●リプレイ本文
●子供達の為に!
「どうしてこんな」
崩された雪の塊‥‥元々はきっと可愛らしかったのだろう、雪だるまの成れの果てにティエ・セルナシオ(ea1591)の胸は痛んだ。
「せっかく作った雪だるまを全部壊しちゃうなんて酷いね」
ハーリー・エンジュ(ea8117)にロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)も「はい」と悲しげに頷き、真剣に続けた。
「全部壊していかれるなんて、余程雪だるまがお嫌いな方なのでしょうか? 子供の頃、雪だるまに潰されて亡くなりかけたとか」
「違っ!? てか、嫌な死に方だよね、それ」
突っ込んだハーリーは、ガッカリした顔の子供達に、豊かな胸をドンと叩いてみせた。
「お姉さんが犯人探しを手伝ってあげよう」
「ゆきだるまさんがかわいそうなの、はんざいなの、ほしをあげてかたきをとるの」
レン・ウィンドフェザー(ea4509)も事件解決を誓い。
「もう一度、前よりも素敵な雪だるまを作っちゃいましょう。壊すのが勿体無いって思ってしまうくらいのを、ね」
「うんっ!」
そして、ロミルフォウの励ましに、子供達も気を取り直したようで。
「でも、まさかキミらと一緒に依頼受ける事になるとはね」
そんなロミルフォウとティエ、レティシア・ハウゼン(ea4532)に、ローサ・アルヴィート(ea5766)は声を弾ませた。友人同士で、酒場ではいつも一緒なのだが、依頼で揃う事は珍しかったから。
「そうですね。とにかく、雪を確保しなければなりません」
笑みを返してレティシアが言い、四人‥‥いや冒険者達はそれぞれの役割を果たす為、散った。
「雪集めなら馬車よりもソリの方が良いだろう」
「よかったらあたしのドンキーつかって」
ヴェリタス・ディエクエス(ea4817)はレンの申し出を有り難く受け、レンの驢馬とレティシアの馬の分、二つのソリを借り受けた。
「アルビレオ、頑張ろうね」
愛馬を励まし、レティシアはヴェリタスと連れ立って雪集めに向かった。
「子供達が雪を楽しみに待っています、どうか雪を分けて下さい」
郊外では事情を話し、雪を分けてもらうようにして。
「出来るだけ沢山、集めよう」
喜ぶ顔を思い浮かべるヴェリタスに、レティシアも大きく頷くのだった。
「この壊されたのは片付けないとね」
「ヴェリタス殿達が戻ってくるまでに、キレイにしておかねば」
片付け担当はユージィン・ヴァルクロイツ(ea4939)とアルクトゥルス・ハルベルト(ea7579)。
「お兄さん達だけじゃ無理だから手伝ってくれないかな?」
子供にとっては片付けも遊び。ユージィンのお願いを子供達は快く引き受けてくれた。
「ほしはふたりなの。あしあと‥‥うまくけそうとしてるけど、わかるの」
その横。テキパキ現場検証していたレンが、断言する。
「じゃあ、男女二人組かもしれないわね」
ティエの聞き込みの結果、深夜近くに見慣れぬ風体の二人組が人目を忍び歩いていたという。
「雪が落ちる音は珍しくないと、特に気付いた人はいなかった‥‥力任せに暴れたのではないかもしれないわ」
「うん。犯人は何か理由があってこんな事したんだ」
同意したのは、シイナ・ダンター(eb1009)。ステインエアーワードの魔法を使ったのだ。
「犯人は男女二人。格好は異国風‥‥目撃情報ともピッタリだね」
「犯人が人目につく事を恐れているなら、夜遅くに行動する可能性は高いと思うわ」
ティエはそう、結論付けた。
「この赤い実をつけると、可愛いウサギさんの出来上がりだ」
片付いた庭。作った雪うさぎに喜ぶ子供達を呼び、アルクトゥルスは庭の隅に片付けられた雪の近くに、何かを植えた。
「それ、なぁに?」
「花の種だ‥‥雪だるまの供養に、な」
祈りを捧げた後、
「彼らが天に昇って、セーラ様やタロン様に春の訪れをお願いしてくれるのさ」
アルクトゥルスは空を見上げ呟いた。
「温かい食べ物を作りましょう」
