁん」
そして、ディムは姉の腕の中で泣き出した。今まで麻痺していた感情を‥‥恐怖を、取り戻したかのように。
「良かったです、本当に‥‥」
つられて思わず涙ぐむクリスティアに頷き、ターニャはミルカに微笑んだ。
「ね、今度仲良く、姉弟二人一緒の絵を描いて見せて欲しいな」
「なら、新しい絵筆は私がプレゼントするわ。ね、いいでしょ?」
「はい、お嬢様」
「皆さん‥‥本当に本当にありがとうございました」
ミルカは改めて一人一人を見ながら、そう頭を下げた。その腕に、掛け替えのないものを抱きしめながら。