ほろ苦い乙女達〜アイドル

■ショートシナリオ&プロモート


担当:宮崎螢

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月02日〜12月07日

リプレイ公開日:2004年12月08日

●オープニング

 パリの街中、噴水の上がる公園にて。
 二人組の少女が帽子を地面に置き、歌を歌っていた。
 それぞれは人並より少し上といった程度の腕前であろうが、同じような顔立ちの同じような二人の声が絡み合うことによってその歌は深みを増していた。
 始めのうちは子供や年寄りしかいなかった聴衆が、一人増え二人増え‥‥最近ではちょっとした取り巻きまで現れるようになった。
 パリの街は平和である。

 ‥‥と言うわけにも行かないのがこのご時世。
 冒険者ギルドに飛び込んできたのはどうやら普段であれば仕事を請けに来るであろう男達であった。一人一人の顔ぶれは見たことあれど、一見して共通点は‥‥ああ、あった。全員が全員、何らかの形でホーリーシンボルを掲げている。つまり彼らは皆教会‥‥神に仕える者たち、という事か。そんな事を思いながら、ギルドの受付担当はいつも通りの第一声を放つ。
「いらっしゃいませ。いかがいたしましたか?」
 受付の笑顔に男達はわっと話し始める。
「特注のカメオが取られちまったんだ」
「俺なんか絵師に無理やり頼み込んで作ってもらった1インチ四方の似顔絵入りペンダントが」
「ジャパンからやってきた木彫りの職人に作ってもらった一点物の人形だぞ」
 ‥‥ええい、何を言ってやがるのか分からんわぁっ!!

 受付担当氏が必死になって話をまとめてみたところ。彼らは神に仕える者たちで且つ公園の二人組の取り巻きであるらしい。そして依頼の帰りに教会へ寄り祈りを捧げようとしたところ、そのアイテムの数々が神父様の目に止まったと言う事なのだ。
「こうした偶像崇拝はいけません、と習いませんでしたか? ‥‥没収」

「彼女達は地上に降りてきた天使だ! だが我らが母と比べようだなんてこれっぽっちも思っちゃいない!!」
「お願いだ、神父様を説得して我らが『スィート&ビター』のお姿を取り返してくれ」
 はいはい、と一応の概要をメモする受付担当。しかし、この後彼が数時間ばかり羊皮紙を前にためらったのは言うまでもない。
「『女の尻を追い回してる男達のために神父様を説得せよ』じゃ誰も来ないだろうしなあ」
 ‥‥彼も少々受付としては問題があるようではあるが。

●今回の参加者

 ea1447 ライザード・ラスティニシュ(27歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2848 紅 茜(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7273 イザベラ・ストラーダ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8250 シャミー・フロイス(21歳・♀・神聖騎士・シフール・イスパニア王国)
 ea8600 カルヴァン・マーベリック(38歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9114 フィニィ・フォルテン(23歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●襤褸の如き衣
 空は鉛色。北の海を越え平原を渡ってくる風が、パリっ子たちの息を白くさせる頃。
 ショコラガールズの二人、イザベラ・ストラーダ(ea7273)とシャミー・フロイス(ea8250)はフィニィ・フォルテン(ea9114)の家の扉を叩いた。
「‥‥」
 絶句する二人の視界に飛び込んできたのは、半泣き状態の紅茜(ea2848)と苦笑いのフィニィ、そして‥‥。見るも無惨なぼろぼろの毛布と踊り子衣装。
「どうしても人数分作れません‥‥」
 無理もない。シフールであるシャミーの身体を計算に入れても材料自体が足りてない上、質も悪い。毛布では羽のように軽い服は作れない。また、いかにも野暮ったいその色も、ドレスにはほど遠い物であった。あまつさえ、腕が嗜み程度では理想に追いついて居ないのだ。到底二人を飾る衣装とは為り得ない。
「‥‥これで街角に座っていたら。只でお金が手にはいるわねえ」
 イザベラは茜の肩をぎゅっと抱き、にっこりと笑い茶目っぽく一言。
「くす」
 機知ある言い方に茜の顔が綻んだ。確かにこんな美しい物乞いが居たら、放っておく殿方はいるまい。