「うん、とびっきり美味しいのを」
ルーツィア・ミルト(ea9190)とルーシェ・フィオル(eb0377)は調理係だ。
「子供達に私達冒険者に‥‥結構な量が必要になりそうですね」
「とすると、一度にたくさん作れる煮込み料理が良いでしょう」
指示を出すのは、ロミルフォウ。
「でも、材料は‥‥お嬢様、用意してくれないかな?」
「いいわ。直ぐに手配して頂戴」
ダメ元で頼んだルーシェに、お嬢様はOKを出し‥‥運び込まれる食材達。
「いっぱいだね」
「腕の見せ所ですわ、頑張りましょう」
気合を入れるルーシェとルーツィア。
「お料理は好きですか? 一緒に手伝ってくれるかしら?」
それに、覗き込んでいた女の子が二人、ロミルフォウに手招かれ加わった。
「包丁はこう持って‥‥そう、上手ですわ」
手際よく野菜を切りつつ、合間に簡単なレシピやコツを教え。クッキングタイムは和やかに進んだ。
「野菜はじっくり煮込んで、甘みを引き出して。子供達にも喜んで食べてもらえるように出来れば」
じっくりコトコト愛情込めて、ルーツィアは料理を手がけた。
「ご苦労様です。お腹をいっぱいにしてから雪だるま作りに入って下さい」
そして、雪集め組の帰りを待ち、料理を振舞う。
「すごく美味しいよ!」
「本当に良い味だ」
「皆で作った自信作ですもの。でも、喜んでもらえて嬉しいです」
疲れも吹き飛ぶような美味しい料理に舌鼓を打つ一同。料理人たちは惜しみない賛辞に、満足げに微笑み合った。
●雪だるまを作ろう!
「皆、どうやって雪の上を走ってるんだろう?」
歓声を上げ走り回る子供達に、ユージィンは呟いた。さっきは雪を片付けた。だが、走るとなるとムリだ、滑って転ぶきっと。
「これは子供の順応性かな。それとも雪の降る土地で育ってるからかな」
ユージィンにとって、雪のある冬は初体験だ。自然、足取りも慎重になってしまう。雪との壮絶な、でも楽しい戦いはまだ始まったばかりだった。
「雪って冷たいんだね」
ユージィン程ではないが、やはり雪に触れる機会のないティエも楽しんでいた。
「ダメだなぁお姉ちゃんは。雪だるまはこう作るんだよ」
そして、レティシアも。習い事などが忙しく同世代の子供達と遊べなかった幼い頃を、取り戻すように。
「さーて、何して遊ぶかっ」
友人達を温かく見つめていたローサは、子供達に手品を見せ。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」
ハーリーは負けじと自慢の踊りを披露した。
「この雪降り積もるパリの街角に咲く一輪の紅い花、火の玉ハーリーこと、このハーリー・エンジュの華麗なる舞い、そこのお兄さんもお姉さんも、とくとご覧あれ! 見なきゃ損損!」
銀世界に鮮やかに咲き誇る真紅の薔薇。その踊りは確かに、見逃すのが勿体無い艶やかさだった。
「やっぱりみんな一緒は楽しいな!」
「一緒だから、こんなに楽しいんだよね」
そして、シイナとルーチェは文字通り子供と同レベルではしゃぎまくっていた。
子犬よろしく駆け回り、ローサの手品に目を見張りハーリーの踊りに見惚れ、今は雪玉を転がしたり自分達も一緒に転がったり‥‥無邪気に全力で楽しんでいた。
「でも、偉いですね」
そんな中で、レティシアはお嬢様に話し掛けた。普通、お嬢様はあまり、孤児院などには直接は足を運ばないものだから。
「子供達の面倒を見ているなんて、中々出来るものではありませんよ」
「別に面倒なんか‥‥ただ私は雪だるまの正しい知識を教えてあげただけ」
頬が赤くなったのは照れているのだろう。
「正しい知識、ですか?」
小首を傾げたルーツィアが疑問の答えを見る事が出来たのは、すぐ後だった。
「「‥‥」」
何か違う、気がした。二人が知っている雪だるまは、雪の玉を大きくして重ねたモノだ。間違ってもこんな‥‥形容し難い形はしてないハズだ。
「雪だるまは元々はジャパンから伝わったもので、直立不動で腕を変な形にしてる物なの。でもここはパリだから、アレンジしてみたの」
