少年時代〜宝物を守れ
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■ショートシナリオ
担当:宮崎螢
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月14日〜04月19日
リプレイ公開日:2005年04月20日
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●オープニング
ひとけのない路地裏で、ガラの悪い少年達が笑いながら何かを蹴っていた。彼らは皆、頭に白いバンダナを巻いている。年齢は十代半ば程だろうか。
少年達の中心にいるのは、粗末な衣服の老人だった。這いつくばり、頭を抱えてじっと少年達が去るのを待っている。
母親に頼まれた買い物帰りのドニが、物陰からそれを見ていた。
助けに入りたいのだが、相手は自分より体も大きく、五人もいる。とてもかなうとは思えなかった。
それでも、そこから立ち去ることができず、考えに考えた結果思いついたのが、
「お役人さま、こっちです。集団でおじいさんに乱暴してるんです!」
ドニは精一杯声を張り上げて、この嘘が少年達に効くことを祈った。
果たして彼らは慌てて立ち去り、ホッとしたドニは倒れている老人を助け起こしたのだった。
「‥‥で、ここに連れてきたのか」
孤児院のクレマン院長が応急手当をしている傍らで、いきさつを聞いたロジェは腕組みしてうなった。
「ひでぇ奴らだな。そのバンダナ野郎達は」
「あやつら、何か勘違いをしているようでな」
そう言って老人は懐から白い粉の入った小瓶を出した。
「わしは医術の研究をしているのじゃが‥‥これは、いわゆる万能薬というものじゃ。沈静作用があり、風邪や腹痛、神経痛の辛さを押さえることが出来る。それを不老長寿の秘薬と思い込んでおるようでな。いくら説明しても聞かんのじゃよ。いやはや」
老人はのんきな笑顔で頭を撫でる。
「じいさん、荷物取られたんだろ? もっと怒れよ。俺は怒ってるぜ。よし、仕返ししてきてやる。行くぞドニ! そいつら八つ裂きだ!」
「ちょ、ちょっと待てってば。どうしていつも勢いで行くんだよ。いつか死ぬぞ」
「ふ。こんなこともあろうかと、的当ての訓練はしてきたぜ。五人組だろ。包丁が五本あれば大丈夫だ」
「何が大丈夫なんだよ! 包丁を持ち出すな! だいたいそいつらがどこにいるのかわかってんのか?」
「あやつらは必ずここに来るぞぃ」
老人の発言に、ロジェとドニだけでなくクレマンも注目した。
「尾けられていたからの。それじゃ、世話になったな」
巻き込んでは申し訳ない、と老人は立ち上がろうとした。
しかし、それをロジェが押し留める。
「ここにいろよ。狙われてんだろ。その薬、宝物みたいな物じゃないのか? そいつら皆殺しにしてやるから」
「皆殺し以外はロジェに同意」
それでも去ろうとする老人を、縛り付けてでも行かせない、と半ば脅して留めると、二人は孤児院の周りに罠を仕掛けるため外に出ていった。
いくらなんでもそんな乱暴者五人も相手にかなうはずないだろう、とクレマンはこっそりとギルドに助けを求めたのだった。
●リプレイ本文
●盗賊とのなれそめ
仲間の冒険者達が孤児院の外へ罠を仕掛けに行っている頃、院内の担当になった冒険者達は狙われている老人からさらに詳しい事情を聞きだしていた。
それまでリユニティ・ブラッドプール(ea9925)と仲良く遊んでいた子供達も、何やら大人の話が始まったとわかるや自主的に別室へ移動していった。
リユニティ、法条靜志郎(eb1802)と向かい合うように老人と院長クレマンがソファに腰を下ろす。
「えーと、単刀直入に聞くと、例の盗賊とおじいさんはどういう関係なの?」
リユニティの屈託のない問いかけに、老人は少し考えた後何かを思い出したようにかすかに苦笑した。
「わしはもともと、このノルマンの田舎の医者だったんじゃ。しかし医者というのはなかなか報われない職業でなぁ‥‥おっと、話が長くなってしまうな。イカンイカン」
老人は照れたように頬をなでると、改めて盗賊との関係を説明した。
「そもそも出会ったのは世界中を回って医学の勉強をしている最中じゃった。わしはある貴族に世話になっておってな、そこのご主人の病を治す薬の研究に携わっていたのじゃ」