●滅びの自由
 煉瓦造りの小さな教会。20人も入れば一杯になる礼拝堂。靴音も美しく響く石畳。天窓から射す柔らかな光が、壁のホーリーシンボルを照らす。木のベンチと机を抜けたその先が説教壇。その説教台の上に1キュビト(大人の中指の先から肘までの長さ)もある大きな本が、銀の鎖に繋がれて置かれていた。聖書である。
 礼拝が済み、後かたづけをしていた神父の前に現れたのは、カルヴァン・マーベリック(ea8600)とライザード・ラスティニシュ(ea1447)であった。
「ようこそカルヴァン殿。あなたの上に主の御心が為されますように」
 約束の時間に正装で現れた聖職者に、神父は深々と頭を下げて迎える。
「お時間を頂き感謝します。あなたの業を主が嘉されますよう」
 白と黒。信仰の形は違えども、共に主に仕える者同士である。話は比較的和やかに進んだ。互いによそいきの言葉を使いながら真意を探る。
「人の物を強制的に取り上げる事が神の意思なのでしょうか? それとも、神に仕えていればそれを理由に取り上げていいと? 偶像崇拝が悪いというならそれでも構いません。でも、人から物を取り上げるのも悪い事なのではないのでしょうか?」
 ライザードの質問に、神父は苦笑しながら保管している装飾品を提示した。見事な細工で描かれた小さな精密画の頭の部分には、神の如き光が描かれている。
「ならば、彼らを異端として除かねばなりませんな。ご覧下さい。既に若者達は一線を越えておりますぞ。預言者モーセが、最初に十戒を持ち帰ったとき、主の民は待ちきれず偶像を作っておりました。モーセは何をしたでしょうか? また我らが主は、御在天なる父の宮を汚して商う者達を、どのようにされたでしょうか? 天地の創り主にして、主の民をエジプトから救い出された主は生きて居られます」
 モーセと神の御子の故事を持ち出されては、経験浅いうら若き乙女では二の句が継げぬ。しかし、そこは年の功にして専門家。カルヴァンが任せておけと手でライザードを遮り、
「確かに偶像崇拝はよろしくありません。例の芸人達の肖像を取りあげるのは罰ではなく、神父殿の愛の現れでしょう。しかしながら、若い情熱は障害があればあるほど燃え上がるもの。1つ間違えば、彼等は例の芸人達を自らの偶像(アイドル)にしかねません。いささか乱暴ではありませんか?」
「ではあなた方は、あたら若者達をサタンの手に引き渡せとおっしゃるのでしょうか?」
 自分の考えが当たっていたことに確信を持ったカルヴァンは言葉を紡ぎ始めた。
「厳しい言い方では有りますが、神がアダムに息を吹き込まれた時。同時に自由意志をもお与えになりました。神に背いて滅びに至る道を歩むのも、また、アダムの子らの特権です。されど、この世に許されぬ罪などございませぬ。なぜならば、神はその一人子を給う程に世を愛されたからであります。何人も、罪より離れ十字架の贖いを信じるのならば、救われないことは決してありません」
 頷く神父。カルヴァンは続ける。
「どうでしょう。ここは一度没収したものを彼等に返し、その上で、彼等自身に捨てさせてはいかがでしょうか? 私は、黒の教えに帰依する故、滅びに至るも救いに預かるも彼らの自由意志と存じます。しかしながら、白の教えはあなたを牧者であれと命じております。しかも彼等はあまりに若い。機会を与えてやってはいただけないでしょうか?」
 やや傾きつつも、芸人その物を識らぬ神父の返事は鈍い。
「‥‥では、こうしましょう。これが妖しげな偶像ではないと証明された上で、改めて処遇を決めます。それまでは決してこの偶像を聖絶する事がないことをお約束致します」

●勇気のお薬
♪メディカマイン・クラージュ 勇気を下さい
  たった一つ 言葉の力を
 メディカマイン・クラージュ 光を下さい
  たった一つ 私の心に

 この小さな胸に 希望の光りを
 あまねく照らす ルチアの守護を
 私の慕い奉る 君の 君の笑顔を

 メディカマイン・クラージュ 勇気を下さい
  たった一つ あなたの力を
 メディカマイン・クラージュ 光を下さい
  たった一つ 願いの言葉を♪

 広場に集まる若者は、ビター&スィートと名乗る二人を囲み、異様な盛り上がりをしている。竪琴に合わせて、波のうねりのように人混みが動く。その時、取り巻きの一人が駆け寄って、リボンを二人に捧げた。
 敵情視察に来ていたイザベラとシャミィはたじたじ。それでも気を取り直し、離れた場所でお披露目を始めた。
「『しょこら』ってなぁなんだぁ?」
 訝し気に人が集まり始めた。
「1・2・3・4!」
 シャミィが合図をするが、
「‥‥‥‥何歌うの?」
 まだ自分達の持ち歌がない。メンバーの誰一人としてショコラガールズの持ち歌を考えて居なかったのは痛かった。どうしようかと思っているところに助け船が出た。
「今から歌うのは、たぶん皆さんもご存知の曲です、よろしかったらご一緒に歌いましょう」
 フィニィが無伴奏で賛美歌を歌い始めたのだ。
♪アヴェマリ〜ィアー インエクセルシス デェ〜オー‥‥♪
 長い金髪で耳を覆い隠した彼女の、美しい声に人々は魅了される。彼女の歌声で救われたものの、『ショコラガールズ』と名乗る乙女たちには自分たちの歌がない。それなりに受け、コインが飛んできたが。複雑な気持ちであった。