得意げなお嬢様‥‥だが、その最初の知識が間違っている、果てしなく。
「雪だるまというのは、ですね」
二人は誤った知識を正すため、説明を始めた。
「僕たちの雪だるま‥‥違うの?」
「あ〜、確かに間違った知識だ。だから俺が正しい雪だるまを教えてやる」
ヴェリタスは泣き出しそうな子供の頭をポンと優しく叩いてから、指導を始めた。流石は子供、コツを掴むのも早い‥‥というかお嬢様が横槍を入れる前は、作ってたわけだし。
「‥‥何か、良いよな」
一生懸命に雪を転がしている子供達に、ヴェリタスは目を細めずにはいられなかった。思い出すのは故郷の孤児院‥‥子供達や弟達の幼い頃の姿だ。
ヴェリタスは優しい眼差しで、大きくなった雪玉に苦戦している子供達に手を貸した。
「でっかい雪だるまを作って、お姉ちゃん達をびっくりさせような」
●犯人現る!
「見張り、ご苦労様です」
子供達を寝かしつけてから、ロミルフォウは見張りのレティシア達に合流した。
「お嬢様は?」
「大分ごねましたが、トラブルを起こしそうだと御付の方が連れて帰られて」
既に日はとっぷりと暮れている。交代で見張っているものの、ティエが一番確率が高いと見た時間帯だけに、起きている者は多い。
それでも、来るか来ないか不明な犯人を待つのは、楽ではない。
「あぁ寒い。早く来なさいよ、もう」
「夜更かしはお肌の敵ですけど、子供達の為ですもの」
飽き飽きモードのローサを諭したロミルフォウ。
「その為にも、もう一頑張りですよ」
続いて、ルーツィアが用意してきた温かな飲み物を手渡した。
「う〜っ、あったまるねぇ」
凍えた指先を温めたローサを始め、それぞれが身体を温め。そうして、カップが空になって程なくして、待ち人は現れたのだった。
「皆、行動開始よ」
一早く気付いたのは、ブレスセンサーを使っていたティエだった。人影が雪だるまの一つに手を伸ばし。それを認めた瞬間、レティシアは思わず声を上げていた。
「子供達が一生懸命に作ったものに何をするんですか! 罰当たりな!」
「何故雪だるまを壊そうとするのか、理由があるなら話して下さい」
続けてロミルフォウが会話を試みた。出来れば穏便に済ませたいと。
「‥‥雪だるま?」
「兄上、大きいですが、この形は雪達磨です」
「呪いの像では、ないのか?」
「勿論です。雪だるまは呪い的なものではありません。ただ雪で像を作る遊びですもの」
戸惑う二人に大きく首肯するロミルフォウ。
「雪だるまを知らないのか?」
「いや、アレが雪達磨とは気づかなかった」
「‥‥あぁ」
指導前の何かオドロオドロした雪像を思い出し納得してしまうヴェリタス。
「ところかわれば、ふうしゅうもいろいろかわるの。だから、じぶんのちしきだけで、ものごとをきめつけたらいけないの」
めーなのよ、と睨まれ犯人Aは神妙に頭を下げた。
「うむ、その通りだ。本当に面目ない」
「今度壊したら、この中入ってもらうからね」
ローサが悪戯っぽく雪だるまを指し示すと、人騒がせな勘違い兄妹は生真面目に畏まった。
「でもさ、普通、壊す前に考えないかな。ここは孤児院だよ?」
幼い子供が、いったい何を呪うんだか‥‥ユージィンは「やれやれ」と肩をすくめた。
「気付かず、皆様には多大なご迷惑を‥‥」
「誤解が解けた所で、キミたちも参加しないかい? 雪像作り」
うな垂れる兄妹に、情状酌量の余地ありと誘うユージィン。
「知らなかったとはいえ壊した詫びと思って‥‥このままじゃ、そちらも後味が悪いだろう?」
「とにかく、先ずは子供達に詫びてくれ。子供達はガッカリしていたのだから」
「子供達に一言、謝って下さい。正直に話せばきっと許してくれますから」
「で、仲直りとして一緒に遊ぶんだよ、すごく楽しいんだ」
アルクトゥルスは懇々と説き、ルーツィアとルーチェはニコニコと勧め。そんな冒険者達の言葉に二人は顔を見合わせた後、微笑して頷いた。
●みんな笑顔で!