その貴族は一体何の病気なのかさっぱりわからなかったらしい。しかし、発熱が続いたり嘔吐を繰り返したり、かと思えば全身に痛みが走ったりと、まるで呪いでも受けているような状態だったという。このままでは一年と持たず死んでしまうだろうと誰もが思っていた。
しかし試行錯誤の末、老人はそれらの症状を抑える薬の開発に成功した。これまでの修行で得た知識をすべてつぎこんだ結晶のような薬だった。
貴族はみるみる回復し、一ヵ月後には一人で自由に外出できるようになったのだ。彼とは今でもたまに手紙のやり取りをしているが、病気が再発したという話は聞いていない。
このことが、老人の名を広めた。
しかし噂とは恐ろしいもので、『謎の病を治した』ことがいつの間にか『どんな病も治す薬を作った』ことになり、ついに『不老長寿の秘薬を作った』ことになっていたのだった。
「そんなことになってるとは、ちっとも知らなくてなァ」
つるりと頭をなで、呑気な笑顔を見せる老人。
「どんな病も治す薬‥‥そんなもの、あったら誰も苦しまないわぃ」
「んで、盗賊達はどこから?」
靜志郎が続きを促す。
「その薬を開発した頃はパリに戻って間もなくのことじゃったな。彼らが出てきたのはその少し後じゃ。盗賊結成初期という感じじゃったな。そんで、そのありもしない秘薬を貴族などに高く売りつけるつもりだったようじゃ。そんなものはないと何度も言っておるのじゃが、あの噂のせいか隠してると思っているらしい」
そう言って老人は懐から小瓶を取り出す。
「これは、例の貴族を治した薬を改良したものじゃが、風邪や神経痛なら効くじゃろうな。その程度じゃ」
「いつから追われてるの?」
「かれこれ二年は経つかのぅ。どこにいても必ず嗅ぎ付けてくるんじゃよ。たいした嗅覚じゃの」
「白いバンダナには意味があるのかなぁ」
首を傾げるリユニティに、老人は小さく吹き出した。
「やつらの夢は世界中に自分達の名前を轟かせることらしい」
「トレードマーク‥‥ってやつ?」
「うむ」
なんとも虚しい答えに、室内にどことなく乾いた空気が流れた。
その空気を払うように靜志郎が声を発する。
「最後に一つだけ‥‥その薬、中毒性なんかは無いんだろうね?」
「ないぞぃ。ま、薬は薬だから多用すれば良くないがの」
老人はにっこりと頷いた。
●真夜中の凶手
あらかじめロジェとドニが仕掛けた罠は、罠というよりはいたずらと言ったほうが適切だった。
リジェナス・フォーディガール(eb0703)と硯上空(ea9819)はそれらを検分し、使えるものは残すかさらに改良を加え、危険と判断したものは撤去していった。また、それらの変更はすべての作業が終わった後に、それぞれの口から互いに伝えられることになっている。
仕掛けた二人の少年は、どうして撤去されるのかと首を傾げつつも、口出しすることはなかった。冒険者を信頼し、かつ憧れてもいるからだ。
リジェナスは、盗賊が忍び込むにはいかにもな孤児院の裏手に、鳴子の罠を仕掛けた。
空はそれを利用するように、捕獲用の網縄も仕掛けておいた。罠地点に踏み込むと錘のついた網縄が落ちてくる仕組みである。
冒険者達は孤児院の子供達や老人に危害が及ばないようにするのはもちろん、盗賊達にもできるかぎり怪我をさせない方針であるようだった。
ロジェとドニにはそれがどうにも納得できなかった。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、ユーディクス・ディエクエス(ea4822)がこんなことを言った。
「力は無闇に振り回すものではないよ。相手を傷つけるのはもちろん、自分も傷つくこともあるから。そしてそれは、誰かを悲しませるんだよ」
「でも、おじいさんをいじめるのは悪いことだよね? それを止めるために戦うのは悪いことなの?」
経験のないドニには、まだわからないようだった。
それには空が答えた。
「他者のために行動を起こそうとするその心はとても素晴らしいこと。けれど、暴力に暴力で返すだけでは、危害を加えた者達と同じであろう?」
「うん‥‥そうだね」
やはりまだしっくり来ないようだが、とりあえず先走ってどうこうしようとする気はなくなったようだ。