「あ、茜さんだー♪」
 スィート&ビターの二人がにこやかに呼びかける。熱心な取り巻きを連れた二人は、広場に入って来た茜に近づくと親しげに話を始める。
「でね。どうしても偶像だなんて思っているんです。それで‥‥人気のある女の子の絵姿にしか過ぎないんだって判って貰うために。聖歌隊に参加して貰ってもいいですか?」
 既に事の顛末は既に説明済みの茜がお願いすると。
「いいわ。本当に私たちってそんなんじゃないから。それを証明する為でしょ?」
 快くOK。
「じゃ、アイドルとして勝負よ!」
 イザベラはこの蠱惑的な二人にライバル宣言をする。
「あの‥‥アイドルって‥‥だからあたしたち、偶像じゃないですってば。え、歌で勝負? 自分たちの歌ないってさっき‥‥」
 先ずは自分達のオリジナルを用意しなくっちゃ。

 その日の夜半、茜は再び頭を下げて面会に出向いた。宿の前を通ると、窓から灯りが漏れている。何気なしに中を伺うと、スィート&ビターの二人は、熱心な信奉者から捧げられたリボンをジャグリングの棒のような物に巻いていた。それを暫く眺めていた二人は、なにやら小声で話し込み。そして、贈り物のリボンを暖炉の火に投じた。
 トントン。なんだか気まずくなった茜は、少し時間をおいて訪問する。
「はい。あ、茜さん」
「あのう。新しい賛美歌の歌詞を持って来ました」
「どうぞ。お入り下さい。これから食事なんです。古ワインと堅いチーズとパンで良かったらありますよ」
 話し合いは和気藹々と進んだ。

●オリジナル
♪マァ〜リィ〜ア〜〜♪
 フィニィは日課の発声練習。良く響く声は本職だけ合って美しい。
 トントン。とノックの音。
「はーい。あなたは?!」
 銀の竪琴、羽帽子、異国風の仮面に黒絹のマント。なぜか箒を手に客が現れた。身なりからして自分と同じ吟遊詩人のようだ。
「ごきげんよう。ファニィさん。お困りと聞いて伺いました」
 声は、女性にしては低く、男性にしては高い。フィニィが耳を隠しているように、客人は喉元を隠している。ひょっとしたらギルドの計らいかも。と、事情を知っているような客人と相談を始めた。
「みんなで歌えると言う事は、それだけで素晴らしい事だと思います」
「でも、あなた方が本当に人の心を動かしたいのならば、新しい歌を生み出さなければ為りません。借り物の歌では無く、あなたの歌で」
「では伺います。賛美歌はどう創れば良いのですか?」
「必ず、何ヶ所か聖句を引用する決まりになっています。形式はいろいろ有りますが‥‥。普通の歌と変わりませんよ。ただ、普通の人が歌えるように音域を広げすぎないことが肝心です」
 こうして、名も告げぬ吟遊詩人の協力を得て歌は完成した。

●賛美歌
 カルヴァンが聖歌隊を伴って入ってきたのは夕方の鐘が響く頃。
「誤解の元を連れて参りました。この通り、彼女らも神を賛美する者。そして、彼女らを慕う者が勝手にやった振る舞いです」
 慎重に言葉を選ぶカルヴァン。普段よりも柔らかな口調を意識する。ここでも、耳を髪で隠したフィニィは、自分の出自を隠していた。

♪みんな 歌おう 救いの御業(みわざ)
 祝え 喜べ 宣べよ良き訪れ
 闇に 沈む 私の為に
 御子は 十字架で 血潮を流し
 素晴らしい 御神(みかみ)の 愛を示され
 勲(いさお)無き我らを 義とされたのだから
 新しき詩(うた)を 歌を以て謳おう
 誉めよ 誉めよ 神は愛です

 みんな 歌おう 救いの御業(みわざ)
 富も 名誉も この世の楽しみも
 責めも 恥も なにごとでしょう
 御子が 墓より よみがえられて
 素晴らしい 救いの 道を 拓かれ
 悪魔より我らを 放たれたのだから
 新しき詩(うた)を 歌を以て謳おう
 讃えよ 讃えよ 神は愛です♪

 人気の二人を加えただけあって、美しい声の響きは天使の様であった。目を瞑ってじっと聞き入っていた神父は。
「なるほど。これほどの賜物を与えられている以上、気を付けないと彼女らを神の如く見なす粗忽者も現れて然るべきでしょうな」
 と、何度も頷く。
「わかって、アタシ達は偶像なんかじゃないの、みんな同じ神の子よ。アタシはみんなが笑顔になるのがみたいだけ!」
 口にしたのはイザベラだが、神父はこれを若者から偶像視されている者達の言葉と受け取った。
「判りました」
 そう言うと、奥から没収品を全て出して机の上に置いた。
「聖書の使徒の働きを覚えて下さい。神そのものと勘違いされた使徒達が如何に振る舞ったかを思い出し、粗忽者達の間違いを気づかせて頂きたい。あなたの取り巻きが道を誤らぬように。被造物である人の子を神の如く扱わないように。彼らの意志で過ちをうち砕き、正しき人の子の絵姿を所持するように。と」
「じゃあ! 偶像に勘違いされない肖像画ならば、所持しても構わないと言うことだよね?」
 シャミーがパタパタと羽ばたきながら、嬉しそうに宙を舞った。