「今日はこの二人も入るぞ」
翌日。ヴェリタスの一声で子供達が、この異国よりの訪問者に群がった。
「お二人が、皆の雪だるまを壊してしまったんです」
「でもね、それは誤解だったんだ‥‥だから、許してあげて」
「誤解とはいえ、事実は事実。本当にすまない事をした」
「皆さん、申し訳ありませんでした」
ルーツィアやルーチェが見守る中、深々と頭を下げる二人。悪意がなかったのは伝わったようで。
「もう、いいよ」
「うん。昨日、お兄ちゃん達と新しいの作ったし」
子供達は口々にそう告げた。
「お兄ちゃんお姉ちゃん達、ありがとう」
これで僅かに残っていたモヤモヤも消えた‥‥陰りのない笑顔をハーリー達に向けて。
「さぁ、こちらへ」
「雪だるまなんて久しぶりです」
「うむ。何とも懐かしいな」
遠い目をしながら嬉しそうに言う二人にロミルフォウは頬を緩め、二人を睨みつけているお嬢様を取り成しにかかった。
「お嬢様もご一緒に、お姫様雪だるまなんてどうです? 綺麗な花や葉っぱで飾りつけするんです」
お嬢様に似た感じで可愛らしく‥‥続けるとたちまち、その機嫌は直ったようで。
「はい。よかったら、これ」
更に、レンがスケッチを渡した。子供達に配る為、雪像制作風景をスケッチしていたのだ。わぁっと喜ぶ子供達の中、
「ありがと。うん、いい絵じゃない」
お嬢様も完全に機嫌を直し、笑顔になっていた。
「ティエちゃん、覚悟」
一方。二日続けての雪だるま作りに飽きたローサはどさくさにまぎれてティエを狙った。
「きゃうっ!?」
さすがは射手。雪玉は見事にティエの顔面にヒットした。
「ローサ姐さん、その挑戦状は受けたよ」
顔の雪を落としたティエは、反撃に出た。
「そんな攻撃、痛くも痒くも‥‥痛っ!?」
余裕のローサだったが、予想に反して雪玉は痛かった。何気に石入りなデンジャラス雪玉だったのだ。
「子供は真似しちゃダメだよ?」
「これでも弓使いのはしくれ‥‥射撃系で負けるかぁー」
「ストリュームフィールド!」
ローサの攻撃は高速詠唱によって作り出された魔法によって阻まれる。
「やるねティエちゃん。でも、あたしだって伊達に鍛えてないんだよ!」
「ふふふっ、返り討ちにしてあげるわ!」
雪合戦は局地的に激しいバトルとなったようだ。
「タロン様‥‥」
雪に映える、子供達や冒険者、異国の兄妹達の笑顔。アルクトゥルスは心からの感謝の祈りを天に捧げた。
見上げた青い空に、たくさんの笑い声が響いていた。