そしてドニよりも行動的なロジェも、彼なりに今冒険者達が何のための行動をしているのか考え、気持ちは盗賊達をコテンパンにしたかったけれど、我慢することにした。
「ロジェ殿、包丁は人を危めるためでなく、人に至福を与える料理を作り出すためにあるのではないでござろうか?」
これにはドニも大いに賛同した。
アレクサンドル・リュース(eb1600)も頷き、
「それに投擲の達人でもなければ、当たってもたいした怪我はしないと思うぞ。しょせん相手はどうしようもなく道を踏み外したか、よくても変人だ。関わるな、馬鹿が移るぞ」
本人達がいないのをいいことに、言いたい放題である。いや、彼なら目の前にいても言うかもしれない。
ユーディクスは二人の手を取り、やさしく笑んだ。
「二人にはご老人の警護をしっかりお願いするよ」
内心はどうあれ、二人は同時に頷いたのだった。
見張りは交代で行なわれた。
そして、真夜中になった頃。
かなり乱暴に孤児院の扉が叩かれた。当然、人が尋ねてくるような時間ではない。
うとうとしていたロジェとドニの眠気がいっぺんに吹き飛ぶ。
二人に付き添っていたシュゼット・ソレンジュ(eb1321)とユーディクスは顔を見合わせた後、警戒しながら扉のほうへ進んだ。
「どちら様で?」
ユーディクスの声に扉を叩いた者は切羽詰った口調で答えた。
「夜盗に襲われたんだ、助けてくれ!」
早く開けてくれ、と外の人物は一層激しく扉を叩く。
「少し待ってください。開けますから」
シュゼットと少年二人が壁の陰から様子を見守る中、ゆっくりと扉が開かれる。
本当に襲われたらしい、ボロボロの身形とあちこちに擦り傷を作った男が転がり込んでくる。
その瞬間、シュゼットが叫んだ。
「盗賊だ!」
と、同時に孤児院の周囲に張り巡らせた鳴子がけたたましく鳴り響いた。
その音に、勝手口の警備をしていたロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)が、おっとりした外見とは裏腹に素早い動きで外に飛び出した。
転がり込んで来た男はギョッとしたふうに目を見開いている。
やがて外を巡回していたアレクサンドルとリジェナスが誰かと争う声が聞こえてきた。
「くそっ、どうして!?」
焦る盗賊。
アレクサンドルの提案により、冒険者達はあらかじめ盗賊達の顔の特徴などをドニから聞いていたのだ。
自分に注意を引き付けその間に仲間が院内に侵入する、という作戦がこれでダメになってしまった。
慌てて逃げようとする男だったが、ユーディクスが逃がすわけがない。
素早く振られたロングロッドの一撃で、男はあっさり気絶した。
「やった! これで縛っちゃおう」
ロジェがどこから持ってきたのか、ロープを差し出す。
ユーディクスの手により、男はぐるぐる巻きにされたのだった。
一方、外の冒険者達は‥‥。
孤児院の裏手にある林の中、アレクサンドル、リジェナスそしてロミルフォウはわずかな接触の後、逃げる盗賊達を追っていた。ただ追っていたわけではない。この先にある罠へと追い込んでいるのだ。
敵もなかなかすばしっこいので、このままうまく罠まで追い詰められるか難しいところだった。
しかし、待ち伏せしていたアンジェリカ・リリアーガ(ea2005)は、魔法ストームで彼らをぶっ飛ばし、強引に罠にはめさせた。
昼間、アンジェリカが丹精込めて作った落とし穴から、二人の悲鳴が上がった。あと二人はどうにか吹き飛ばされずにいたらしい。
「もう一回!」
アンジェリカは高速詠唱でもう一度ストームを放つ。
二人に追いつきかけていた仲間の冒険者も巻き込まれそうになったというのは、ここだけの秘密である。
さらに秘密がもう一つ。
彼女がこしらえた落とし穴は、ただの落とし穴ではない。錬金術を行なっていたら偶然できてしまった、特製嫌がらせアイテムが待ち受けていたのである。それがどういう代物だったのか、本人と穴に落ちた二人の盗賊以外、誰も知らない。
落ちた盗賊達は、もはや涙声だったという。
そして残りの二人だが、リジェナスがシューティングPAを撃ち、手応えはあったのだが、残念ながら逃げられてしまったのだった。
「運の良いやつらね」
リジェナスは悔しそうに口を尖らせた。
後で罠の撤去にかかった時にわかったのだが、仕掛けた罠のうちいくつかは盗賊達によって解除されていた。それでいて鳴子には引っかかったのだから、不思議なものである。
●いつか冒険の果てに
捕まえた三人の盗賊は一まとめにして応接室に押し込めておいた。
取り逃がした二人組が、いつどこから来るかわからない。
玖珂鷹明(eb1966)が老人の警護にあたり、靜志郎と空はいっそう目を光らせて孤児院内の巡回を行なった。
と、台所のほうで何かが壊れる音がした。
冒険者達の間に緊張が走り、そこへ向かう。
しかし、食器類が落ちていただけで誰もいなかった。
いや、すでに侵入されたと考えるべきか。
すると老人がいる部屋とは違う部屋から、老人と何者かが激しく言い争う声がしてきた。
「何度言ったらわかるんじゃ! これは不老長寿の薬などではない!」
「そんなことはどうでもいいんだよ! いいからここを開けろっ」
「おぬしらのような若いモンが、不老長寿の薬なぞ何の興味がある!」
「やっぱり不老長寿の薬じゃねぇか!」
あまり頭の血の巡りは良くないのかもしれない。案外大声を出しているのも、老人の声につられているだけという可能性がある。
ドア越に怒鳴りあいを聞きながら、びっくりしたように老人は鷹明に小声で話し掛けた。
「凄いのぅ。あれは誰の声なのじゃ? わしにそっくりじゃ」
「リユニティだったかな。あ、ドアを開けるなって」
好奇心にかられて様子を見ようとする老人の肩を、慌てて引く鷹明。こんなことで見つかっては元も子もない。
声真似をしているのが女性と知り、ますます驚く老人。
鷹明にくっついて警護についているロジェとドニも目をまん丸にしてドアを見つめていた。
そして怒鳴りあいのおかげで自ら居場所を暴露した盗賊の残り二名は、仮眠していた冒険者達も起こし、背後をがっちりと囲まれたのだった。
「ご老人や子供相手に力技なんて、慈愛の心に欠けておりますわね」
「こいつを食らって更生しやがれ!」
ロミルフォウのロングソードと靜志郎の拳が盗賊二人をぶちのめす。
「とどめ!」
さらに、ドアを開け放って出てくるリユニティ。
盗賊達はあんぐりと口を開け、次の瞬間弾丸のように文句を吐き出す。
「ハメやがったな!」
「キミ達よりはかわいいもんでしょ」
「全然かわいくねーよ! 鬼、悪魔! ‥‥いででででっあぎゃー!」
アイアンクロー、喉輪などなど次々と仕掛けられる技に首を絞められたニワトリのような悲鳴を上げる盗賊達。
先に捕まっていた三人はその惨劇に背筋を寒くしたのだった。
ようやく盗賊が五人まとまったところで、ロミルフォウは奪った薬をどうするつもりだったのかと問いただしていた。
はじめは黙っていた彼らも、ロミルフォウが笑顔でロングソードを首筋に当ててくると、ぺらぺらとしゃべりだした。
「では、不老長寿の薬ではないことは、わかっていたのですね。ただ、ご老人の名声が必要だった、と」
「そのジジイが作ったというだけで、とんでもない値がつくからな。ボロいぜ」
「お黙りなさい」
ピシャリと言われ、口をつぐむ五人。
そんな彼らに、ずっと追われていた老人はやれやれとため息をつくしかなかった。
「バカだねぇ、まったく」
鷹明は五人を見下ろしながら苦笑した。
「ま、しばらくお役人の方々のとこで反省してなさい」
「え、見逃してはくれないのか? もうジジイを狙ったりなんかしないぜ」
「‥‥こんなこと言ってるけど」
と、鷹明が仲間達を見やると、アレクサンドル、シュゼット、空、ロミルフォウが首を横に振った。
「残念でした」
「そんなー!」
「ごちゃごちゃうるさいな。お前達が人間でなければ雷撃を試し撃ちさせてもらうのだが」
シュゼットに冷ややかに脅され、白バンダナ盗賊達はやっと観念したのだった。
翌日、盗賊達が役人達に引き渡されると、いよいよ老人ともお別れである。
「いやはや、世話になったのぅ。取られた荷物もこの通り返ってきて、お礼のしようもないわぃ。お、そうじゃ。もしおぬしらが冒険の果てに命の危機に陥ったら、わしが治しに行こう。必ず呼んでおくれよ」
そう言い残すと、老人は何度も振り返っては手を振って、やがて小さく見えなくなっていった。
緊張の糸が切れた子供達は、すっかり眠ってしまっている。
冒険者達はクレマンに挨拶をすると、孤児院を後にした。